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第269話「狂戦士vs魔王女」


「落ちてくるぞー! 全員下がれ下がれ!」

ベルゼルガは障壁の上を滑るように落ちてきた。当然、それは城の堀の外で警備に当たっていたグリセルダ達の眼の前に落ちてくる。

轟音と共に土煙が巻き上がり、周辺の兵士や傭兵、冒険者達が武器を構える中ベルゼルガは立ち上がった。その全高は5m程ではあるが巨大な下半身の為により大きく見える。

その姿を一言で言うと8本足の下半身に人間のような上半身としか言いようが無い、その全身は鎧のように装甲で覆われている。

だがその装甲は鉄や金属ではなく陶器のような質感で生物的でもあった、なので鎧を着た騎士というよりも生物的に感じるのだ。

人型の上半身の頭は兜ではなく磨かれたレンズのような双眼、口元には牙が見える口があり兜の後ろからは髪の毛のようなものが垂れている。巨大な下半身はよく見るとクモというよりカニで、前二本の脚は巨大な(ハサミ)だった。


「な、何だこいつは……。魔獣?」

「こんな魔獣見た事無ぇよ!」

目の前に現れた得体の知れない物体に当然の事ながら冒険者達は困惑するしか無かった。中には熟練の者もいるが、このようなのは見た事が無かったのだ。

ベルゼルガは周辺の兵士達を品定めするように見回すと、突然その巨体に似合わない速度でとある冒険者に襲いかかった。

不意を突かれた形になった冒険者はなす術もなく、下半身のカニのハサミのような八本足のうちの前二本に掴まれてしまった。

そして、そのままぽいと背中側に投げると、突然クモ型の下半身の背中が甲虫の羽のように開き、その穴にその冒険者は吸い込まれるように落ちていった。

しばらく自分の動きを確認するかのように身じろぎしていると、突然ベルゼルガの身体の各所が発光を始め、明らかに身体がほんの少し大きくなっていた。

「ああA在亜アアア!!」

その声はベルゼルガなのか中に取り込まれてしまった冒険者なのか、ベルゼルガは己の力を持て余すように手を握りしめ、腕を突き出して振り回した。


「こいつ、魔力を持つものを食らうのか、まさか人の魔力を動力源にしているのか!?」

魔力に関してはかなりの知識を持つグリセルダは、ベルゼルガの身体を駆け巡る魔力の流れを走査(スキャン)してその構造を魔力的に分析していた。

だがそのグリセルダを持ってしても解析不能な事はあった。クモ状の下半身が動力源および燃料槽タンクの役割を果たしているようだが、そのわりには大きすぎるし、先程の冒険者程度の魔力ではここまでの力は引き出せないはずだ。

何よりも胴体の中心部が厳重に遮蔽されていて視えない。どうも吸い取った魔力をその”核”にぶつけ、その反応で魔力を増幅しているようだ。

「こやつ、ずいぶんと面倒な構造をしておるな。もっと良い方法があるだろうに」


「おい、ゼルダちゃん!何だかわからんがあいつが何なのかわかるのか? どうすればいい?」

グリセルダのつぶやきをどう受け取ったのか、冒険者の1人が声をかけてきた。

とはいえ、そう聞かれてもこの場の者たちでは明らかに力量不足だった。警備の為に立っているだけで良いという募集だったのか、実力がまるで足りていない者ばかりだった。

「はっきり言って逃げた方が良いぞ。こやつの力は得体が知れない」

それは本当だった。人そのものを1人丸呑みするだけでこの魔力の高まり、しかも”成長”までしているようだ。このまま放っておけば魔力だけでもすぐに手に負えない化け物となるだろう。だが、その判断を自分が下すというのか? 自分には何も関係無いというのに。


そうこう迷っているうちにベルゼルガは次の獲物を狙ってこちら側に向かって襲いかかってくる。

慌てて魔法を使える兵士が魔法弾を放つが、それはベルゼルガに餌の在り処を教えるだけだった。

「まずい!今魔法撃ったやつ逃げろ!ああもうなぜ私が!」

グリセルダはこの世界の人間が死のうとどうでも良かったので、さっさと逃げてしまっても良かった。

しかし眼の前のベルゼルガの人道に反する構造に腹が立っていたのと、今ここで逃げると今後の冒険者ギルドでの活動に支障をきたすと瞬時に判断し、助ける事にした。

グリセルダはまずベルゼルガの気を引く為に何発かの無属性魔法弾をぶつけた。普段は魔力持ち、それも闇の魔力を持っていると思われたくないので隠蔽していたのだが、そんな事は言ってられなかった。

突然自分の背後に魔力を感じたベルゼルガは、今度はグリセルダに狙いを定める。カニのような前脚で襲いかかってくるが機敏にそれを避ける。素体となっているホムンクルスの身体能力の為せる業だ。


「あまり剣術は得手(えて)ではないのだが、気にしなくても良さそうな相手で助かる」

抜剣したグリセルダは兵士達を守るように構える。民を護る為に戦うその姿は思わず拝みたくなるような気高さが漂っていた。

最初に動いたのはグリセルダの方だった。一気に間合いを詰めると、とりあえず前脚装甲の隙間に突き刺してみるが、全く刃が立たなかった。

感覚はあるのか身を(よじ)らせたベルゼルガは下半身の八本脚のうち後ろ脚4本で踏ん張り、残る4本の脚を槍のように突き出してきた。

その動きはグリセルダが思っていたよりも早く、避けきれないと悟ったグリセルダは後方に大きくステップする事で避ける。

だが、後ろに下がったグリセルダをベルゼルガは追い打ちするような事は無かった。先程受けた一撃から油断のならない相手だと判断したようだ。


グリセルダは剣を構え直してベルゼルガを(にら)むが、正直さっさと逃げてしまいたいのは変わらない。だが逃げるわけにはいかなかった。

そのまま(にら)み合いが続くかと思われたが、今度は動いたのはベルゼルガだった。いきなり前脚を振り上げ、そのまま地面に叩きつけたかと思うと、一瞬で高く飛び上がった。

迎え撃とうと剣を握るグリセルダだったが、ベルゼルガは下半身の背中の羽を開くと昆虫のような”(ハネ)”を震わせて翔び、グリセルダを飛び越してその背後の冒険者達のただ中に着地した。

冒険者達は逃げようとするが、それなりに人が集まっていたので身動きが取り辛いうえに、人の壁で視界が塞がれて状況の把握すら容易ではなかった。

そしてそのままベルゼルガが蜘蛛の前脚を振り降ろすと、何人もがベルゼルガに”食われ”、元々魔力持ちの多い土地柄の為か、魔力はそれなりに吸収できているようだ。


「おぞましい……、敵を殺すだけならともかく食らうなどと!」

グリセルダは内部構造のみならず、人の尊厳を踏みにじるような行為に道義的な怒りを覚え、こいつだけは破壊しないといけないとばかりに魔力を収束させ始めた。

ところが、それを見たベルゼルガは同様に体内で魔力を加速・収束させるようなそぶりを見せる。

「馬鹿な!そんな機能まで!?」

魔力の収束はともかく、魔力を増幅させる為に体内の魔力回路で加速させるのはかなりの熟練が必要な事だとされ、しかもそれが人造物である兵器に搭載されている事にグリセルダは驚いた。

ベルゼルガの腹にあるレンズのようなものが発光を始め、明らかに何らかの攻撃を仕掛けてくる兆候だった。


「まずい!こいつを食らってはただでは済まん!」

次の瞬間、ベルゼルガの腹から極太のレーザーのような光が発射された。グリセルダは咄嗟に収束させていた魔力を盾のように展開し、光線を弾くようにぶち当て、その勢いを利用して跳ね跳んた。

だが、発射されたレーザーのような光はわずかに逸れると何人もの冒険者を巻き込んだ上に王都の町並みを貫く。たちまちにして火の手が上がり、大勢の悲鳴が聞こえてきて街は騒然となった。


「うかつに避ける事もできんとは、ならば!」

グリセルダは城に続く石橋の上に移動し、城を背にした。

「これだけ強固な障壁を張っているのならば多少は問題あるまい!たまには民の盾になってみせろ!」


次回、第270話「私は常々、城が最も頑丈というなら最前線に置くべきだと思っている」「この人の考え方色々過激なんですけど……」「合理的ではあるのですが……」

読んでいただいてありがとうございました。

多数のブックマーク・評価もありがとうございます。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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