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第268話「狂戦士の襲撃」


グランロッシュ王国の王都の上空を飛んでいた『狂戦士(ベルゼルガ)』は、”食べ物”を求めて真っ直ぐに新成人の舞踏会(デビュタント・ボール)が行われていた大広間に向けて突っ込んだ。

だがそれは城自体に張り巡らされている強固な防護障壁によって阻まれる。この障壁は以前風の神王獣であるオラジュフィーユの攻撃すら防ぎ切ったものなので障壁そのものはびくともしない。

当然、それは敵の来襲をグランロッシュ国側に伝える事になり、たちまちにして場内は騒然となった。最も騒ぎになっているのは直下の舞踏会場だ。


「何事だ!」

「報告いたします! 突然上空から何者かに襲われました!」

「すぐ調べさせろ! 何でもいいから情報をどんどん持ってこい! 内容はこちらで判断する!」

「ははっ!」

会場は騒然となっているが、国王は慌てた様子も無く近くの兵士に命じた。何しろ国王の近くなので命令系統の一番上の方の兵士がすぐ近くにいる。

「ついでに部屋の防護を物理・魔法両方ですぐに固めろ! ここをやられると被害甚大では済まんぞ! それと、気分を落ち着けたい、適当な果実水を皆に配れ、我々にもだ」

「ここ最近、何か大きな催事があると必ず何か起こるのぅ。何もせぬ方が良いのではないか?」

「あのね……」

周囲が慌てふためく中、国王夫妻は悠然と玉座に座ったまま軽口を言い合っている。内心はどうなのかは不明だが、こういう事態の時に最も上の立場の者が慌てると収拾がつかなくなるのだ。


「ハンスに連絡しろ。ローゼンフェルド領で隣国に何か動きが無いか調べさせるのだ、早急に!」

国王の傍ではロザリアの父である宰相のローゼンフェルド侯爵が何事か命令していた。こういった有事では同時多発的に何か起こってもおかしくないとの判断だ。

先程の国王の命令によるものか、ドアから何名もの兵士が入って来てドア前に整列を始める。

「現在の所確認された被害はありません!また、念のため非番の者も招集中であります!」

入ってきたのは近衛第3団の騎士達だった。ここ最近は人員の入れ替わりが激しいわりに、かなり訓練された状態だった。

尚、彼らの練度が妙に向上しているのは、ロザリアが面白がって何度も訓練している効果が出ているからだったりする。

『うーん、皆良い動きしてるわね。ウチは嬉しいよ』

などと、王太子妃候補としては全くふさわしくない事をロザリアが思っていると、慌ただしく兵士達が報告してきた。


「報告いたします! この広間を中心として警備を強化いたしました! 敵と思われるモノは城の上空を飛んでいるもようです! 夜の為に姿はよく見えません!」

「何だ? またドラゴンか何かか? いや、それはともかくご苦労、引き続き警戒を怠るな」

そう言いながら国王は席を立とうとするが、それは王妃に肩を掴まれて目線で座らされてしまった。

「おとなしく座っておれ、また見に行く気だろう、おぬしは」

「だめ?」

「だめだ、それはそうと……」

国王夫妻がそろってロザリアの方に『何か知ってる?』という感じで視線を送って来たので、ロザリアは出来る限り優雅に首を振って見せたが、内心冷や汗をかいていた。

ロザリアとしては、身に覚えが無くも無い事も無ければ無いと良いなぁという今日この頃、皆様いかがお過ごしですか。という感じだったのだが、いくら何でも真っ先に疑われるのはどういう事だ。

『いやマジで、トラブル起こったらウチ疑われるのマジ心外なんですけどー』


「上空のモノというのは何だ、何かの生物か?」

「いえ、説明しにくいのですが、巨大な生物のような、あえて言うなら巨大なクモのようなモノなのですが、とても生物には見えないと。物見の術が使える者が見た所、全身が鉄とも石とも知れぬ何かでできているのです」

どうにも説明に困っている兵士の言葉に反応したのはごく限られた者達だけだった。

「他には何か襲って来たものはいるのか?」

「今の所確認されてはおりません!」

国王は兵を下がらせ、宰相を傍に呼んだ。


「ローゼンフェルド卿、これ、どう考えてもあれだよな? 何故ここを直接襲って来る?」

「……おそらくは、新成人の舞踏会(デビュタント・ボール)で国内外の若い魔力持ちが集まったからではないかと」

「だとしても、偶然過ぎないか? 普通は先に魔法学園とかが襲われるだろう、そもそもいきなり王都に、しかもいきなり城を襲って来るか? やつらは戦争がしたいのか?」

「単にこちらの方がエルガンデイアに近いからではないでしょうか……。あと、国境に何か異変が無いか調べさせております。何かの事故であって欲しいと願うばかりですが」

「まったくなんの因果で……、皆に告げる! またドラゴンのような何かがやって来ている! 分散して城内の安全な場所に避難していただくのでどうか静粛に願う!」

状況が完全に判明してはいないが、ある程度敵が絞り込めた以上いつまでもここに人を集めておくのは危険だった。国内外の有力貴族はおろか、その有力貴族の子女達までも多数いるのだから。

また、あえてドラゴンと言う事で、以前もあった事なのだから慌てなくても良いと城内にいる貴族に思わせる目的もあった。


次に大ホールに入ってきたのは王城を守護する任務に就いている近衛第1騎士団だった。上級貴族の団員も多いので、この場にいる貴族たちも指示を受け入れやすい。

「今から手分けして避難をさせる! 皆を避難させると共に、もう一方は私とついてこい。陛下! 只今より兵を分けて王都の防衛に当たらせますがよろしいですな?」

「よし、許可する。王都の外延部にて万が一の敵の攻撃に備えろ」

「はっ!」

国王が許可を下すと、第1騎士団の団長は騎士団員を引き連れて出撃していった。部屋に残っていた騎士団員はまずは王族の避難を優先させるべく動き始めた。


ロザリアはというと、こんな面白そうな事を見逃す手は無いとこっそりとこの場から逃げようとしていた。何故かお約束の泥棒のようなほっかむりまでして。

人々の間を物凄いスピードの匍匐(ほふく)前進ですり抜けるように移動している姿は侯爵令嬢に見えない。どう見ても台所に出るアレだ。そのロザリアの前に誰かの足が立ちふさがった。

見上げると、チベットスナギツネのような虚無目のアデルだった。

「お嬢様、何をしてらっしゃるのですか?」

「アデル!? どうしてここに!? 何、って見てわからない?」

「私はお嬢様の護衛ですので。それと、貴女が何をしているか見てわからないからお聞きしているのです」

「わ、私はあなたの言うお嬢様ではないわ、ひ、人違いよー」

「なるほど、では不審者ですか。おのれー、おうきゅうにしのびこむとはなんてやつだー」

と、アデルはロザリアの首根っこを猫のように掴んで、リュドヴィックの前にポイと突き出した。


「ロゼ、どこ行ってたの? 何をする気だったのかな?」

「え? えーと、戦い、に?」

「そんな事が許されるわけ無い、ってのはわかるよね?」

「え、えーっと? ダメ? ですか?」

「私の目の前で、それが許されるワケ無いだろう? しかも今は戦える者が山程いる」

「王太子様のおっしゃる通りです。どこの世界に嬉々として自分から争いに飛び込む侯爵令嬢がいるというのですが」

「え、えーえっと、ここに?」

「いてはならないのです。さぁ安全な所に移動しましょう」

「そうだそうだ、さぁ安全な場所に移動しよう。アデル嬢、くれぐれもロザリアから目も手も離さないでね?」

「心得ました」

「ちょっとアデル! あなたどっちの味方なのよ!」

「お嬢様ですが何か?」

結局、ロザリアは抵抗虚しく、アデルに引きずられながらどこかへと連行されて行った。



さて、大騒ぎなのは王宮の中だけではなかった。城の堀の外で警備に当たっていた兵士や冒険者たちも同じく大騒ぎである。

「おいゼルダちゃんちょっと来てくれ! どうせ暇だろうと依頼しておいてなんだがよ! 何かとんでもない事になってるようだ! 戦う準備をしておいてくれ!」

「まったく騒々しい事だ。放っておいてもこの国は滅びるんじゃないか?む、あれは?」

グリセルダが見たのは、王城を包む障壁の上に覆いかぶさった姿勢で、何度も何度も足を障壁に突き立てている狂戦士(ベルゼルガ)の姿だった。

その大きさは城とは比べ物にならないほど小さいが、足を突き立てるたびに稲妻のような放電が起こっているので非常に目立つ。


「妙に技術水準の高い兵器だな、しかしかなり魔力の無駄使いが多い。あれではすぐ動けなくなるぞ、戦場で調達する形式なのか?」

グリセルダの世界は魔力がこの世界よりも遥かに濃密で濃いので、魔力を扱う技術に関しては遥かに上なのだった。グリセルダ自身もそういう兵器開発に関わっていた。

大襲来のあった1000年前はまだドワーフ文明の名残りが残っており、それなりに技術レベルの高い兵器はあるにはあったが、1000年後の今、そういう物は目にする事も無かったのだ。


「何だあれ? まるでクモにまたがった人間だな。しかしこの距離であの大きさか、かなり巨大なものじゃないか?」

「無闇やたらに障壁を破ろうとはしているが暴れるしか能が無いのか? しかしどうやってあそこに取り付いたんだ?」

「おい!呑気な事を言ってる場合か! 城内からも指示があった! 早いところ”あれ”を破壊するか、追っ払ってくれと言ってきている!」

「……とは言っても、あんな高い所の奴なんてどうしようもありませんぜ? せめて降りてこないと」

「そうだそうだ、こっちに来るでもなきゃ俺たちは相手しないぞ」

障壁の上で暴れる狂戦士(ベルゼルガ)を見上げるように見物していた冒険者達に、兵士が慌てて声をかけてきたが、冒険者たちに為す術もないのもまた事実だった。

だが、そういう余計な言葉が引き金になって事態は変わるものだ。城を覆う障壁は半球状なので、ベルゼルガはちょっとバランスを崩すだけでその球面をすべり落ちる事になる。

そして、そのちょっとバランスが崩れる、が起こった。狂戦士(ベルゼルガ)は真っ直ぐ正門の方に向けて滑り落ちてくるのだ。


「……おいおいおいおい! こっち来るぞ!」

「下がれー! 全員下がれ! 下手するとこっちで戦闘になるぞー!」


「ふぅ、放っておいてもこの世界は飲み込まれて消えるというのに、1000年ぶりの戦闘相手があれか、準備運動にしては激しくないか?」


次回、第269話「狂戦士vs魔王女」

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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