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第265話「新成人の舞踏会の開幕」


「次に入場されますのは!クレア・スプリングウインド女爵様、エスコートはフェリクス・レイ様!」

大広間への入場を告げる声と共に大きな声が上がると、扉が開かれてクレアは光に包まれた。一歩会場に踏み入れると散発的な拍手が起こる、歓迎されてるわけではないようだ。

それもそうだ、昨日今日突然貴族になった上に今まで存在していなかった爵位の貴族など、どう扱ったら良いのかわからず戸惑っているのだろう。しかもエスコートは(いわ)く付きのフェリクスだ。

しかし、この空気をひっくり返せるのは自分たちの行動だけだ。期待されているというわけでもないのならむしろ好都合。クレアはこういう雰囲気の時は逆に開き直る所がある。

「さぁ、行こうクレアさん。僕もついてるから」

「は、はい」

クレアはなけなしの残った根性をかき集め、もはや意地だけで背筋を伸ばし、フェリクスのエスコートで一歩を踏み出した。

練習通りに背筋を伸ばし、優雅に笑みを浮かべながら赤い絨毯の敷かれたフロアに入る。。

大ホールに入った2人の姿に貴族達からどよめきが上がる。前評判に反してクレアの姿があまりにも可憐で優雅だったからだ。

「あれが……、元平民の?いや、どう見ても所作は貴族だぞ」

「あれって、いつもロザリア様の横にいる?あの子?全然違うじゃないの」

「フェリクス……様か?始めて見たぞ」


周囲からは様々な声が上がる。それはそうだろう、いわば成人式なので貴族の父母の参列者が多数いる上に、魔法学園の在校生も含む新成人自体の人数も多いからだ。

このような状況は叙爵の時に次いで2回目とはいえ、あの時は戦闘を終えたテンションだったという事もあって心境が全く異なる。また、会場内の人数も桁違いに多くなっていた。

眼の前には誰もおらず、ここを通れという指示なのか赤い絨毯がまっすぐに玉座に向けて伸びている。その上をクレアはフェリクスのエスコートで歩いていった。好奇の目で見られるのは2度めとはいえ良い気はしない。

大広間そのものはかなり広く、今は入場する成人達を迎える為に中央通路の両脇に集まっているような状態だ。

先に入室した新成人達は絨毯をはさんで向かって左側に、来賓の貴族たちは右側に並ばされていた。


堂々と歩いていくクレアに会場から一応礼儀なのか拍手が送られ、それは徐々に大きくなる。ついでにその中から湧き上がる声も。

「あれが噂の女爵……」

「なんと見事な衣装だ、かなり手間がかかっておるぞ。あれを作ったのは――」

「所作はどう見ても貴族だぞ、本当に北方の村娘なのか?」との声が拍手の隙間から聞こえてくる。

クレアは優雅な笑みを浮かべながら堂々と歩いている、ように見える。実際は顔が笑ったままこわばって表情筋が死んでいる状態なのだ。

国内で最も新しい称号を持つ女貴族のクレア、この場に現れる事のできる立場でありながら、爵位も何も読み上げられないという異質な存在のフェリクス、この2人が注目を集めないはずがなかった。

歩く左側には同い年の貴族子女達、皆表情は好意的とは言い難い。それはそうだろう、様々な序列をいきなりすっとばして、クレアは国内第二位の貴族令嬢だとでも言われたに等しいのだから。彼ら彼女らの視線もまた痛い。まるで視線の飽和攻撃だ。


優雅に歩く事を意識しないといけないので、玉座への道のりはひたすらに遠かった。ようやく辿り着くとフェリクスが腕の力で立ち止まる事を示唆させる。

あわてて足を止めるともう眼前には国王と王妃の座る玉座だった。2人ともクレアにとっては顔見知り程度の関係ではあるはずなのに、所と衣装が変わればこうも印象が異なるのかというくらい威厳を感じさせた。


「クレア嬢、礼と挨拶を」

緊張のあまりここで詰まる子女達も多いのか、特に責めるような口調でもなく宰相のローゼンフェルド侯爵が声をかけてきた。

通常は目上から声をかけるのが礼儀ではあるが、延々国王が挨拶の許可を出すのも疲れるので省略されている。

慌ててクレアは淑女の礼をするとともに、挨拶の口上を述べた。

「国王陛下、王妃殿下、本日は拝顔の栄誉に(よく)されました事に深く御礼を申し上げます。また、新たなる年の始まりのお祝いを述べさせていただくと共に、グランロッシュ王国の今後の発展を祈願いたします事を、新成人としての挨拶とかえさせていただきます」

たいして長い口上でも無いが、それでも「(間違ってない!?間違ってない!?)」とクレアは必死だった。嚙まないようにするのが精一杯だ。


「うむ、聖女としての働きまことに見事であった。今後の益々の働きを期待する」

国王の言葉に会場の貴族達から大きな声が上がる。クレアには何が何だかわからないが、これまでの子女達にかけられる声はせいぜい「うむ、期待しておる」程度の当たり障りのない言葉だったからだ。

他にも魔法学園で成績優秀だったり、貴族としての家格が高い者にはそれなりの言葉が付け加えられていたが、ここまで明確に本人の働きに対して(ねぎら)う言葉があるのは異例と言って良かったからだ。

また、彼女を”聖女”と公の場で呼んだ事も大きい。国が彼女を聖女と公式に認めたに等しいからだ。これは実績さえあればそういった”称号”を得られるという事になるからだ。

もっとも、これは爵位とは異なって正式なものではないが、国から何らかの称号を付け加えられるというのは、貴族社会にちょっとした衝撃を与えた。

これにより、彼女の立場は国や王家が後ろ盾になるという事にもなり、下手に手出しをする事も難しくなったのだ。

「誠に畏れ多いお言葉、謹んでお受けいたします」

拝謁を終えると共に誘導されて自分が立つ場所に案内されたクレアだったが。たった数分の事なのにマラソンを終えたような疲労感だった。

なので自分が立つように指定された場所が玉座近くで、次に立つであろう次期王太子妃であるロザリアを除いては最高位に近い上座なので、下手側の貴族子女達から物凄い目で見られていたのにも全く気づいていない。


「最後に入場されますのは!ロザリア・ローゼンフェルド侯爵令嬢様、エスコートはリュドヴィック王太子殿下!」

最後を飾る2人には当然のように最大級の声と万雷の拍手が起こる。扉が開くと共に、ファンファーレのような音楽が鳴り響いた。この2人ともなると演出も派手になるようだ。

ロザリアとリュドヴィックは互いを見て微笑み合うと一歩を歩み出す。


「結婚式か」

「これ、余計な事を言うでないわ」

意外と国王夫妻って色々雑談してるんだなとクレアは思った。

苦笑している国王の言う通り、礼服姿のリュドヴィックと真っ白なドレス姿のロザリアは今まさに会場に現れた新郎新婦にしか見えなかった。

怜悧な表情で切れ者との声も高いリュドヴィック、情熱的な真っ赤な髪のロザリアは既に様々な武勇伝で名を馳せる婚約者で、当初は大丈夫かあの婚約者との声もあったが、すぐに武門の家として名高いローゼンフェルド家らしいという声にすり替わり、私的にも王太子の方が婚約者である侯爵家に入り浸っているのが話題になるなど、2人の今後を疑うものは誰一人いなかった。

ロザリアの衣装は国内最高位の貴族というだけあって、純白でありながら精緻な刺繍が施されており、形式通りであるものの銀糸を編み込んだそれは明かりに照らされて実に見事なものだった。反対に装飾品等は極めて小さなものしか身に付けておらず、その為に真っ赤な髪が目を引くものとなっていた。

その姿は時期王太子妃どころか、将来の王妃としての風格すら既に漂わせている。


二人は玉座の前でクレアと同様に礼を取ると国王から言葉を賜り、会場は大きく湧いた。

ロザリアが最後だったので最も上手に並ぶと今年成人を迎える子女達が全員揃った事になる。

「皆のもの、成人となった今日の日を言祝(ことは)ごう。これからの国の未来を担う若者が誕生した事を嬉しく思う。国の為国民の為に励む事を期待する」

国王が皆に言葉を述べて手を挙げると、一斉に音楽が鳴り響き、新成人の舞踏会(デビュタントボール)が始まった。


次回、第266話【”彼”と”彼女”の対話】

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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