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第263話「昔さー、成人式で暴れて目立とうとする変なのいたよねー」「……成人する為の式ですよね?」


「うう~、緊張するなぁ~~~」

「そんなに固くならないでも大丈夫よクレアさん、国王陛下に謁見して、ちょっと踊って終わりなんだから。普通の夜会みたいに夜通しするわけじゃないのよ?」

「お姉さまは慣れてらっしゃるかもしれませんけどー、私本当に中身は一般庶民なんですよ?」

クレアはローゼンフェルド家の一室で朝からうろうろと歩き回ってる、対してロザリアの方は椅子にゆったり座って落ち着いたものだ。


年が明けてロザリアとクレアは新成人の舞踏会(デビュタントボール)の日を迎えていた。貴族の子女達はこの日国王に謁見する事で大人として社交界へデビューする事になり、貴族の成人式に当たる日なのだった。

クレアは元々家名をリュドヴィックから与えられてので参加するべきだろう、という立場から打って変わって、

聖女としての功績から女爵という爵位を賜ったので万障を繰り合わせてでも参加しなければならない立場になってしまっていた。

本人は『フェリクス先生と結ばれたいとか思うなら爵位くらいもらっておこうかなぁ』程度の意識しかなかったのが、いざ衣装を身に着けて準備万端な状態になってしまうと、まるで戦場に放り出されるような気分で、着ているドレスは戦闘服にしか思えなかったのだ。

一方のロザリアはというと、王太子妃教育のおかげで礼儀作法やダンスを心配する事もなく優雅に紅茶を飲みつつクレアの様子を眺めているというところだった。

白いドレスで正装姿のロザリアは赤く長い髪を頭の後ろでまとめ上げており、首には真珠をあしらったネックレスと耳飾りをしている。その姿はまさに国内最高峰の貴族令嬢にふさわしい。

クレアもまたフェリクスから贈られたドレスを着ているので見劣りしないはずなのだが、所作の違いでこうも違うのかとクレアは溜息をつくしかない。

あまりにクレアが落ち着かないので、アデルがお茶を入れて差し出してきた。


「クレア様、お嬢様とて公式の場に出るのはこれが初めてなのです。クレア様同様不安に思われ……、いえ全く不安に感じていないかもしれませんが。

 えー、で、ですが、もはや御自分の出自がどうのと言ってられる場合ではないのです。お覚悟を決められて堂々となさって下さい」

「アデルー? ちょっと引っかかる物言いなんだけど? まぁ私だっているわけだし、それこそエスコートのフェリクス先生だっているのよ?心配しないで」

「いやそのフェリクス先生も、何というか不安を煽るものになっておりまして……」

クレアは落ち着こうとアデルの入れてくれたお茶を飲んで冷静になろうとしていたが、なかなかうまく行かない。

フェリクスと何度となく行動を共にしていたりするが、考えてみると正装でまともに会った事も無いのだ。公の場で衆目に晒された時、果たして自分はフェリクスにふさわしいと思ってもらえるのだろうかと不安で仕方なかったのも落ち着かない原因なのだ。


「衣装はよくお似合いですし、所作も問題無いのですが……」

「何をそんなに不安がってるのかしらね?」

今のクレアはローゼンフェルド家のメイド達が総力を挙げて仕上げただけあって、そこいらの令嬢よりも圧倒的に美しく仕上がっているのだ。

しかし比較対象が一応国内最高の貴族令嬢であるロザリアになってしまうので、どうしても自己評価が下がってしまうようだった。

『だからみんな”一応”とか一言多いんですけどー』

ロザリアとアデルが首を傾げていると、ノックの音と共にロザリアの母フロレンシアが入ってきた。


「ロザリア、クレアさん、お迎えが来たわよ。あらあらまぁまぁ。ほらマティアス、見てあげて」

「む、もう入って良いのかね?では失礼して。おおロザリア、なんとも、もう大人なのだなぁ」

入室した途端にロザリアの姿を見た父が思わず感嘆の声を上げる。

その声でロザリアは自分が前世込みでも始めて成人と呼ばれる年齢になった事に気づいた。

前世の成年は20才だったのでそういう意識が薄かったのだ。

『そっか、ウチ、今日で成人を迎えるんだ。前世じゃ成人式すら行けず死んじゃったもんなぁ』


ロザリアは感慨深く父を見つめると、視線に気づいたのか父は照れ臭そうに頬を緩める。

「お父様、今日の日を迎える事ができた事を感謝いたします」

ロザリアは父に向けて淑女の礼ではなく、手を前で揃えて深々と頭を下げる。

貴族としてではなく、家族として感謝の念を伝えたかったのだ、顔を上げた時にはうっすらと目尻に涙が浮かんでいた。

ロザリアの父マティアスは娘の晴れ舞台に胸を詰まらせるが、娘相手に涙は見せてはならぬと堪えて顔を背ける。

そこへ母がハンカチを差し出して目元を拭うのを手伝うのだった。

「あらあらまぁまぁ。ロザリアもちょっと前まではこんなに小さかったのに、立派なレディになったのねぇ。ねぇ、あなた」

「ああ、そうだね……。いや、こちらの家族だけで盛り上がってる場合じゃないね、クレアさんに合わせたい人がいるんだよ」

マティアスはロザリアの頭を優しく撫でた後、扉の外に声をかけると、入室してきたのはクレアの両親だった。


「お父さん!お母さん!」

「クレアか、なんとまぁ変われば変わるものだな」

「何てこと言うの、素直に褒めてあげなさいよ。クレア、立派になったねぇ」

着飾ったクレアを見た両親は驚きのあまり目を丸くしていた。尚、その両親もクレア同様に正装しているのだが。

クレアはそういえばここの所忙しくてなかなか帰郷も出来ず、自分が叙爵されたのも自分の口からはまだだったのを思い出した。

両親には養子になったとかではなく、自力で称号を得たようなものだと説明があったそうだが、それでもちょっと気まずい。


「お父さん、お母さん、その、ごめんなさい。勝手に貴族になんかなったりして」

「何を言ってる、そもそも事前に何度も話を聞かされたからな、お前の功績とか、貴族の養子になるわけじゃないから家との繋がりを断つわけじゃないとか、これからの事を嫌ほど聞かされた」

「何も心配せんでええ。クレアがどうなろうと、生きてさえいれば、私達が親子なのは変わり無いよ。私達は山に抱かれて生まれ、生きて、山に還っていく。大昔からそれは変わらないんだよ」

「お父さん、お母さん……」

自分は幸福だ、前世では中学生で闘病の果てに死んでしまったけど、今世では故郷でのと今日のと2度も成人の日を迎える事ができた。

クレアは父母と抱き合って泣きながら、そんな事を思っていた。


「侯爵様、私どもの為に何から何までありがとうございます。何とお礼を言って良いか」

「いやいや、私の娘の大切な友人の為だ、どうかこれからも心配しないで欲しい」

「はぁ、しかし貴族の方々ってのはこんな親切なものかと改めて思いましたよ」

「いやいや、世間にはあなた方が思っている貴族の方が多いのだよ。

この家は武門の家柄なのでな、戦場では身分だなんだとこだわっている者から死ぬ、そう教えられていたからね。むしろ私が変わり者だと思って欲しい」


夫がクレアの両親と話し込みそうだったので、そういえば外に待たせている人がいたのでロザリアの母は皆に声をかける、今日はハレの日だ。

「ほらほら娘さん達、エスコートの殿方を待たせるものではないわ。そろそろ時間なのだし出発しないとダメよ?」

ローゼンフェルド家の玄関ホールでは大勢の使用人達が2人を拍手で出迎えてくれた。そして、扉の前でエスコートをする2人の貴族男性も。

1人は言うまでもなくリュドヴィック、この国の王太子にしてロザリアの婚約者だった。

もう1人はフェリクス。この国の王族でありながら地位を剥奪された廃王子。とはいえ本人はそれを気にする事もなく悠々と暮らし、ちゃっかりクレアの婚約者候補に名のりを挙げたりしている。

「ロゼ、おめでとう。こうして君が今日という日を迎えられた事を嬉しく思うよ。その衣装を僕が贈れなかったのを残念に思うけど、知らない衣装というのは新鮮に感じられて良いものだね。とても、綺麗だよ。」

「りゅ、リュドヴィック様!?そういう事は皆の前で言わないでもらえますか!?」

「何を言っているんだ、本当に美しい、ああ、誰の目にも触れさせたくない。連れて帰ってかんき……閉じ込めてしまいたいくらいだ」

「リュドヴィック様……」

どう言い換えようが、さらっととんでもない事を言いかけた事に変わりは無い。そして何故それでロザリアは頬を染める。

ロザリアの反応を見て他の者達はこう思った。あ、これ駄目なやつだと。

クレアやアデルは慣れっこではあったが少なくとも両親の前で言う事では無かろう。アデルさっさと出発させる事にした。扉を開けて外にいた御者に声をかける。

まだ見つめ合ってる2人の背中を押して馬車に促す、侍女は苦労するのだ。


ロザリアとクレアはそれぞれのエスコートにより馬車へと向かう。馬車もまた本日の為の特製なのか真っ白で立派なものだった。

さすが王族だけに相乗りなどとケチケチした事は言わず。2人の為にそれぞれ用意されていた。

それぞれの両親やローゼンフェルド家の使用人達に見送られ馬車は出発する。


ロザリアは窓から顔を出して手を振る。感慨無量といった感じのようだが、クレアは先程のイチャコラで少々冷静になった事もあり、

『前の時の登城とは大違いだなぁ、前の時ってローゼンフェルド家が王城に殴り込みに行った時のだし……』と、あの時のことが今は遥か昔に思えるなぁと遠い目だった。


次回、第264話「セールとかで並んでる時って自分の順番が近づく度にアガるよね?」「今はそんな気分じゃないっス……」

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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