第258話「異世界クリスマスよー!、はいメリクリ~、って、どうして異世界にクリスマスがあるのよ!」「(この人は何を言っているんだろう……)」
さて、ロザリアは久しぶりにこの世界が日本製の乙女ゲーム世界というのを思い知らされる。
普通にクリスマスが存在しているのだ。
『確かに元からヨーロッパのイベっぽいけどさー! なんで異世界にあるのよ! マジ意味不なんですけどー!?』
いつものように教会併設の孤児院に来てみると、クリスマスが近いだけあって皆の雰囲気も明るい。
クリスマスツリーにする木を皆で選び、子供たちは思い思いに飾り付けを行っていた。外には雪だるままで作ってある。
『わー微笑ましいー、ってこれどう見ても日本式のクリスマスなんですけどー! ねぇマジ大丈夫? 正月には鏡餅とか門松飾ったりしないよね!?』
あるのだから仕方ない、ちなみに救世主が生まれた日ではなく、救世主たる天使がこの世に降臨したのを祝う日となっている。
さすがにサンタクロースは存在しないが、良い子にしている子供の所には天使の使いがプレゼントを持ってくるというお話は存在している。
各家庭では当然のようにその日にケーキを食べたりする。その他にも細かい違いはあるが、とにかく何が何でもクリスマスが存在するのだ。
『お願いだから日本っぽい異世界イベントマジやめて。マジでむずがゆい』
ロザリアからしてみれば、ガチなヨーロッパ風の世界に、日本の商業的なイベントと化しているものが無理にねじ込まれているようにしか見えない。なのでどうも気恥ずかしく感じてしまうのだ。
「おやロザリア様、いつもありがとうございます。今年のクリスマスは盛大なものになりそうですよ、なにしろ人数が多くて」
孤児院長のルイゼがロザリアに話しかけてきた。この孤児院はロザリアが色々と商売をしている関係で資金関係ではかなり恵まれており、むしろ院外からも孤児を受け入れている状態だった。
「増えましたねー、他所からも預かってるって聞きましたけど」
「もう150人くらいになるかしら。さすがにもう無理ではと思っているのですが、最近は希望する所も多くて」
「この人数だと少々手狭になってきてますよね。お店の仕事もしてもらってるけど、最近は人手が少々余り気味なんですよね」
元々教会が経営していた古着屋にロザリアが色々と手を加えて、仕立て直しをする仕事を孤児院の子供たちには任せていたものの、さすがにその仕事量にも限度があったのだ。
「教会や孤児院でも何かお仕事を作らないととは思っているんですけど、ねぇ。なかなか難しいんですよ」
「まずこれだけ孤児とか預からないといけない子どもたちが多いのを何とかしないといけないですよねぇ……」
グランロッシュ王国は豊かな国であるがゆえに貧富の差が比較的少なくはあるが、それでもどうしても生活に困るような人達は出てくる。
院長によるとそういった家庭では口減らしとして子供が売られていく事があるのだという。
奴隷売買は禁止されてはいるが、養子縁組は禁止されていないので労働力としての子供が売り買いされ、中には生涯を田畑で働く事を子供のうちから決まってしまっている子供も少なくないのだそうだ。
「もちろん、それを正しい事だとは胸を張っては言えませんが、そこまで禁止すると今度は生まれてきた子供が口減らしの為に殺されてしまう事になるのですよ。
中には異国に奴隷として売られていく子まで出てきているといいますし」
「奴隷って、そんな、外国になんて連れて行かれたらもう帰ってこれないじゃないですか」
「それでもそういう事は避けられないのですよ、逆に外国から流入してくる人達もいますしねぇ。この国は獄炎病を激減させる事に成功しましたけど、大陸の他の国ではまだまだ多いそうなのですよ」
帰宅後、ロザリアは母親に誘われたお茶会でその事を話してみた、この世界において自分は世間知らずと言って良い。なのでこういった情報は領地経営にも関わっている母親の方が詳しいかも知れないと期待したのだ。
「獄炎病の治療薬って、今ではこの国の重要な輸出品になってるくらいだものねぇ。
おかげでこの大陸全体では病気が減っているそうだけれど、それでも輸出した先でその治療薬が貴重である事には変わりがないのよ」
母によると、薬は投資の対象として高値で売り買いされていて治療に使われていない場合もあり、
そうこうしているうちに薬の効果が無くなってしまい、グランロッシュ王国は詐欺を働いているのかと問題になりかけたりもしているそうだ。
また、治療薬を模倣しようにも再現する事ができず、獄炎病はグランロッシュ王国が商売の為に広めたのではないかという噂まで立っていた。
「そんな、この国だって大勢の人が死んだんですよ!? そんな事って」
「隣の家に生えている花は綺麗に見えてしまうものよ、それに誰だって自分にとって都合の良い事が一番心地いいものよ。
あの薬が使用期限付きっていうのを予め知らされていたとしても、お金のように右へ左へと動かしているうちに、薬としての価値を無くしてしまったのは自分だもの」
「せっかくクレアさんが治療したり、薬を作ってくれたっていうのに……」
「そのクレアさんの叙爵もね、この国でも酷い被害があったんだという事を国外に示すための意味もあったそうよ? わざわざ貴族の称号増やすなんて普通はしないもの」
「あ、私が爵位もらった時に、人数が盛られまくってたのもそれなんですかね?」
同席していたクレアが、自分が治療した人数がどう考えてもやり過ぎレベルで人数を盛られて公開されていた事を思い出していた。
「そのようね。言った者勝ち、みたいな所はあるから仕方ないのよ。数字をちょっといじくるだけで国にとっても良い結果になるなら、誰だってそうするわ」
「お母様、でもそれって、正しい事なんでしょうか?」
「ロザリアもそういう事を考える年頃になったのねぇ。でもねロザリア、人はそんなに大勢を救えないのよ、王家だってこの国を守るので精一杯、私だってこの家を守るので精一杯、神様にでもない限り全ての人なんて救えないわ」
「全ての人は、救えない……」
【時が来ればその意味も判るだろう。全ての人は救えないだろうが、より良い選択をすることを期待する】
一瞬、そんな言葉が頭をよぎる。だれだろう、いつか誰かに言われた気がするのに思い出せない。何故だろう、たしかに誰かに言われたはずなのに。
次回、第259話【魔核兵器ベルゼルガ】
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