第257話「久しぶりの出番だー!ウチ最近影薄くない?キャラ薄くなった?」「どの口がそれを言うのです」
「はい走って!みんな頑張れ!社交ダンスは体力だ!」
異様に元気な乗馬服のような男装のロザリアが、運動服姿の平民の生徒を引き連れて魔法学園のグランドをランニングをしている。皆それぞれ身体に重りを付けさせられていた。
社交ダンスをロザリア達から指導を受けていた生徒達は、踊りそのものは踊れるようになったもののすぐにバテてしまっていた。
一見優雅に見えても相手との呼吸を合わせたり時に相手を支えたりと、実はかなり疲れるものなのだ。
「なら、鍛えれば良いじゃない」と、ロザリアは体力づくりから始めた。何と言うかロザリアは、かなり脳筋だった。
元々ローゼンフェルド家は武門の家柄なのと、ロザリアの前世ののばらも武道を嗜んていたのもあるのだろう。
全員無暗にバタバタ走るのではなく、あくまで背筋を伸ばして頭の高さを動かさないよう、流れるように走るのを指定されていた。
これにより走るスピードはそれほどでもないものの、一挙手一投足まで気をつかわないといけなくなり全員バテバテの状態でだった。
とはいえ、夜会は場合によっては夜遅くまで続くので実は体力勝負というのを聞かされ、
何よりも目の前のロザリアが魔力強化も何も使っていないのに、誰よりも元気いっぱいなので何も言えなかった。
「よーしここまで!走りの方は中々様になってきたね!これからは普段の動きもそれを意識したまえ!」
皆は流石に汗だくで息も絶え絶えで、もう走れと言われても動けそうに無かった。
「いやーお姉さま、ダンス1つでここまでやりますかー、あ、もう良いっスね?はい次の人ー」
「お嬢様、汗は……かいておられませんね、とりあえず水分を補給して下さい。皆様もです」
山村育ちのクレアは元々足腰が頑強なのでこのランニングでも平然としており、へたばっている生徒達の疲労を治癒魔法で癒やして回っていた。
アデルは水筒の水を皆に配って回っており、そのおかげで皆もなんとか持ち直していた。
「ろ、ロザリアさん、貴族ってこんな事いつもしてるわけ?」
シモンは貴族に対してひ弱だという先入観があったが、貴族の令嬢であるはずのロザリアが誰より余裕があるのを見て考えを改めていた。社交ダンスにしてもあんなに疲れるものだとは思っていなかったのだ。
「ん?いつもってわけじゃないけど、歩き方動き方は常に優雅さを要求されるから延々反復練習はするね。私の場合は子供のころからそういう教育受けてたよ」
「はぁ……、俺たち魔学祭の時にマナーとかを教え込まれたけど、平民はそういうのが絶対的に欠けてるんだよな。この先大丈夫かな」
「魔法学園は魔法だけ教えてれば良いという姿勢が原因だねそれは。
平民の諸君も強制的に入学させられるのだし、卒業後の職場だってどうしても貴族が多い。
何か別の形でそれを補っていかないと、国の将来にも良くない」
「あといい加減その口調何とかなりませんかね……」
真面目な顔で腕組みしながら考え込んでいる男装のロザリアは無駄に凛々しく見えるのだが、そもそも今日のトレーニングには男装は必要無かったはずなのだ。
その男装の姿に憧れている女子生徒が結構いたりするので、アデルはこの姿になるのを止めたほうが良かったのだろうか?といつも悩む。
「というわけで、そろそろ五星義勇団のなりきり衣装は売れ行きが落ちてきてるのよ、徐々に作る数を減らしてもらえるかしら?」
「射映機の再演でお客戻るかと思いましたけど、中々難しいですわね……。このまま作り続けると大損しかねない所でしたわ」
ロザリアはルクレツィアの店で経営会議をしていた。ロザリアは前世ではそれほど勉強ができたわけでは無いが、いくらなんでもグラフくらいは書けたのと、アデルは経理関係があまり得意とはいえず、なんだかんだこの世界でも教育を受けていたロザリアが一番計算できたので自分でやるしか無かったのだ。
2人の前にある机の上には日毎の売上や、客の人数等から算出された折れ線グラフでまとめられた資料が置かれており、ルクレツィアも最初は何だこの落書きはと思っていたが、次第にその有用性に気づくと食い入るようにそれを見ていたものだ
「ちょっと売れ行きは戻ったんだけどね?やっぱり飽きられてくるのよああいうものって」
「まぁこちらとしてはこの間の平民向け正装の計画もありますし、そちらに生産を回せるので何も困りませんけど……。もしかして、この状況を読み切っておりましたの?」
「え?いいえ?全部単に思いついたからやってるだけよ?」
「まったくあなたときたら……、あれこれ悩んでる自分がバカらしくなってきますわ」
ロザリアは毎回考えもつかない事をやらかし、ルクレツィアはそれに振りまわされるのが常なので、どうやったらこのような明らかにこの世界の水準を逸脱している発想ができるのだろうと毎回悩むのだ。
まぁ実際ロザリアは前世の記憶から思いついている事なので、この世界の常識で考えても仕方ない事なのだが……。
「そうは言っても、もう王都のあちこちで似たような劇が真似されて始まっているじゃないの。中には本職の役者使って劇場で上演するものまであるんだから、そろそろ限界よ?」
「あの劇もある程度好評ではあるみたいですけどねぇ、さすがにロザリアさん達のゴーレムみたいなのは作り出せないので、やはり迫力に欠けるという意見が多いですわよ?」
「あら、そうなんだ。でもそんなのゴーレムの着ぐるみ作って舞台上で演技すれば良いだけじゃないの?」
「何ですのそれは、着ぐるみ?」
「だから、軽い素材で人が中に入るゴーレム型の鎧みたいなのを作れば良いのよ、そうすればわざわざ魔法で作り出さなくても良いでしょう?
相手の怪人だって適当に仮面とか被らせて巨大化した、という設定にすればそんまんまの姿で出て来れる、足元には王都の模型置いておけばいいんじゃない?」
「……」
「あとはそうねぇ、さすがに射影機との組み合わせになるけど、模型作って動かせば合体する所だって映像を流せるんだし、お客に見せる手段なんていくらでもあると思うわよ?」
「……」
ロザリアは前世で見たTV番組等の知識から適当に話しているに過ぎないが、彼女の見ていたものはその業界の何千何万もの人達が何十年も模索した結果なので一朝一夕に辿り着けるものでもないのだ。
だがそれを知らないルクレツィアからしたら、とんでもないアイデアをポンポン思いついているようにしか見えない。
「あのねぇロザリア様、常々思っておりますけど、そういう革新的な事をペラペラと話してしまって良いと思ってるんですの?私ならそれでひと商売起こせますわよ?」
「やればいいじゃない、あなたが」
「えっ」
「だから、私がやってた事を委託するから、劇を続けてよ。物語とかの案ならいくらでも提供するから」
「えっ?」
「ついでにさぁ~、あれの女の子版も見たいなぁ~、って思ってるのよ。さすがに巨大ゴーレムは女の子受けしないだろうけど、『女の子だって変身して怪人相手に暴れまわりたい!』って思うはずなのよ。どう?」
「女の子が鎧を着てっていうのはどうかと思いますわね……」
「いやそうじゃなくて、平民とかの普通の女の子が謎の可愛い魔法生物の導きで魔法の力に目覚めて伝説の戦士になって、一瞬で普通の服から派手な魔法の格闘用ドレスに早着替えするのよ、髪や見た目だって大人っぽくなって平和の為に戦うの。女の子だけで」
「は……、はぁ?そういう血なまぐさいのは受けるかしら……?」
「いやいけるって、何なら最初は2人組にして、性格が対照的でどう考えても合わない子達が、互いの違いを認めあって親友になる、っていう感じで。倒れ、傷ついても歯を食いしばって手を取り合って愛と平和と友情の為に立ち上がる姿って絶対感動するから」
それはプ◯キ◯アだ、設定から何から誰がどう見てもプ◯キ◯アの丸パクリだ、と突っ込める者は誰一人この場にはいなかった。なにしろ異世界なので。
この後、ルクレツィアが新人役者を集めていわゆる芸能プロダクションを立ち上げ、革新的な劇をいくつも上演して子供層を中心に大人気を博す事になり、それは長くグランロッシュ王国の名物となるが、
それは少数の魔力持ちの貴族が国を動かす事に対する国民の不満をそらして、文化的に支配する為のものだという陰謀論化して、
その裏に王太子妃が絡んでいたり、王太子妃自身がそれを観劇に来ているという都市伝説になるのはもう少し先の事になる。
次回、第258話「異世界クリスマスよー!、はいメリクリ~、って、どうして異世界にクリスマスがあるのよ!」「(この人は何を言っているんだろう……)」
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