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第255話「様々なズレと渦巻く思惑」


深夜、皆が寝静まる頃、とある貴族屋敷の一室に何人もの貴族が集まっていた。

とはいっても表向きは夜会の後の歓談という体だった。

しかし誰も酒を飲んでいない事からも、それがただの建前に過ぎない事が伺える。

また、皆仮面を被っているのでお互いの素性を詮索しない暗黙のルールとなっていた。


「ほほう?ローゼンフェルドの小娘が魔法学園でそのような事を?」

「ははっ、恐らく貴族社会での勢力拡大は頭打ちと見て、平民に目をつけたものかと思われます。彼らに衣服を与え、まるで貴族のように扱っておるのです」

「ふむ、自らが王太子妃となるだけでは飽き足らず、将来的に手駒として使うための布石か?小娘のくせに小賢しい事だ」

屋敷の主らしき赤い仮面を付けた貴族が、格下の貴族と思われる黒い仮面の人物からの報告に鼻で笑っていた。

ただそれは全くの誤解で、ロザリアは単に思いついた事をやりたい放題やってるだけなのだが、世間はそうは見ないようだ。


この場にいる者達は皆、宰相であるローゼンフェルド侯爵家と対立する派閥の者達だった。

今のところ表立って対立する姿勢では無いものの、グランロッシュ王国三大貴族の一角であるローゼンフェルド家を快く思っていないのは確かだった。

何よりも、貴族というものは強欲な者が多く、いつまでも上に居座られるのも面白くないのである。

社交界は一見華やかでも裏では誰も彼もが足の引っ張り合いに明け暮れており、隙を見せる方が悪いし、それにつけ込まないのは貴族失格という風潮さえある。

グランロッシュ王国は魔法に関して爛熟した状態にあり、貴族社会はその流れで飽和状態に達していた。

このままでは家を存続する事も難しくなり、御家断絶の危機を迎えている所も少なくはない。

そして、そういった危機は誰かにとっての好機である事が多いのが世の常で、この場にいた者達はそれに乗じて破綻しそうな家を取り込んで拡大しようと目論んでいるのだった。

とはいえこれまでロザリアが公に行ってきた事は、社交的な事というよりも武力的な事が多かったので、どんな侯爵令嬢だ、と皆思いつつローゼンフェルド家には手を出しかねていたのだ。


「伝統ある新成人の舞踏会に対抗してか、学園でも舞踏会を開き、彼らをその気にさせるようですな。最近は裕福な平民も増えておりますし、これ以上貴族気取りが増えられては目障りなだけだ」

「目障りといえば例の聖女もですな。廃王子とまるで婚約者のようにふるまい、湯水のように金を使わせて貴族気取りだとか。そろそろ目障りになって来ましたなぁ、例の病を退けた事でもはや用済みだというのに」

他の貴族達も好き勝手な事を言っている。繰り返すがこれまた誤解で、クレアは要求など全くしていない。

なりゆきで一方的にフェリクスからもらっている状態で、その金額の大きさにタダより高いものはないと胃が痛い思いをしているくらいだった。

新成人の夜会用ドレスに至っては用が済んだらローゼンフェルド家で保管してもらおうかなぁ、誰かもらってくれないかなぁとも思ってるくらいだ。


「そもそもあの聖女とやらは、本当に癒しの力を持っておるのですかな?王都ではついぞそのような事を目にせぬのですが」

「獄炎病はたしかに脅威ではありましたが、特効薬が驚く程早く作られましたからなぁ。いくら何でも都合が良すぎるくらいに」

「そこですぞ。そもそも、その薬の出どころもローゼンフェルドの令嬢からだとか。最初は化粧品にして王都中に売りつけておったそうですが、それが獄炎病の治療薬にもなるなんて都合の良い事があるはずがない」

「……とすると、獄炎病自体がローゼンフェルド家の自作自演という事も?」

「おおそれが本当ならなんと恐ろしい事か。しかしそうなると聖女共々このままにしておくのはいかがなものですかな。もはや獄炎病は死病ではなくなっておるわけですから」

このクラスの貴族になると獄炎病の真相は知らされていない上に、実の所世界が破滅というか消滅に向かっている真っ最中という事には考えも及んでいない。そんな彼らにとっては貴族としての権勢を維持する事が第一だった。


「ローゼンフェルドの小娘と言えば、近頃商売に手を出し始めて、かなり派手にやっておるようですな。何でも商品を宣伝する為の劇まで上映しておるとか」

「さよう、しかもその商売によりにもよってフルーヴブランシェ家の小娘までもが関わっておるとか。魔力無しなら魔力無しで社交界の隅で目立たずやっておればよいものを、どんどん商売を拡大しておるようだぞ」

「部門の家柄だったローゼンフェルド家と商人まがいのフルーヴブランシェ家が手を組む、となるのも面白くありませんな。3大侯爵家のうち2つもとなるととんでもない勢力になりますぞ」

「近頃は戦争も無く平穏ゆえに突発的な事故のような騒動が起こってはおるが一応近衛兵団やら騎士団で対応できておる。今の世の流れを見越して商売に手を染め始めたとなると油断ならぬな」

これまた誤解で、ロザリアは趣味として色々商売はしているが基本赤字なのだ。しかもあれこれ色々と手を広げて物を売ったりしていくと、その赤字の額はなかなか減らずむしろ増えてしまう。

『ウチ1人で学生ギルドの依頼を受けるなら赤字なんて出ないのに、人が増えたら何故こんなにお金ばかり出て行くの?』と首をかしげる毎日なのだ。

とはいえ今のロザリアくらいの事業規模になると物品をやりとりする商人達との間にも信用ができており、先に品物だけ受け取って、それを元にした商品が売れたら返すというのが成立してたりする。

その金額は徐々に大きくなっており、既にロザリアが動かす金額は商人達からも無視できる存在ではなくなっていた。

なので、『そろそろ学生の規模では限界かなぁ、ローゼンフェルド家から資金の融資を受けようかな……」という毎日では、

これまで武門の家だったローゼンフェルド家が、世の情勢を見越して商売に手を付け始めたという誤解が出るのも仕方ない事なのだった。


この場に集まった貴族達が一通り言いたい事を言ったのを見計らって、赤い仮面の貴族が口を開いた。

「さて、お集りいただいたのは他でもない。目障りな者達が増えすぎましたからな、そろそろ我々も動くべき時ではないかと」

「どうすると言うのです?戦争が無くなってかなり経ちますし、今や我々の身分も安泰ではある。そのような時に動いて大丈夫なものだろうか?」

「安泰、だからなのだよ。安泰だからこそ我々のつけ入る隙も、我々が新たに武功を立てられる状況を作り出せるのだ」

「し、しかし一体どのように?」

ざわめく貴族達を眺めながら、赤の仮面の男は楽しげに笑った。

「何、少々隣国からの侵略で肝を冷やしてもらうだけだよ。それを我らが迎え撃てば良いだけの話だ」

「は……、しかし貴公は近衛兵の……」

口を開こうとした貴族の男は慌てた隣の者に口を塞がれた。


「だからこそ色々と面倒なのでな、戦争の無い今、我々の存在は金食い虫だのと言われておるのよ、ならば我々を認めざるを得なくなれば良いだけの事」

赤い仮面の貴族はあえて自分の身分を否定しなかった。それはこの場の皆を共犯者とするという宣言でもあった。


「しかし、それでは反逆の意思があると思われても仕方ないぞ」

「反撃して追い返してしまえば何も問題ない。何となればそのままその隣国に向けて進軍し、領地を増やすのも良かろう」

「だ、大丈夫ですかな?事が露見すればただでは済みませぬぞ」

「心配要らぬ、我らと同じく、現状を良しとされぬお方がいらっしゃるのでな。

その方には今までも様々な面でご協力いただいておるし、何より第一隊は今も無傷なのだよ、何も心配要らぬ」

他の貴族達が不安を口にするのも当然で、その計画は隣国と接するローゼンフェルド家を無視して自分達が勝手に隣国に侵攻するというものだった。

それはローゼンフェルド家の領地を戦場にするに等しいものだった。

戦況次第ではかなりの被害が予想される上、国土防衛の名のもとにローゼンフェルド領を荒らしてローゼンフェルド家の勢力を削る腹積もりもあるという計画だった。


次回、第256話「戸惑う王太子、彷徨う魔王女」

読んでいただいてありがとうございました。

やったー!久しぶりの評価ありがとうございます!

また、ブックマークもありがとうございます!


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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