表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

255/303

第253話「あーマジ忙しいんですけどー! あれ決めてこれ手配して」「何があなたをそうさせるのですか」


「で、平民の人達向けの正装の販売に興味は無いかしら?」

「興味深い話ですけど、どうして私の所に持ってくるんですの」

ロザリアは王都第ニ広場のルクレツィアの店を訪れていた。というより自分の店の休憩時間に、ふと思いついて特に計画も無く訪れただけなのだが。


「え? 他に思いつかなくて。でも良い考えだと思わない? ある程度手直しできる状態の服を作っておいて、お客の採寸に合わせて多少の寸法直しをするのよ。

 これだったら仕立て屋の服よりかなり安く出来上がるんじゃない?」

ロザリアがルクレツィアの所に持ち込んだのは、いわゆる”吊るし”の既製服の提案だった。

ルクレツィアの店は同じ一般王都民向けでありながら通常の仕立て屋ではなく、既に現代世界と同様にドレス等を同じデザインで各種サイズを揃えて選べるいわゆる”服屋”なのだった。

最近はロザリアの店で襟や多少の仕立て直しをする事を前提に、シンプルで手直ししやすいデザインを揃えていたりしている。

それを一歩進め、服そのものをあらかじめ服のサイズまで手直しできるように作っておくというものだった。

ロザリアは既に既製服を売っているこの店であれば、礼服やスーツのような既製服の吊るし売りで、より安価に礼服を提供出来るのではないかと考えたのだ。

また、こういった店であれば魔法学園の平民出身の生徒も買いに来やすいはずだ。


「たしかに可能ですけど、それでも身体とは完全に合いませんし、多少仕立てが悪いというのは見る人が見ればわかりますわよ?」

「さすがに夜会とかだとそうなるけど、ちょっとした正装が必要な時ってあるわけでしょ? そういう人向けなのよ。結構な需要あるはずだし、もったいないと思わない?

 あとー、あんまり良く出来てしまうと今のお針子の仕事している人達に反感を持たれるかもしれないでしょう? 丁度良いと思うのよ」

「まぁ、一理ありますわね。貴族と平民間の商談や縁談がなかなか広がらないのもその辺が原因みたいですし。

 私の知り合いにも、もう婿入りしてくれるなら魔力持ちの平民の人でもかまわないのに出会いが無い、と言ってましたし」

「でしょう? 回り回ったら貴族社会だって良いことだらけだと思うのよ」

「はぁ……、服一つでそこまで考えますか、よろしいですわ、ちょっと試作させてみます」


ルクレツィアは常々、今のグランロッシュ王国の貴族社会はしがらみが多すぎてもうこれ以上の広がりはなかなか望めず、貴族間の結婚にも限界が来ていると思っていた。

この国の貴族は血統よりも魔力の強さが重んじられる事もあり、平民との結婚を忌避する傾向はそれほど強くは無い。

これからは無駄に血統を重んじる貴族から行き詰まりを見せてゆき、家が存続できなくなって取り潰される所も出てくるとも見切っている。

家を存続すべきか、血統を存続すべきかの岐路に立たされているのだと。

ロザリアからヒントを得たルクレツィアは、今の状況はとんでもない商機に満ちているのではないかと頭の中で計算が始まっていた。その手始めとしてロザリアの計画に乗るのはむしろ望む所だった。


店を出たロザリア達の耳に歓声が聞こえてきた。広場の噴水近くに常設されている『射映機』に集まっていた子どもたちの声だ。

早くから「五星義勇団グランフォース」の再演を望む人が多かったので、最初は再上演しようかと思ってはいた。しかしながら全員の予定をつけるのはやはり無理があった。

上演中は途中からねじ込んだグランダイオーの映像を作ったりするのが予想以上に手間がかかり、とても再演まで手が回らなかったのだ。

おまけに途中でグリセルダ達が乱入してきた事に関しては再現どころではなかった。

そこで、劇で使用していた水スクリーンへ映像を映し出す『射映機』を改良し、何かに使えないかと録画していた動画を編集して上映する事にしたのだ。

どうせ客寄せのつもりだから、と無料で映像を流していたら子どもたちが群がり大人気となっていた。

それでなくても突然街頭でTV放送や映画が出現したようなものだ。大人までもが見に来ており、最近ではその人達を目当てに屋台まで出ている。



「いつもながら大人気ねぇ」

「何というか、私は呆れてものが言えませんわ。あの映像を映し出す道具だって物凄い発明ですのよ!? それを無料で開放するだなんて……」

「えー、でもみんなタダだから見てると思うわよ? お金取ったら誰も見なくなるんじゃないかしら」

ロザリアの前世は平成末期でサブスクや配信も一般的ではなかったので、どうしても「TV=タダ」という印象が強すぎてお金を取る事に抵抗があったのだ。


ルクレツィアは見世物小屋でも作って上映すれば相応に儲けられるだろうに……と、思ってしまうのだが、

常々母親から『貴族というものは金儲けだけではなく、文化や技術の振興にも投資するべきである』などと言われていたので、ロザリアの考えを取り入れるべきなのだろうかくらいには考え始めていた。


「まぁ、あの劇もなかなか馬鹿にできないものになってるそうですわよ? 悪と戦う集団を扱っているので王都の犯罪件数があからさまに落ちたそうですもの」

ルクレツィアの言葉通り今の王都は趣味の自警団が流行っている上に、そこいら中に劇中の格好を真似た人が男女問わず歩いている状態だった。

「うーん、思いつきでやった事だったけど、本当に効果あるのねぇ、やってみるものだわ」

「お嬢様……、ですからそういう事を思いつきでしないで下さい」

店の外で待っていたアデルが呆れたような声をかけてきた。だがロザリアはむしろドヤ顔で胸を張っている。アデルはそんなロザリアの様子を見て軽い頭痛を覚え、もはや癖になっているこめかみを揉む動作をした。



ルクレツィアに別れを言って店を後にした二人は向かい側の自分達が経営する方の店に戻った。

「あ、お帰りなさいお姉さま。どうでしたか?」

店の前で割引券を配っていたクレアが出迎えてきた。この券は日替わりで5枚集めて買い物すると非売品グッズと交換できるので好評だった。

「いけそうよ、お疲れ様。今日も結構な人が来てるわね」

「編集に苦労したかいがありますねー」

クレアは録画した映像を編集するにあたり、当時の観客の声をできるだけ消したり、特殊効果でエフェクトを追加したりしているので映像や音に迫力が増していると好評だ。

皆がそれを食い入るように見ているので、日曜の朝というのもあり、アデルはまるで教会の礼拝のような印象を受けた。

「しかし、皆様本当に教会での礼拝に来られている感じですね。お嬢様達の前世では本当に教会と同じ役割をしてたのではないですか?」

アデルの指摘にロザリアは首を傾げる。たしかに毎週日曜日の朝に見ていたものではあるが、単なるTV番組だったからだ。


「ええー?むしろ私達の国って無宗教みたいに言われて、信仰心が無いからヤバい国って言われてたよね?ど うヤバいのかさっぱり理解できなかったけど。本当にそんな効果あったのかしら?」

実際にはわざわざ寺社仏閣に礼拝して教義を確認するまでも無いくらいに生活に信仰が浸透し切っており、倫理や道徳観の教育を宗教に頼っているのとは事情が異なる。


「相手の立場に立って考えてみてはどうですか?例えばそのニチアサバングミを見た事ない人を想像してみては」

「えーっと? 日曜に教会に行かないのは信じられない、とか言われてたっスよねぇ。仮にニチアサ番組とかがその役割を果たしてたとするとー……」

「ニチアサ番組を一度も見た事が無くて、番組名とか全く知らなくて、誕生日とかでそういう番組系のプレゼントをもらった事が無くて」

「あー、子供の頃の思い出のプ◯キ◯アとかラ◯ダーが無くて、その番組を格好いいと思ったこともごっこ遊びもした事が無くて?」

「アニメとかニチアサ番組を悪いものだと思ってて、見る人を馬鹿にするならともかく迫害して見下してて?」

「漫画アニメとかゲームで泣いた事や、人生変わるくらい感動した事が無かったり」

「推しキャラもいなくてグッズとかを買った事も無くて。肌身離さずそういうグッズを愛でたりした事も無くて」

言い合ってるうちにロザリアとクレアは徐々にドン引きしていった。価値観が噛み合わないにも程が合ったからだ、まるで異世界人だ。


「クレアさん、……やばくね? どんな育ち方したらそうなるのかしら」

「想像してみたら引くくらいヤバいっスね。まともな人間とは思えない、私なら関わりたくないっすね」

「そっかー、宗教って、『まずこれを推しキャラとせよ』って教わるものだったのかー。要は推しがキ〇ス〇じゃないのが信じられない、って言ってたわけかー」

「おお、お姉さますげー、やっと欧米の人が言ってた事が理解できたー」

アデルは少々混乱していた、二人がよくわからない事を好き勝手に言い合って勝手に納得している上に、今度は前世の彼女達が崇めていたらしい宗教とは別の謎の存在、”推し”まで出てきたのだ。


「どういう国だったのですか……。信ずるものが2つも3つもあって混乱しなかったのですか? ”推し”とは一体何なのですか」

アデルに聞かれても2人は正直答えに困るしかなかった。推しは推しであり、簡単に言葉にできるものではなかったからだ。

「何、って言われても、崇めてたわけじゃないわよ?応援したい、っていうか、背中をそっと押してあげたいっていうか。

 その押した手の平に残るぬくもりだけで満足っていうか、生きていけるっていうか」

「そうそう、手の届く相手じゃないってわかってても、推そうという気持ちだけで生きていけるっていうか、人生の道標というか」

「??????、あの、まったく理解できないのですが。神、では無いのですよね?」

アデルはさらにこんらんした!

結局望むような答えは得られず、2人の前世に対する印象はより複雑怪奇なものになってしまった。


『これだけ好評なら、プ◯キ◯アもいけるんじゃなかろうか……、2人か5人でなんとかキュアにして……。場合によっては魔法少女系のグループで……。服も売れるし』

と、ロザリアはまた余計な事を考えており、アデルは何故かちょっと背筋が寒くなり首を傾げていたのだった。


次回、第254話「これが私……?なんて言ってる余裕無いっス……」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ