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第252話「何か色々あったみたいだけど、今のウチはそれどころじゃない」「自業自得……とも言えないですねこれ」


冬も深まり年末も近い頃、ロザリアは心にひっかかるものを覚え続けていた。

トランスエイナムの遺跡教会で起こった事の記憶がどうも薄いのだ。その割にその事に関しては「もう終わった事だ」と、妙に割り切れた気分になってしまっている。

『ねー、何なのこれ?マジなんかひっかかるんだけど』

試しに”世界の声”に聞いてみても答えは無い。そうそう都合の良い能力ではないのだ。

『使えない能力よねー、何なんだろこれ』


「お姉さまー、最近ちょっと浮かない感じですよね?まぁそれは私もなんですけど」

「クレアさんも?そうなのよねー、この間の教会の事件を解決して以来なのよ。解決した感じがしてるのに、全然それに納得してないっていうか」

「お二人の気持ちはわかります。私も何故かずっとそんな事を思い続けているのです。修行不足とはいえ、このような事は初めてなのですが」


あの教会の出来事に関しては3人共の記憶が曖昧(あいまい)だったのだ。気がつくと帰路についており、影の里でも少々慌ただしく出立したという記憶しか無い。

レイハも同様なのかというとそうではなかったのだが、珍しく「まぁなるようになるさ。お(ねー)さんとしては皆が根っこでは変わっていない事を願うばかりだね」とはぐらかすだけなのだった。


なので3人共が違和感がずっと消えずにいたのだ。なので、

「「「な~んか、気に入らない。というか、腹立つ」」」

と、結局は似た所のある3人は、同じような事を思い浮かべているのだった。



とはいえ、今の3人はそんな事にこだわっていられる状況ではなかった。

「はい相手と目をそらさない。恥ずかしがってたらダンスは踊れないよ!そこでターン!」

ロザリアの号令とともに生徒たちが優雅にターンを決める。中にはテンポがずれてはいるものの、それなりの形にはなっていた。

魔法学園にあるホールで踊っているのは平民の生徒ばかりで、着ているものは学生服であっても、女生徒は腰に長い布を巻いてドレスのようにしている。

社交ダンスを踊れる生徒が少ないので、指導役のロザリアは男装しており、それはアデルも同様で、ついでにクレアまでもダンスの練習をさせられていた。


何故3人がこういう事をしているかというと、学園に戻ると二重存在(ドッペルゲンガー)の方のロザリアがやらかしていたのだ。

ロザリア達貴族の子女は年が明けてすぐの新成人の舞踏会(デビュタントボール)にて、要は成人式を経て社交界へデビューとなる。

また、そこで将来の職業であったり人間関係を築いていったりする。

では、同じ魔力を持つ平民はどうなのか、という事にシモン達と会話していた二重存在(ドッペルゲンガー)の方のロザリアが疑問を持った。


彼ら彼女らもまた、魔力を持つがゆえに同様に魔力を必要とする職場、主に公的な職場に就く事が多い。

当然そういった場でも社交界と無縁ではないので、職場絡みで夜会であったり舞踏会であったりに出席する機会はあるのだ。

貴族の子女であれば教養の一つであるがゆえに、魔法学園に入学する前にはもう踊れるようにはなっている。

しかし魔力を持つというだけで一般人の中から国民の義務として魔法学園に入学させられた上、就職先まである程度決められてしまっている平民の生徒に対しては長らく放置されていた。

夜会や舞踏会といえど踊る必要は特に無く、別に立ち見していても壁の花になるだけで今まで特に問題は起こらなかったからだ。これにロザリアが反発した。


『社会人になったらそういうのに無理やり参加しないといけない状況に放り出しておいて、ダンスも踊れずぼっちになるのを黙って見てるなんてありえなくない?

 貴族の舞踏会とかって要は婚活パーティーでしょ? そんな状態じゃ将来の結婚だってうまくいくわけないじゃん!』

のような事を、かなり常識的な言い方で生徒会長のリュドヴィックに進言し、それでは学生のみの新年パーティーでも開催しようか、という事になったのだ。

ロザリアの中では前世のJKギャル的な考え方が混ざっており、かなり独特な価値観になっている。

なので婚活パーティーも舞踏会もたいして違わないように見えてしまっているのだ。

しかし以前も書いたが貴族が催す夜会や舞踏会は、一見華やかだが決してそれだけではなく、貴族どうしの人脈をつないだり、企業したり事業を起こしたりする商談会の側面もある。


とはいえ、既に年末の今から予定を立てても時期は終業式の頃になると思われ、

生徒たちのダンスの練習だって必要だろうと言うこともあり、終業式の打ち上げとしてプロムをやろうという事に決まった。


ちなみにプロムというのは欧米の高校の終業式後に行われるフォーマルなスタイルのダンスパーティーで、

学年によっては行われない場合もあるのだが、ドラマ等でプロムに憧れのあったロザリアが『細かい事は気にしない!』と一年生~三年生の合同で行う事となった。

尚、本場のプロムはその日のパートナーを自分で見つけなければならず、強制ではないので参加しない者もいるという、かなり陽キャ向けのイベントではある。

ロザリアも又かなり陽キャではあるので同じようにパートナーを見つける形式にしようかと言い出したのだが、

アデルから「冷静に考えて下さい、誰もがお嬢様みたいな非常識なまでの行動力があるわけではないのですよ」と、

クレアからも「お姉さまー、陰キャな人だっているんスから、無理強いは良くないっスよ」と説得され、当日は生徒のみで、パートナーはその場で見つける形式としたのだ。


一旦物事を決めたロザリアが行動を始めるのは凄まじく早い。

古着屋を通して中古の正装向きのドレスや男子用の夜会服を集めて周り、平民の生徒からの服の希望を聞いた後は、学生服を作った時の衣服のサイズを入手してそれを仕立て直させ始めてさせた。

もちろん無料とはいかず生徒側からも相応の手間賃はもらったが、利益などほとんど出ていない。完全にノリと勢いと趣味でやっていたのだ。

生徒たちにとって少なくない出費ではあったが、入学して半年以上経っているだけにそれなりの蓄えがある。鎧を買うくらいの金はあっても正装を買う事が無かったという歪な状態だったのだ。

また、生徒の側もいずれこういう服や礼儀が必要となるのがわかっているだけに、かえって有難がられていた。新社会人になるというのに礼服の買い方がよくわからないようなものだったからだ。


ロザリア達が教会の事件を解決に行っていたのは転移門が使えない地域だったので往復1週間程だったにも関わらず、

戻るとたったの一週間でそういう事が決まっていたのはロザリア自身が頭を抱える事になった。

自分自身がやらかした事の上に、自分でもそうするとわかっているだけに文句も言えない。

「お姉さまは、一週間とじっとしていられないんですか」

「マジサーセン……。いや自重しろよ私……」

「それがお嬢様です。一週間目を離してこの程度だったのを幸運に思うべきでしょう」

3人はそろって大きなため息をつくしかなかったのだ。



「よーし!足の動きはだいたい覚えたね!基本は変わらないからこれの繰り返しだよ!」

尚、ロザリアは男性パートを指導する為男装をしていた。もはや定番の服装となっており、学年性別を問わず注目されまくっていた。

上級生の生徒からも、ロザリアが1年でありながら凄まじい魔力の持ち主な上に、次期王太子妃という事で一目を置かれている。

本来ロザリアはスクールカーストのトップに君臨するような存在なのだが、学校そっちのけで店経営やら討伐に行ったりしているので学園内には特にシモン達以外の知り合いはいない。

なので人間関係のしがらみも無いので、この際だからと女生徒からダンスの相手を申し込まれてしまっている。

そして男装しているロザリアは身長が高く、どちらかというと男顔なので男装すると異様に映えるのだ。

そんなロザリアと踊る為に、女子生徒が列を作って順番待ちしている状態だ。ついでに男子生徒も。

「ちょっと待ちたまえ!男子生徒が並んでどうする!今日の僕は男性パート専門だからね!」


「ほほぅ?では私とは踊ってもらえないのかな?」


またややこしいのが来た……、とアデルの目が虚ろになる。現れたのはリュドヴィックだからだ。

「ちょ、リュドヴィック様まで!」

王太子、しかもロザリアの婚約者であり生徒会長のリュドヴィックともなれば列に並ぶ生徒たちも順番を譲らざるを得ず、いつの間にやらリュドヴィックが次の相手として並んでいたのだ。

「ロザリアがダンスをするというのに、私が来ないわけにはいかないだろう?」

「なにがいかないだろう? というんだ! これ以上状況をややこしくしないでくれるかなぁ!?」

「まぁまぁ良いじゃないか、きちんと踊れる者の踊りを見るのも良い勉強になるぞ? それにこれは決定事項だ」

リュドヴィックはそう言うと、ロザリアの手を取りエスコートしながらホールの中央へと進み出る。

「あああ、もう、今日の僕はだなぁ!」

言いつつ、ロザリアもリュドヴィックのリードでつい女性パートを踊ってしまう。男装で。

毎度よくわからない事を始める二人ではあるが、今日は両方男装で踊っているというので周囲は注目しっぱなしである。

魔学祭の時の両方男装で学祭デートの武勇伝は噂として広まっており、ホールの外では早速「部長ぉぉぉぉぉ……」と、見物していた部員が創作読書研究部に駆け戻ったりしている。


「まーたお姉さま変な事してる……、変な趣味に目覚める人いないと良いけど」

「お嬢様が変なのはいつもの事ですが、さすがに男装どうしで踊るのはどうなんでしょう……?」

男装のアデルはクレアの練習に付き合いながら、これを侯爵にどう報告したものかと遠い目になるのだった。


次回、第253話「あーマジ忙しいんですけどー! あれ決めてこれ手配して」「何があなたをそうさせるのですか」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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