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第250話「強欲の無名神と破壊の神王獣」


【レイハよ、神殺しでもしそうな目つきだが、相手が違うのではないか?】

「私にとっては、あっちのよくわからない神も、今のあんたも違いは無いようにしか見えないんだけどねぇ。

 ロザリアのあの様子はどういう事だ? 結局【亜神】が二柱になっただけじゃないの」

レイハは腰の小刀を抜刀しながらアグニラディウスを睨みつけている。

アグニラディウスはその視線を受けても全く動じていない。

【くく、そう怒るな、われの行動にはそれなりの理由があるのだぞ? その責任もこれから取るつもりだ」

「死んで責任を取るっての? そういうのってだいたいは本人の自己満足だよ?

 いったい何がしたいんだ、事と次第によっては両方とも斬らないといけないんだけど」

【われにもわからぬ】

「はぁ?」

【われにもわからぬ、そう言った。だがそうしなければならないというのだけはわかる、とだけ言っておこう】

「私の経験からいくと、そういう何かの計画とか思惑ってのはだいたいは無意味なんだけどねぇ。

 神々がいくら策を(ろう)しようが、人の自由奔放さはそれを上回るよ? 完璧な計画なんて最初から無意味だ」

故国で巫女として様々な神々と接する機会のあったレイハは、神々の思惑がもたらす事の良い部分もろくでもない部分も良く知っていた。神々の尺度が人間と違いすぎる事による、様々な行き違いや災厄すら見てきた。


だがレイハのその静かな怒りも、《無名神》の放つおぞましさすら感じる神気にかき消されてしまった。

(ちから)(チカラ)、ちからチカラちカらちかラああああ亜ア在亞A、まずはまずはお前のオマエの存在を食らわせてもらう》

《最モ新シキ無名神》は法王以外の意識が混ざり合いはじめたのか、既にその口調は支離滅裂だった。

それでも力を求める意思は同じようで、アグニラディウスの精霊力を求めてこちらに襲いかかって来た。


【炎の神王獣たるわれを食った所で腹の足しにはならんと思うがな、かなりの偏食になるぞ。ロザリア、あとの事は任せた】

「はい、アグニラディウス様、またお会いいたしましょう」

ロザリアが頭を下げるのに答えると、神獣形態のアグニラディウスはアルケオザラマンデルという名前の通り、古の火蜥蜴の身体を燃え上がらせて炎の津波のような暴威で《無名神》に襲いかかった。


アグニラディウスの炎の爪が振り下ろされるが、《無名神》はそれを事もなげに翼で防ぐ、羽根は焼けてもすぐ再生してしまい、それ以上傷つける事ができない。

口から火球を吐き出しても《無名神》は《止まれ》と火球に命じ、《消えよ》と、雲散霧消させるのだった。既に物理法則にすら介入できるらしい。

ならばと口から火山の噴火もかくやと思わせるブレスを吐いて勢いで焼き尽くそうとするが、《無名神》の無数の顔から歓喜とも絶望ともつかぬ叫び声が上がり、そのブレスはかき消されてしまうどころか、《最も新しき無名神》に吸い込まれていった。

慌ててアグニラディウスはブレスを止めるが、既に存在の一部を吸われてしまっている。


《ふ、は、は、は、は。貴女の言うように炎に偏ってはおりますが中々の力。すべて、全て、総てすべてスベテすべテスベていただく》

《無名神》は狂喜乱舞しながら、今度はアグニラディウスの身体から吹き出る炎を吸収し始めた。

《おお、おおオオォ!精霊力に僅かながら混ざった神気が、力が溢れてくるゥウう!!これが、これこそが神の力ああぁあ亞有飽A!!!》

《無名神》はアグニラディウスの炎から神格を奪いながら歓喜の雄たけびを上げ続けている。



下位とはいえ神である《最モ新シキ無名神》と神の使いである神王獣の戦いは神々しくもおぞましいものだった。

それを離れた所で見ているフォボスとフレムバインディエンドルクは、戦いの次元が違いすぎてただ呆然と見る事しかできなかった。

「まるで悪夢のような光景ですね。我々はここから逃げたほうが良いのでは?」

「逃ゲルノハイツデモ出来ル。ダガコノ場ノ顛末ハ見届ケネバナルマイ。準備ダケハ済マセテオケ」


見守るしか無いのはレイハも同様だった。いくらレイハが神に使える巫女とは言っても、荒ぶる神を(しず)めるのは簡単ではない。

そして、自分が止めなければならないのは【亜神化】したロザリアかも知れないのだ。対応を誤ると彼女は人に戻れなくなる。

「で、ロザリアちゃん、これからどうするの?お(ねー)さんは特に何もできなさそうだけど」

「あなたには”あれ”の神格を引き剥がしてもらいます。神降ろしの儀、できますね」

ロザリアの言う通りだった。自分の使える()術にそういうものがある。だが何故それをロザリアが知っている。

「効く保証は無いよ? お(ねー)さんも自分の手に余るほどの力使って自滅したくないからね」

「それで十分です。”あれ”の神格をある程度削ればそれで決まりますので」

ロザリアの言葉は穏やかで、まるでこれから起こる事を全て知っているかのようだった。

しかしそれは彼女本来の自由奔放さとは全く違う。それはもうレイハが気に入っていた少女の姿ではなかった。


「んー、なんかさぁ、ロザリアちゃんつまんなくなったね。何もかも悟ったような顔しちゃってさぁ。

 さっきの話じゃないけど完璧な計画って何か一つでも齟齬(そご)があると崩壊するし、完璧な時点で不完全だからね?」

「人の子よ、我らの考えを推し量った所でそれは無駄な事だ」

「はいはい、でもさっきの言葉だけは覚えておいて欲しいな。どうせ今の事はすぐ忘れちゃうだろうし」


レイハはこれでも巫女としての能力は優秀で、ロザリアが何かの思惑の為に上位存在から使命のようなものを与えられ、一時的に人を超えた考え方をしている事はわかっていた。

そしてその役目が終わればその時の記憶を失うという事も。だがそれはロザリアという存在の今後に、確実に何かの影響を残す。


「あの御方達は完璧主義なくせに自分達が創り出した様々な被造物の事情を一切考慮に入れないからなぁ。自分達がなぜ神託とか神罰で人への介入を止めたのか忘れたわけじゃないだろうに。

 さて、幸い今は月も出ている、十六夜(いざよい)の月だから威力はまずまずだろうけど、嫌だなぁ、気が進まないなぁ。(ニエ)としては十分だと思うんだけど」

レイハはロザリアの事が気に入っていただけに色々思う所はあるが、今は言う通りにしようと少々離れた所で小刀を構え祝詞(のりと)を唱え始めた。

夜之食国(ヨルノオスクニ)()らせたもういと貴く気高く思慮深きお方、日之本(ヒノモト)国が第ニ皇女、零羽(レイハ)(かしこ)(かしこ)み……」



アグニラディウスと《無名神》の戦いは続いていた。というよりアグニラディウスが攻めあぐねている中、《無名神》側が一方的にアグニラディウスの神格を削っている状態だ。

アグニラディウスでなければひとたまりもなかっただろう、《無名神》はそれほどの力を持っていた。

≪”消えよ”、ふははは、さすがに存在抹消は無理でも、ついに神格の一部を削る可能になったようですなぁ!繰り返せばいくら貴女といえど存在が消えますぞ!!≫

【……】

アグニラディウスはというと、神格の大半が食われてもなお無言で耐えていた。まるで何かを待っているかのように。


そしてロザリアはクレアとアデルを従えてそれを見守っていた。3人の表情からは何も読み取れない、まるで予定されていた事を待っているかのようだ。

レイハはそれを横目に自身でもほとんど扱った事の無い神への奏上に手こずっていた。

神への祝詞(のりと)というものは唱えれば即願いを叶えてくれる定型文ではなく、いわばご機嫌取りなので、気難しい神であれば何度も何度も祝詞(のりと)を唱え直す事になる。

正直自分が相手をするにしては神格が高すぎる神ではあったが、そうでもないと目の前の《無名神》には効果が無いどころか、逆に吸収される恐れがあった。

レイハは普段の彼女からは考えられないほど真剣に祝詞(のりと)を紡ぎ続ける、それこそ命がけで。


アグニラディウスの身体から吹き出る炎が明らかに弱って消えようとした頃、レイハの奏上も終わりを迎えつつあった。

「それではアグニラディウス様、一撃をお願い致します」

《ふは、はは、は、は、刃、歯、ハ、HA。もう吸出す神格も無くなったようですねぇ。そろそろその苦しみを終わらせて差し上げます!》

《無名神》はとどめを刺すべく、巨大な球体となっている本体の中央から巨大な”目”を生成し、アグニラディウスに向けて禍々しい神気を込めたレーザーのような視線を放った。

この世界でも最強クラスの破壊力を誇るそれは、まともに食らえばいかに神王獣といえども存在を消滅させられてしまう。

だが、それこそがアグニラディウスが待っていたものだ。


【それを待っていた】


アグニラディウスはそれをまともに食らった。いや、それを全て受け入れ、吸収してみせた。

しかしそれは彼女が受け入れられる上限を遥かに超えるものであり、その瞬間から彼女の神王獣としての身体は崩壊し始めた。

アルケオザラマンデルとしての身体から吹き出す炎の魔力が白い神気になり、その神気そのものが己の身体を破壊している。


だがアグニラディウスはそれにかまわず、一気に跳躍して《無名神》の足元に向けて全魔力全精霊力全神格を込めて爪を振り下ろした。

大地に大穴が穿(うが)たれてれると大量の魔法力が溢れ出し、弾けて消えたのだ。その瞬間、《無名神》の身体に異変が起きる。

それまで(あふ)れかえらんばかりだった神気にノイズが交じるように乱れ、安定しなくなる。


「それではレイハさん、そろそろ良いようですね、神降ろしをお願いいたします」

レイハはロザリアが何故今の自分の状況がわかるのかと一瞬思いそうになったが、かまわず()術を完成させる事にした。

日之元(ヒノモト)国が第二皇女零羽(レイハ)の名において(かしこ)(かしこ)(まお)す。『神技:ツクヨミ』」

手に持った小刀を月に向けて掲げ、夜空を切り取るように円を描いた瞬間、空気が一瞬脈動するように震え、夜なのに暗くなったように感じた。空の月は煌々(こうこう)と輝いているというのに。

いや、その月が徐々に大きく大きくなっている。こちらに近づくように月が巨大化しているのだ。

それだけではなく月が少しずつ欠け始めた。満月程ではなかったものの明るく光っていた月が皆既月食のように徐々に影の月へと変わり果て始め、昏くなった部分に何かの光が多数見える。まるで都市か街の明かりのように。

その光こそがレイハが呼びかけた月神ツクヨミが治める夜之食国(ヨルノオスクニ)だった。そこに住まうは人か神か何者か、いずれにしてもこの世ならざる存在だ。


月の都市から多数の何かがこちらに向けてやって来る。影のような黒い暗いそれは槍を構えた騎馬兵のようでもあり、荒ぶる戦神のようでもあり、踊り子が舞う楽団のようでもあった。


次回、第251話【月夜ニ(クル)()ルモノ達】

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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