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第23話「何ココ……、正直ドン引きなんですけど……、でも行かなきゃ!」

予備の制服に着替えなおした後、ウチとアデルは学園の中心部にある”中央棟”に案内された。見上げる程物凄く巨大な建物だった。

中心の巨大な塔の周りにも巨大な尖塔が並び、見た目は学校というよりまるで大聖堂だった。


「ここは学園の中で最も重要な建物なの、様々な部署や機能が集約されているわ」


学園の校門より立派な正面玄関をくぐった中は物凄く大規模で、学校とは思えない程だった。が、ウチはそれを気にしている暇は無かった。とにかく一刻も早くクレアさんに会いたかった。


エレナ先生は大丈夫か、と思うくらい、どんどん奥に進んでいく、すれ違う人が何人も会釈する、やはり学園でも重要な立場のようだ。

奥に進むと、薄暗い石壁の通路ではなくなり、巨大な一枚板のパネル状になっていて、照明も明るく、学園というより映画とかで見た研究施設? みたいな感じになってきた、様々な部屋があるが、皆扉が閉じられ、部屋によっては衛兵が立っていた。


「この下よ」


エレナ先生が立ち止まると、いかにも厳重そうな大きい両開き扉の前に衛兵が何人も立っていた。扉だけで、これ?


「医療教官のエレナです、先ほど保護した生徒の面会の為に入室します」


衛兵に許可を得て開かれる扉は、ガコンという鈍い音で鍵が外れたらしく、重々しい音を立てて開く、いやなにこれ、こんな厳重にしないといけないの……?


エレナ先生の後に続いて歩いて行くと、こちらの中はあまり明るくはなく、壁はパネル状なのは変わらないが、通路の壁には光る線で何かの紋様が描かれていた。おかげで照明も無いのに前を進むのには問題ないくらいには明るい。

「ここは、ちょっとワケ有りの場所なのよ、あなたは侯爵令嬢で王太子様の婚約者、という事もあって、かなり手順や許可をすっ飛ばして通したのだけれど、口外しないでもらえると助かるわ」

「かまいません、私にとって無関係であれば、即忘れます」

アデルに同意を求めるように目を向けると、アデルも無言でうなずいてくれた。


「助かるわ、本来、ここは使われるはずの無い所なのよ、使われたのなんて、数百年ぶりくらいかしらね」


肩をすくめるエレナ先生に続いて奥へ行くと、通路の先にぼんやりとした光が見え始めた。その先は巨大な円形の吹き抜けになっており、その中央にはこれまた巨大な光る円柱が立っていた。

巨大な柱の太さはどう見ても直径数十メートルはある、その光は天から地の底に向けて流れて行っているようだ。なんだろう、あれ。

柱の上の方は真昼のように明るいけど、下の方は吸い込まれるように暗く、果ては見えない。


「あー、あれも、気にしないでもらえると助かるわ、ああいうものだ、って思ってちょうだい、この部屋で下に降りるからね」


質問しても答えてもらえなさそうだし、ウチはエレナ先生に引き続いて、案内された脇の小部屋に入った、エレナ先生が扉横のパネルに触れると、突然その部屋の扉が鈍い音を立てながら閉まる。

軽い浮遊感と共に、どうも小部屋自体が下に降りて行っているようだ


「エレベーター……?」

ふと、ウチが何気なくつぶやいた言葉に、エレナ先生が反応した。


「あら、どんな意味か知らないけどさっきクレアさんもそんな事をつぶやいてたわね? この小部屋は人を運ぶ為に昇降するのよ、この学園でもあまり無い設備なんだけど」


!? クレアさん、”エレベーター”って単語を知ってる!?


しばらくして、部屋が止まる感覚があった、下に着いたんだろうか、扉が開いた先は、むしろ先ほどより明るく、壁自体が発光しているようだった。ますます前世の映画とかで見た、何かの施設のようだった


「ここが、一番下、なんですか?」

「まだまだ下はあるのよ、ごめんなさい、それについても、あまり詳しくは答えられないのよ」


歩いて行くエレナ先生についていくが、正直、凄い気になるし、山ほど質問したい! けど魔法学園なんだし、こういう所もあるのだろう、とウチは黙る事にした、今はとにかくクレアさんだ。


「ここよ」


突然、エレナ先生が一つの扉の前で止まった、エレベーター? と同じように、エレナ先生が扉横のパネルに触れると、今度は扉が音も無く開いた。なんだか下に行くほど技術が進んでる気がするなぁ。


部屋の奥にもう1つ厳重そうな扉があり、隣の壁上半分がガラス張りになっていて中を見れるようになっていた、中はこの施設と同じような大きなパネルで覆われている、ちょっと大きめの部屋だった、妙に明るい。

なんと言ったらいいか、映画とかで見た事のある、小部屋の1面がガラス張りになってて、学者センセイが腕組みして、ガラスの向こうのエイリアンとかの実験を観察している?よーな感じの作りだなぁ。


その部屋には簡素なベッドや机や椅子もあったけど、隅っこに、クレアさんが、座り込んで、いた。 


「クレアさん! あの、エレナ先生、ここって一体!?」

「あまり詳しくは話せないんだけどね、この部屋は全ての魔力を吸収してくれるの、ここに入っている限りは、彼女は普通の人と変わりが無いわ。ひとまずここに避難してもらったのよ」


「でも! こんなのあんまりです! 囚人と変わりがないじゃないですか!」

「ええ、私達だって、こんな実験動物みたいな扱いは本意ではないの、だからこそ彼女に何らかの処置を施したい、と思ってるのだけどね、彼女はここなら安全とわかると、もう出たくないってむしろ引きこもってしまったのよ」


この世界にもやっぱり引きこもりのニートとかいるんだろうか、とウチは呑気な事を一瞬考えてしまったけど、クレアさんをこのままにはしておけなかった。


「すいません、クレアさんと2人きりでお話をさせてもらえませんか?」

「それは、かまわないけど、中は一切の魔法が使えないので、会話をするには中に入らないといけないわよ?」

「ダメです、私もお供します。私はお嬢様の側を離れるわけにはいきませんので」


ええ~? 会話が外に聞こえないのは都合が良いけど、アデルも入るの? ウチの考えが正しかったら、アデルには聞かれたくない事を話さないといけないんだけど……。言っても聞かないんだろうなぁ。


「えっと、アデル、中で何を聞いても、驚かない? 黙っててくれる?」

「ここに来るまで、さんざん口外してはならなそうなものを見てしまったんです。今更1つ2つ増えたところで、たいした違いは無いでしょう?」


もっともである。どうせ、いつかは話さないといけないだろうし、ウチは覚悟を決めてアデルと共にクレアさんのいる部屋に入った。


部屋に入ると、突然身体から力が抜けるような感覚があった、同時に、魔力に裏打ちされていたからなのか、無駄に心の中にあった万能感も消えてしまった。

ちょっと待って、こんな状態で心に不安を抱えていたら……?


「クレア、さん?」

「ひっ!」


ウチが声をかけると、クレアさんは怯えて壁沿いに後ずさってしまった。泣きはらしたのか、真っ赤な目が痛々しい。いや、だからそんな怖がらんでも、やっぱり。

かなり気弱になってる。


「大丈夫よ、助けに来た……、いえ、私が助けられるわけじゃないんだけど、あなたの事が心配で、来たの。クレアさんは大丈夫? ケガ、とかしてない?」

「どう……、して、どうしてそんなに優しいんですか!? あなた一体誰なんですか!? 『悪役令嬢』なんでしょう!? いったいここはどこなの!? 私いったいどこに来てしまったの!?」


やっぱり、この子はウチが『悪役令嬢』だって事を知っている、なら、尚の事放っておけなかった。


「ねぇクレアさん、少なくとも、こんな所にいちゃいけないわ、この部屋を出ましょう?」

「嫌よ! 私の魔力の事を聞いたでしょう? 下手をするとあたり一面を消し飛ばしてしまうって! そんなの、まるで生きた核兵器じゃない! 魔力を完全に消してもらわない限り私はここ出ないから!!」

「かくへ……?」


エレベーターの次は核兵器ときたか。うん、アデルはわからないでしょうね、これで確定だわ。決意を決めて、ウチは無理やりクレアさんの手を取って話しかけた。


「ねえ、クレアさん、変な事を聞くだろうけど、どうして私が『悪役令嬢』だって事を知ってるの? もしかして日本っていう国の名前に聞き覚えがある?

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「に…日本!? 女子高生!? ギャル、って、あの! ロザリアさん!?」

「やっぱり……、私も、前世がある転生者なのよ、といっても、気づいたのは、ほんの数カ月前なんだけど」


「そう……、だったんですね、だからあんなにも、ゲームの内容と違ってしまっていたんですね。よかった、私一体どこに来てしまったんだろう、どうなるんだろう、とずっと不安で、不安で」


クレアさんの表情が()き物が落ちたかのように穏やかになり、ポロポロと泣き始めた。そっか、不安な事というのはゲームの内容が変わってしまっていたから、わけがわからなくなっていたのか。

こういう子はこれに限る、ウチはクレアさんの顔ををぎゅっと、自分の胸に抱き寄せた。


「大丈夫よ、私はあなたの味方だから、何も、心配しなくていいわ」

「はい、はい……」


ウチは泣きじゃくるクレアさんをそっと抱きしめながら伝えた、自分が平成を生きた「のばら」という女子高生だった事を、事故で死んでしまって、この世界で15年生きて、数カ月前にそれを気づいた事を。

ゲームの内容はよく知らないけど、自分が悪役令嬢だったという事に気づいて、色々と状況を変えてしまった事を。

クレアさんはウチの胸の中で何度もうなずき、アデルも黙ってそれを聞いてくれていた。


「落ち着いた?」


「はい、ロザリアさん、色々と、本当にありがとうございました。でもあの、どうしてあんな命がけで助けてくれたんですか?死ぬかもしれなかったのに」

「どうして、と言われても、人を助けるのに理由なんて要らないわ。それにケガなんてもう治ってしまってるもの」


ウチはあっけらかんと言ったはずなのに、何故かクレアさんはあぜんとした顔で、ウチとアデルの顔を交互に見るのだった、どうしてよ!


「お嬢様は、こういう人なんです、残念ながら」

だからどうしてアデルも肩をすくめながらそういう事を言うの?あと最後のはどういう意味よ!


「ところでお嬢様」

「なにかしら?」

「”ゲーム”とは何なのですか? それと、前世というのも、できればもう少し詳しく教えていただきたいのですが」


ついにアデルに質問されてしまった。それなー、どうしよう。


次回 第24話「仏頂面の侍女は乙女ゲームの存在を信じるか」

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