第247話【外なる神】
「オイ、ソコノ貴族令嬢、ろざりあ、ダッタカ? 奴ヲ止メル為コノ場ハ手ヲ貸セ」
「なんつーか、この間の劇みたいになって来たなぁ」
と、クレアがぼやいた瞬間、世界が止まった。
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「お久しぶりです聖女よ、緊急事態の為に非常手段を取らせていただきました。
現在偽造された聖女により救星機構が誤作動中。エネルギーがオーバーロード気味ですので、このままでは破滅的な事象へと突入します」
「偽造されるなよそんなもの……。こっちもちょうど良かったよ、一体何がどうなっている? 救星機構をどうにか止められないのか?」
「概要はそちらの下位管理者が説明した通りです。世界を構成する壁が壊れ、上位世界共々混乱を来します。
また、発端となった存在は上位世界にてウイルス化して蔓延化する事も予想されますので、早急な事態の回復が要求されます」
「そうは言っても、私の今のアバターではどうしようも無いぞ? 権限が小さすぎる」
「承知しております。ゆえに『外なる神』があなたと会いたいと言ってきております」
「何だ? いつもなら伝言で済ませるような事じゃないのか? 直接だと!?」
「私が伝えるには権限が足りない事が多数含まれております。監視者としてのあなたと直接でないと伝えられないとの事です」
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「はろー❤ ガチでヤバめな事になってる系? マジ乙って感じなんですけどー」
「い、いきなりそんな親しげに話しかけられても困るんだけど……、まぁ良い。時間が無いんだよね?どうすれば良い?」
「何も?」
「え?」
「だから、もう話付いてるワケ。そっちの下位管理者を通した協議の結果、ウチらは関知しない事になったの」
「ちょっと待て、この状態を放置するって事? 我々の世界まで混乱が及ぶかも知れないんだぞ」
「あっちだけでやる、って言ってんの。言う通りにしてねー」
「あ!ちょっと!」
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ロザリアもまた混乱していた。突然止まった時間の中にいたのだ。動いているのは他にクレアとアデルだけだ。
「え、あ、また? 今度は何!?」
「お嬢様、神王界の時と同じという事は答えは1つです」
「【そういう事、かなりまずい状況だ。ロザリアちゃん、ちょっと手を貸してくれる? 非常手段を使わないといけない】」
「あ、この状況ってそういう事? 神王獣様なら何とか出来ますか? ちょっとワケわかんない状況なので、何とかしてもらえるなら手伝いますけど」
「【いやそれがね、先程の救星機構の起動でわれの精霊力がさらに奪われてしまっての、存在が消滅してしまいそうなんだよね】」
「存在が消滅、ってそれ大丈夫なんですか!? いえどう考えても大丈夫じゃないですよね?」
「【うむ、このままだとわれが職務を全うできないんだよね。消えてしまう前にやらないといけない事があっての】」
「いやいやいや、消えちゃ駄目でしょう?!そっちの方が大事なんでは!?」
「【まぁこれでわれが消滅しても、すぐに次代の神王獣は生まれてくるよ、われがやるべき事はそちらがやってくれる】」
神王獣は精霊神が人間界の魔力や精霊力を管理する為に創造された存在ゆえに、死生観が人と全く違うようだ。まるで自分の存在は何かの道具か機構の一部でしかないとでも思っているかのような発言だ。
「【なので、ちょっと乗り移らせて欲しい】」
「何がなので、なのかわからないんですが……」
だがアデルは納得できないらしく、ロザリアの肩のアグニラディウスに詰め寄っていた。
「お待ち下さい、何をするつもりなのですか。わけのわからない事は看過できません。それはお嬢様である必要は無いはずです!」
「【いや、申し訳ないがロザリアちゃんじゃないと無理なんだよ。彼女がこの世界に産まれてくる時、われがそれに関わっていたというのは知っておろう?
実はロザリアちゃんの中にはわれと同じ”因子”が植え付けられていてな、今こそそれを使う時なのだよ】」
その言葉にアデルが密かにブチ切れていた。自分を道具のように使うのはまだしも、あろう事かロザリアの生命すら出生時から道具と見做している事に怒りを覚えたからだ。
「勝手にお嬢様をそんな道具みたいに扱わないで下さい!そのようなわけのわからないものは即刻」
「【即刻?なにをするつもりじゃ?それともなにをせよと?】」
その瞬間、その場の誰もが気圧された。眼の前の存在が神の力の代行者だというのを思い知らされるほどに。
傲慢さからではなく、物理法則そのものから”そうでなくてはならない”というのを理解させられ、納得してしまう程に。
「【よいか年若き娘よ、われはたしかに神の代行者として人の子の命を弄んでいるようにしか見えぬやもしれん。
だがそれもこれもこの世を維持管理する為のこと、その為にはわれの命や存在すらも同列なのだ】」
ロザリアはようやく理解していた。彼女に抱いていた苦手意識の原因を。
同時に、アグニラディウスがこの世を管理する為に自分の命すら道具のように扱っている事に内心は反発をしているものの、それを受け入れてもいた。
自分の中にはたしかにアグニラディウスに連なる同族意識のような”何か”があった。そして彼女に近づき過ぎると自分が人の枠からはみ出してしまいそうになる本能的な恐れも感じていたからだ。だが、
「わかりました、やります」
「お嬢様!?」
「アデル、今何かしないとこの世界が破滅するのよ?だったら手伝うわ」
魂に植え付けられた因子であろうと何だろうと、この世を救うために自分が何かをするという事はロザリアであっても前世の『のばら』であっても望む所だったからだ。
「【すまぬな、できるだけ元の身体に戻れるようにはするが、戦いの動向次第では保証できん】」
「いいえ、それでもやります。私もそうするべきだと思うわ」
「お嬢様! お嬢様がそのような事をなさらなくても良いでしょう!?あなたはどうしていつも!」
「アデル、理不尽かも知れないけどそうするしかないのよ。それに、この人は問答無用に私の身体を乗っ取る事だってできたはずよ。でもそうしなかった、だから、私は協力したいと思ったの」
「お嬢様……」
アデルはそれ以上何も言えない、ロザリアの決意に満ちた表情を見てしまっては止める事などできるはずもなかった。
「【よし、では始めるぞ】」
トカゲの姿のアグニラディウスが形を失い、炎のような塊となりロザリアの中へと入ってゆく。
その瞬間、ロザリアの存在が明らかに人では無い何かに変質した。英雄の持つ覇気や戦士などの闘志などではなく人を超越した何かに。
『そう、ウチはようやく”あるべき姿”にほんの少し辿り着いた。ウチは始まりにして終焉、創世にして破壊。三界を見つめる、ただ一柱の存在』
ロザリアの根源的な何かがほんの少しだけ覚醒していた。人でありながら人でなく、この世でもなくあの世でもない彼岸に立っていた。そこには前世も今世も来世も全ての世界が混沌と渦巻いている。
『見える、時間は一つじゃない。世界も1つじゃない。誰もがそれを選択している。流れ、重なり、解けて、束ねられて、また流れてゆく』
静止した時間の中でもロザリアには見えていた。むしろ止まっているからこそよく視える。時間の流れも、魔力の流れも、精霊力も、全ては大いなる流れにそってはるかなる彼方へと流れていく、どこまでもどこまでも遥か遠くに高く高く。
『あれが、ウチの往くべき所――――』
【いかんまだ早い!!それ以上視るな!通常の時間に戻すぞ!】
次回、第248話【亜神】
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