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第246話「敵味方で共闘って、いざやると凄い微妙なんですけどー」


「お嬢様! 無闇に突っ込んだら法王とフォボスの両方が相手になる可能性がありますよ!

 敵の敵は味方というわけではないのです!」

「そこは交渉次第でどうとでもなるわ! 私にまかせて!」

「任せたくありません! 何なのですかその自信は!」

「まぁまぁアデルちゃん、最悪の場合はお(ねー)さん達で抱えてでも脱出させたら良いじゃないの、どっちにしろ放っておくわけにも行かないんだしさ」

レイハの言葉にアデルはしぶしぶといった感じで納得する事にした。

言っている間にもロザリアとクレアは舞台へと走っている。置いていかれるわけにはいかない。


「待ったー!ちょっとあなた達!いい加減にしなさいよ!」

ロザリアは黙って相手を攻撃すれば良いものを、わざわざ認識阻害の魔石具を外して法王とフォボス達を怒鳴りつけていた。

「おいおいロザリアちゃん。黙って殺せば良かったんじゃないの?」

「暗殺が主目的ではないとはいえ、隠れていたのを姿を現す必要も無かったはずだが……?」

レイハとハガネはロザリアの行動に呆れ返っていた。アデルは密かに隅っこの方で頭を抱えている。


「おや、ロザリア・ローゼンフェルド嬢ではないですか。

 あいにくと今貴女達を相手にしている暇は無いのですよ」

「ソノ通リダ、コヤツヲ始末シタラ次ハ貴様ラノ番ダ。大人シクソコデ見テイロ」

《ロザリア? ああローゼンフェルド侯爵の》


法王とフォボス達は舞台上でこちらを見ているが、その表情に焦りはない。むしろ余裕すら感じられるので下手をすれば全員こちらに来そうだ。

だが、何故か余裕すら感じられるのはロザリアも同じだった。なお、周辺の座席では信者たちが暴走する魔力で雄叫びを上げている。

「あらぁ? そんな事言っていいのかしらぁ? こっちにはクレアさんがいるのよ?」


「え」

「ヒッ」

「イーラ?」

《?》

ロザリアが後ろにいたクレアの手を引いて側に寄せてきた瞬間、姫猫祭で散々な目に遭わされたのがトラウマになっているのか、フォボス達の様子が変わった。


「ねぇ? クレアさん、私の事、どう思ってるの?」

「は!? え? 私が、ですか!?」

ロザリアは突然何を思ったのかクレアを背中から抱きかかえるように手を回し、その耳元へ囁きかけ始めた。そっともう片方の手をクレアの頬に添え、口づけするかのように頬を寄せて来る。


「うふ、やっぱり可愛い顔。ああ~、フェリクス先生に取られてしまうのは悔しいわぁ~」

「え、いえ、フェリクス先生に向ける感情と、お姉さまに向ける感情は全然違いますよ!?

 お姉さまは命の恩人ですし、向ける感情は尊敬とか崇拝とか執愛とか盲信とか狂信であってですね!?」

どさくさにまぎれて、かなりヤバめの感情をカミングアウトされても困るがロザリアは止まらない。

「あらぁ、嬉しいわぁクレアさん。じゃあ私、ちょっと困ってる事があるの」

「は、はい? なんでしょうか?」

「あれ見てクレアさん、あいつらは敵なの。私達の、いえ、()の敵なのよ。あいつらをあのままにしたら私、とーっても困るのよねぇ」


「は」

「エ」

「イーラ」

《??》

ロザリアとクレアが空気も読まず突然怪しげな雰囲気になるので、飲まれてしまいそうになっていたフォボス達と法王だったが、突然ロザリアに指をさされて我に返った。

同時に『敵』を認識させられたクレアの顔が、(かお)が、変わり始める。


一瞬無表情になったかと思うと、目が座り、眉間には深いしわが刻まれる。そして目尻が吊り上がって相手を射殺さんばかりに睨みつけると、

聖女のくせに吹き出した禍々しい魔力で貌が見えなくなり、ただ闇の中に赤く光る目と三日月のように裂けた口が浮かんでいるようにしか見えなくなった。

「あいつらは敵……、お姉さまの敵、敵!てき!てきてきテキテキテキテキ!」

「どうどうどう、クレアさんステイステイ。そうよ敵、私を困らせる敵なの、私とーっても邪魔だと思ってるのよねぇ」

ロザリアは背後から暴走寸前のクレアを羽交い絞めにして止めている。だがそれでも暴れ馬のような聖女は止まる気配がない。まぁロザリアが更に煽っているのだが。

「グルルル、アイツラ、敵、オ姉サマノ……テキ。ミナゴロシ、ハナス!ワタシアイツラ皆殺ス!」

「はーい、まだよ、まだまだ、まーだまだまだ」

言葉までエコーがかかったような声になってカタコトに変わってしまった。何故か知性が獣レベルにまで後退したようだ。いや本当に何故だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 今そんな事してる場合じゃないでしょう!? ですよね!?」

「ヤメロ! ソイツハヤメロ!」

「イ、イーラ?」

《???》

だがその変わり様はフォボス達には有効なようだ。ちなみに法王はまだ状況を掴みきれていない。

尚、周辺の座席の信者たちはそろそろ魔力暴走しそうだ。

「オネェサマアァァ! ハナシ スル ムダ! ワタシニマカセル! アイツラマルカジリ!」

「あーれー、わたしでは、もうおさえられないわー、こまったわー」

ついに言葉が全てカタカナになってしまった。正直フォボスと区別がつかない。


「ひぃぃぃ……」

「ヒィィィ……」

「イーララララ……」

《いや何をしてるんだ一体》

「まったくです……、頭痛が」

「苦労してるんだねぇ、アデルちゃん」

「アデル……、普段何をしてるんだ?」

だがフォボス達はというと、完全に怯えてしまっていた。なお、イーラはそれが怯えている声らしい。

アデルはというと、法王の言葉に同意するかのようにしゃがみこんで頭を抱えており、レイハとハガネは気の毒そうにそれを見ていた。


「いい? 私はここで起こってる事を収めたいだけなの! 余計な事しないで! ちょっとでも変な事したらクレアさんをけしかけるからね! わかった?」

ロザリアはついにクレアを人質(?)にフォボス達を脅迫し始めた。

「わかった! いえ! わかりましたから! 早くそいつを! いえそのお方を!」

「ワカッタ! 今回ハ、オ前達ニ手出シハシナイ!」

「イーララララ……」

《お前ら真面目にやれよ》


「オーッホッホッホ! 大人しく見てなければならないのはどちらなのかしらぁ? 無様ねぇ! オーッホッホッホッホ!」

「お、お嬢様、どうかその辺で。戦略的には有効かもしれませんが、私への心理的な打撃がですね」

ロザリアはついでとばかりに、自分にもトラウマを持ってもらおうとばかりに高笑いで思い切りフォボス達を煽りまくっていた。

これではどちらが悪役か全くわからない。いや悪役令嬢なのだがそういう問題ではない。

呆れ返るというか、なんともいえない気分のアデルも止める声が弱い。


「よし、こっちは何とかなったわ、交渉成立ね。次はあっち」

「サスガデスオネエサマ!」

「いえこれは交渉というか、なんなのですか、これは……。せめて人どうしの会話でお願いしたいのですが」

「よくわからない苦労をしてるねぇ、アデルちゃん」

「アデル、あとで悩みあったらあとで聞くからな?」

交渉とは名ばかりのわけのわからない何かを終えたドヤ顔のロザリアは、次に舞台上にいる法王に視線を向けた。



《……おい、もう良いのか?》

「フフフ、さて、あなたの好きにはさせませんよ」

「オ前ノ勝手モココマデダ」

「え、何? さっきの無かった事になった系?」

「お嬢様、お嬢様、本当にいい加減にしてください」

法王は一応気遣ってくれていたらしい、というより下手に関わりたくなかったのだろう。

フォボス達もさっきのは無かった事にしたいらしく。ロザリア達を微妙に視界に入れないようにしている。

ところで周辺の座席では魔力暴走に苦しむ信者達がついに中央の舞台周辺にいるロザリア達に向けて殺到し始めた。


「ルシア、奴ラノ魔力ヲ吸収シテシマエ」

フォボスがルシアに声をかけると、まだ完全に制御を奪われたわけではないらしくその指示に従った。

ルシアが一瞬で一斉に襲いかかる過剰摂取状態になった信者達の前に移動すると信者に触れ、その魔力全てを奪い去った。

魔力を吸われた信者達は次々と動きを止めて倒れていくのだった。


《ほほう? 中々やりますな、ただの人形かと思っておりましたが》

「疑似魔界人トシテハ完成体ダッタどろーれむノでーたヲ基ニシタ疑似聖女ダ。コノ程度ハドウトイウ事モ無イ」

《なるほど、では私の次の動きも止められますかな?》

法王は一瞬で『救星機構』の側に移動すると、人の形をしたそれに触れてルシアに命令した。

《ルシア、起動させろ》

その場に鳴り響いていた脈動音が更に大きくなり、同時に膨大な魔力が救星機構から渦巻き始めた。

それはもはや広間を埋め尽くす信者たちの魔力などと比べられない程になっており、むしろ信者たちはその魔力に巻かれて闇の魔力を引きずりだされるかのように、魔力を吸収されていくのだった。

魔力は際限なく膨れ上がるかと思ったが、ある瞬間から天に向けて放出されて行った。それは天に登る滝のようだった。


「【ばかな、これ程の魔力を使用して救星機構を使用したらこの世の境界に穴が空くぞ。本来は糸のように細く細く高位の次元と接続(アクセス)するものを】」

「あのーアグニラディウス様? 何を言ってるかよくわからないんですが、結局どうなるんです?」

「【空から開いた穴に、この世界の魔力が大量に流れ出して枯渇したり、穴から別世界の神々か魔神がこんにちはと挨拶しにくるような状態だよ。しかも開きっぱなしだ】」

「いやいやいやいや!どうしてそんな事に!?」

「【本来御柱を維持管理する程の魔力を残らず救星機構にぶち込んだようだからな。過負荷が過ぎてどうなるかわからん。少なくとも次元の壁は壊れる】」

ロザリアは肩にいたアグニラディウスから解説を受けていたが、フレムバインディエンドルクも同様の事を状況から察したようだ。


「ばかな事はやめなさい、この世に穴が開いたら貴方とて無事では済まないかも知れませんよ。荒れ狂う魔力の渦で我々共々どうなるか」

《心配は要りませんよ、その為の闇の魔力です。ほら、これでどうです?》

渦巻いていた魔力の中から闇の魔力だけが分離し、一箇所に集まり黒い炎のように燃え上がった。

やがてそれが渦巻き、いつか見たような”ゲート”が形成され始めた。

「いけません! 今ゲートが開いたら!」

地面の”ゲート”が開いた瞬間、膨大な闇の魔力が吹き出してきた。それは救星機構の魔力と反発するかと思われたが、逆に同じように天に向かって登っていく。

その時、遺跡の天井が”消えた”、正確には綺麗な円形の穴が開いて消し飛んでしまったのだ。そこからは満天の星空が見える。

そしてゲートから膨大な魔力が流れ出し、その場に渦巻いていた魔力と混ざり天に向けて登っていった。

その勢いは先程の流れ以上に凄まじく、まるで滝が星の海に落ちていくかのようだ。


「バカナ、”ふぁーらんど国ノ魔力”ガ高次元界ヘト流レテ行クダト?」

《これで魔界、この世界、高次界への流れができました、私はこの魔力を手土産にあちらの世界へと旅立ちましょう。その後でこの世界がどうなるかはまぁ皆さん次第ですが》

『なんつー無責任な……、後始末くらいして行って欲しいんですけどー!?』


次回、第247話【外なる神】

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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