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第244話「遺跡教会への潜入」


ロザリア達は報告を受けて即教会を訪れていた。一刻を争うという事で、見つかるかもしれないというリスクを無視して夜の内に忍び込んだのだ。

今回は教会の裏側から回り込んでいる。満月に近い月に照らされる教会はまるで山のように大きい。


「あそこ、ですか? 遺跡が埋まっている所って」

「うむ、中枢はもっと深い所にあるのだがな、掘り返されて通路が完全に露出している」

ロザリアに説明するハガネの姿はどう見ても忍者だった。

さすがに和服風ではないものの、黒い衣装に手甲を付け脛当に鉢金までつけて覆面では忍者にしか見えない。ご丁寧に刀まで背負っている。

その姿にロザリアやクレアは「(忍者!マジ忍者!)」「(忍者っスよね!あれで忍者じゃないっていうほうが間違ってるっス!)」と小声で言い合ってアデルに白い眼を向けられていた。

ちなみにアデルはいつものようにお仕着せ服ではあるが、ハガネと並ぶと忍者に見えてしまうから不思議なものだ。

笑ってはいけない教会潜入状態になっているロザリアとクレアは、必死に口に手を当て顔がニヤつくのを我慢していた。


気を取り直して教会を見てみると、教会は修道院と併設されているとの事だったが、表部分の教会に対して後ろ部分の建築物が不自然に大きい。

ドーム状に盛り上がった建物になっており、教会の建築物らしくもない外観になっている。

「あそこは遺跡教会とも呼ばれていてね、古代遺跡を利用して建築されたというが、むしろ古代遺跡を発掘する為にあの教会が建てられたらしい。

 法王の趣味で行っていて、皆酔狂なものだと笑っていたが」

ハガネが説明するが、ロザリアは影の里の民なら詳しく調べていそうなものなのに、あまり詳しく無さそうなのが不思議だった。

「あまり調べていないんですか?いかにも怪しそうな感じはするんですけど」

「古代遺跡の発掘に関わっているのがあの教会で修行している聖職者ばかりなんだよ。それも何年も修行を積んだ者に限られている。

 宗教的な修行の為の発掘というのがこれまでの見方でね、手間の割に得られる情報も無さそうなので手つかずだったんだ」

「何だって教会が発掘作業なんてしてるんでしょうね?」

「まぁそれを調べる為の潜入だよ。くれぐれも気を抜かないようにお願いします」


「しかし、お嬢様まで潜入する事は無いかと思うのですが」

ハガネと話すロザリアにアデルが不満を漏らす。本来潜入と言うなら最小限の人数にすべきなのだ。

「まぁそうなんだけどねー。この人にお願いされちゃったんだもの」

「【うむ、われはこの姿でついていくゆえ、近くにロザリアちゃんがいないと困るのだよ】」

ロザリアの肩には小さなトカゲの姿になったアグニラディウスがいた。アグニラディウスは精霊力が急速に失われて少しずつ神格が蝕まれつつあり、分体としての姿を維持するのに相性の良いロザリアの魔力が必要との事だった。

そしてロザリアにはアデルが護衛として離れられず、そうなるとクレアも当然のようについていく事になり、レイハ含めて結局全員でぞろぞろと潜入というよくわからない事になっている。どうしてこうなった。

『マジそれなー。ウチが聞きたいよそれ』


「いやー、潜入は何度かやった事あるけどさー、こんな大人数の潜入はさすがのお(ねー)さんも経験無いよ?」

レイハがぼやくように、一応認識阻害の魔石具は使用しているものの、それを妨害する魔石具もまた存在しており、少人数で行くのが本来は正しい。

なのでできるだけこっそり、会話も控えるという事で一行は進む。

とはいえ教会周辺を歩いているのは教会関係者しかいないので、心得がある者がいるわけでもない。

警備に当たっているのも棒を持っているだけなので危険はそれ程無い。

こっそりと教会内部に入り込んでみると、通常の教会とはまるで違っていた。

生活空間のようなものが無く、発掘道具を収納したり遺物を整理するような部屋以外はいきなり遺跡部分だった。

集まっていた人々は既に中に入っているのか、通りがかる者はいない。

「常々思うけど、掘ると出てくる遺跡の方が真新しいってどういう事なんだろうね? お(ねー)さんもたまにこういうのに出くわすけどさ」

レイハの言う通り、それは通常イメージしている古代遺跡とは印象が異なっていた。

遺跡内部の通路は入口付近こそ崩れていたものの、奥に入ってみると壁も床も継ぎ目の無い一枚のパネル状のもので覆われていた。

また、入口付近にあったかがり火のようなものもこの近辺には無く、壁自体が発光するラインで縁取られているので暗くて前が見えるという事は無かった。


「【まぁこの世界はそういうものだ、と割り切った方がいい。過去に何があろうが今を生きるのには変わりが無かろう?】」

「ラニたんはそう言うけどさー。それだけ長く生きてるなら人の歴史の移り変わりも見てきてるんでしょ?教えてくれても良いじゃないか」

「【そうは言ってもだ。結局の所人の歴史というのは、人が己の目で見て己で積み上げていくべきものなのだよ】」

「またそうやってはぐらかすー」


通路は地面の奥へ潜るように続いている、時おり両脇の壁に小部屋等が見えても中は特に見るべきものはなく、幅広の通路を奥へと進むしかなかった。

しかしその様式は今までロザリア達が見た事が無いものだった。

「うーん、お姉様ー、いくつか遺跡っぽい所見た事ありますけど、御柱(みはしら)? っていうのがある雰囲気じゃないですよね?」

「かといっても、魔石鉱山の下にあった遺跡とも違うし、何なのかしらねここ」

この遺跡のものは壁が石というよりは金属のようで、継ぎ目の無いパネル状の所もあれば複雑な意匠が彫り込まれており、無機質な部分と芸術的な部分が混在していた。

「ロザリアちゃんも気づいたら色んな所経験してるもんだねー。一度巨大ゴーレムの時の話を聞かせて欲しいな」

「皆様、通路の終わりが見えてきました。お静かに願います」

アデルの言う通り、奥へと続いていた光は途切れ、扉らしきものが見えて来た。

「これ、開いて大丈夫なものでしょうか?」

「【ちょっと開けてくれ、われが中の様子を見てこよう】」


「【向こうはだだっ広い空間になっておるの、扉の周りは人もそんなにおらぬから入っても良さそうだ】」

トカゲ姿のアグニラディウスが言ったように、

開けた場所に出るとそこはかなりの広大な空間が広がっていた。ドーム状の天井にすり鉢状になっている観覧席には多数の人達が集まっていた。

皆聖職者なのかフードを目深にかぶっている。これだけの人数が集まっていれば騒がしくなるはずが、誰一人会話していない。

これだけの人数が無言でいるというのは異様な光景と言うほかなかった。

まるで観劇でもしているかのような状態ではあったが、明らかに違うのは中央の舞台のようになっている場所に、巨大な何かが鎮座している事だった。

舞台はむき出しの地面になっており、その巨大な何かはそこから斜めに突き出ていた。”それ”は脈動するように発光しており、高さにして10メートルはあった。

表面はゴツゴツとした陶器状のものに覆われているが、全体の形は人の形をしていた。身体からは何本もの太い管が生えて根のように地面に伸びて埋まっている。そしてその根は地面から何かを吸収するかのように脈動しながら発光していた。それと合わせるように人の形をしたものも発光している。


「【やはりかなりの魔力や精霊力を溜めこんでおるな、気候に影響が出るわけだ。この国にもいくつか廃墟になっているものがあるが、完全に稼働しているのは初めて見るな、『救星機構』の一部が露出しておる】」

「あのー、アグニラディウス、様? あれはいったい何なんですか? ここって今まで見た事があるのと結構違うんですけど。『救星機構』? とは? いったい何なのですか?」

ロザリアがおそるおそる一気に増えた疑問を尋ねると、肩にいたトカゲの姿のアグニラディウスが答えた。

「【簡単に言うと、この世界の因果を書き換えてしまい、人の運命や行動までも変更できるものだよ。うまく使えば因果の枝葉を辿ってこの世の上位存在、要は神とも交信できたり、神降ろしを行ったりできる】」

「あ、あの~、さらっととんでもない事言ってますけど、あれ古代遺跡ですよね? とんでも無さすぎないですか? 昔の人は一体何のためにそんなものを?)」

「【この国の成り立ちとも若干関りがある事だがな、われらの創造主たる精霊神、さらにその上位におわす神、この方々は様々な思し召しの結果人に対する干渉を止めてしまっておるのだ。

それまでは様々な事で天罰が下ったり、天啓が降りてきたりしたものだが、ある日を境にそれが突然消えてしまったのだよ、そうなると人はどうすると思う?】」

「えーっと、どうにかして神様と話をしようとするか、別の神様でも呼んでこようか、って事ですか?」

ロザリアは当てずっぽうで答えたが、それは当たっていたらしい。

「【そういう事だな、そしてその試みは一部で成功した。それがいまもこの世界におわす”外なる神”だ】」


「それって、私の転生に関わってる人? 神様? と同じっスか?)」

「【そういう事だな、だが今更これを稼働させてどうする気なのだ。確実にろくでもない事だとは思うが】」

クレアが突然自分にも関連する事が出てきて驚きの声を上げ、それにアグニラディウスが答える。

「魔王薬の存在もよくわからないんだよね。魔力持ちを強制的に作り出す。そこまでは良い、その人達に魔王薬を飲ませて魔力暴走でも起こさせる気かな?多数の”ゲート”が開いてしまうだけだと思うんだが……」

「でもそれって、魔王女とかフォボス達がやりそうな事ですよね。仮に教会が何か企んでるとしてもどうしてそんな事を」

レイハとロザリアが疑問を口にして考え込んでいると、中央の舞台に動きがあった。

舞台脇の通路からローブを着た人物が何人も現れてきたのだ。中でも豪華な装飾が付いたローブの人物は特に目立っていた。


「あれが今の法王のようだね。やはりここに来ていたのか」

「あの人が、なんだかアデルさんみたいな肌の色ですね」

ハガネが豪華なローブの男性を見てつぶやく。

その男性はクレアの言う通り、少々肌の色が濃く、異国人のような雰囲気を持っていた。


次回、第245話【偽造聖女】

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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