表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

239/303

第237話「ラニたんとかレイたんとか、あとギーちゃんとか。皆何考えてるのかしら」「そうですねー」

突然訪れる事になった溶岩流れる灼熱の謁見室にてロザリア達を待っていたのは、炎の神王獣アルケオザラマンデルのアグニラディウスと、何故かサクヤの母レイハだった。

妙に親しげに接してくるアグニラディウスだったが、むしろ早く帰りたい。


「れ、レイハさんもお久しぶりでございます。改めて火の神王獣様にご挨拶を申し上げます、ローゼンフェルド侯爵家が長女、ロザリアにございます」

ロザリアはあえて貴族令嬢として淑女の礼(カーテシー)と共に丁寧な挨拶をした。

要は「私にこれ以上深く関わるな、そもそもそんな親しくないだろ」という意思表示をしたのだ。それでなくとも人柄がよくわからないアグニラディウスの上に、レイハまでいては全力で関わりたく無かった。

「えー、お(ねー)さんそんな他人行儀に接されると寂しいなー、ラニたんはともかく私は知らない仲じゃないだろう?」

ラニたんとか呼んでた。やっぱり関わりたくない。


「くく、そんなからかうものではないぞレイハよ、まずここに呼ばれた時点で色々と混乱しておるだろうからな。

 安心せよ、そなた達の肉体そのものをここに呼んだわけではない。そなた達の肉体は元いた場所から一歩も動いておらぬぞ」

「えっ、でも身体の感触とか感覚は全く違和感が無いんですが」

ロザリアは思わず自分の手を握ったり開いたりと確認してしまった。しかし全く普段どおりの手のひらの感触が返ってくるだけで違和感は無い。

「お嬢様、よく考えて下さい、そもそも生身の人間がこんな所に来たら一瞬で炭になります。どう考えても状況が色々と変です」


「おや、冷静な侍女じゃの、あまり気には留めておらなんだが手練れのようだの」

「恐れ入ります。ロザリア・ローゼンフェルド様が侍女、アデルにございます」

アデルはいつも通りの無表情で淑女の礼(カーテシー)も麗しく優雅に名乗りを上げる。

「わ、わたしはお姉さまの友人の、クレアでしゅ!」

クレアも流れに乗り遅れまいと慌てて噛みつつも自己紹介をした。その動作は優雅とは程遠いものだったが。


「おや、クレア嬢ちゃんは貴族になったはずだよね?家名とか名乗らないの?」

「私、貴族なんて柄じゃないっスよー。本当は色々面倒だから返上したいくらいっス」

「相変わらずで安心したよ。世の中には地位を得ただけで何か勘違いして人が変わっちゃうのもいるからねぇ。どうだラニたん、この子達なら大丈夫そうだろう?」

「うむ、いかなる状況でも自分を貫く強さを持っているようだの。なのでちょっとわれを助けて欲しいのだ」


アグニラディウスは玉座から立ち上がり、そっと手を上げるとロザリア達が立っていた円型の岩盤の中央から溶岩がほんの少し吹き上がり固まるとテーブルの形になる。

その周囲にも椅子のように岩が盛り上がり、ご丁寧にティーセットまで出現した。ここに座れという事らしい。

「えーと、助けて欲しい、と言われても、私達ただの人間ですが……」

アデルがお茶を皆に入れて回る中、ロザリアがまだ困惑気味にアグニラディウスに質問していた。今まで様々な事を経験はしていたものの、流石にこの状況は想像外過ぎる。

アグニラディウスはアデルの入た紅茶を一口飲んでから話し始める。

「いやいやいやロザリアちゃん、酒の(さかな)にレイたんから色々と話を聞いておるぞ? なかなかの戦いぶりではないか。われも力を与えた甲斐がある。所で上手いなこの茶は、中々の腕前じゃ」

恐れ入りますとアデルは頭を下げてロザリアの後ろに立った。アデルの席も用意されてはいたが、あくまで自分は侍女だと主張して控えている。

ちょっと待てレイたんとか呼んでるし、と、レイハの酒呑み友達っぽい空気を感じてロザリアの嫌な予感は更に増すばかりだ。この2人が呑んでると女子会などという雰囲気には絶対にならない。

『マジそれなー』


「まだ今年魔法学園に通い始めたばかりだけど中々のものだよ?

 サクヤが面白がって魔力を研ぎ澄ますコツを教えたら、それだけでガンガンと自己流の技を磨いていくしね。私が教えた事もどうなってる事やら。

 こないだなんか、そこのクレア嬢ちゃんとの共同作業で、ついに魔力を物質化した巨大な人型ゴーレムを作り上げて、それに乗り込んで九頭(ナインヘッド)(ヒュドラゴン)を討伐したそうだしねぇ」

「ほほう、それは興味深い。さすがはこの世の外の円環の魂だの。この世界の常識に囚われておらぬのは実に良い」

何故それを知っている、しかもレイハが。あれは極秘の任務だったのでかなり厳重な情報統制が敷かれていたはずだ、それもあってあの切り札を使ったというのに。


「凄かったらしいよー。相手は真魔獣化した九頭竜だってのに一歩も引けを取らず、一方的ではなかったにせよ極めて短時間で討伐しちゃったらしいからねぇ。ねぇロザリアちゃん、一度それでお(ねー)さんとも手合わせを」

「そ、それはちょっと。あれ小回り効きませんのでレイハさん相手だとかえって弱くなりますよ? というかどうしてそんな事を知ってるんですか」

レイハは本当にグランダイオーと戦いたいと言い出しかねず、ロザリアは慌てて話題をそらそうとする。

グランダイオーが人に対して弱いというのは本当で、あれはそもそも巨大な真魔獣討伐に特化して面白がって作ったものだからだ。


「これがお(ねー)さんの仕事だからね。各地で起こっている異常な事を追って、様々な事の芽を潰しているんだ」

「芽を?なんですかそれ?」

「決まっているだろう、魔王薬だよ」

その瞬間、どこか軽い印象だったレイハの雰囲気が変わった。周囲はマグマ荒ぶる溶岩湖にも関わらず一瞬で氷山の上に立たされたようだ。

魔王薬、飲んだ者の魔力を爆発的に増大させるが、依存症がある上に過剰摂取(オーバードーズ)状態になると闇の魔力が肉体を蝕み、己の欲望を暴走させるかのように暴れまわる事もある。更にはその闇の魔力が魔界への”ゲート”を開いてしまうという厄介なものだ。


「これこれレイたん、ロザリアちゃんが驚いているではないか。まだ修練が足らないねぇ」

「あの薬だけは、許せないんだよ」

呵呵(かか)、そういう所もまぁ好きだよ。こやつは国元からの命令でずっと魔王薬を追っていた、それは知っているな? その流れで以前われとも知り合ったのだがな。

 話というのは、この地で最近魔力の異常が起こっているのだ。魔力と言っても自然の精霊力だがな」

「自然の精霊力、ですか? 大地とかの?」

「大地だけに限らないよ、神王の森でも影響が出てる。あそこは特に風の精霊力が強いんだけどね、枯れるはずの無い木が枯れたりし始めた」

アグニラディウスの言葉に首を傾げるロザリアにレイハが補足する、彼女の住む森でも異変が起こっているようだ。


「さよう、そして大地の底の火の精霊力が特に強いこの地でも影響が出ている。具体的には最近、この季節にしては寒いと感じぬか?」

「あ、そういえばここがどこかはわかりませんが、最近北の地方が妙に寒いっていうのは聞きました」

「まさにそれだ、この周辺の自然から魔力が少しずつ失われ始め、火の精霊力が衰えた事で気温にまで影響が出始めている」

「自然の魔力、ですか……? なんだか物凄い大事過ぎて、それこそ私ではどうにもならない気がしますが」

ロザリアの感覚としては、”自然の魔力”と言われてもピンと来なかった。自然が持つ魔力は精霊力と以前教えられたが、そもそもその精霊力を普通の人はおろか、魔力を持つ魔法使いでも感じ取る事ができないからだ。


「いやいやロザリアちゃん、全ての事はわりとつながっているんだよ?こないだ見たんだろう?消失した御柱(みはしら)を。

 御柱(みはしら)は周辺の魔力を吸収して魔界との支えとなっていた。それが失われた今、その魔力はどこに行ったと思う?」

「あれそんな大事の前触れだったんですか……、でも魔力を吸収していた御柱が無くなったのなら逆に魔力が余るくらいでは?地域から魔力が失われていっているというのと話が合わない気がするのですが」

「うむ、ではそろそろ本題に入るか、どうもその魔力はとある地域の人間達に吸収されて行っておるらしい。」

「人が魔力を、吸収……?」

「そなたも知っておるかもしれんが、全ての生物は多少なりとも魔力を保有しておる。魔力持ちと呼ばれる者達は体内で魔力を作り出す力が極めて強い者という事になるのだがな、そのとある地域の者達は大地自然からの魔力を吸収して後天的に魔力持ちになっておるらしいのだ」

国内の魔力持ちは15才になると魔法学校に入学させるなど、把握されている限り全員が管理されている。

しかし先程の話からすると把握できてない魔力持ちが多数発生している事になる。それも”とある地域”に集中して。

だがロザリアにしてみれば、それならばその人達も何らかの形で管理というのは大げさにしても、何らかの対処をすれば良いだけでは?という感想しか浮かばなかった。


「はぁ、魔法を使える人が増えるのなら歓迎すべき事では?少し寒くなるくらいでしょう?」

「いやいやロザリアちゃん、その地域は精霊力が枯渇しつつあるという事なんだよ、今回の場合は特に火の精霊力が失われて行っている。

 そうなるとね、とんでもない寒波がやって来るよ? 下手をするともう春が来ないって事も考えられるんだ」

思っていた以上に大事(おおごと)だった。

「大変じゃないですかそれ!」


「さよう、なので一刻も早く状況をなんとかしなければならぬのでな、手伝って欲しいのだ。

 そなたは今のところ火属性で地上最強と言っていい力を与えておるからの」

「それなんスけどね、いきなり呼び出すにしてもこれは無いんじゃ無いっスか? 例の神王界って所で良いじゃないですか」

「事は慎重にならざるを得ないのだよ。われだけならまだ良いのだがな、他の神王獣達まで魔力を吸収されてしまってはそれこそ収拾がつかなくなる」

クレアはいつものように物怖じせずに気軽に聞いたのだが、どうも神王獣の手にも余る事態のようだった。


次回、第238話「北の聖女と”里”」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ