第233話【貫く一撃】
「よしみんな行くわよ!覚悟を決めて!」
グランダイオーは剣を振り上げ、そのまま一気に九頭竜との距離を詰めた。立ち向かう九頭竜も残る5本の頭をもたげ、そのうちの2本が腕のように両サイドから噛み付いてくる。
「うおおおおお!!」
かまわず駆け抜けたロザリアは首元に剣を叩きつけ、まずは中央の首の1本を戦闘不能にする。だが相手は激痛に身をよじらせつつも両方から首が襲ってきた。
右側から襲って来る大きく開いた口の中に片手で剣を突き刺すが、頭はしぶとく腕に牙を立てて来た。腕を振ろうと足で蹴ろうとその牙は離れない。突如衝撃音と共にグランダイオーの右腕が魔力結合崩壊し、消滅する。
「!?」
「大丈夫ですお姉様!相手から逃げる為切り離させてもらいました!これでもくらえ!」
グランダイオーの右腕を嚙み砕いた首は力尽きたのかだらりと垂れ下がり無力化された。
クレアの操作でグランダイオーの左肩から数発のヒール弾が発射され、左側の頭を牽制する。
「よしクレアさんナイス!これなら間に合う!」
左腕を振りかぶるように身体の動きを変え、今度は胸のドラゴンヘッドファイアーで左からの頭を迎撃した。
そのままグランダイオーは薙ぎ払うように胴体までを焼き尽くす。すると、溶け崩れた肉の奥に赤黒く光る結晶物が視界に入った。
「よし!目標を肉眼で確認!アデルさんに左腕のコントロール渡します!」
「了解いたしました」
だがロザリアが胴体に向けてジャンプしようとした所で首の断面の所から3本の首がずるりと生えてきた、最初にドラゴンヘッドファイアーで焼かれた所が再生を始めたのだ。合計5本の首は壁のように立ちふさがる。
対してこちらは魔力が残り少なく、右腕も無く、元々背中の翼も無いので飛ぶ事もできない。
「そんな!?クレアさん!何か武器は!?」
「もう何も無いですよ!左手のパイルバンカーだけです!」
「手詰まり、ですか」
「アデルは諦めが良すぎる」
その声と共に、九頭竜の1本の首があっさりと切り落とされた。そこに浮いていたのはドローレムだった、その姿は戦う為かお仕着せ服ではなく角質の膜でできたノースリーブドレスだった。背には黒い皮膜の羽根も生えている。
「ドローレム!?」
「穴は塞ぎ終わった。もう大丈夫。あとはこいつだけ」
ドローレムは両腕から触手を生やすとそれを硬質化させて巨大な剣を形成させた。その瞬間、ぐらりと身体が空中でゆらぐ。
「ドローレム、大丈夫ですか?かなり消耗しているようですが」
「大丈夫だよアデル、穴を塞ぐのに力を使いすぎただけ。大丈夫だからさっさとこいつ始末して」
魔力が限界というのは本当なのか、その髪と目の色は本来の銀髪と白目が黒、黒目が赤色になっている。ドローレムは残る5本の首に向けて剣を振り上げた。九頭竜の残った首が一斉に襲いかかってくるが、ドローレムはそれをいとも簡単に切り捨て、更にグランダイオーとは反対方向に飛んで残りの首を引きつけた。
「ドローレムおねがい!行くわよアデル!」
ロザリアは今度こそ九頭竜の胴体の傷口までグランダイオーをジャンプさせ、そこに仁王立ちになる。
「行きます!」
アデルの動きと共にグランダイオーの左腕が真っ直ぐ魔核石に叩き込まれ、その瞬間光の魔石の杭が核に向けて打ち込まれた。
その反動は凄まじく、グランダイオーの左腕は吹き飛んで完全に破壊されて消滅した。
「もうダメね!どちらにしてもここから離れるわ!」
ロザリアはグランダイオーが限界に近いとあってはもう何もできないと、一気に九頭竜から跳んで離れた。
「ちょっと、まだ動いてるんだけど。大丈夫なの?あれ」
着地して距離を取ったとはいえ、相手はまだまだ元気なようだ。鳴き声と共にのたうち回る九頭竜を見てロザリアは不安になった。
「大丈夫、もうあいつは死ぬだけ」
ドローレムが肩の所に飛んできて着地しながらそう言ってきた。
その言葉通り魔核石は金属音と共に砕け散った。黒く染まっていた肉体から粘液のように黒い物質が剥離し始め、剥がれ落ちたそれは霧のように消滅していく。
後に残るのは本来の宿主だった九頭竜の躯で、その体躯はかなり小さくなっていた。
「ふう、勝った、みたいね……って、きゃあああああああああ!!」
「魔力が切れたー!」
「お嬢様!クレア様!」
突然、グランダイオーの姿が消えた。クレアの魔法力が限界に達し、実体化できなくなったのだ。突然空中に放り出されたロザリアは悲鳴と共に落下するしかない。普段なら魔法でも何でも使ってなんとかする所だが、突然の状況にどうしていいかわからず、何もできず落ちるだけだった。
クレアは魔法力を使い切っており、アデルもまた空中ではどうしようもない。と、その落下が止まる。
「みんな色々無茶し過ぎ」
背中から羽を生やしたドローレムが両腕ともう一本生えた触手で3人を空中で捕まえていた。さすがに3人分の重量は支えきれないようで、よたよたと高度を落とし、なんとか着地した。
「あ、ありがとうドローレム。助かったわ」
「私もです。あんな急に限界が来るとはおもいませんでした」
「助かりましたよドローレム、今晩はベッドで寝転んだまま本を読んでも良いですよ」
「やった。でも限界なのは私も同じかな、もう何もできないや」
ドローレムは羽根や触手を出す事もできなくなったのかお仕着せ服に戻っても髪や目は偽装できず。フードを目深にかぶってごまかすしかなかった。
「大丈夫なのですか!?」
「へーき。私もちょっと魔法力使いすぎただけ。しばらくしたら回復するし、後でその辺の魔石を吸収して回復するから」
「今吸収したら良いのでは?」
「魔石分解するにも魔法力要るんだもの。今は無理だよ」
アデルとドローレムが会話しているとリュドヴィックが慌てて駆け寄ってきた、後ろにはクリストフも追いかけてきている。
ロザリアは嫌な予感がしてそーっとその場を離れようとするが、その肩をリュドヴィックが掴んで止めた。
若干青い顔でロザリアが振り返るとリュドヴィックは笑顔だった。しかしその目は全く笑っていない。
「ロザリア・ローゼンフェルド嬢、先程の戦いに関して若干の質問があるのだが?」
いつもの愛称のロゼではなくフルネーム呼びだった。全く笑顔は崩していないのがより怖い。
「え、あの、なんでしょう……」
「危険なものはダメだと、いつも言ってるよね?」
「いえあの、あれ。グランダイオーも、ありましたし……」
「そういう問題じゃない、というのもわかるよね?というか”あれ”についても色々と聞きたい。何なの、あれ」
藪蛇だった、リュドヴィックの目が徐々に座ってきている。
「え、えええええええ……」
『ウチの婚約ピ、ドSみが過ぎてマジ良くない?これはこれで!』
「あー、あれダメっすね。しばらくお説教みたい」
「自業自得でしょう。あんなわけのわからないものは誰だって文句言いたくなります」
「アデルは容赦ない」
ロザリアを見物する3人の周囲にも騎士達がやってきていた。
皆自分たちが手も足も出なかった九頭竜を、わけのわからない物を使ったとは言え討伐してしまった事を若干の困惑はあれどとりあえず称賛していた。
そこへ、ドローレムの背中に駆け寄る者がいた、皆疲れていたのか誰も気に留めない。
次の瞬間、ドローレムの胸から剣の切っ先が生えた。
「お前、あの時の女魔族だな!俺の弟を殺しやがって!」
「ドローレム!」
地下迷宮の吹き抜けにアデルの悲鳴が響き渡った。
次回、第17章最終話
第233話「去り行く者と来る者、そして冬の訪れ」
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