第232話「必殺技はイチかバチかの一撃必殺がロマンっス!」
「うーん、巨大ロボットを動かしている、という感じがいまいち無いのが難点よねー、これ」
ロザリアはある程度九頭竜にダメージを与えて余裕ができたのか、手を握ったり開いたりして感触を確認したりとのんきな事を言っている。
しかし首の1本を切り落とされた九頭竜が悲鳴のような咆哮と共に残る8本の首をこちらに向けてきた。
「いけませんお嬢様、ブレス攻撃のようです。体内の温度が急上昇しています」
「クレアさん!グランシールド!」
「了っス!」
ロザリアは無駄に技名や装備を叫んでいるのではなく、クレアに対しグランダイオーの身体に装備されている武装の発動申請をしているのだった。本人の趣味もあるが。
グランダイオーの目の前に巨大な五角形の盾がシルエットのように浮かび上がり、半透明にまで物質化するとそれを手に取って構える。
「グランシールド!フルガードモード!」
ロザリアの声と共に盾はいくつものパーツに分割され、持ち手がある中央部と稲妻のような光線でつながったまま広がると巨大な光る盾を構成した。
直後、九頭竜のブレスがグランダイオーを襲う。物凄い衝撃と熱だが光る盾はそれをまともに受けてもゆらぐ事はなく、耐えきって見せた。
しかし、盾は防ぎ切った後、突然ガラスのように砕け散って破片は空間に溶け込むように消える。
「よし!耐えられるわね!リュドヴィック様達は無事?」
「今のところ問題ありません、ですが物凄い威力です。盾の魔力結合が崩壊して物質化できなくなり消滅しました。やはりまともにくらうと危ないですね」
「なら!接近戦ね!グランファング!」
グランダイオーの右手首にある狼の頭から牙が大きく伸び、爪のようになった。これもまたクレアの光の魔力を結晶化した素材になっている。
ロザリアは全ての頭を相手にしていたら時間がいくらあっても足りないと、頭をくぐり抜けて胴体にそれを振り下ろした。九頭竜の胴体は大きく切り裂かれるが、やはり硬い骨に阻まれる。
「くっ、やはり硬いわね!」
「だったら数で勝負! おらおらー!」
「クレア様……、口調……」
クレアが今度は両肩から機関砲を再度せり上がらせてヒール弾を乱射した。
至近距離なだけに効果はあるらしく、九頭竜は身をよじらせて避けようとし、グランダイオーの歩みと共に壁へと追いやられていく。
「うーん、オラジュフィーユさんの時もでしたけど、これだけ大きいとあまり効果が無いみたいですねー」
「だったら身体が大きいのを後悔させてやるわ!」
今度は九頭竜の九本の尻尾のうちの2本をグランダイオーの両脇で抱え込むように掴み、脚を踏ん張ってプロレス技のように振り回そうとした。が、動かない。
「お……、重い!ぬぐぐぐぐぐ!」
「お姉さま!そのまま魔力での身体強化を発動して下さい!対応する能力がグランダイオーでも発動します!」
ロザリアが火の魔力の身体強化を自身に行うと、グランダイオーの全身も赤く発光し始めた。すると、動く気配も無かった九頭竜の身体が、動き始めた。
「ちょっと、ダイエット、したほうが、良いんじゃないのぉー!」
グランダイオーは九頭竜の巨体を反対側の壁まで転がる勢いで投げ飛ばした。九頭竜の方もこのような衝撃は感じた事が無いのか目が回ったのか、動きが鈍くなる。
追撃とばかりにロザリアはグランダイオーを九頭竜の側まで走らせた。
「お嬢様、活動限界の表示が半分になっています。あまりダラダラと戦うべきではないかと。先程のブレスを防いだ事でかなり消耗したようです」
「小技ばかり使ってたら勝負を決められないわね!グランブレード!」
グランダイオーが胸にある竜の頭に付いている飾りを取り外すと、柄と刀身が伸びて巨大な両刃の剣になった。ただの剣ではなく、刃を構成する素材はクレアの光属性の魔力を物質化したものになっている。
九頭竜は頭を後ろには向けにくいようで、身体を大きく捻りながらグランダイオーに噛みつこうとするが、そうはさせないとロザリアは蹴りで大きくその場から九頭竜を蹴り飛ばした。
そして身体の姿勢を崩している九頭竜の胴体に飛びかかって大上段からグランブレードを振り下ろす。刃は胴体に大きく食い込み、骨ごと肉を断ち切っていた。
吹き抜けに九頭竜が最大級の悲鳴が響き渡り、皆耳を抑える。
「良し!行ける!」
ロザリアは手ごたえを感じていたが、九頭竜は強引に身体をよじってグランダイオーに向けて無理やり顔を向けてくる。
「お嬢様!危険です!九頭竜が再度ブレスを吐きます!防御を!」
「近すぎるし間に合わないわ!ドラゴンヘッドファイアー!」
グランダイオーが胸を張るようにして身体を九頭竜の頭の方に向けると、胸に付いている竜の口が開いて白い炎が発射された。
光の魔力を伴うそれは九頭竜のブレスを相殺し、逆に九頭竜の頭を直撃、残っていた8本のうち3本を消滅させている。
「よし!これで魔核石に専念できるわね!」
「いえ、そう思うのはまだ早いようです。見て下さい」
「え、って。再生してる!?」
見ると最初に斬った頭の断面から頭の前半分が見えていて、ずるりと長い首が伸びてあっという間に首は再生された。傷口は僅かな痕跡しか残っていない。
「ちょっと!せっかく斬り落としたのにあれは反則でしょ!!」
自らも物理法則を無視するかのような反則的なモノを操っておいて無茶を言うが、それが現実だった。
名前の一部にヒュドラと付くだけあって驚異的な再生能力だった。しかも真魔獣化した事でさらに再生速度が上がっているようだ。
「お嬢様、相手に文句を言う前に現実を見て下さい。もう活動限界が1/3を切っています」
「そうは言ってもまだ魔核石すら目にできていないのに、どうしたものかしらこれ」
「お姉様、こうなったら一気に勝負をつけるだけですよ。近づいて頭を斬り落とした後、もう一度胴体にドラゴンヘッドファイアーをぶちかまして下さい。
多分それで魔核石が見えます。あとはこれを骨の隙間にでもねじ込むなりして打ち込んで止めを刺して下さい。ヒーリングパイルバンカー装填!」
クレアがそう言うと、グランダイオーの左手首にあるユニコーン頭の額にある角が一瞬長く伸び、ゆっくりと頭を貫通して戻り装填状態になった。
それはかなり長大な杭でグランダイオーの腕よりも長い。
「私の残り全ての魔法力を込めてます、おかげで私はもう大した事できませんけど」
「無茶しないでよ。でも私は斬りかかった後別の技を使わないといけないし、うまく狙い付けられるかしら、利き腕じゃないし」
「ではお嬢様、私がやります。私は元々左利きだったので訓練して両方とも同じように使えます」
「アデル……、お願い!」
「アデルさんちょっとだけ待って下さいね、操作系を装着させます」
ガキョガキョと床からアームが伸びてくると、アデルの左腕にだけ操作をする為のフレームが装着される。
「よし、みんな覚悟はいい?」
「はいっス!」「クレア様、口調。私もいつでもかまいません」
次回、第233話【貫く一撃】
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