第231話『地底震わす大激闘!巨大真魔獣VS悪役令嬢の異世界ニチアサ戦隊ロボ』「私は何を見ているのでしょう、悪役令嬢ものとはいったい……」
「よし、召喚!グランダイオー!」
「了っス! 対真魔獣用決戦魔導兵装グランダイオーの召喚申請を承認!
緊急召喚の為合体を省略して人型形態で前方の上空に顕現させます!」
2人の声が響き渡る中、頭上の空間にヒーローショーで登場させたグランダイオーが出現した。
ただしその全高はヒーローショーの時の5m程度とは異なり、20mに達しているという巨大ロボットそのもので、それを見たアデルの目は死んだ。
ちなみにクレアは黙ってバングル状の魔石具のボタンを押せば良いだけなので、あれこれしゃべっている事は本人の趣味以上の意味は無い。
出現したグランダイオーはやや透き通って発光しており、半ば物質化した魔力で構成されていた。なお今回は背中に翼担当が合体していない五体のみのバージョンだ。
大きくなった分だけ造形が繊細になっており、兜を被った騎士を模した頭の人の顔は目鼻口まできっちりと作り込まれている。
赤色の上半身には胸に竜の頭が付いており、黒い下半身は亀の甲羅を真っ二つにして縁が前向きになっており、外側の面には六角形の甲羅模様が白い色で縁取られて強調されてつま先には亀の頭部が。
右腕は青い狼型で、手首の所には口を開いた頭が付いており、拳はそこから生えている。反対の左腕は白いユニコーン型で、こちらの頭は拳に被さるように付いている。
全体的に角や尖った部分に白い色の材質が付いており、かなりアニメっぽい感じに変わっていた。
「うおー!でっけー!アゲー⤴」
「やったー!成功だー!」
ロザリアとクレアがいぇ~いと上機嫌でハイタッチしている中、グランダイオーはくるりと背を向けると九頭竜の前に立ちふさがるかのように轟音と共に着地した。
巨大な背中がなんとも頼もしい、などと思っているのはロザリアとクレアだけだった。それもそうだ、普通の人間はこんなものが突然出現したら自分の正気を疑う。
「お……、お嬢様、1つ質問させて下さい。あれは、いったい、何、なの、です。」
「何、って、アデルも見た事あるでしょ? グランダイオー。劇で出したじゃないの」
「そういう事を聞いてるわけではありません! どうしてあんな非常識なものが実在しているのです! いったいどこから持ってきたのですか!」
「え!? 違うわよ!? 買ったわけじゃないからね!?」
「だからそういう事を聞いているわけではありません! あんなの売ってるわけないでしょう!? どうして貴女はちょっと目を離すとわけのわからない事をやらかすのですか!!」
もはやアデルも何を聞いていいかわからないくらい混乱しているようだ。
「いやほら私、魔力を物質化する技使ってるでしょ? あれを固定して安定化させる魔石具をドワーフ王国のギムガルさんに作ってもらったのよ。
ギムガルさんも自分の技術が大幅に進歩したと喜んでくれて、タダで作ってもらったの。ほらほらあれあれ、クレアさんのごついバングルみたいなの」
「そっスよ。決してふざけて作ったわけじゃなくて、真剣にデザインとか考えて、何度も何度も作り直してはようやく完成したんです!実際に出したのはこれが初めてっスけど」
ロザリア達は本当に真剣に作ったのだ。魔石具を作ってもらっても最初は小さなものしか作れず、それどころかロザリアのデザイン通りにも再現できなかった。
大きくしようとすると今度は重さが問題になってきたので、地属性魔法で軽減、時に風魔法で身体の姿勢を安定させたり、と、物凄い試行錯誤と工夫を重ねていってついに実現させたのだ。
『こういうロボって絶対大きくあるべきなワケ!重力?物理法則?そんなのこだわるのマジどうでも良くない?むしろ物理法則はウチが決める!』
のような事をロザリア達から力説されたが、アデルはその世界観を全く理解できないでいた。
「どうして! そういう! わけのわからないものに! そんな一生懸命になれるんですか!」
「いやー、だってロマンというか」
「元日本人なら絶対これ作ると思うんスよね……」
「お願いですからこれ以上私の常識を壊さないで下さい! 一言だけ良いですか? お前らバカだろ」
「ま、それはさておき、行くわよアデル」
アデルの理解を待っていると時間がいくらあっても足りなさそうなので、ロザリアは強引に事を進める事にした。
「まだ話は終わっては……、行くって、どこにです」
「だからグランダイオーの中、あれ乗って操縦しないといけないのよねー」
「はぁ!? 乗る!?」
「いやーアデルさん、5人乗れるようにするのはちょっと大きさ的に難しかったんですよねー。今回はとりあえず3人乗りです」
「いえですから、そういう事を聞いてるわけではなくて、お前ら本当にいい加減にしろよ」
アデルにしてみればあれは使い魔のようなもので、ヒーローショーの時のように外部から操るものだと思っていたのだ。しかしロザリア達にとってはロボというのは中に乗って動かすものという認識のズレがここで生じていた。つくづく異なる文化の衝突というものは難しい問題である。
さて、ロザリアは抵抗するアデルの手を引っ張ってグランダイオーに近づいたが、乗り込む扉は背中の所なのではるか上の方なのだ。
「こうして見ると結構高いわねー。で、クレアさん、あそこから中に入るのよね? これどうやって乗り込むの? ふわーっと操縦席に吸い込まれるとか?」
「そんな便利なものありませんよ……」
「お二人共、考え無しにも程が有りませんか」
「よし、みんな! 行くわよ! どうにもならないなら何とかして乗り込むのよ!」
「ええー、ちょっとお姉さまー!」
「お待ち下さい! お嬢様!」
ロザリアは無いなら無いでジャンプとか飛ぶとか、とにかく物理的に何とかして乗ればいいじゃない!と魔法による身体強化でグランダイオーの背中を目指した。
クレアもまた、最近使いこなし始めた地属性魔法を駆使してグランダイオーの足の裏を垂直に駆け上がり、慌ててアデルは棒高跳びでロザリアを追うのだった。
「いやー、巨大ロボって乗り込むだけで大変なのねー」
「アニメみたいには行かないんスねー、皆どうしてるんでしょう。メインコントロールはお姉様でお願いします。私達はサポートに回りますので」
操縦席となる胸の中はがらんとした部屋だけで、3人が立つべき円形の台座が三角形の形に並んでいるだけだ。もう少し雰囲気のあるものかと思ってたロザリアは少々残念に感じる。
「うーん、クレアさん、もう少し中をそれっぽく出来なかったの?」
「贅沢言わないで下さいよー、これでも頑張ったんですよ? それに操縦方法を考えたら何かある方が邪魔なんですよ? あ、アデルさんはその左の丸い台に立って下さい。お姉さまは真中の一番前の所です」
「まだ私は動かすのに協力するなんて言ってませんよ!? 世の中に侍女はいくらでもいるはずなのに、このような物に乗せられるのは私くらいでは……? どうして私がこのような目に」
3人が台座の上に立つと、床からアームのようなものが生えてきて3人の腰を掴み身体を固定した。クレアとアデルはそれで終わりだったが、ロザリアのは更に身体を持ち上げ、ほんの少し浮いた状態になっている。
さらにロザリアにはさらに何本ものアームが腕や足に装着され、手足に外骨格のような部品がまとわり付くような状態になった。
同時に宙ぶらりんだった足元に半透明の地面が表示されて地に足がつき、壁には周囲の風景がグランダイオーの大きさに合わせて立体映像で表示された。向こうの方には九頭龍が困惑した様子でこちらを見ているのが見える。
さらにロザリアの身体に重なるようにグランダイオーのシルエットが現れ、ロザリアが手を開いたり握ったりするのに合わせて実際にグランダイオーが動いているようだ。
「おお、宙に浮いてるのに立ってるなんて不思議な感じね」
「お姉さまの動きをそのまま読み取りますので、あとは好きなように動いて下さい。私達は補助武装で援護の攻撃をしますから」
「……お二人共、当たり前のようにやっていますけど、ものすごく非常識な状況ですからね? そもそもこんなもので戦おうとしている事がおかしいのですよ?」
「アデルさーん、細かい事気にしちゃダメっすよ。どうせ魔法なんですから何でもありです」
「クレア様、魔法と付けば何をやっても許されると思っておられませんか?
……ですから、『えっ魔法ならなんでも出来るでしょ?』みたいな顔をしないで下さい! 普通は誰も魔法でこんな事しないんです!」
「よし、グランダイオー! 行くわよ!」
何がよしなのかはわからないが、ロザリアはアデルの抗議を気にしない事にしてとにかく動かしてしまえばこっちのものとばかりにグランダイオーを前進させた。
あまりにノリと勢いで状況が進んだだけに、リュドヴィックとクリストフは完全に置いてけぼりになっている。リュドヴィックの方はロザリアを止めようとする発想すら思い浮かばなかった。
「殿下、何というか常識を遥かに超えて来ますねあのお方は……。あんな魔獣討伐なんて前代未聞ですよ……」
「自分が直接戦うわけではないといっても、さすがにあれはどうなんだろうな。巨大な動く鎧と考えたら良いのか?うーむ」
地響きを上げながら向かってくるグランダイオーに対する九頭竜は困惑していた。今まで自分と同等の大きさの人型の物体など見たことが無かったのだ。そしてそれはその足元で魔力障壁に退避している騎士達も同じだった。
「おい何だあれ……、巨大な鎧?」
「お、俺、見た事ある。王都の広場で子供と見た劇であんなのが空中で戦ってたぞ」
「いやいくら何でもあんな非常識な大きさじゃなかっただろ……」
「お姉さま!思ったより魔力消費が激しいっス!長くは戦えないみたいです!」
「時間はどれくらい?できるだけ早く終わらせるわ!」
「使用する武器にもよりますけど、だいたい30分くらい!武器とか使ってたらどんどん減ります!」
グランダイオーはクレアの膨大な魔力を物質化して強引に顕現させたものなので、彼女の魔力が尽きてしまえばそこで消滅する。
永遠不滅無敵万能の存在では無いのだ、彼女たちの物理法則に対する反発心や情熱や意地だけで成り立っていると言っていい。
「上等! それまでには終わらせるわ! うおおおおおおおおおお!」
グランダイオーがこちらに向かってくる九頭竜に殴りかかった、九頭竜の方も相手を敵と認識したようだが反応が遅れ、拳がまともに頭の1本にヒットした。その衝撃は他の頭にも影響するのか、九頭竜の身体が大きくゆらぐ。
「効いてるみたいっスねー!ではこれはどうっスか?ガトリングヒール!」
グランダイオーの両鎖骨にあたる所が開き、機関砲のようなものがせり上がってきて6本の銃身を回転させながら魔法弾を放ち始めた。砲弾はヒール弾で、至近距離からまともにくらった九頭竜の鱗にいくつもの穴が空く。
当たらなかった分は地下迷宮の壁などに当たるが、その下の方には騎士達が退避している防御結界があるのをアデルが見とがめた。
「クレア様、今のは連発式の大砲のようなものですか? 流れ弾で背後の兵士様が危険なのでは?」
「あれヒール弾なので大丈夫っす! 当たっても回復するだけなので人と生き物に優しい巨大兵器っスよこれ」
「……頭痛が」
アデルはもはや癖になっているこめかみを揉みほぐしながら悩むしかなかった。
里の修行ではよく精神の修練とか心を乱さないようにと言われたが、絶対こんな事態は想定していないと思うのだ。
むしろこれこれしかじかで心を乱しましたと説明しようものなら、まず医者に連れて行かれる。
「そんな事よりアデルさんは分析をお願いします。魔力とかの流れを表示できるようにしましたので、弱点とかを探って欲しいっス」
そんな事とは何だと若干思う所はあるが、乗っている以上何もしないわけにもいかず、自分の周辺の空中に表示された画面には「魔力」だの「温度」だの「活動限界」だのといった四角いアイコンが表示されており、そこに触れれば表示が変わるので察しの良いアデルは九頭竜の分析を始めた。
「……ふぅ、やはり体内に魔核石がありますね、胴体のほぼ中央に魔力が大きく集中している場所があります」
アデルの操作でロザリアの前方に表示されている九頭竜にも、その魔力源の場所が強調するように表示された。
「そこを何とかしてぶっ壊せば良いのね? ではまず邪魔な頭から!」
グランダイオーの両手がこちらに伸びて来た9つの頭のうちの1本を掴み、片足は九頭竜の首の後ろに置かれ、木を引っこ抜くかのように首を捻り上げた。
九頭竜が悲鳴を上げるが、それに構わずロザリアは思い切り捻り上げ、首をへし折った。折れた首はだらりと垂れ下がり、
「バックレッグブレード!」というロザリアの声と共に、グランダイオーのふくらはぎ部分から巨大な刃が展開し、踵落としの要領で九頭竜の頭を切り落とす。
「行けるわね!今度はレッグバズソー!」
グランダイオーの下半身を構成するのは亀型ゴーレムという設定なので、足の両サイドに並んでいる六角形の亀の甲羅の意匠がせり上がって刃が展開し、丸ノコのように回転を始めた。
それはグランダイオーの蹴りの威力を何倍にも高め、蹴りが当たる毎に九頭竜は押されていく。
グランダイオーの身体の各所にある白い色の素材は光の魔力を結晶化させたものなので、殴るだけでも魔界に属するものにとってはダメージになり、
必要に応じて身体から展開される刃物もまた同様の素材なので、対真魔獣用というだけの事はある。
元々剣が主兵装という事になっているので鍔迫り合いや接近戦の時の為にかなりの武装が脚部に集中しており、この巨大ロボット、かなり足クセが悪い。
「お嬢様、押し込むのは良いのですがその背後には兵士様達もいるのです。また、私達の背後にも王太子様達やドローレムがいます。位置関係にお気をつけ下さい」
「押しても引いてもダメってのがつらいところね!」
次回、第232話「必殺技はイチかバチかの一撃必殺がロマンというものっス!」
書いててものすごく楽しいんですけど、これ悪役令嬢ものなんだろうか……?
と、ちょっと疑問に思っていますが、書きたかったんだから仕方ない。
つくづくこの小説って毎回物凄い勢いで読者の皆様を振り落としてる気がするんですよね。
読んでいただいてありがとうございました。
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基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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