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第230話【魔獣の猛攻そして反撃の光明】


「何事だ!おい下を見物している場合じゃない!総員陣形を組め!」

騎士隊長が号令するが、突然の事なので間に合うはずもなく、なかなか訓練通りの陣形を組めずにいた。

無理もない、突如床が壊れたかと思ったらその下から巨大な魔獣が出現したのだから。崩れた瓦礫を階段のように踏みしめながら登ってくる。

九頭(ナインヘッド)(ヒュドラゴン)と呼ばれるだけあってその頭は9本あるが圧倒的な威圧感で無数に頭があるようにしか見えなかった。同じ数の尻尾も相まって無数の柱が天に向かって伸びているかのようだ。


「上がってくるぞー!下がれ!下がれ!」

騎士隊長は大急ぎで兵を下がらせようとするが、そんな事を言われなくても皆大急ぎであとずさっていた。それほどまでに目の前の魔獣の存在感は圧倒的過ぎた。()い上がるだけで足元の床が砕けていく、少しでも近づこうものならその質量に押しつぶされるだろう。

「なんだ……あの大きさは、いくら九頭竜でもあんな大きさにはならないはずだぞ」

「元々上位の魔獣だけど、まるでエンシェントドラゴンじゃないか」

兵士たちがうわ言のようにつぶやくようにその九頭竜の大きさはあきらかに異常だった。本来であれば大型バスほどの大きさのはずがその倍以上の体躯。首や尾は胴体並みの長さがあり、その全長は50mを超えようとしていた。


「殿下、これはいけません。まともに戦って勝てる相手ではないですよ。兵を下がらせましょう。」

「やむを得んがあっちが許してくれるか?逃げたら追ってきそうだぞ。それこそ手がつけられなくなる」

クリストフがリュドヴィックに進言するが、リュドヴィックは厳しい顔のまま判断をつけかねている様子だ。戦闘では逃げる時こそが一番難しい、いくら元々姿を確認したら引き上げる事を想定していたとはいっても、いきなり目の前に出てくる事までは考えていなかった。


「総員、あまり集まるな。ブレスで一網打尽にされる。ゆっくり、ゆっくり下がるんだ。」

「ダメ、もうすぐ魔界の扉が開く。今止めないと取り返しがつかなくなる、私だけでも下に行かせて」

騎士隊長が指示を出しているがドローレムがそれを遮るように前に出てきた。その言葉にクレアとロザリアが続く。

「それこそダメっすよ!あんなのがいたら。ドロー……レスさんの身だって危ない!私も行きます!」

「クレアさん達だけにまかせるはずないでしょう!?殿下、私も残ります。いざとなれば飛んででも逃げるので」


リュドヴィックはロザリアが残るのをなんとしても止めたい所ではあったが、もうすぐ魔界の扉が開く、という所だけは聞き捨てならない。

九頭竜はまだ遠くにいるがブレスは油断できないのもあり、もうそんなに時間は無かった。

「ドロレス嬢、魔界の扉が開くまでどれくらいかかる?少なくとも今の手勢では持ちこたえられそうにない、一旦引き上げるしかないのだが」

「少なくとも、出て帰って来るまでには開いてしまうと思う。もう本当に時間が無い」

「その扉の封印? にはどれくらいかかる、どれくらい持ちこたえられればいいんだ?」

「わからない、もしかしたら丸一日かもしれないし、すぐ終わるかも」

「つまり、今ここで丸一日何とかすればいいんだな? 騎士隊長! 兵を2つに分けろ! ほんの少しだけ九頭竜を食い止めたら私が彼女と共に下へ行く!」

「ははっ!」


それは、あまりにも危険な賭けだ。騎士達が九頭竜を食い止め、その隙にドローレムを最下層へと送り出すつもりだ。ドローレムは今すぐにでも自分だけ飛んでいって最下層へと降りたい所だった。

「だめ!みんなは逃げて!扉をふさぐだけなら私1人でもできる!」

「ドロレス嬢、あなた1人で残ったとして、あの九頭竜がいる中で無事でいられると思うか?」

「それは……、でも!襲って来ないかも知れない、みんなが死ぬ事なんて無い!」

ドローレムにとっては自分も魔界側の存在なので襲ってこないかも知れないという希望的観測と今まで自分がしてきた事の贖罪のつもりだったが、それは騎士達の騎士道精神に火を付けるだけだった。

「ご令嬢。貴女のような人を置いて逃げたと慣れば一生悔やみますよ。こういう時に盾となる、それが騎士というものです。最下層には貴女と共に我々が行きます、殿下たちはどうか退避して下さい」


「いえ、皆が犠牲になる必要なんて無いわ、私にとっておきの……、技があるの。いざとなったら多分あいつくらいならなんとかなると思う」

騎士隊長の言葉とは裏腹にロザリアは逃げるつもりなど無いようだ。むしろその言葉に慌てたのはリュドヴィックだった。

「ロゼ!? 君こそ真っ先に逃げないといけないんだよ?」

「こんな所にまで連れてきておいてそれは無いでしょう? 安心して下さい。私が直接あの魔獣と戦うわけではないわ」

ついてきたのは自分では……? という突っ込みはこの際無しだ、今は一刻も早く最下層に向かわないといけない。

「殿下、差し出口をお許しください。お嬢様が言い出したら聞かないというのはいつもの事でしょう。お嬢様が危険な状況になれば、どのような形であっても私が脱出させます」

アデルのその言葉が決め手だった。いざとなればロザリアだけでも逃がせばいい。



「総員! 魔法防御展開! 命を惜しむな! ほんの少しだけ食い止めて道を切り開け!」

「私が最大出力でみなさんに魔法防御をかけます! それと防御障壁を作ります! 私達が通り抜けた後はこの中に下がって下さい!」

「ありがたい、これだけでもかなり違う。総員かかれ! こちらに引きつけろ!」

クレアが騎士達に魔法防御をかけた後、後方に巨大な丸い光る防御障壁を展開した。それと同時に一同は動き出す。

騎士たちは剣や槍を振るい、九頭竜の注意を引くかのように突撃していった。ある者は振るわれた尻尾に吹き飛ばされ、マクシミリアンは風を起こしブレスを拡散させるが、それでも飛び散った炎で焼かれる者はいる。

それぞれクレアがかけた防御障壁でかなり軽減されているものの軽い傷ではない、だがそれでも騎士たちの勢いは止まらなかった。


「今だ!走れ!」

リュドヴィックの号令でロザリア達は下の層に降りる階段に向けて九頭竜の側を駆け抜けていった。急ぎ階段を降りる。一刻を争うどころか一刻すら惜しい。

最下層に向かったのはいざとなれば逃げ出す人数は少ない方が良いとの事でロザリア・リュドヴィック・クレア・アデル・ドローレム・クリストフの6人だけだった。

「迷っている暇は無いぞ、彼らが命がけで作ってくれる時間を無駄にするな!」

とはいえ階段の一部は崩れ落ちてほぼ瓦礫だった。どうにか通れる隙間を見つけて進む。


降りた先はまさに最下層だった。丸い円形のフロアには多数の瓦礫が散乱しているが、中央部分にだけは何かがあったかのように丸く何も無い石畳が広がっている。

床に敷き詰められた石畳の中央部分は黒い魔石のようになっており、中にはまだ魔力らしきものが炎のように湧き上がっている瓦礫もあった。

「あそこに御柱があったみたいね。あの中央かしら?」

「そのようだな。周辺の床の状態が明らかに異質だ。皆、あの黒くなっている部分にはできるだけ触れないでくれ。おそらく闇の魔力に汚染される」

「できるだけ近づいて、あとはドローレムさんに任せるしか無いのね……」

「しかし、その、本当に大丈夫なのか?彼女を信じてしまって」

リュドヴィックはドローレムを完全に信じきれずにはいた、聞かれたロザリアも答えに困っている。


「大丈夫、この子は嘘はつきません、今大人しくしているのは正体が露見すると今後の為にも好ましくないときちんと理解しているからなんです」

「アデル……、大丈夫、私、やる」

アデルの言葉でドローレムの心は決まり、”穴”に向けて何のためらいもなく走っていく。時々黒くなった床に触れるが何とも無いようだ。

黒く渦巻く空間にたどり着くと手を伸ばして魔力を吸収し始めた。同時に、もう片方の手は空間に向けて何かを放出し始めている。

「あれで、空間を(ふさ)ごうとしているのか……?」

「わかりませんが、少なくとも渦を巻いてる魔力は収まっているように見えますね、ここは彼女を信じるしか無いでしょう。」

リュドヴィックとクリストフは一応事態が悪化する様子は無いのと、ドローレムが逃げ出す素振りが無いのを見て少し安心していた。


だが、突如轟音と共に天井の一部が崩れ落ちた。上層で何かあったらしい。

アデルが確認の為に一旦跳躍し、連鎖槍を取り出すと槍に組立てて、いつかのようにその場で棒高跳びの要領で更に高く高く跳躍した。

「あの侍女、護衛だと聞いていたがあんな事もできるのか、とんでもないな」

「敵に回したくない人が多すぎませんか殿下の周り……」

リュドヴィックとクリストフがあきれたように見上げていると、アデルが珍しく大声で叫んできた。


「皆様、迎撃の準備を! 上層の皆様は皆防御障壁の中に退避しておりますが、それを破ろうとした九頭竜が怒り狂って暴れ回っております。あのままでは床が抜け落ちてこちらの階層に落ちてきます」


アデルの言う通り、しばらくするとさらに広い範囲の回廊が抜け落ち、巨大な体躯が転げ落ちてきた。

落下したときの衝撃でダメージを受けてくれればと思ったがそんな上手い話は無いようで、何事も無いかのように起き上がってくる。

側には光る球体があるが、恐らくはその中に兵士や騎士達が退避しているのだろう。

「あー、あれダメっすね。あと何発か攻撃くらうと壊れてしまうっスよ」

「だったら、さっきのお礼も兼ねて今度はこっちがあいつを引きつけようかしら、クレアさん、あれやるわよ」

「え、本当にやるんスか……。ぶっつけ本番だなぁ」


ロザリアはクレアと共に前に出ると鎧を(まと)った、その姿はいつものドレス風アーマーではなく、騎士服のような男装用だった。

クレアはというと、どこからか取り出したごついバングルのようなものを手に()めた。

「待って下さいお嬢様、クレア様、いったい何を始める気なのです」



「よし、召喚!グランダイオー!」


(りょ)っス! 対真魔獣用人型決戦魔導兵装グランダイオーの召喚申請を承認!

 緊急召喚の為合体を省略して前方の上空に顕現(けんげん)させます!」


2人の声が響き渡る中、突如上空に出現した高さ20mはあろうかという巨大な人の形をした物体を見た瞬間、アデルの目が死んだ。


次回、第231話『地底震わす大激闘!巨大真魔獣VS悪役令嬢の異世界ニチアサ戦隊ロボ』「私は何を見ているのでしょう、悪役令嬢ものとはいったい……」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークや評価をありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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