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第227話「やばたにえんのオロチって、いたよね?」「……おそらく間違って覚えていらっしゃるのではないかと」


「しかし、ヒュドラゴンなんておっかないもの、普通は相手にしたくないんだけどな」

「心配するな、さすがに風の神王獣よりは格が遥かに下なんだ。あれよりはマシな相手だ」

「いやそれ比較対象がおかしいですよ隊長……」

地下遺跡の入口前で騎士達がそんな風に雑談している側で、リュドヴィック達は準備を整えていた。

今回連れてきた兵は数十人、万の軍勢を引き連れていきたい所ではあるが、迷宮の規模から考えて多すぎても退避できなくなるという判断だった。


九頭(ナインヘッド)(ヒュドラゴン)はエンシェントドラゴン程ではないが原初の魔獣に近い生物で、ドラゴンの亜種とされている。

翼が無く巨大な体()は最大でも大型バス程ではあるが、ワニのような太い脚が6本あり最大の特徴は複数ある頭だろう。

年を経るごとに増えるその頭の数は最大で9本となる。また尻尾も同じ数になるという通常の生物とはまるで異なる身体の構成になっている。

そして最も厄介な特性としては圧倒的な再生能力だ。頭1本程度なら即再生してしまい、討伐するには全ての頭を斬り飛ばすか、頑強な肉体の中の心臓を潰すしかないとされる。


「飛べない分だけまだ良いですけどね、あいつ9つの口から炎のブレス吐いてくるんですよ?全ての頭で一気に吐かれたら迷宮全体を焼き尽くされてしまいます」

「それについても一応は考えてある。今回は少人数で、一気に事を終わらせてしまいたい」

リュドヴィックは騎士隊長と打ち合わせしつつ、相手となる魔獣について話し合っていたが予想以上の相手のようだ。

王太子が自ら行かなくても良いだろうという意見もあったが、婚約者であるロザリアが行くという以上、行かないわけがないだろうと押し切ってしまった。

なのでクリストフや騎士隊長は正直物凄く頭が痛い。一応偵察という事にはなっているが場合によっては討伐に切り替えないといけなかったからだ。


「簡単に言いますけどね……、なら、神王獣に助けを求めるわけにはいかないんですか?怪物にはそれ相応の相手をぶつけるべきでしょう」

「相談はしたが渋い顔をされたな、風の神王獣は地面の底の地下迷宮とは相性が悪く、地の神王獣はまだ幼く力になれないとか、他のお二方も、力が強力過ぎるのでできれば避けたいそうだ」

そもそも闇の魔力が充満している所に行くと自分達が乗っ取られてしまいかねないとの事だ。

そうなるとやはり光の魔力を持つクレアと、疑似魔界人であるドローレムで浄化・または吸収しつつ奥に行き、こっそりと討伐してしまうのが最も安全という事になった。

ただ、クレアの存在はともかく、ドローレムの正体は絶対に騎士団にばれるわけにはいかないのは悩みの種ではある。

現在迷宮内には他の魔獣が極端に少なくなっており、討伐対象としてはヒュドラゴンのみに絞る事ができるのだけが救いだった。



「えーと、やっぱり私が先頭を行かなきゃですよね?」

「申し訳ないがそうなる。我々が先に行くと、いきなり闇の魔力にやられかねんからな」

「はぁ、気休めかもしれませんが、皆さんに防護の魔法をかけさせていただきました。これで多少なりとも耐えられるはずです」

騎士隊長の返答にクレアは溜息をつきつつ、とりあえず皆に防御用の光属性呪文をかける。

先頭は既に鎧姿のクレアと、お仕着せ服にフードを目深に被ったドローレムだった。少々怪しげではあるが、最近はリュドヴィックの知り合いは皆どこかしら変わっていると思われているので、今更気にする者は誰もいなかった。

その後ろに騎士団の精鋭、アデルは何かあったらすぐクレアやドローレムのサポートに回れるように騎士団の先頭寄り、リュドヴィックやロザリアは中央部で騎士団に守られている形で迷宮に足を踏み入れた。



「えーと、では私が先頭に行くのも怖いので、これを先に行かせます」

クレアが杖を通路の奥に向けると、その先から光の球が発生して10m程先まで飛び、そこで止まった。その球はクレアの歩きと同調して付かず離れずの距離を保っていた。

「周囲に闇の魔力があればこれに変化がありますので、何かあったら皆さん注意して下さいねー」

注意と言われてもどうすれば良いんだ……?という疑問が騎士達に浮かんできたが、今はとにかく進むしかなかった。

ドローレムは歩きながらフードがずれないよう手で押さえながら歩いている。一応髪の色を黒、目の色は白目に茶色という無難な色になっているので簡単には気づかれはしないだろうが、すぐ後ろには騎士団もいるので念のためだった。


「えーと、じゃあ行きましょうか、ドロレス……、さん」

「ん」

クレアもドローレムも一度本気で戦闘をした相手どうしで、双方共に致命傷まで行きかけた事があるので微妙な空気だった。しかしそんな事は言ってられないので、2人は進み始めた。

迷宮とはいえ地下遺跡なので最初は普通の石の通路だった。この辺りは探索済みという事で、石畳の上に矢印が描かれているなど順路の表示もされているので迷う事は無い。

とはいえ突然魔獣と遭遇しても嫌なのでクレアはそれなりにゆっくりと進む。しばらくは何事も無かったが、ふと、目の前を行く光の球に変化が見られた。突然迷宮の通路の隅に向けて引きつけられるような動きを見せたのだ。


「気をつけて、その先に魔力溜まりがある」

ドローレムが小声で注意をうながすのでクレアもそれに気づく。

「え、あー。じゃあ浄化してしまいましょうか?」

「ううん、私が吸収してしまう。このままゆっくり歩いて」

ドローレムが手を前に突き出したまま歩くと、手の平の前の空間が小さな球状に暗くなり、周辺の魔力はそこに吸い込まれているようだ。見られては少々まずい光景ではあるが、身体で隠れている上に、騎士たちはもう少し後ろを歩いているので問題は少ないだろう。


「えーと、大丈夫?」

「全く問題ない。食事で言うと水を口に含んだくらい。心配してくれるの?」

「え、まぁ……、一応」

「……あのときはごめん、悪かった」

「え?」

吸収し終えたドローレムはクレアに軽く頭を下げて謝罪した。以前、教会で襲ってきた時の事を言っているのだろう。

「私は命じられたからお前を襲った。それについては何も考えず従った私が悪い。ごめんなさい」

「え、えーと」

「アデルからも言われた。一言謝っておけって」


素直に謝られてもそれはそれでクレアの方もちょっと困る。ドローレムを結界に閉じ込めて光の魔石で爆破しまくるという相当酷い事をした事があったので。

とはいえ謝ってくる相手に対してそっけない態度をするのも気が引ける。クレアはそっとドローレムに手を伸ばした。ドローレムはその意図が分からず首を傾げていたが、 クレアはそっとドローレムの手を取り握手した。

「これで、仲直りしたって事っス」

「ん、分かった」

お互いぎこちなくはあったが、これでひとまずは和解が成立したという事になったようだ。


その後も少しずつ迷宮を浄化してゆき、時おり出会う魔物は騎士達に相手してもらいながら進んでいた。休憩で時折騎士達と雑談をするようにもなった。

「油断しないでくれ、実はまだこの迷宮の主要部にすらたどり着いていないんだ」

「そういえば、迷宮っていうから下へ降りる階段があるものと思ってましたけど、ここって1階層しか無いんですか?」

「いや、その階段のある所がまさに主要部なんだよ。この先に行けばわかる」


「ここ……、ですよね?どう見ても」

「ああ、ここがこの迷宮の本体とも言うべき逆さに埋まった塔だよ」

遺跡の通路部分を抜けてクレア達が見たのは巨大な円形の吹き抜けだった。


次回、第228話【地下迷宮『地ヘ落チル塔』】

読んでいただいてありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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