第220話「Show Must Go On(さぁ、最後までやり遂げましょう②」
さて、色々あってグリセルダを追っ払ったものの、既に舞台劇の筋書きは無茶苦茶な事になってしまっている。
舞台上でもどうするんだこれ、とウェンディエンドギアスが3人を見上げていた。
「一応本来の流れに戻ったようだが、どうするんだこれ。ステラフィスは寝とるし、おい、起きろ」
ぺちぺちと頭を叩くが、ステラフィスは起きる気配がない。シルフィーリエルとサクヤもどうしたものかと顔を見合わせている。
「だめだなこれ、非常手段だけど仕方ない、オラジュフィーユを呼び出してラスボス役をやらせよう。(おいロザリア嬢ちゃん達、しばらく適当に戦う芝居をしててくれ、儂が戻ったら言われた通りにしてくれ)」
ロザリアに今後の段取りを指示したウェンディエンドギアスは即座に神王の森に転移した。
上空ではウェンディエンドギアスの指示が来るまではどうして良いかわからないので、3人はとりあえず戦う演技をしていた。
話の流れ上アンブロシアを倒してしまうわけにもいかないので、お互い決め手に欠けるといった感じで戦っている。
「おーっほっほっほ! お前達2人だけで私に勝てると思うのか! むっ貴様何を!?」
「ローレンツがいない分私が踏ん張るだけさ! アドル! かまわず撃て!」
「そんなことできるわけないだろう! なかまをうてない!」
クレアがアンブロシアを羽交い締めするようにして動きを封じ、アドルに自分ごと止めを刺そうとさせるが、アドルはここで終わらせるわけにもいかないと、棒読みで叫んでいる。
そんなこんなをしていると、若干グダり始めてきているのでいつまでもこのままではいかんよなぁ、と3人が思っているとウェンディエンドギアスからの指示が来た。
「ふ、ふふふふ、そろそろ遊びは終わりだよ!本気で行かせてもらう!」
言うが早いか、ロザリアは空中高く舞い上がり、噴水の上空くらいで炎に包まれる。そして、炎が掻き消えた時にそこにいたのは、竜形態になったオラジュフィーユだった。
《ああーっ! アンブロシアが正体を現した! なんと彼女は魔界のドラゴンだったのだ!》
ソフィアが空気を読んで適当に設定をでっち上げる。
オラジュフィーユは突然ウェンディエンドギアスにドラゴン形態で怪物役をやれと言われ、
「もうあんなわけの分からない芝居には出たくない」と渋ったのを、
「人形態でも竜形態でも死亡したなら、もう出なくても良いじゃろ」と言い含められて嫌々やって来たのだ。
オラジュフィーユは適当に炎の弾を口から吐く真似をすると、水スクリーンの街に降りそそぎ、街が炎上していた。
「くそうなんて力だ!あんなのどうしようもないよ!」
クレア達が舞台上に戻ってきたので4人が揃ったところでアデルがわざとらしく叫んだ。そこに、ローレンツが走って帰ってきたのだ。
「おーい皆!いい加減待つのも疲れたから自分で逃げ出してきたぜ!」
アンブロシアを演ずる必要が無くなったのでローレンツの姿になったロザリアだった。なお息が切れているのは早着替えで疲れによる本物だ。
「いくぜみんな!今なら使える!俺たちの本当の力を見せる時!」
本来はローレンツを救出する際に仲間たちとの絆が深まるエピソードが挟まるはずが、途中の横やりでごっそり話の筋が変わっているのだが、もうノリと勢いで押し切る事にした。
「召喚!グランビースト!」
五星義勇団の5人が並んで叫び武器を構えると、それぞれの身体から半透明の獣型ゴーレムが飛び出してきた。
ゴーレム達は客席の上を一周すると上空に向けて飛んでゆき、合体を開始し始めた。
ローレンツの赤い竜型ゴーレムとクレスの青い狼型は前回と同様に胸部と右腕に変形し、
サクヤの白いユニコーン型は変形し、手首部分にユニコーンの頭が付いている左腕になった。
アドルの黒い大亀型は頭を下に逆立ちの姿勢になると甲羅が真っ二つに分割され、折りたたまれて下半身を形成した。
ゴーレム4体が合体して人型になると、リエルの鳥型ゴーレムが背中にくっついて羽根となり、ついに5体合体の魔神は完成した。
「「「「「完成!グランダイオー!」」」」」
その姿は劇に登場させる都合上小さいサイズにはなっているが、それでも全高10mにも達し、対峙する大型バス程のサイズの竜形態のオラジュフィーユや広場が小さく見える程だ。
《ついに完成した正義の魔神!その名もグラン!ダイ!オー!》
ソフィアのナレーションもテンションが上りまくっているのか、異様に芝居がかったものとなっていた。
《これは5人の絆が生み出した奇跡の力!1人だけでは呼び出せない!悪を打ち砕くまさに無敵の魔神!》
などと言ってはいるが、絆が深まるようなエピソードはさっきの混乱ですっ飛ばしてしまっている。
が、観客は目の前の威容にそんな細かい事はどうでもよくなっており歓声を上げていた。
「(また派手な見た目になったな……。何故手足とか身体のあちこちの色がバラバラなのだ?)」
竜状態のオラジュフィーユが言うように、グランダイオーは頭や胴が赤く、下半身は黒、右腕が青で左腕は白、背中には緑の翼という、この世界の常識を無視した派手なものだ。
「(お姉さまの趣味全開っスからねー)」
「(非常識にも程があります……。あとクレア様、口調)」
「(もうどうにでもなりやがれですわー!さっさと終わらせますわよ!)」
「(いやぁ本当に予想もつかないねこの劇って)」
三者三様の感想が出る中、ロザリアはひたすらにテンションが上りまくっていた。
『うおおおお!ウチ自分でデザインしておいてなんだけど、むっちゃ格好良いんですけどー!マジ燃えー!アゲ⤴!!』
舞台上はというと、薄い板で作った操縦席のようなものが運び込まれ、5人はそこに着席して演技を継続する事になる。
それぞれの武器を座席の手前に差し込むと、思わせぶりに光が放たれ、魔神は起動した。
尚、背後の水スクリーンには魔神の内部らしい異空間っぽい映像が投影されている。
「いくぞ!みんな!俺達の絆の力をあいつに見せつけてやるんだ!」
「「「「おう!」」」」
ローレンツが叫ぶと、4人の気合の入った声と共にグランダイオーは全身の紋様が輝き、起動した。雄叫びと共にオラジュフィーユに掴みかかる。
オラジュフィーユもまた迎え撃つようにその腕を掴み返して組み合う形になった。オラジュフィーユは口を大きく開くと、そこから炎を吐き出した。
爆炎にまかれ、姿が見えなくなったグランダイオーに観客が悲鳴を上がるが、グランダイオーがオラジュフィーユを押し返して爆炎の煙の中から無事な姿を現すと観客から安堵の声が上がった。
お返しとばかりにオラジュフィーユに蹴りを入れると、オラジュフィーユも尻尾を振って反撃する。
お互いの攻撃を何度もぶつけ合い、2体は互角の戦いを繰り広げているように見える白熱のバトルシーンである。
「(よし、そろそろ良いわね、終わらせるわよ)」
ロザリアの合図でグランダイオーはオラジュフィーユから離れると、両手で印を結んだ。するとオラジュフィーユの足元に魔法陣が出現し、その動きを拘束する。
グランダイオーは胸の飾りを外して大剣を取り出すと両手にそれを天高く構えた。
「愛と正義の名のもとに!受けよ断罪の刃!」
ローレンツが叫ぶと大剣から光る刃が伸びて更に巨大な両刃の剣となり、グランダイオーはそれを振り下ろす。
「ぐあああぁ!お、おのれぇ……!この私が敗れるとは……」
オラジュフィーユは断末魔の声と共に転移で姿を消し、グランダイオーは役目を終えて消えていくのだった。
《えっ、アンブロシアを倒しちゃった!?え?……やったぞグランダイオー!ありがとう五星義勇団グランフォース!王都の平和は守られた!次回もお楽しみに》
予定になかったのでソフィアも混乱していたが、とにもかくにも劇は大きな拍手と共に幕を閉じたのだった。
「いやー、今回は危なかったわー。まさかあんな乱入があるなんて」
「お嬢様が何かやらかすと、それ以上の事が起こるなんていつもの事ですから」
「でもお姉さまどうしましょう?一応アンブロシアってラスボスでしたよね?あのまんま退場させちゃうんスか?」
「んー?まぁいいじゃんそんな細かい事、なんとかなるわよ」
舞台が終わり、舞台裏でロザリア達は次回に向けて大きな問題が発生してはいたが、その顔は笑顔だった。
これまでもノリと勢いでやってきたので、ラスボスがいなくなったくらいでは大した事ではなかったのだ。
さて、めでたしめでたしで終わりそうなロザリア達と違い、こちらはかなり踏んだり蹴ったりのグリセルダ。
なんとかフォボスの所まで戻ってはきたが、肉体の無い霊のような存在でありながら、どう見ても衰弱していた。
「ア、アノ、ぐりせるだ、様?ナニガアッタノデス?」
「何があったかではないわ!何だあの肉体は!危うく私の方が消えてしまう所だった!」
「ハ、ハァ、強キ魂ト、馴染ミヤスイ肉体ヲト思イマシタガ、マズカッタデショウカ?」
「ともあれあの肉体は却下だ。……おい、そこにいるやつは人造の生命体だな、こいつの身体をよこせ」
「……え?」
視線の先には、ドローレムがいた。
次回、第17章「悪役令嬢と寡黙な侍女の奇妙な同居人」
第221話「アデル!どこから拾ってきたの!返してきなさい!」「普段のお嬢様とは立場が逆ですね」
読んでいただいてありがとうございました。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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