第219話「Show Must Go On(さぁ、最後までやり遂げましょう)①」
すいません、長くなりすぎたので分割します。
突如現れ、ひたすらに呪いの言葉を口にするアデルの生霊にグリセルダは悲鳴を上げていた。
「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」
「ひいいぃ! 何よこいつ! ちょっと! 離しなさい! 離しなさいよ!!」
「……いや、生霊みたいですしさっさと始末すれば良いだけでは?」
「嫌よ気持ち悪い!お前が何とかしなさいよ!」
「ええー、はぁ、まぁ一応専門分野ですけど……」
グリセルダが涙を浮かべながらフレムバインディエンドルクに命令するので、渋々といった様子でアデルの方に手を伸ばして呪文を詠唱する。
「この世に迷い出て人に仇なす悪霊よ!あるべき所に還れ!」
「ぎゃああああ!!」
だが、苦しんでいるのはむしろグリセルダの方だった。ぷすぷすと身体から煙が出ている。どこまでも踏んだり蹴ったりである。
《ええー……》 ナレーションのソフィアすら呆れている。
『さすがに、ちょっとカワイソーになってきたんですけど……』
「お前!古エルフ!何故私を浄化しようとする!あっちだあっち!!」
「あ、たしかに。いや、この場合悪霊はこのアデルって少女の方にしか見えないんですがねぇ」
フレムバインディエンドルクもこんな事を言い出す始末だ。
すると余計なちょっかいを出した為か、アデルが怒りの形相でフレムバインディエンドルクを睨みつけた。
「邪魔するな」
「ぎいっ!?」
アデルの赤く光る邪眼がフレムバインディンドルクを縛り付けた。それどころかアデルの周囲に闇が集まり、更に増えた手がフレムバインディエンドルクをも締め上げる。
「もう一度言う、お嬢様を傷つけたお前は絶対に許さない。よりによって私の身体を使ったのは万死に、いや億死に、兆死に、京死に、垓死に値する。呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」
殺す、とか死ね、と言わず延々と呪うという言葉を発し続け、縛り上げて来るアデルに2人は恐慌状態に陥っていた。
ロザリアやクレアはアデルがやりたい放題する光景を見てドン引きしている。いくら何でもこれは無い。
「……あ、あのー、クレアさん?」
「アデルさんって、ああいう所あるんです。
元の乙女ゲームでは最凶最悪のヤンデレキャラで、ほぼ最後に攻略できるようになるキャラにも関わらず、選択を誤るとゲームオーバーになるのはまだ良い方で、
場合によってはセーブデータが書き換えられてしまって、もうそのセーブデータでは最初からプレイを選んでもアデルさんルートしか選べなくなるんですよ。
なので攻略難易度も上から数えて2番めで……。裏攻略対象を除けば最難関という」
「ええー」
「しかも過去現在未来の運命を書き換える能力まで持ってまして、それまで集めていた他キャラとのスチル画像や回想も全部アデルさんのに書き換えて思い出すら乗っ取って上書きしてしまうんですよ……。過去も現在も未来も愛されるのは自分だけでいい、という感じで……」
「怖っ、え、ちょっと待って、そんなアデルに乗り移ったあのグリセルダって人どうなるの?」
「考えたく無いっス……。いやー丸くなってると思ったらやっぱり根っこは変わってませんでしたかー」
ロザリアは、そういえばクレアが最初にアデルと会った時異様に恐がっていたのはこれか……、と妙に納得した。
遠い目になる2人の眼の前ではまだアデルの凶行が続いていた。
グリセルダ達はアデルの扱いを完璧に間違っていたのだ。普段は肉体の中に閉じ込められていたので意識していなかった魂の能力が、身体を乗っ取られたが為に魂がむき出しになり発現してしまったのだ。
まだ扱い切れてはいなかったが、因果律に干渉して自分の思うままに事象を書き換える事のできる能力はグリセルダを蝕んでいっていた。
『怖い怖い怖い怖い、アデルさんマジ怖いんですけど……、ウチがついアデルさんの言う事聞いてしまうのと無関係……だよね?』
「やめ、やめろ、私が消えてしま、きえ、ああああああ!」
ついにグリセルダの人格がアデルに塗りつぶされて上書きされてしまったようだ。黒いドレス姿から即座にアデルは認識阻害の魔石具を用いてアドルの姿になった。
「ちっ、逃げたか。ふむ、不覚でした。未熟とは言えこの僕が身体を乗っ取られてしまうとは」
「え?あれ?あの、グリセルダ……様は?」
忌々しげに舌打ちするアドルにフレムバインディエンドルクが訝しげな声をかけている。
「知りません。それよりお前にも話がある。ちょっと顔貸せ、いや魂を貸せ」
「ひっ!この人達はどいつもこいつも!」
まだ先程の能力が発現した影響が残っているのか、アデルの目が禍々しく光り、背後から黒い手がずるりと伸びてくるので慌ててフレムバインディエンドルクは転移で逃げ去った。
《おおーっとぉ! なんとアデルが自らの力で呪縛を破ってしまった! 敵は逃げていったぞ!! これもみんなの応援のおかげだよー!》
ソフィアは良い話だった風にまとめようとしたが、絵面が不気味過ぎてどう考えても無理があった。子供は正直ドン引きしている。会場からも仕方ないから拍手でもしておこうか、という申し訳程度のものがぺちぺちと起こるだけだった。
『これは……、ウチのせいじゃ、ないよね?』
フレムバインディエンドルクが作り出した客席や舞台を覆っていた障壁も消え失せて会場が元の状態に戻った上空で、ロザリア演ずるアンブロシアとクレアの所にアデル演ずるアドルが近寄って行く。
「お嬢様、申し訳ありませんでした」
「良いのよ、アデルが戻ってきてくれたらそれで」
「いやー、一時はどうなるかと想いましたよー」
小声で会話するアンブロシアとクレアの前で、アデルはその場で鎧を纏っていきなり戦闘態勢になった。その顔には仮面も付いている。
「それについては後でゆっくりとお話いたしましょう。まだ危機は続いておりますので!」
「え? え? アデル? どうしたの? まだ操られてるとか?」
「どうしたのも何もありません、まだ劇は続いているのですよ?」
「「あ」」
クレアとアンブロシアはそこでやっと自分達がまだ芝居の途中だという事を思い出した、慌てて演技を再開しようと距離を取るのだった。
「ふ、ふふふふ、邪魔者は去ったようだねぇ? 改めて私が相手になるわ」
「ええ、望む所です」
「あれ? アドルそういえばいつの間にか男に戻ってる!? えーと私は……今更っスね」
あらためてアンブロシアと向かい合うアドルと、面倒なので女子のままになっているクレアが剣を構えている。
《さぁ邪魔者は去った!また改めて戦いが始まる!果たして勝つのはどちらなのかー!?》
ソフィアがようやく話の本筋に戻ったと声も明るい。正直今までがわけが分からなすぎたのだ。
だが、本来ここで五星義勇団が相手するのはステラフィスなのだった。アンブロシアは本来戦う予定では無かったので、脱線している事に変わりは無い。
『いやこれマジどうしよう?ウチの役が退場したら物語終わっちゃうんですけどー』
次回、本当に16章最終話
第220話「Show Must Go On(さぁ、最後までやり遂げましょう②」
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