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第218話「仏頂面の侍女の心の闇」


「1人増えようが大した事は無いな、私の邪魔をするならただでは……、おい貴様ら無視するな」


「いやー、私とアデルさんは騎士に憧れてたんだけどねー。この国では女子って騎士になるの大変じゃないですか、だから男になりすまして」

「お前の所は2人ほど女子メンバーがいるだろうが、もうそんな事しなくても良かったんじゃないのか?」

「今更言い出しづらかったんだよなー」

障壁を破ってロザリア演ずるアンブロシアの所に辿(だと)り着いたクレアは、アンブロシアといきなり共闘するわけにもいかずに雑談で場をつないでいたが、グリセルダは完璧に置いてけぼりだった。


「まぁ色々あるんだろうな。おい、元はクレスだったか、敵どうしだけど今はそんな事言ってる場合じゃないだろう? 共闘するぞ」

「さんざん魔界からこの世界を攻撃してきたくせに何を言っている!」

しかもクレアはせっかくアンブロシアが空気を読んで共闘の申し出をしてきたのに、先程の勢いのままその提案を却下してしまう始末である。


「悪役とはそういうものだろう!私がいなかったらお前らは存在意義を失って、武器を持って寄り集まっているだけの不審者集団になるのだぞ!」

「不審者とか言うなし!普段はそれぞれちゃんと仕事とかしてるよ!」

「騎士になりたいんじゃなかったのか……?」

「お前たち魔界が攻めてきたからそんな事してるヒマが無くなったんだよ! 文句があるんなら攻めてくるな! バーカバーカ!」

「誰も文句は言っていないだろう! というか口悪いなお前!」

間をつなぐどころか漫才じみたわけのわからない会話になってしまい、観客席からも笑いが起こる。が、グリセルダは完璧に放置されている。


「いや、お前らの言う魔界の王女は私なの、だが……?」


「「ちょっと黙ってて!」」

「え、はい……、???」

現在進行系で劇の演技を続けるクレアとロザリアに、グリセルダは今ひとつ状況を読み切れていなかった。また、律儀に返事してしまう所からも育ちの良さは隠せていない。が、それをフレムバインディエンドルクはあきれた顔で見ていた。

「いえあのグリセルダ様、こいつらのバカバカしい小芝居に付き合う事は無いでしょう、さっさと攻撃して始末したらいかがですか?」

「……はっ、そういえば! お前たち! 私をバカにするのもいい加減にしろ!」

我に返ったグリセルダは足元に異形の魔法陣を展開し魔力を高め始めた。王女と言うだけあってその圧倒的な魔力は飾りではなく、突如湧き上がる強大な魔力の気配にさすがの2人も芝居をしている余裕は無くなった。


「うわやばい! ちょっとこの魔力量はさすがにまずくないっスか!?」

クレアが慌てて魔力を出し惜しみしている余裕はないと、全開で光の魔力を放出して逆に魔力を抑え込んた。

相反する魔力の為か激しいスパークや衝撃波が発生し、辺りの視界が悪くなるほどだった。

「……ほう? 攻性魔力の持ち主か? 何故この世界に? ……考えるまでもないな、あいつらか。どこまでも邪魔をする」

ロザリアはグリセルダが忌々(いまいま)しげにつぶやくのに気づいたが、相手をしている余裕は無いと自分も魔力で抑え込みにかかった。

3人の強烈な魔力が渦巻き、ともすれば均衡が崩壊しそうになるのをクレアは必死に維持していた。


「はあああああ!」

最初に動いたのはロザリアだった。これ以上魔力の放出が続けば大爆発を起こしかねない、魔法剣を構えてグリセルダに突っ込んでいった。

グリセルダも黒い剣を伸ばして受けて立つが、そこへクレアが杖から魔力刃を出して同様に参戦してくる。

慌ててグリセルダはもう1本の剣を作り出して2人の攻撃を受けた事で魔力の放出が収まったが、それでも規格外の魔力を誇るクレア、膨大と言っていいロザリアの2人を相手にして一歩も引かずに渡り合っていた。

そのまま2対1で剣を交えるが、ロザリアとクレアはグリセルダの肉体がアデルなので傷つけるわけにもいかないと攻めあぐね、グリセルダもまた剣術はそこまで得意ではないのか膠着(こうちゃく)状態に近い。


「これならどうっスか?アデルさん!目を覚まして下さい!」

クレアが浄化できるかとヒール弾をグリセルダの至近距離から何発も放つが、肉体がアデルだけに全く効いた様子が無い。多少なりとも効果があるかと期待したのだがグリセルダには届かないようだ。

「効かない……? 魔界人なのに!?」


「ふふふふ、彼女の肉体は我らが選びだしただけあって、最も魔界人に近い血筋なのですよ。実に馴染む上にこの世界では都合が良い」

フレムバインディエンドルクが誇らしげに解説をするが、クレアはその内容に耳を疑った。

「何を……、言って?」

「おやご存知無い?侯爵令嬢の侍女なんてさせているので知っていたかと思いましたが。

 彼女の母親はテネブラエ神聖王国最後の王女アデライド、彼女は王家の生き残りなのですよ」

「テネブラエ神聖王国……って、滅びたっていう? あの男爵の? こんな所で話が出てくるなんて」

「まぁ驚くのも無理はありません、テネブラエ神聖王国そのものは滅びたと言われておりますが実はそうではなかった。国そのものは無くなりましたが魔界とのつながりを保ちつつ今まで生き延びていたのですよ」

「魔界との、つながり? どういう事?」

「何、簡単な事ですよ。1000年前の私と同じように、闇に魅せられ闇に染まった人々がいたのです。テネブラエ神聖王国にはその人々の血筋が流れている。闇に染まった肌はその証ですよ」

「アデルさんが……?」

クレアは改めてグリセルダを見た。確かに言われてみると少々浅黒い肌は確かに特徴的だった。が、だからといってすぐに納得ができるわけではない。今は目の前の敵に集中しなければならないと頭を振る。しかしその隙を見逃すほどグリセルダは甘くなかった。一瞬のスキを突いてクレアに斬りかかってくる。


「しまった!」

クレアは咄嵯に防御しようとしたが間に合わない、グリセルダの一撃はロザリアの魔杖刀に受け止められていた。ロザリアはそのままグリセルダを押し返すと、かばっているクレアに背を向けたまま口を開いた。

「あっそ、んじゃアデルを返してもらうわ」

ロザリアは事もなげに言うと、つかつかとグリセルダに近寄り、思い切りその頬をひっぱたいた。

「アデル! 起きなさい! いつまでもそんな奴に乗っ取られてるんじゃないわよ!」

「いやお姉さま、アデルさんって、その」

「関係無いわ。アデルはアデルだもの。本人も知らない事なんてそれこそどうでも良い事よ」

クレアの疑問もあっさりと流し、ロザリアはグリセルダの姿になっているアデルを真っ直ぐに見つめる。


「……そっスね。変にゲーム知ってると逆に良くないっスね。アデルさん! 起きて下さい!」

クレアは納得したが、一方のグリセルダはいきなり自分の顔を叩かれて呆然としていたが、やがて怒りに表情が変わった。

「何をわけのわからない事を……! 痛いだろうが!」


王族ゆえに顔を叩かれた事も無かったのか、グリセルダの怒りは激しかった。先程を上回る魔力が吹き荒れ、とっさに光の魔力で防御障壁を張ったクレアはともかく、ロザリアの方は防ぐ事もままならなかった。

「ぐうううううっ!」

「お姉さま!? いけない! お姉さまには負担がきつ過ぎます! 一旦下がって下さい!」

「アデル! 起きなさい! そんな奴に負けたらダメよ!」

「ああもう! アデルさん目を覚まして下さい! お姉さまもああ言ってますよ! さっさを目を覚ましていつもみたいに私を叱ってくださいよ!」


《アンブロシアもライバルをはげまし、クレス……の正体のクレアって子も一生懸命アデルを応援しているぞー! みんなー! アデルを応援しよう!》

ナレーションのソフィアはストーリーがどう進んでいるのか把握できず、もうこうなったらお子様達の声援と勢いで乗り切ろうと開き直ったようだ。

「アデルー!がんばれー!」

「負けるなアデル!」

「アデルちゃん頑張れ~!」



しかしその声援も、さんざんわけのわからない会話や状況に振り回されたグリセルダにとっては騒音に等しかった。

「さっきから何を騒がしい!ええい邪魔だ!」

「きゃぁっ!?」

グリセルダがロザリアの目の前に多数の闇の魔力の矢を作り出し、一斉にロザリアに向けて放った。

一発ならどうにかなってもこの数ではロザリアは避けきれず、何発も身体に受けてしまった。

「お姉さま! 今治療を!」

「それは後! ぐううう……、アデル! アデルー!」



「おい」


「ぎひいっ!?」

突如、グリセルダの背後に誰かが立っていた。半透明に透けるその姿は、

「アデル……」

「さんの、幽霊、というか……生霊(いきりょう)?」


「お前、よくもお嬢様を傷つけたな、死にたいのか。よし殺す。いや殺したらそれで終わってしまうな。永遠に魂を呪ってやる。

呪ってやる呪ってやる呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」


グリセルダが振り返るとそこにはアデルの姿があった。しかしアデルはどこか虚ろな目のままぶつぶつと呟き続けている。

その顔色は青白く目の焦点は合っていない。アデルの背後からは無数の黒い手が伸び、その手がグリセルダの手と言わず足と言わず掴みかかり、まるで悪夢のような光景だった。

「ぎゃああああああ! 何よこいつ! 何なのよ!」

グリセルダは幽霊的な存在のわりに、幽霊が苦手なようだ。どこまでも踏んだり蹴ったりである。


次回、第16章最終話、第219話「Show Must Go On(さぁ、最後までやり遂げましょう」

読んでいただいてありがとうございました。

多数のブックマーク、評価やいいねも励みになります。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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