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第215話「蠢くモノ」


魔法学園の地下、御柱を制御する施設内部に警告音が鳴り響く、それは中央塔で生徒会長の執務中だったリュドヴィックにも届いていた。

「何事だ!」

「リュドヴィック様大変です!御柱(みはしら)から警告が!」


クリストフからの報告で魔法学園地下最下層へ向かう昇降装置(エレベーター)の中でも焦りはつのるばかりだ。このような事は少なくともここ数百年は1度も無かったのだから。

「つまり、封印が解けようとしているという事か?」

「それにしてはおかしいのです。たしかに流れ込む闇の魔力は増えてはいましたが、全体に対してはごく僅かな量でしかなかったはずなのです」

「量の問題では無いのかも知れんな……、早く着かないのかこの箱は」

「もう少しの辛抱です。おそらくは」

クリストフの言葉は途中で遮られた。彼らの乗る箱が目的地に到着したからだ。

しかし扉が開くとそこには特に変わりの無い最下層の光景が広がっていた。

封印されている大扉、淡く発光するパネル状の継ぎ目の無い壁、そのどれもが普段通りのものだった。


「何も、異常は無いようですね?」

「だが確実に何かが起こったんだろう。記録を調べては見るが……、何も記録が無いな」

リュドヴィックが施設の計器等をいじって記録を確認しても異常は見られない。警報音もいつのまにか止まっている。

2人とも困惑して顔を見合わせるが、当然その疑問に応えるものは誰もいなかった。

「リュドヴィック様、どういたしましょうか?」

「とりあえず陛下に報告だ、あとは神王獣の方々にも伝えておいた方が良いかもしれんな」

立ち去る2人は気づかなかった、封印された扉の表面にある御札の1枚がほんの僅か浮いていた事に。それだけで十分だった。封印から”何か”が逃げ出すには。



どこともしれぬ闇の中、フォボスがひざまずいていた。その先には玉座。主のいない玉座だけがある。

周囲は誰もいない暗闇。闇は深く深く奥深く。果てさえも感じ取れないほど深かった。

だが、その玉座に突如何者かが出現した。圧倒的な存在感の出現にフォボスは1000年ぶりに自分の主が戻ってきた事を実感する。

(おもて)をあげよ」

「ハハッ……」

頭を上げたフォボスが見たものは実体を持たない影のような存在だった。主の、おそらくは思念の断片。たったそれだけだった。

ここまで来るのに1000年かかった。自らが姿を取り戻し、自らの考えで動けるようになるまでに数百年。故郷とのつながりを復活させて魔力を呼び込むのに更に数百年。”道”ができて以降も実を結ぶまでには長い長い時間がかかった。だが、主はそれだけの時間がかかったにも関わらず不満そうだった。

無理もない。時が止まっていた”彼女”にとって1000年前はほんの僅か前の出来事なのだから。

「1000年かかってこれ、か」

「ソレハキッカケニゴザイマス。本体ノ復活モマモナクカト」

「何でも良い、とりあえずでいいから肉体を用意しろ」

「ソレニツイテモ見通シガ立ッテオリマス。コチラヲゴ覧下サイ」

真っ暗な空間に映し出された映像には、アデルが映っていた。



「えっとー、んじゃ残りのゴーレムもこんな感じでどうかしら?」

「おおー、どこかで見た感じっスけど格好良いですねこれ。つかお姉さまこういう絵を描くの妙に上手いっスね」

教会での劇の打ち合わせで、ロザリアが描いた合体ゴーレムのデザイン画を前にロザリアとクレアが盛り上がっていた。クレアの言う通り無駄に絵が上手い。

アドリブで出した合体ロボではあるが、出してしまった以上今更無かった事にするわけにもいかず、劇に取り入れる事になったのだ。

「(いやー、ウチ、前世の施設でよく子供にこういう絵を描いてくれ、って頼まれたのよ。あと漫画のキャラとか)」

「(あー、なるほど)でもこれを商品化、はさすがに無理っスよねぇ」

「それなー、これが商品化できたら凄いとは思うんだけど」

この世界ではさすがにプラスチックで模型化する技術は存在しておらず、前世で良く見た子供向けの玩具は見送らざるを得なかった。

今のところ考えている商品としてはグランダイオーのアクスタか、デザインがプリントされた服とか帽子も売ろうかしら、とロザリアは密かに目論(もくろん)んでいる。


「これを完全に固定化できて売れたりしたら凄いんですけどねー」

クレアはそう言いながら、デザイン画通りのものを小さく目の前の空間に魔力を半ば物質化させて生成していた。

簡単に言う上にあっさりとやってのけているように見えているが、実は物質化すらも困難な技術だった。

魔力はそもそも保有している絶対量がある程度多くないと、身体からまとまった量を塊で放出するのも困難だからだ。

一度ドワーフ王国で魔石研究をしているギムガルにでも見せてみようかとクレアは思っていた。

とはいえ商品化できないものに思いを馳せても仕方ないので、とりあえずグランダイオーの設定を決める事になった。


設定としては

赤の神獣グランドラゴン:火を司るドラゴン型、合体時は上半身

(ロザリアは猫型にしたかったが空気を読んだ)

青の神獣グランヴォルフ:水を司る狼型、合体時は右腕

(ウルフにすべきだろうと言う意見をクレアが押し切った)

緑の神獣グランバード:風を司る鳥型、合体時は背中の翼

黒の神獣グランタートル:土を司る大亀型、合体時は下半身

白の神獣グランホーン:光を司るユニコーン型、合体時は左腕

という事になった。ついでにクレアが各部の武装を決めよう!となったが、これが揉めた。

ロザリアの前世である『のばら』が知るロボットは大半が戦隊のロボだったので、機体の固定武装という概念が無かったのだ。

対するクレアの前世はアニメ・ゲームに染まっていた女子中学生だったのでお互いの意見がなかなか合わない。

最低限ロケットパンチくらいは付けるべきでは?という意見にもロザリアはピンと来なかったので却下する有様だ。

だったら頭か肩にバルカン砲くらい付けましょうよというのもロザリアは渋る。


「お姉さまー、この(ロボ)ってどういう戦い方させる気なんですか?それによって武器の演出も変わりますよ?」

「えーっと、とりあえず殴って蹴って、弱った所を剣でぶった斬る感じかしら」

「ほらほら、だったら鍔迫(つばぜ)り合いとかあるでしょ?そんな時に武装無いと不利になりますよ?」

「ええー?まぁだったら」

とロザリアがクレアに言いくるめられ設定が詰められていく。

なお、周囲は話の内容が全く理解できずあきれた顔で2人を見ており、アデルは心を無にしてウェンディエンドギアスにお茶を出していた。


「しかし神獣と言いながら種類も何もバラバラじゃな。おまけに何故光がユニコーンで左腕なんじゃ。本来魔力としては光が最強じゃぞこの中では。おまけに実際にその力持っとるのはクレア嬢ちゃんじゃし」

「良いのよ一般の人は属性なんてそんな詳しくないし、それに火属性だって私とサクヤさんで被ってるし今更よ」

ウェンディエンドギアスのあきれ気味のツッコミにもロザリアは気にせず答えている。

尚、オラジュフィーユはというと、『もう怪人としての出番は終わったんだから(ワレ)は関係ないだろう、劇を見に来いというくらいなら付き合う』と、もうこれ以上わけのわからない物を見たくないと打ち合わせは不参加だった。


「まぁ芝居用の事だから深くは突っ込まんが……。しかしクレア嬢ちゃん、これ全部バラバラで動かせるのか?」

「人型の時はともかく獣形態だと全部はさすがに無理っスねー、できれば1体くらいは手伝って欲しいです」

「私なら魔力を調整すれば白っぽい炎くらい出せますわ、左腕のユニコーンなら手伝うわよ?」

なんだかんだ付き合いの良いサクヤがそう言うと、逆にアデルは申し訳なさそうにしていた。

アデルの魔法力は戦闘特化で、細かい芸当をするのには向いていないのだ。

「申し訳ありません、お役に立てなくて」

「良いのよアデル、誰にだってそういう個性はあるものだわ」


「しかし妙ですわね?魔力量は十分なはずですのに、属性が無属性に近いというのは」

疑問を浮かべるサクヤの言葉を受けてシルフィーリエルがアデルに説明をしていた。

「まぁ別に属性なんて便宜上勝手に振り分けているだけで、実はあまり大差は無いんだけどね?」

「そうなのですか?」

「適正さえあればすべての属性を使える人間がいるように、誰しもその素養は持っているはずだよ?魔力もごくごく微弱ながら全ての人間がもっているみたいだし

我々亜人はどういうわけけか特定の魔力属性を持って産まれるけれど、それでも時折”属性違い”は産まれるからね。属性の無い人間がいてもおかしくない」



さて、ロザリア達がおバカな事を真剣に決めている間にも様々な事が裏で動いている。

「それでは、この黒い石を奴らの舞台衣装に縫い付けさせれば良いのですな?普段の服ならば難しいですが容易(たやす)い事でございます」

「悠長な事だな、さっさと復活させてしまった方が方が早いだろうに」

「ソノ復活ヲ早メル為ノ事ダ、マズハアノオ方ニ自由ニナッテモラワネバ」

「全くでございます。これでテネブラエ神聖王国王家の血脈も復活いたしますゆえ」


次回、第216話「乱入」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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