第214話「やっぱ戦隊にはロボが付き物よねー!」「まだ諦めてなかったんスかそれ……」
おおー、と観客席から声が上がった。
「うわっ!なんだこれ!」
敵役として空中にいる半竜状態のオラジュフィーユを、ローレンツのアドリブで空中に出現させた赤く羽根が無い巨大なドラゴン型ゴーレムの幻影が襲ったのだ。
オラジュフィーユは悪役の人員がどうしても欲しかったので頼み込んで出演してもらっており、顔にそれらしい仮面を付けて怪人っぽくなっている。
また、対峙する赤いドラゴン型ゴーレムはというと、魔力を半ば物質化させたもので、全身が装甲のロボットのような見た目だった。大きさは劇に出す事を意識したのか3m程の大きさだ。
「おおーっ、ついに目覚めたか!あれこそは聖なる守護神獣とかそんな感じだった気がする。(いや何なんじゃこの芝居は、台本無視かい)」
舞台上ではなんとなく長老っぽい格好をしたウェンディエンドギアスが、杖を片手にフォローのつもりなのか適当な解説役をしていた。
彼女もまた指導者役が欲しいと依頼され、暇つぶしのネタとあらばと喜んで引き受けた。
オラジュフィーユの方は渋ったが、王城を襲撃した事で王都の治安が悪くなっていると言われては何も言えなかったのだ。
また、この回から劇を円滑に進めるべく、全員通信用の魔石具を使用している。
というか毎回アドリブだらけなのでこうでもしないと劇の進行に支障をきたすのだ。
「おじょ、ローレンツ……、何が何でも巨大ロボとかいうものを出したいみたいですね……。」
「何かこそこそ練習してたと思ったら……。ここは乗るか!」
クレスが舞台の前に出ると身体から青白い光が発せられた。すると空中に青い狼型ゴーレムの幻影が現れ、先程のドラゴン型と同じようにオラジュフィーユに襲いかかる。
こちらはイメージが固まり切っていないのか、ドラゴン型よりも生物的だった。
「うわっ!だからこういう事やるなら事前に言えというに!」
幻影なので直撃しても問題は無いだろうが、オラジュフィーユは芝居の雰囲気を壊してはならないと健気に狼型ゴーレムの幻影を避ける。
《何だあの謎の何だかわからない何かは!何だかわからないが敵の怪人は焦っているぞ!》
ナレーションのソフィアはというと、全く状況についていけていない。
「おのれー、手加減しておればいい気になりおってー!(おい我はここからどうやられたら良いのだ?台本と予定が全然変わっておるぞ!)」
「よし!今こそ合体だ!クレス!」「応よ!」
ローレンツとクレスが舞台上で武器を構えると、空中のそれぞれのゴーレムがガキョガキョと身体を変化させ始めた。
ドラゴン型は首を縮めて頭を胴体に折りたたみ、手足や尻尾も折りたたむと竜の背中から人の兜のような頭が生え、
胸に竜の頭が付いた鎧の騎士の上半身のような何かが出来上がる。
狼型は手足を降りたんで巨大な右腕となり、身体を伸ばすとヒジ関節が出て、口を大きく開けると中から拳も出てきた。
「なに……、これ……?」
合体ロボなどという概念の無いオラジュフィーユは見たものを理解できず、呆然している目の前で幻像の上半身と右腕は放電現象と共に合体した。
巨大な騎士ゴーレムの幻像は欠けている部分に半透明の光る下半身や左腕が生えて、シルエットだけは完全な姿になって脚を空中にふんばって立っていた。
その全高は5mに達し、向かい合うオラジュフィーユとの身長差は大人と子供どころではなかった。
「完成!グランダイオー!!」
ロザリアが勝手に即決した巨大ゴーレムの名前が会場に響き、観客席からはどよめきが起き、子供達からは『すっげー!』等の歓声が上がる。
「愛と正義の名のもとに!今こそ受けよ断罪の刃!」
「何だかわからないけど我らは無敵!」
勢いとノリにまかせてローレンツとクレスだけで芝居が進む。他のメンバーは完全に放置だ。というよりアドリブの極地なので対応のしようが無かった。
グランダイオーはドラゴンの頭の形をした胸から飾りを取り外すと腕に握り、巨大な刃が生えて大剣となったそれを、高々と掲げるように大上段に構えた。
「(いや……、だから状況を説明しろよ……。要はこれにやられたら良いのか?)うわあああああああああ!!」
グランダイオーが振るった刃を受けた瞬間、オラジュフィーユは転移で姿を消して退場して劇は幕を下ろした。
《五星義勇団の隠された力がまた現れた!あの正義の巨大ゴーレムはいったい?次回をおたのしみに!》
「いやー、意外と何とかなるものねぇ」
「さすがですお姉さま!」
舞台裏でロザリアとクレアはご満悦ではあったが、他の面々はげっそりと疲れ果てていた。特にアデルとサクヤが。
「お嬢様……、まさかあのような形でねじ込んでくるとは」
「何なのですかあれは、私達が戦う必要が無くなるじゃありませんの」
「いやーさすがロザリアさん、誰も想像できないのをぶち込んできたねー」
エルフゆえに面白ければ何でも良いシルフィーリエルだけは非常に楽しそうであった。ロザリアやクレアといっしょになってグランダイオーの案を練っていた。
「うーん、本当はあの中に乗り込んで戦いたいんだけどなぁ。舞台を留守にするわけにはいかないし」
「だったら舞台の上に操縦席作りましょうよお姉さま!そこでお芝居すれば良いじゃないですか!」
「まだあの方向性で続けるんかい!」
そんな3人をウェンディエンドギアスはあきれたような顔で見ていた。
そして、それを王都の空高く高くから見ていた者たちがいた。
「おやおや、あのご令嬢がまた何か始めたと思ったら姉さんまでいるとは。巻き込むのは少々心苦しいですねぇ……。ドローレム、イーラ」
「……」
「イーラ」
ドローレムとイーラが念を込めると、それぞれの魔力がかつて自分たちの一部であったものに流れ込む。
ドローレムは王都で、イーラは魔法学園で大きな傷を受けて身体の一部が辺りに撒き散らされていた。
それは長い時間をかけて地中に染み渡り、魔法学園を中心として張り巡らされている魔力供給網を伝って魔法学園の御柱へと流れ込んでいた。
地中深くの奥底、御柱の末端部分の封印の間にまでそれはたどり着く。
全体の量からすればごくごく僅かな量ではあるが、ほんの少し、ほんの少しだけ封印を弱める事はできる。
それだけで、それだけで十分だった。
次回、第215話「蠢くモノ」
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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