第211話「ソフィアてんちょー、この店変な人ばっかり来るんですけどー?」「ローズさん……、あなたがそれ言います?」
「レッドのクリアスタンド下さい!ブラックも!」
「ハイヨロコンデー!銀貨3枚でヨロ~❤」
「私は、この6才用の青の義勇団服廉価版で!」
「は、はーい銀貨4枚になります」
独自商品は強い。ロザリア達の古着屋で売り出した新商品は大人気となった。
店の一角に品物を並べるコーナーを設け、
服やら透明素材を使った小物を並べて販売を開始したところ、物珍しさもあってかなり好評だった。
ルクレツィアの店製の服への初歩的なプリント技術で五星義勇団の衣装を印刷した簡易的な衣装はその割安さと物珍しさで飛ぶように売れている。
また、ロザリア発案の印刷した絵を透明な素材で挟み込んだクリアスタンド等の小物もまた同様に売れている。
とはいえクリアスタンドの開発にはそれなりに手間暇はかかった。ロザリアの知るアクリルスタンドの完全な再現は難しかったのだ。
『ええー、透明って言うけど、何だか黄みがかって濁ってるんだけど……。気泡も混じってるし』
『そんな事を言われても困りますわ、現状これが最も透明度が高いんですのよ』
『しかし興味深いな。似たような魔獣の体液を処理してもう少し試作してみるかの』
ルクレツィアが作った試作品の素材を見たロザリアが思わずそう漏らすと、ルクレツィアが困った顔で応じる。
巻き込まれてしまったのはドワーフのギムオルだが、なんだかんだ新素材の開発には乗り気だったので、そのうちにかなり品質が上がり、ロザリアもどうにか満足できるものに仕上がった。
『うーん、かなり透明になったわね。まだ気泡が残ってるけど味だと思うしか無いかしら……』
『あなたこの素材の凄さがわかっておりますの!?ガラスより軽くて割れにくくて、しかもより薄くできるんですのよ!?』
『えー、でもアクスタはこんなんじゃなかったのよねー』
『いえですから何ですの、その”あくすた”とかいうのは』
ロザリアは不満げだったが、ルクレツィアにしてみれば世紀の発明である。しかもまだまだ改良できる。
図らずもロザリアは初歩的なプラスチックの開発に成功してしまったのだが、それを知らぬのは本人ばかりなのだった。
ともあれ新開発の樹脂では様々な製品が作られた。とはいえキーホルダーのようなものは需要が無いと思われたので、まずは服の襟元や袖口を装飾する為のピンバッジやブローチ、ペンダントトップといったアクセサリーなどを作る事になった。
「うーん、こういう時、細かく色々決めてた事が商品化の役に立つんスね~」
「衣装に付ける火だの水だのを表す紋様を細々と決めていたのはこういう事なのですか……」
アデルがあきれながらクレアと共に商品を紙で包装していた。
メンバーを象徴する紋様が決まっていればそれを全員分揃えたくなるのが人情というものだ。様々な小物は素材の珍しさから劇に興味が無くても買っていく客も多かった。
また、ルクレツィア店製の服も評判が良く、特にプリント生地の服は比較的安価なので、あっという間に売れてしまった。
次の仕入れどうしようかなぁ、などと思っていると即座にルクレツィアが次の分を持ってきていた。どうも事前のリサーチから売れる数を見込んでいたらしい。
高い方はさすがに超高級品なので全く売れないが、それでもその服を見に何人もの家族連れがやって来てくれるので広告塔としては申し分無い。
また、元々ロザリアの店で作って売っていたデフォルメ気味の小さなぬいぐるみは、今ではルクレツィアの店の方で製造を委託している。
大人向けには様々な小物、女子向けにはアクスタ、男子向けにはなりきりの為の簡易衣装と、それぞれの好みに合わせた商品は飛ぶように売れた。
「いやーでも、さすがの私も子供向けのこういうコスプレ服がここまで売れるとは思ってなかったよー、意外とこういうの好きなんだねー」
「えー、でもお姉様、(前世でも、こういうなりきりグッズって売ってましたよ?)」
「いやさー、よくあったじゃん、(戦隊ヒーローのメンバー全員の絵が描かれてるやつ)、ああいう方のが子供は好きなのかなー、って」
「いやいやいやお姉さま、それは認識が甘いっス」
「え?」
ロザリアの言葉がクレアのちょっとした地雷を踏み抜いたようだ。
元々ロザリアが最初デザインしたのは、メンバー全員の姿がプリントされたものだったが、クレアが『劇中衣装のできるだけ再現を!』と、
メンバーの鎧着装前の義勇団としての制服、着装後の鎧を纏った姿になりきれる服を商品化したのだった。
「オタクが何故コスプレするか。それは推しと一体になりたい、推しそのものになりたい、という願望があるのは理解できますよね?」
「は?え?まぁ……?」
「つまりそれと同じ事っス。あの子達が欲しいのは”推し”が着てる衣装そのものなわけっスよ。キャラ絵が描かれているものが好きなんだろう、というのは大人の勝手な押し付けでしかないわけっス。わかりますよね?お姉様!」
「アッハイ」
ロザリアはクレアの剣幕に押されて、妙な敗北感と共に思わず同意してしまう。
『いやー、前世のウチはオタ度薄かったからそこまでのこだわりは持てなかったけど、こういう子の地雷踏み抜くとむっちゃ怖いんですけどー』
「でもそうなるとー、劇中で着られている衣装そのものが欲しい、って人も出てくるわよねぇ」
「いえロザリアさん、実際多いですよ?これの大人版は無いのか、って問い合わせが。特に大人の女性から」
「いや大人の女性が着てどうするのよソフィアさん……。あ、着るわけじゃないのか、部屋にでも飾るのかしら」
ソフィアが持ってきたメモを見てロザリアが呆れた声を出す、確かに大人用の衣装の要望がそこそこの件数来ていた。とはいえこの世界では祭り等を除いては男装をする文化が無い。ディスプレイ用のマネキンとセットなら売れるかしら……、などとロザリアが皮算用で考え出す。
「いやお姉さま、そんな事考えてたりすると」
「こんな事もあろうかと!」
ルクレツィアが店にあらわれた。手には衣装のようなものを持っている。
「ほら来た……」
もはや慣れっこのロザリアやクレアはともかく、アデルは頭痛を紛らわせるようにこめかみを揉み始めた。
ルクレツィアはそんなアデルに構わず、ロザリアにずいっと手に持ったものを差し出してきた。
それは大人向けの衣装だった。五星義勇団の。
「ええと、ルクレツィアさん、これは……?」
「よくぞ聞いてくれましたロザリア様。元々大人向けにも潜在的な需要はあったのです、ならば商品化しない理由などありません!見てくださいこの完成度を!もはや舞台衣装すら超えております!」
「いや舞台衣装を超えられると困るんだけど……」
ルクレツィアの勢いに引きつつもロザリアはその衣装をしげしげと見つめた、実際出来が良い。子供向けのそれを大人向けに拡大したような作りで、サイズが大きいだけに様々な刺繍が追加されてディテールアップされていた。
「これならば金貨2枚で!」
「いや高いわ!ちょっとした貴族服並みじゃないの!」
日本円で40万円程の値段を提示されてさすがにロザリアが突っ込んだ。
ルクレツィアは時代を先取って服の量産化を実現したりもするが、時には商品のクオリティ突き詰め過ぎてしまう所があるようだ。
とはいえ、需要がある以上は作らないわけにもいかない。もう少し現実的な値段で商品化するという事で話はまとまった。
「お姉さまー、こうなったら私達の衣装をルクレツィアさんのお店で作ってもらいません?私達の衣装って、並べるとこれより見劣りしてしまいますよ?」
「さすがに傷んできたのもあるしねぇ」
ロザリアもルクレツィアが作る衣装の質の高さは認めざるを得ない。さっそくルクレツィアに衣装の事を相談してみた。
「うーんどうでしょう、全10話であと6話なのでしょう?あまりに良くできた服である必要は無いわけですのよね?」
「そこなのよねー、何十回やる程にお話も思いつかないからそれくらいの回数で終わらせるつもりではあるのよ」
「だとすると、今の衣装を私の店できちんと縫製し直す方が良いかもしれませんわね」
「そうしてもらえると助かるわ、何しろ売ってる衣装より出来が悪いというのも困りものだもの」
さて、多少問題ありつつも上手く行っているような時こそ用心が必要なのは世の常で、さらなる苦情が舞い込んできたのだ。
騎士団から。
「私は近衛騎士団第3隊隊長、ガルガンチュアだ!ローレンツという役者はいるか!」
次回、第212話「このえきしだんだいさんたい……?」「お嬢様、あなたの家がボコボコにした所です」
読んでいただいてありがとうございました。
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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