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第209話「さぁこのままサクサク上演していくわよー!」


「ローズさん!この向かいの所でやってたあの舞台見ました?劇凄い評判ですよ!」

「おおー、ウチはお店で見れなかったけど、そんな凄かったの?」

公演が終わった後のある日、ロザリアがローズとして古着屋『神の家の衣装箱』で接客していると、客の1人からそんな事を興奮気味に言われた。ロザリアとしても生の観客の反響は気になる所だ。


「いえお芝居の筋書きとか演技そのものはそんなでも無かったんですけど、演出とかが凄かったとかで」

「そ、そーなんだ、どんな感じで評判なの?」

皆の演技はともかく脚本はわりといけるんじゃないかなー、と思っていただけにロザリアは少し凹む。元ニチアサ好きとして過去に子どもたちと共に見た経験を最大限盛り込んだつもりではあったのだ。


「一番人気はアドルって役の子ですね、あのセリフ棒読みの”やらされている感”がたまらないって人が多いですよ!」

側の方で聞いていたアデルが固まっていた。それなりに真面目にはやっていたつもりではあったのだ。


「次は、っていうか今のところ2人しかまともにでてきてないんですけど、青い衣装のクレス君も『空回ってる感』がいじらしいと好評みたいです」

その言葉に、今度はクレアが固まっていた。あのグダグダになりかねない場をなんとかしようと頑張っていたつもりだったのだが。


「あとは今王都で話題の、赤い銀仮面の中の人だっていうローレンツ君も一見格好良さそうではあっても、なんかこう、ほのかに残念臭漂うところが良いんだって言ってた人もいましたね」

その言葉で今度はロザリアが固まった。変身シーンにコミカルな所を混ぜたのがまずかったのか?もう少し真摯な感じが良かったのかと悩む。

『いや残念て……、ウチ結構ガチのマジで頑張って脚本書いたんですけど……。演じたんですけど……』


「ありがとーございましたー」


「なぜあの演技で好評なのですか、意味がわかりません。大衆は一体何を求めているのですか」

「空回り……だって誰かがきちんとお芝居しないとグダグダになるじゃないですかー」

「い、良ーじゃん、お芝居は楽しんでもらってこそだし?。次もがんばろ?ね?ね?」

客が退店すると落ち込むアデルやクレアとそれを慰めるロザリア。店長のソフィアはその様子を微妙な顔で眺めていた。



しばらく間を置いて上演された2回目の公演は前回の倍以上の観客がいた。

前回は噴水の周りで何となく見ているだけだったのが、人が多くなった為に広場の縁にある古着屋の前くらいまで観客が立っていたのだ。

その舞台上では今日も劇が上演されており、今回はサクヤとシルフィーリエルの顔見せ回だった。

前回のラストで赤の武器に選ばれたものの、突然武器を返上して仲間になる事を拒否したローレンツをクレスとアドルが説得する場面から始まっている。


「なぜ戦おうとしない!戦わなければ何も守れないんだぞ!」

「そうだぞ、僕もこの武器にえらばれてたたかう事をほこりにおもっている」

尚、アデルは前回棒読みと言われたのを気にしていたようで、ちょっと演技に幅が出てきている。

そして、前回のガレキを片付けるボランティアをしていたローレンツは食い下がるクレスとアドルを冷たく拒絶していた。

「お前らなぁ、眼の前の光景見えないのか。俺に戦え戦えとか言う前にまずこのレンガとか石の山を何とかしろよ。戦いはその後だ。ほらこれあっちに持っていけ」

などと2人を言いくるめて瓦礫撤去を散々手伝わせ、疲労困憊にして追い返すのだった。


2人が去っていた後に登場したのが、サクヤとシルフィーリエルだった。彼女達は特に気にしないと本名で出演している。性別もそのままだ。

「力を持つくせに、使わないのは無駄というものではありませんの?」

「まぁ僕はかまわないと思うけどね、人それぞれの自由だと思うよ?」

「リエルは混ぜっ返さないで下さいます?私はこの子に話してるんですの!」

「まぁまぁ、でもね、君が戦わずに逃げていればまた戦いが起こる。君はその度に後片付けをするだけで良いのかい?止める力が目の前にあるというのに」

とリエルがローレンツを諭してさっさと去って行き、「良いところを取られてしまいましたわ」と言い残してサクヤも退場していった。

ローレンツはその後ろ姿を見送りながら呟いていた。それは誰に聞かせるでもなく、自分自身に言い聞かすようなものだった。



やがて、お約束のようにシモン演ずるブラドが前回の雪辱を果たすべく、再度襲来してきた。

それに立ち向かうクレスとアドルにサクヤとリエルが合流するが、即席のチームでは連携がとれるはずもなく、ブラド1人に翻弄されていた。

苦戦を影から見守るローレンツ、やがて、水画面にローレンツの過去が映し出される。

かつて妹がいた事、力があっても全ての人を守れるわけではなく、村が焼き払われてただ一人の大切な肉親を守れなかった絶望。

全てを守れないなら力なんて何の意味も無いと妹の亡骸を前に嘆く過去のローレンツ。そして、妹の最後の言葉が舞台に流れる。


『お兄ちゃんはみんなを助けてあげて。お兄ちゃんは私のヒーローだから』


「うおおおおおおおお!」

舞台を駆けるローレンツに観客が声援を上げる。

鎧を装着し、「悪を焼き尽くす正義の刃!レッドローレンツ!」の名乗りを挙げて5人が揃った時には観客の声援は最高潮に達した。

だが、好調とはいかなかった。心が先走り過ぎたレッドが一人で一方的にブラドをボコってふらふらにさせた所で、

「今こそ合体武器だ!」

と、アドルの斧にクレスの杖を柄のように、剣は先端に、弓はクロスして横たわらせるように、扇を羽根のように取り付ける事で、

巨大なクロスボウのように見える何かが完成した。

だが、全員の息が合わないうちにレッドが引き金を引き、突然武器は火花か放電のようなものを放ってバラバラになってしまった。


《ああー!失敗だー!せっかく揃ったのに皆の心もバラバラだー!これからどうなってしまうんだー!》

とソフィアのナレーションが入って幕が下りる。


第三話の公演は全員の心が1つになるイベントで、何やかんやあって全員の心は1つにまとまり、見事に合体攻撃は成功した。

『何よ、何やかんやって……』


さて、順調に思えた公演だったが、ここで大問題が発生した。

資金が尽きたのだ。


次回、210話「お金が……、資金が……」「お嬢様、興行は計画的に」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークと評価をありがとうございました。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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