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第208話「争いなんてくだらないぜ!俺はこれ以上ごめんだ!」


「はい待ったー、ケンカは良くないぞ! 暴力は最後の手段だ!」

「何者だ!」

ブラド役のシモンの声に答えるかのように、金髪の少年は噴水の上からひらりと舞台の上に降り立ち、双方の中間に立った。

にわかに客席がざわつき出す。衣装こそ違えど赤みがかった金髪や、やや色の濃い肌で異国風の雰囲気は王都で話題の『赤い銀仮面』の特徴と似ていたからだ。

言うまでもなく、戦隊の赤色担当を演じるロザリアだった。

客席からも「え?あれが赤い銀仮面の中の人なの?」「意外と若いっぽいけど……、推せる!」「結構あっさり出てきたな」などと声が上がる。


「俺は名乗る程の者じゃないが、ローレンツという。お前達が何者かはどうでもいいけど、ちと悪さが過ぎるんじゃないか?」

「貴様! 我らが女王様に逆らうつもりか?」

「女王だか誰だかは知らんが俺は目の前の暴力を見過ごせないだけだ」

「何を寝言を言っている! 力も無く志だけで我らを止められると思っているのか!」

そう言うブラドが手を噴水の方に向けると、突然水画面にどこかの街を上空から映した映像が出され、魔法弾がそこに着弾すると大爆発が起こる。

街の人々が逃げ惑う様子がありありと映し出されていた。それを見ていた観客達は息を呑む。


「なんて事を! やめろ!」

ローレンツはブラドに飛びかかるが、あっさりと振り払われ、クレスの方へとふっとばされて転がっていった。

「(い、痛いわね?これ)くっそぉ、さすがに獲物が無いとどうにもならんか、借りるぞ!」

「(でしょ?)待て!それは!」

「うおおおおお!!」

ローレンツは舞台場に落ちていた魔杖刀を掴み、ブラドに向かって斬りかかった。

だが、ブラドはあっさりと片手で受け止めてしまう。その手には魔力障壁が展開されていた。

「ふん、威勢だけは良いがこの程度か。いい加減遊びは終わりだ! まとめて始末してくれるー!」

舞台上で派手な爆発がいくつも起こった。これはロザリア自身が使った見せかけだけのものだが、観客からは悲鳴が上がる。

だが、爆発が収まって観客が見たものは、半球状の障壁の中央で剣を構えて何事もなく立つロザリアの姿だった。魔杖刀にはロザリアの魔力が流し込まれているので赤く光っている。


「こ、これは? お前がこの剣に選ばれた者だったのか?」

「何だ? 選ばれた者と言うのは?」

「何でも良い、これを身につけてくれ。そして、こう構えて叫ぶんだ、『着装』と!」

「え? あ? こうか? 着装?」

クレスからブレスレットを受け取ったローレンツは体の前で魔杖刀を構え、言われるままに叫んだ。

次の瞬間、ブレスレットが巨大化して腰にはまり、ベルトになってローレンツの変身が開始された。

もちろん背後の水スクリーンにもその模様が映し出されている。

赤い騎士服が着せられ、全身を銀色の部分鎧が覆う。頭は銀色の仮面が付いた兜がかぶさって顔は見えなくなった。

その姿は、王都で話題になっていた赤い銀仮面の姿そのものだった。観客からも歓声と驚きの声があがる。

最後に背中にマントが翻り、仮面の騎士がポーズを決めた。

一瞬の静寂の後、客席から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。


変身が終わったローレンツは自分の手や身体を見てみる。

「何だこりゃあああ!?」

映像を後々使い回す関係上ノリノリで変身しておいて、いざ変身が終わると素に戻るという特撮でよくあるパターンであるが、観客はそんな事は知らず笑っており、むしろ変身後の姿とのギャップに萌えている者が多かった。


「やはり!お前も俺たちの仲間だったのか!」

「仲間!?何だよそれ!勝手に仲間に入れるな!」

ローレンツとクレスが言い合っているのを見てブラドは自分の頭上に魔力を集め始めた。

「何をごちゃごちゃと!もう一度くらえ!」

苛ついたような声と共にブラドが巨大な魔法弾を放った。だが、それはあっさりとローレンツの魔杖刀に受け止められる。


「何!?」

「返すぜ!」

ローレンツが剣を振るうと、魔法弾はブラド達に向けて放たれ返され、どかーんと見せかけだけの爆発が起こった。

こちらはまともにくらった(という設定)らしく、ブラドとシモンは吹き飛ばされて倒れていた。

「お、おのれ……」

「なんだか分からないが力の使い方がわかるぜ!これでもくらえ!」

ローレンツが剣を構えると、剣は赤い半透明の刃を纏いながら巨大化した。

たじろくブラド達に容赦なくその刃は振るわれ、再び大きな爆発が起こると共に、シモン達は舞台袖に引き下がった。

「おのれ、憶えておれ赤い戦士よ!」


捨て台詞を残してブラド達は退場していった。

その後ろ姿を見送ったローレンツは自分の手に握られた魔杖刀を見つめている。

「やった……、あいつらを追い払う事ができた」

「なんだかわからないがたのもしいなかまができたなくれす、これでぼくたちのせんりょくもおおはばにきょうかされる」

そんなローレンツにクレスとアドルが歩み寄るが、ローレンツは変身を解除すると魔杖刀を2人に投げ返すのだった。


「よし、これ返すぜ」

「ええ!?いや返されても困るんだけど!?君は剣に選ばれたんだよ!?」

「そうだぞぼくたちのしめいはとてもたいせつなものなんだぜひきみともいっしょにたたかってほしい」

「さっきも言ったけど、暴力は最後の手段なんだ、じゃな」

そう言うとローレンツは舞台袖へと走り去っていった、取り残されたクレスとアドルは大慌てでそれを追う。

「待ってー」

「まてー」


「あれが、5人目というわけなのですわね。わたくし達の仲間としてふさわしいのかしらぁ?」

「いやー、面白くなって来たねー」

気づくと反対側の舞台袖には謎の2人がいつの間にか登場していた。言うまでもなくサクヤとリエルだった。なお、2人の格好は鎧が間に合わなかったので普段着だ。


《大変だぞ五星義勇団! せっかく見つかった仲間は戦いを放棄! そして謎の2人組はいったい!? 次回の公演をおたのしみに!》

『衣装提供:神の家の衣装箱』

ソフィアのナレーションと共に水画面にコマーシャル映像が映し出される。

観客達は笑いながら立ち上がり、盛大な拍手で演劇は終了したのだった。


次回、第209話「さぁこのままサクサク上演していくわよー!」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございます。

評価も本当に励みになります。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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