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第19話「入学式って、結局さー、校長先生のお話しの内容を何も覚えてないよねー?」

新入生となるロザリア達は、校舎内で付き人と共に大きな講堂まで案内され、いわゆる入学式に出席した。

クラスごとに分けられた百人程の生徒と、その付き人が2列で並んで座っていたが、やはり貴族が大半なようである。


魔法学園とはいえ、式の大半は来賓(らいひん)の方々やら学園長のありがたくも長いお話しであり、内容は前世の学校のとそう変わりは無かった。

『こういうお話しが長ぁ――いのって異世界だろうと変わらないのね……、もう少しこう、魔法学園らしさって無いのかしら』


「それではここで、本年度の生徒会長である、リュドヴィック王太子殿下よりお言葉があります」


紹介と共にリュドヴィックが壇上(だんじょう)に現れると、主に貴族女性から小さく歓声があがる、同じ学生服なのにその堂々たる姿は、いい加減見慣れていたロザリアであっても、思わず目を見張る程、凛々しいものだった。

尚、リュドヴィックの学生服は、紺色の上着のブレザーで、基本はロザリア達女子が着用しているものと同じようなデザインだったが、ネクタイの色だけが違った。


「新入生の皆さん、はじめまして。私はこの学園で生徒会長を務めさせていただいている、王太子のリュドヴィックです、まずは、この学園にようこそと言わせていただきます。そもそもこの学園は、1000年前の大襲来を耐え切った・・・」


よどみなく、堂々と話すその姿は、自分と2才しか違わないとはとても思えず、ロザリアは改めて、自分の婚約者が人の上に立つ者なのだ、という事を思い知らされた。

『はー、かっこいー……、普段はわりと軽薄で、妙にゆるい感じだけど、やっぱガチの、王子様、なんだなぁ……』

若干の婚約者バカも入りつつ、改めて、自分の婚約者を見直すロザリアなのだった。



式を終えた後は、一旦全員寮に入り、荷物を置いて小休憩を取る事と言われ、ロザリアとアデルは雑談をしつつ、寮へ向かっていた。


「お疲れ様でした、お嬢様、荷物はもうお部屋の方に運ばれている、との事です。」

「アデルもお疲れ様、退屈だったでしょう?自分とは関係の無いお話しを聞かされたんだから」

「そうでもないですよ?この学園の成り立ちとか、色々興味深い話も多かったです」

「1000年前の事なんて、ほぼ伝説と変わらないと思うけどねぇ、1000年間もずっと変わらずあんな入学式だとしたら、アデルはどう思……」



敷地内に同様のものがいくつかあるという寮の外観は、学園とは違って比較的新しく、貴族子女が多いことから、居住性を重視しているようだった。


「で、ここが3年暮らす部屋、と。中々良いじゃない」

「意外と広いですね、私の部屋まで用意されていると言われたので、もう少し狭いかと思っていました」


寮の部屋は上質であるものの、簡素で飾り気の無いものだった。侍女用の部屋も隣にあるが、大きさ以外はほぼ同等の部屋であり。均一化が徹底されていた。

部屋にあるのはベッド、クローゼット、ドレッサー、学習用っぽい机と、それとは別に来客用の小さなテーブル・椅子、と、一通りのものは揃っていた。


「なんだか徹底してるわね、貴族の上に魔力持ち、という特権階級意識をヘシ折りたいのかしら、まぁ私はこっちの方が好みなんだけれど」

ロザリアはベッドで枕を抱えるようにしてうつ伏せに寝っ転がっていた。


「お嬢様、お行儀が悪いし口調が少し粗雑になっておられますよ、もうここは社交の場同然と思うべきです、あと意外ですね、こういう簡素なのがお好みだったのですか?」

「だって、屋敷の家具って豪華すぎて、傷とか入れないように取り扱うの意外と気を遣うのよ?」

「だからこそ、貴族らしい慎重で優雅な立ち振る舞いが(はぐく)まれると思うのですが」

「別にこの部屋で暴れまわったりしないわよ?」

「部屋に入るなりベッドに飛び込んだのはどなたでしょうか?」

などともはや恒例となった気の置けない会話をしていると、ドアの外から金切り声が聞こえてきた。


(何なのこの部屋は! 私にこんなみすぼらしい部屋で暮らせというの!!)

(お嬢様! どうかお静かに! 外に聞こえます! )

(聞かせてやれば良いのよ! この私が不満に思っているのよ! )


「不満に思っておられるどこぞの貴族令嬢もいらっしゃるようですね……。お嬢様、どうなされたのですか? 枕を頭にかぶってベッドに顔をうずめてぷるぷる震えて、誰も昔のお嬢様みたいですねー、なんて言いませんよ?」

「言ってるでしょ! ああやだもう私の黒歴史が! 良いじゃないのこの部屋、ベッドは程よく大きいし枕柔らかいし、リネンも手触り良いし模様とか彫刻無いのを除いたらどれもちゃんと一級品なのに」

「くろれ……? まぁお嬢様はそういう見る目は肥えておられますからね」


(寮長を呼び出してきなさい!)(お嬢様、お願いですからどうかお静かに! この部屋とても良い部屋に見えるのですが!?)


アデルだけにまかせるのも気が引けるので、2人して荷物を解いて作業していると、またもや外から声が聞こえてきた。


「まだやってる……、さすがに口出しする気にもならないけれど」

「お嬢様の時とは違って、ねちっこくて長ったらしいタイプですね。ああいう問題を起こせば、何らかの処分が下されるものなのでしょうか?」


さすがに令嬢の方にあきれ返っていたロザリアは、自分と比較するアデルのコメントはスルーする事にした。アデルの毒舌や皮肉に悪気が無いのはいつもの事だ。


「強制退学はある、って話よ? その場合は、魔力そのものを剥奪されて、二度と魔法が使えなくなって、一般の魔法を使えない人と変わらなくされるそうだけれど」

「お嬢様も先ほど言われてましたけど、確かに徹底してますね、意図的なものを感じます」

「意図的、って、それは学校なんだから、そういうものではないの? 何か国がそういう意図を持って何かしようとしてるというの?」

「いえそんな大げさなものではないですよ、単に魔力にもお行儀よくしてもらおうというのを感じるだけです」

「ああそういう事……、どうして魔力に礼儀作法が必要になるのよ」

「個人の感想です、特に意味は無いので気にしないで下さい」


そして、その貴族子女のわめき声は、ロザリアが次の行事に向かう時まで続いたのだった。

『怒っちゃダメー、イラついてもダメー、あれはちょっと道を踏み外したウチなんだぞー。気を付けよう。この学校では平穏無事に過ごそう』

ロザリアは、あきれつつも、改めて心をひきしめ直すのだったが、その願いは、すぐにもろくも破られる事になるとは、夢にも思わなかったのだった。


次回 第20話「魔力測定を受けるわ、身体測定じゃないのよ」

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