第206話「ヒーローショー開幕!」
ヒーローショーを演じてもらう面々を集めたロザリアは、皆に詳しい説明をするべく王都の古着屋『神の家の衣装箱』に来てもらっていた。
「えー、それでは今からウチらがやるヒーローショーの説明を始めるからねー。正直マジで情報量多いから、気になる事あったらすぐに質問してね~」
「じゃぁ、はい」
「はい、シモン君」
シモンが手を上げて発言許可を求めた。ちなみにこの場にはいつもの3人の他にはロザリアと同じクラスで栗色の髪の男子生徒のシモン、亜麻色で細身長身の女子生徒カティア、黒髪で背の低いエリナ、
ヒノモト国からの留学生で黒髪赤目のサクヤ、エンシェントエルフで中性的な見た目のシルフィーリエルがいる。
「いや、そのヒーローショー? っての? 手伝うのは別に良いんだけど、なんだってまたそんな事を?」
「あーね、ウチも色々あって、子供に夢を与える事をしたいわけ、手伝ってくれたらマジ助かるんだけどー」
「あの、もう一つ聞いていいですか? 何なんだよその格好」
ロザリアは今現在ローズの姿だった。金髪碧眼に色の濃い肌に異国風の服装も相まって、最初シモン達は相手がロザリアだと認識できなかった。
「え? これ? 変装。ウチ王太子様にこの格好でないとこの店に出入りしちゃダメって言われてんのよ。
今のウチは留学生としてこの国で暮らしてるローズマリーのローズって事になってるのでヨロ~❤」
「はぁ、こないだの男装といい、色々やるなぁ……」
「王都で流行ってる話し方って、ロザ……、ローズさんが発端だったんですか」
「ふふふ、これで魔法も使える役者として貴族の目に留まり……」
呆れ返るシモンやカティアとは対照的に、エリナは異様に乗り気だった。ロザリアの格好が気にならないほどに。
ちなみに元々乗り気なシルフィーリエルはともかくサクヤは元々やる気がゼロだったので黙って見ていた。
「そんで、まず悪役の3人にはこれを身に着けてもらうからねー」
ロザリアがテーブルの上に広げたのは、黒いローブのような衣装で、じゃらりじゃらりと鎖がついていたりトゲのような飾りが付いているといういかにも悪そうなものだった。無駄にクオリティだけは高い。カティアが他にも置いてある巨大な剣や杖のような小道具の1本を手に取った。
「ずいぶん本格的ですね……、この模造剣とかどこから持ってきたんですか」
「中古屋街には色々あるのよー、劇団が解散した時の小道具とか。それに魔法の杖を組み込んでもらったりしてるの」
「小道具はともかく、どうして杖なんですか?魔法使えちゃいますよ?」
「使ってもらうのよ、ただし見かけだけのやつね」
「ああ、目くらましとか偽装の為に使うあれかぁ、それならレベルとかあんまり関係ないな」
シモンの言う通り魔法には普通に発動させるものと、魔力をあまり消費せずに見せかけだけのものがある。もちろん魔法使い相手には通じにくいが、それ以外の相手であれば十分な効果を発揮する。
「つまり、俺たちはこれを着て悪役をやれば良いってわけか? なんか妙な顔を隠す仮面もあるからありがたいけど」
「そゆこと~、あとは演出用に見せかけだけの魔法を使ってもらいたいのよ」
「まぁそれくらいならレベルとか関係無いし……」
「シモンが良いっていうなら別に私もかまわないけど、エリナは……、問題無さそうね」
「ふふふふふふふふ、これで役者として名を上げ、ゆくゆくは女優への道を……」
ロザリアは多少の不安はあるものの、3人の同意が得られた事に安堵しサクヤとシルフィーリエルの方を見る。
「で、お二人なんだけど~」
「はぁ……、もう何でも来やがれですわ。毎度の事ながらどうして私まで……」
「おひいさまも嫌なら断ればいいのに」
「断りたかったんですわよ! でもそうするとあの馬鹿母が『だったらおねーさんが出ようか!』と本気で出たがるに決まってるではありませんの!」
「レイハさんなら年齢がよくわからないし、最年長役として出てもらっても良かったと思うんスけどね」
「あの馬鹿母を人前に出したら調子に乗る上に、絶対にろくな事になりませんわよ!」
クレアの慰めにもサクヤは苛立ちを隠さなかったが、クレアやロザリアにもその状況は予想でき過ぎたので同情するしかなかった。
「あ、あーね、それなー……、マジサーセン? で、でー、2人には正義の味方役やってもらうから。はい、この服ねー」
ロザリアが出してきたのは白と翠色の騎士服のような衣装だった。袖口と襟元に金糸で刺繍が施されており、こちらも無駄に凝っている。
「意外とまともな服ですわね……、てっきり鎧か何か着せられるのかと思いましたけど」
「着てもらうわよ? 鎧」
「はぁ!?」
「いやほら、ウチがよく纏ってる鎧あるじゃん、あれ2人用に発注してるから。そんでお礼にそれあげようかな、って」
「ああ……、あれ。まぁいざという時邪魔にはならそうですわね」
「いやぁ、私は今回暇つぶしと思って参加するけど、ああいうものが貰えるなら大歓迎だよ。私はまだまだ未熟だからね、魔力に依存しない装備は有り難い」
「だから貴女は、いいかげん魔力を鍛えなさいと何度も……」
「あ、シモン君達にもお礼あるからね~。一人ずつ新しい杖作ってもらってるから、演技に気合をヨロ~」
「え、マジ!?」
「シモンさんにまで変な言葉感染ってるっス……」
という事で、平和を守る正義の戦隊『五星義勇団 グランフォース』のメンバーは揃った。
赤の戦士がローズ、青がクレア、黒はアデル、緑がシルフィーリエル、白がサクヤという事になっている。
ストーリーはざっくりと魔界から悪の女王が復活して悪さをするが、義勇軍の正義の戦いで必ず負ける。というものだった。
ロザリアは途中何とかして『ゴーレム使って巨大ロボを! できれば合体するやつ!』という要素をねじ込もうとしたが、そんな巨大なものを持ち出すと広場で演劇をする許可が採れなくなりそうだと言われ涙目で断念したのだった。
仕方がないので5人のメンバー全員の武器を合体させて巨大武器にするという要素はねじ込んだが。
「で、これがその合体用の武器なんだけどね?」
取り出されたのは大型の両刃の斧だった。何故か裏側の表面に様々な凹みや棒が立っている。サクヤが手にとって軽く振ってみる。
「まるで戦闘には使えそうにもありませんわね?木製みたいですわよ」
「これはアデル用の小道具なんだけどね?この子基本的には武器とか使わないから。
で、裏返して裏側の部品にそれぞれの武器を置いていくと、巨大な武器に見えるってわけ」
「……よくわかりませんわ、それに何の意味がありますの?」
「えーと、全員の力と心を一つにする、的な?これでないと相手の魔獣とか怪人を倒せないとかそんなので。
あ、思いついた。サクヤさんが仲良くしようとしないからその技が使えない、とかのお話をやろっか」
「え”」
「サクヤ様、大人しくしていた方が良いと思われます。でないとどんどんお話が広がって行きますよ?」
アデルが忠告するが、その顔は無の境地のそれだった。
「えーと、じゃあ最初は私がやる悪役の女王が王都に攻め込んできて宣戦布告をするけど、圧倒的過ぎて騎士団が手も足も出ないという出だしにしてー」
「騎士団から苦情が来そうっスね……」
「その時はお嬢様に相手をさせましょう。その騎士団の一隊を壊滅させた事もあった事ですし、誰も何も言えなくなります」
「あの、ロザリア様、騎士団を壊滅、って、一体何を!?」
「シモン様、世の中には知らない方が良い事もあるのです。良いですね?」
そう言うアデルの顔は能面のように無表情だった。シモンも「あっハイ」と返事をするしかない。
「いやーさすがロザリアさん、面白そうな事をやってたんだねー、居合わせたかったよー」
「嫌な予感しかしないですわ……。本当にこの劇大丈夫なんですの?」
ロザリア達はその後も野外で舞台を設置する為の機材を手配したり、演者で集まって練習・打ち合わせなどを行い、ついに本番を迎えた。
次回、第207話「あの……、ごっこ遊びじゃない演技って凄い痛いんスけど……」
読んでいただいてありがとうございました。
すいません、予想以上に準備の描写に手間取りまして……。
劇中劇って大変なんですね……。
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