204話「えーとまずは設定とか考えて……、毎年毎年こんなの考える人マジ尊敬するんですけどー。いやマジ凄くね?」
「おーっほっほっほ!」
「完璧ですお姉さま!悪役令嬢としてどこに出しても恥ずかしくありません!」
さて、ここで話はこの章の最初に戻る。ローゼンフェルド家のタウンハウスの庭園にロザリアとクレアの声が響き渡っていた。
しかしどこに出しても恥ずかしくない悪役令嬢って何だ、悪役じゃなかったのか。と、周囲は一斉にそう思ったが彼女達に突っ込める者は誰もいなかった。
人々に良識や道徳心を広める為にヒーローショーをやろうという事になったものの、悪役は誰がやるんだという事になり、
役者となる者もすぐには集まらない事からもまずはロザリアが悪役と戦隊レッド役の一人二役と決まった。
ちなみに、戦隊よりラ○ダーの方が人数少なくても済むのではという意見がクレアから出たが、
ロザリアの前世の『のばら』的には仲間割ればかりしている印象の多いラ○ダーよりは、一年を通じて絆を深めていく印象のある戦隊の方が好きだという事で却下された。
戦隊のレッド役には丁度王都で噂になっている『赤い銀仮面』の姿をそのまま使う事にした。認知度も高いので宣伝の手間が省けるというのもある。
事故に遭いそうな子供を助けた時はとっさの事だったので髪色しか変えなかったが、この際なので色々と決めた。
顔のベースはローズで性別を男性に変えて名前をローレンツとし、褐色の肌に赤っぽい金髪、 身長は175cmほどで体格は細身だが筋肉質、普段は冒険者をしているという事にした。ローズに似せたのは、場合によってはローズの兄という事にでもしようという思惑だ。
さて、では悪役の姿をどうしようかというところで、声だけ変えて化粧バシバシにすれば誰もロザリアだとわからないだろうと素顔で演じる事にした。
名前はどうしようと悩んでいると、クレアが「アンブロシアってどうっスか?ギリシャ神話で神々の不死性の象徴になってる果実の名前でー、そんでそんで」
と、前世からの中二病に火が着き始めたので「これは子供向けだからその辺で!」と、語呂は良かったので名前は採用した。
ではどんな感じかちょっとドレスを着てみてどんな感じか見てみようと侍女たちを呼ぶと、わりと悪ノリするローゼンフェルド家の侍女達がこれに乗ったのがまずかった。
前世を思い出す以前のロザリアが無理に着ていた人に威圧感を与えてしまう真っ赤なドレスを持ち寄ってきて、目鼻立ちをさらに強調して実年齢より10歳程も上に見せた化粧など、衣装が完成するとそこには悪役令嬢どころか悪の女幹部か女王が誕生してしまっていた。
その格好を見てクレアが「やっぱりこの格好には高笑いが必要ですねぇ」と、高笑いの特訓が始まってしまっていたのだった。まだ設定も何も決まっていないのに。
彼女たちはいつだってノリと勢いだけで突っ走っている。
「いやぁ、今日もロゼは自由だねぇ。私の想像を軽く超えてくるよ」
リュドヴィックはロザリアが妙な事を始めたというのを聞きつけ、いつの間にか姿を現して見物していた。ローゼンフェルド家のどこかに個人用の転移門を密かに設置しているというのは本当らしい。
普通こんなおバカな事をしていたら止めそうなものだが彼は止める気配も無い。むしろ楽しげに笑っている。
貴族らしさ、王族らしさに縛られ続けていた彼にとって、そういったものをあっさりとぶち壊すロザリアの存在は眩しくすら映るのだろう。
一通り特訓を終えた所で「はいリュドヴィック様、もう満足したでしょう。帰りますよ」とリュドヴィックはクリストフに引っ張られて帰っていった。
「完璧ですお姉さま!これで子供たちにはトラウマ級の思い出になりますよ!」
「トラウマというのが何かはわかりませんが、心に良くないものというのはわかります。しかし道徳的な心を啓蒙するものではなかったのですか?目的を思い出してください」
クレアが既に目的を忘れて手段が目的となりかかっているのをアデルがたしなめている。
アデルはというと今更ながら、なぜ自分はこんな事をしているのだろうか……と疑問を抱かざるを得なかった。
とにかく真面目に設定決めろやというアデルの一声で話し合いは再開された。
「んじゃクレアさんもアデルも男子になってもらうからね、正体隠す意味もあるけど」
「え?私は別に気にしないっスよ? 男子になる必要性ありますか?」
「こういうのはねー、男の子が食いつかないとダメなのよー。対象年齢は5~8才くらいを狙ってるんだけどね?ああいう年頃の子って、女子キャラに対して斜に構えるっていうか、格好つけて妙に避ける傾向あるのよね」
「お嬢様、その、女の子は良いのですか?男女同数にした方が良くないですか?あと対象年齢が低すぎるように思えるのですが」
「心配無いわよ、女の子は何歳の時だって格好いい男子が好きでしょ? だから格好いい男子キャラが出てくるなら何の問題も無いわ、だから男子多めの方が良いの。あと、そういう年齢だとお母様もくっついてくるから倍お得になるのよ」
アデルの心配にロザリアが前世の知識で答えていく。こういう事は商売として確立されていた事なのでこの世界では強みとなるはずだ。
「は、はぁ……。そういう所は妙に計算高いのですね……」
「引っかかる言い方ねー。まぁ良いわ、クレアさんはどんな感じにする?」
「っていうかお姉様ー、世界観はどんな感じにするんですか?キャラだけ決めても仕方無くないですか」
「んー、ある日突然魔界の女王か何かが攻めてきたー。とか?それを迎え撃つ感じであとは流れでー、じゃダメ?」
「ダメっす。お姉様、客をナメでないっすか?」
ロザリアの何気ない一言がクレアのスイッチというか地雷を踏み抜いたようだ。
「えっ、あのクレアさん?」
「お姉様、神は細部に宿ると言うっス。わかりますよね?別に物語に全部出せとは言いませんが、設定とか世界観がきっちり決まってるからこそ物語とか登場人物に違和感が無くなるんですよ。見てる側はそういうの敏感に感じ取りますからね!?特にお子様は一切空気読まないし、つまんなかったらその場で帰りますからね!?」
物凄い早口でクレアがまくし立てた。当然ロザリアもアデルも引き気味である。アデルは「こいつもこいつで面倒くせぇ……」と心の中だけで頭を抱えている。
「じ、じゃぁこの星……は通じないか、国を守る為に精霊とかに選ばれた感じにする? 魔法も出すつもりだし、私が赤だから火の精霊に選ばれた、とか?」
「はい良い感じになってきた! んじゃ私は青だから水の精霊、アデルさんは黒だから……、地の精霊とかで!」
「あのクレア様、地は黄色では」
「良いのよアデル、作り話なんだから現実との整合性は気にしなくて良いの、とにかく黒にするから」
アデルが突っ込むように、地の魔石は黄色に発光するのでそれが象徴する色になってはいる。
が、ロザリアは整合性よりは面白さを優先するタイプなので、勢いでアデルを押し切った。
「いえまぁ、たしかに私はどっちかと言ったら地の魔法力なのですが」
「そういえばアデルさんって属性魔法使わないですよね?見た事あるのは無属性ばかりっスし」
「……使う必要が今まで無かったからです」
「まぁそれは良いじゃない、んじゃ魔石を小道具にしてそれに選ばれた……となると黒い魔石つかうのはちょっと嫌よね。あれ魔界とかの由来みたいだし」
「一般の人にも魔石は一応魔石具の動力源として出回ってるっスからねぇ」
「うーん、あと思いつくのはこの杖くらいかしら。赤いし伝説の武器に選ばれた、的な感じで?」
ロザリアは先程悪役として使っていた自分の魔杖刀を手に取る。ドワーフ製のそれは無骨なのを除けば伝説の武器に見えなくもなかった。
「私の杖なら、まぁ魔法力調製すれば青く光らせる事もできなくは無いっスね」
「あの、私の魔杖弩は攻撃魔力を充填しないと展開しないので小道具には全く向きませんよ?」
「それじゃちょっと考えてる事あるから、それは使わなくて良いわ」
さて、延々考え続けた時点で一同は「これ……まずくね?」「こだわってる場合じゃ無いかも……」「一体私達は何をやっているのですか」という心境になりつつあった。
そもそも高笑いの練習などしている場合ではなかったのだ。
「考える事が……、考える事が多すぎる!ああいうの毎年作ってる人たちってマジ凄くね!?」
「あのーお姉様、私達の設定すら決まってないんですけど……」
「お嬢様……、どうするんですか、これ」
別にヒーローショーをやろうというのは単に思いついただけなので止めればいいだけのはずなのだが、こうなっては止まらないのが世の常だ。特に言い出した者がロザリアでは。
『ま……、巻いていくわよ!ここからは一気に決めるから!』
次回、205話「やる事が……、やる事が多い!!」「止まったら死ぬ魚か何かですかあなたは」
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