第203話「よし、メンバー集めよう」「また何を始める気なのですかこの人は」
「お姉さま、結構な噂になってますよあの”赤い銀仮面”」
ロザリアが人助けをするようになって数日後、学園の食堂で昼食を食べているとクレアが向かいに座ってきて話しかけてきた。
これでも一応きちんと学園には行っているのだ。週休3日なのでずっと遊んでいるように見えるだけで。
『余計な事言うなし!これでも前世の時から学校は真面目に行ってるから!』
「何なのよ、その赤いのか銀色なのかわからない呼び方」
「お姉さまのあの仮面の鎧姿ですよ、あっちこっちに現れては人助けをする正義の人ってので結構有名になってますよ?学園でも噂になってましたし」
「えー、そんな目立つつもりは無かったんだけどー。たまたま通りがかったら揉め事とか起こってたのを助けただけだもの」
ロザリアは本当に偶然、困っている人やトラブルに遭遇した時しかやっていなかったのだが、その頻度が多かったのだ。街を歩くだけでトラブルが向こうからやって来る状態だ。
正義の味方の真似事を初めてからは明らかにその頻度が上がっており、アデルが密かに『何故だ、どうしてこうなる」と頭を抱えていた。
「お姉様の揉め事に遭いやすい体質が思わぬ所で役に立ってますね」
「うーん、大事になる前にあまり姿見せなくなるようにしようかなぁ」
「それにしても、王都ってこんな治安が悪かったのかしら?」
放課後の自室でアデルにお茶を入れてもらいながら、ロザリアはつぶやく。
言われて見ればたしかにやたらとトラブルに出会うなーと、ここ最近を振り返っていた。
「人が多いだけに元々犯罪は多かったようですが、たしかに最近は犯罪が種類を問わず増えているそうです。
原因としてはこの間の姫猫祭で多くの人が流入して一定数が王都に残った為に、その一部が犯罪に手を染めているようですね」
アデルは他の侍女達と仕事を通して色々と情報交換をしていたようで、最近の王都内の事情についても知っていた。
ロザリアも休日は店などで働いてはいるものの、遊び回るわけでもなかったのでアデルの方が詳しいくらいだ。
「普通に働けばよさそうなもんっスけど、考えたらその人達って一攫千金夢見て猫持ってくるような人達だしなぁ」
「更には、王城が何度も襲撃された、という事も混乱に寄与しているようです」
「え? 何度も?オラジュフィーユさんが来たのと? この間の猫のあれ?」
「ついでに、どこぞの侯爵家の一家が城に殴り込んだ時のあれですね。
何故か近衛兵達が多数負傷して己の腕の未熟さを思い知り、退職する者が続出してしまって兵士数の均衡が崩れたそうですから。その影響で街中の警備が手薄になったそうです」
ロザリアは本当に心当たりが無かったのだが、アデルに言葉の棘で滅多刺しにされてしまった。というかその後の顛末を全く知らなかったのでさすがにちょっと罪悪感を覚えなくもなかった。あれはほぼ八つ当たりだったので。
「原因の一部はお姉さまにもあった、って事っスか……」
「ええええええ……」
「いわゆる『自分で家に火を付けた火事を自分で消す』状態ではありますね。お嬢様は自分の人助けを喜ぶのも少々考えものかと」
「アデルさんが厳しい……つらたん」
さすがに責任をちょっと感じたロザリアは、ちょっとだけ世の中の為に何かできないか腕を組んで考えてみる。アデルは反省していると思い何も言わなかったが、それは悪手と言わざるを得ない。こういう時のロザリアは大抵ロクな事を考えない。
『普段スルーしてるけどー、結構好き放題言われてるよねウチ』
「つまり、皆に犯罪をしないのが普通なんだ、と思わせれば良いんだけど」
「それはそうだとは思うんですけど、そんな方法あるんですか?」
クレアが少々不安な声を出してしまうように、この世界はある程度の秩序こそあるものの、それなりには戦乱も混乱もある。
冒険者ギルドが存在していて魔獣退治等の様々な問題解決に当たったりはするが、時にはその冒険者が犯罪者になったりするという危うさも身近に存在していた。
宗教も存在していて多くの人が毎週休日になると教会で祈りを捧げたりするのは、そうしないと道徳や良識というものが根付かないからでもある。
「よし、つまり、皆に犯罪をしないのが普通なんだ、と思わせれば良いのよね?」
「……何を思いつかれたのですか、お嬢様」
アデルは嫌な予感を覚えながらも聞かざるを得なかった。場合によっては自分が止めないといけないからだ。
「正義のヒーローを作れば良いのよ」
「ヒーロー、ですか?お嬢様が前世のテレビとかいうもので観ていたという?」
「そうそうそれそれ、前世の子供って小さい頃から『正義』とか『友情』とか『愛』を主題にした物語を延々観てたのよ、
おかげで、私達の前世の国は宗教色が一般生活では薄い割に、正義を守るのは良いことだ、って考える人が妙に多くて」
「アニメとか特撮ってそんなのばっかりでしたもんね、漫画とかゲームもか」
実際には番組内では結構仲間割れとかしてたりするが、だいたいは良い話風にまとめられてしまうので見ている側はあまり気にしなかったりする。
子供達もさすがにそういう空気は感じ取るけれども、目の前のヒーロー達の必殺技の方が遥かに重要な問題なのだ。
「そうそう、それに絡めて、『優しい心を持とう』という格言とかをメッセージとして乗せれば良いんじゃないかしら、毎週日曜日の朝にそういう番組をやってて、わりと多くの子供たちはそれ見て育つのよ」
「はぁ……、お嬢様達の前世は宗教色の薄い国、と言われますが、それが宗教なのでは……?毎週日曜朝の教会の礼拝とどう違うのです」
「え、あれ教会に行ってるようなもの?だったの?ニチアサ教?」
「あれが宗教の代わり扱いされるって……、日本らしいけど」
「お嬢様、案としては良いかはさておき、
わざわざ事件や犯罪を探して回って、解決したその場でそのメッセージというものを周囲の人々に伝えるというのは物凄く効率が悪いと思うのですが」
「探しに行かなくても良いわよ。ヒーローショーをやれば良いんだもの」
「あー、遊園地とかでやってたあれ、懐かしいなー、幼稚園の頃一度だけプ○キ○アショーに連れて行ってもらった事があります」
「あの、お嬢様、そのショーと、いうのは?」
次から次に話題が変わるのでアデルはついていくのがやっとだが興味はあるようで身を乗り出してきた。
『相変わらず好奇心は旺盛なのよねーこの子』
「要はお芝居よ、子供向けの。TV番組や映画、ゲームの登場人物の衣装を着た人達が劇をして、その物語の中で『悪は必ず滅びる』とかそういうメッセージを込めるの」
「はぁ、滅ぼす、というのも少々物騒ではありますが……、ちょっと待って下さい。誰がそのヒーローショーに出るのですか」
「え?私。だって世間で正義の味方って思われてるんでしょ?」
「お・願・い・ですから、これ以上ややこしい事をなさらないで下さい……、言っても無駄でしょうが」
アデルは失敗したと思っていた。ロザリアに余計な事を考えさせるべきでは無かったのだ、しかももう経験上止められないと悟っている。
「だからアデルさん、諦めが良すぎますよ」
「後は仲間よねー、青と黒はもういるから黄色とか桃とか白が欲しい所ねー。3人組のもいるのはいるけど5人は基本だもの」
「話聞けやおい。……お待ちくださいお嬢様、物凄く嫌な予感がするのですが、青とか黒というのは何なのですか?」
「え?シンボルカラーよ?メンバーはわかりやすくそれぞれ色分けされた衣装を着てるの。赤青黄白黒とか」
「色の話をしているのではありません!誰がそれをやるのかと聞いているのです!」
アデルは珍しく、いやロザリア絡みでは珍しくも無い気がするが、声を荒げてロザリアに詰め寄った。
ちなみにロザリアは『怒ってるアデルもかわヨ~』と特にどうでもいい事を考えてはいたが、わざわざそれを口にはしない。
「え?アデルとクレアさん。アデルが黒で、クレアさんが青」
「何となくそんな気はしてましたけど私もっスかー!?」
今度はクレアが慌てる番だった。てっきり自分は裏方か見ているだけだとばかり思っていたからだ。
そしてクレアもまた、ロザリアがもう止まらないのを悟ってしまった。
「良いじゃない、2人とも鎧を纏えるんだし、あれに適当な仮面被れば良いだけよ」
「世の中に侍女はいくらでもいるのに、このようなわけのわからない劇に出演させられるのは私くらいでは……?なぜ私がこのような目に……」
アデルは頭をかかえて机に突っ伏してしまい、クレアはそれをよしよしとなだめるのだった。
次回、204話「えーとまずは設定とか考えて……、毎年毎年こんなの考える人マジ尊敬するんですけどー。いやマジ凄くね?」
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