第201話「おめでとーございまーす、おねーさまー」「よかったですねー、おじょうさまー」
とある日の午後、リュドヴィックはクリストフを伴ってローゼンフェルド家を訪れた。
いつものようにふらっと現れたのではなく、今回はきちんと先触れをした上での正式な訪問だった。なのでロザリアの両親も立ち会っている。
滅多に無い事なので面白がったクレアもこの場にはいた。目立つつもりも無かったのでお仕着せ服でアデル達侍女やメイド達に混ざっている。
リュドヴィックの服装も普段のどこかラフなものではなく金銀の装飾も眩しい礼服で、その後ろには装飾の入った大きめの箱を持ったクリストフが控えている。
玄関の所で待っていたロザリアはリュドヴィックの普段とは違いすぎる装いに驚きながら応接室に案内した。
礼儀に沿って全員が着席した所で、クリストフが手に持っていた箱をリュドヴィックの前のテーブルに置いた。
「ロゼ、少々早いけど誕生日おめでとう。これは私の気持ちだ」
リュドヴィックが箱を開くと中から光が溢れ出た、反射しての光ではなく文字通り箱の中から光が放たれていた。美しい蒼色の石は中心の方に近づくほど濃い青色になり、まるで内部で炎が揺らめいているかのように輝いている。
「あ、ありがとうございますリュドヴィック様。……凄いですねこのネックレス」
リュドヴィックが贈ったものは夜会ドレス用にと作らせた魔宝石製のネックレスとイヤリングのセットだった。
ネックレスの本体は銀製の鎖や鮮やかな赤い金製の鎖を編み込んだ大ぶりのもので、中央には両端が尖った楕円のようにカットされた大粒の青い宝石が目のように2つ並び、ご丁寧に金で瞳まで作られて目というのを強調していた。
また、その周囲にも青や赤い宝石が散りばめられている豪華なもので、金額にしたらどれほどのものかは想像もつかない。
主に使われている青い宝石はよく見るものではなく、深い蒼でありながらうっすらと内側から発光していた。その光はネックレス自身を照らし、動かすごとに複雑な輝きを見せる。
イヤリングは逆に水の雫のようにカットした石のみ、という簡素なものではあるが、同様に光る青い宝石が使われているので、その輝きはロザリア自身を背後から睨みつけるように見えるはずだ。
どう見ても、「私はこの女性しか見ない、この女性を見る者よ心しろ、私もまたお前を見ている」という執着を形にしており、銀色の鎖に赤い色の鎖が絡みつくのは2人の髪がそういう状態になるという関係性の深さを表していた。
ロザリアは一目で見て嬉しさよりも、執着の深さに軽く引いていた。
また、それはロザリアの父親のローゼンフェルド侯爵も同様だった。
『いやマジ怖いんだけどー!アクセで執着ってここまで表現できるものなわけー!?』
「凄いわねえ、これって最近話題になっている魔宝石じゃないかしら? 魔石に魔力を込めて宝石にするそうよ?」
同席していたロザリアの母が感嘆の声を上げて興味深げに覗き込んでいる。その様子にリュドヴィックも満足気だ。
「さすがお詳しいですね、おっしゃる通りです。その宝石には私の魔力が込められておりますので、世界でただ1つの宝石です」
「あら、でも王太子様の魔力って上位属性の氷でしたわよね? 私が聞いた事があるのは一般属性のものだけなのだけど」
「ええ、ですので普通の魔石では対応できませんでしたので、私の方で用意いたしました」
用意させました、ではなく用意しましたと言った。一国の王太子が自分で用意したと。
『重い!マジ重い!想いの重さがパ無い!』
実を言うとこのネックレスはかなり短期間の突貫工事で作らせたものなのだった。
宝飾品工房のドワーフ職人に魔宝石とデザイン画を見せたところ、
「よかろう! 儂は何百年も語り継がれる宝飾品などに興味は無い、ただ一人の為に作られ、ただ一人を生涯飾り、その者が天に召された時には、叩き壊されるか共に墓の中に埋められる。宝飾品とはそうあるべきものなのだ!」
と、その思いの重さにリュドヴィックと意気投合してしまい、その工房全体が不眠不休で全身全霊全知全能をかけて創られた一世一代の傑作だったりする。本来なら国宝物だ。
『だから重い!ガチで!説明しなくて良いから!』
実を言うと使用されている魔宝石や赤い色の金もリュドヴィックはかなり苦労して手に入れたもので、結局素材だけで城が5つ建つ程の価値があるが、彼はそんな事はわざわざ言わない、
贈り物さえ見てもらえれば自分の気持ちは全てわかってもらえる、とわざわざ言わなかった。男というのは往々にしてそういうものなのだ。
だが、そういうものは口にしないと相手の女性には伝わらないものであり、ロザリアが今後もそれを知る事は無いのだろう。
『ちょっと待って!? このネックレスが出来上がるまでマジ何があったの!? 受け取るの超怖いんですけどー!?』
リュドヴィックは最初に身に着けさせるのは私だ、とさっそくネックレスとイヤリングをロザリアに手ずから身に着けさせ、その輝きにご満悦だった。
「あ、ありがとうございます……? とても嬉しいですわ?」
ロザリアの方はアクセサリー絡みの事情を色々と知ってしまい色々と察したが、察しきれない部分や情報が多すぎてどうも語尾に疑問符がついてしまう。
周囲の侍女やメイド達も最初はアクセサリーの豪華さに見惚れて羨望の眼差しを向けていたが、通信用の魔石具で連絡を取り合ってネックレスやイヤリングのデザインの意味を考察し始め、意見交換していくごとに微妙な気分になっていく。
そのうち『あれ、ヤバくね?』『だってあのデザインそう解釈しかできないわよ?』『どう見てもお城いくつも建つくらいの価値あるけど、それって普通じゃないよね……』『引くわー』『うちのお嬢様の事を好きというのにも限度があるよね……、うわぁ……』という秘匿会話があちこちで繰り広げられていた。
なのでその場には何とも言えない空気が漂い、笑っているのはリュドヴィックとロザリアの母くらいだった。
仕方ないので拍手でもするかと皆は手を叩くが、ぺちぺちと音まで微妙になり空々しく侯爵邸内に響き渡るのだった。
クリストフもまた、このアクセサリー絡みの騒動からようやく開放されたとヤケクソ気味に拍手していた。
「おめでとーございまーす、おねーさまー」
「よかったですねー、おじょうさまー」
クレアとアデルも一緒に手を叩きながら、棒読みでロザリアを祝う。
ロザリアは祝われて微妙な気分になるのは始めてね……、というか祝いじゃなくて呪いじゃないかしらこれ……、と遠い目をしていた。
次回、新章突入 第16章「悪役令嬢と異世界ニチアサヒーローショー」
第202話「異世界ヒーロー誕生……、ってウチ女子なんですけどー」
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