第200話「氷の魔宝石」「はい帰りましょうねリュドヴィック様、リュドヴィック様? リュドヴィック様ー!?」
「一応、礼は言っておく。ありがたくいただかせてもらう」
リュドヴィックは足元の魔晶石を手にとってみた、といっても片手で持てるものではないので抱え持つようになっているが。その石はリュドヴィックの魔力を受けて淡く光っている。
「礼はいらん、というわけにもいかないかな?私の方も面白いものを見せてもらった。しかしお前も面白いな、婚約者殿が属性を超えてオラジュフィーユに主と認められかけるだけはある。
同じ属性のよしみだ、何かあったらいつでも頼るが良い」
「これ以上借りを作ることはしたくないよ。私まで神王獣の主にならないか、と言われるかと思った」
「あいにくと私は遥か昔に主と定めた者がいたのでな。だが安心しろ、お前はその者と比べてもなかなかに面白いぞ。」
自分の血筋やら何やらを一切無視して自分を評価してくる姿勢はリュドヴィックにとっては慣れないものではあったが、悪い気分ではなかった。
「人間性を面白いか面白くないかで判断されてはたまらんな。ではそろそろ失礼させてもらう」
「くく、そう警戒するな、ではオラジュフィーユ、またな」
「ああ、次はいつになるかわからんがな」
「オラジュフィーユ様はアルデフラクタス様には会う機会があまり無いのか?」
精霊郷からの帰り道、リュドヴィックはオラジュフィーユに尋ねた。どうも神王獣達は互いのつながりが薄いように思えたからだ。
「我らはこれでもそれぞれの仕事があるからな。私が彼と出会ったのは今から1000年以上は前で、しかも先代の時の話だ」
「なんとも気の長い話だな……」
神王の森に戻るとウェンディエンドギアスが出迎えてくれた、とはいえ向こうで過ごした時間はこちらでの一瞬との事なので、彼女にしてみれば行ってすぐ帰ってきたように見えるはずだが。
「お帰り、またでかいのをもらってきたなおい」
「正直言うとここまで大きいものをもらうつもりは無かったのだが。まぁ今回は魔宝石に加工してもらうのでどれくらいの量が要るかわからないし。ちょうど良いのかもしれないが」
「おいリュドヴィック、わかっているとは思うが、あまり変な事で我らに頼るな。色々とそういう因果というのはついて回るものだ」
「ああ、さっきのはさすがに自分でもギリギリだった。今後は気をつけるさ」
リュドヴィックはウェンディエンドギアスやオラジュフィーユに礼を言うと、その足でドワーフ王国の工房でドワーフ王に魔晶石を見せた。その場には地の神王獣ステラフィスもいた。彼は代替わりしたばかりのせいか寝てばかりいるものの、さすがに何日かに1度は起きてくるらしい。
「ドワーフ王、貰ってきたぞ、これなら問題無いと思う」
「おお王太子殿、ギムガルから聞いてはいたが早いな! しかしでかいなこれは……、相当な数の宝石が作れてしまうが」
「結構大きな魔晶石だね、お兄ちゃん気に入られたんじゃないの?」
ステラフィスの言葉にリュドヴィックは微妙な表情になった。積極的に気に入られたいとは思えない相手だったからだ。
「好かれても後々面倒くさい事になりそうなんだがなぁ」
「まぁまぁリュドヴィック殿、これならギムガルもやる気を出すだろうさ、改めて頼んでみると良い」
工房に持って行って魔晶石を見せると、予想外の大きさだったのかギムガルは目を丸くしていた。
「こんな早くどこから持ってきた!? 神王獣の本体からえぐり出したわけではないだろうが、それでもかなり貴重だぞこれは。宝石にしてしまうのはもったいないくらいだ」
「そうか? 魔宝石に変えた後でも大きさがそんなに変わらないというなら、私はその半分でもかまわんぞ。礼として半分を魔晶石のままの状態で進呈しよう」
「お前、こいつの価値を知らないのか? これ1つで城が建つぞ」
「城になんぞ興味は無いし、金はもっと興味無い。私は婚約者の為に最高の宝石が欲しいだけだ」
リュドヴィックの答えを聞いて、ギムガルは心底呆れた表情になった。だが嫌いな考え方ではなかった。
「徹底してるな……、よし、半分をこちらにもらえるというなら、ドワーフ最高の宝石職人を紹介してやる。良い腕だぞ」
「それは頼もしい。かまわないよ、どうせ私が貰ってきたものだ」
「リュドヴィック様、もういい加減人を紹介してもらうのはやめてはどうですか……?」
「何故だ、ドワーフ最高の職人ならばこれ以上望めないくらいだろう。会うだけは会ってみようじゃないか」
「いやそうではなくてですね」
さすがにこれ以上妙な人の所や場所に行くことになってはたまらんとクリストフは止めに入るが、それを聞くリュドヴィックではなかった。
「そんな事よりさっさと魔宝石を完成させるぞ。まずはこちらの分け前として半分に分割する。その片方にお前さんの魔力を込めてくれ」
「もう片方には魔力を込めないで良いのか?」
「今は地の神王獣の魔晶石を研究中だからな、込められても放っておくしか無いから魔力が放出されて消えてしまう」
納得してリュドヴィックは分割された半分に魔力を込め始めた。魔力量は上位属性なだけあってかなりあるとは思っていたが、いくらでも注げそうな感じだ。
魔力が尽きた時が怖いなと思いつつ魔力を込めると、魔晶石は淡く光り出し、その光が強まると青白く光る石となった。
「さて、魔力は十分溜め込まれているな。実験用に指先くらいの大きさを切り出してこの装置で処理するわけだ」
ギムガルはそれを受け取ると魔法石を作れてしまうという装置の前扉を開けた、操作を始めると動き始めたらしく低い振動音のようなものが聞こえてきた。
「時間がかかるのか?」
「その心配は要らん。魔石をほんの少し変質させるだけだよ。だがこれだけの質の魔晶石を処理した事が無いからな。まずは小さな破片から実験していく」
「失敗が続くと後が怖いな」
「その時はこっちが受け取るはずだった分を減らしてでも完成させる、ドワーフの意地にかけてでも成功させるから心配するな」
言うだけあって魔宝石への処理はそれほど時間もかからず終わった。さすがに最初の数回は扉を開けると破片が転がっているだけだったが、五回目に扉を開けると中から光る宝石が取り出された。
その宝石は美しい蒼色の光を放ち、中心に近づくほど色が濃くなって内部で炎が揺らめいているかのようにも見えた。
ギムガルはそれを手に取ると、しばらくそれを眺めた後リュドヴィックに差し出した。
「どうだ?これが氷の魔宝石だ。世界でただ1つだぞ」
「素晴らしいな、正直言うと宝石は見慣れているはずなのにこういうのは見た事が無い」
「それは何よりだ、じゃあそれを見本として渡すから、さっき言った儂らの仲間の職人の所に持っていくがいい。
あ、こっちの魔力込めていない方は最終的にどれだけの大きさの魔宝石が来るかの見本になるからこれも持っていけ。後で返してくれたら良いから」
ギムガルは残りの分も処理を続けてくれるとの事で、リュドヴィックは魔宝石を持って工房を出る事にした。
こういう時のリュドヴィックは行動が早い。工房を出てすぐ紹介されたドワーフ最高の宝石職人の元へ急いだ。
「ここが宝飾品の工房か?先程教えてもらったドワーフの名前が書いてあるが」
「リュドヴィック様、もういい加減その辺にした方が。持って帰って普通に仕立ててもらえれば良いじゃないですか?」
「いや、この際だからロザリアの為には手間暇を惜しまん、行くぞ」
「普段色々とやる気無いくせに、どうしてこういう事は……」
クリストフは諦めて付いていくしかなかった。こういう時のリュドヴィックは止められないのを知っていたからだ。
「紹介を受けたものだ!お邪魔する!」
「ああ!?邪魔するなら帰れ!」
やっぱりこんな奴が出てくるのか……、とクリストフは天を仰いで嘆くしかなかった。
その後もリュドヴィックの旅は続く。
「たのもぅ!火の神王獣殿!ちょっと話がある!」
「あの……、そろそろ本当に限度というものをですね」
まだまだリュドヴィックの旅は続く。
「お前がエンシェントフレイムドラゴンか」
「いい加減にしろ!身体と命がいくつあっても足りん!」
まだまだクリストフの受難も続くのだった。
次回、第15章最終話
第201話「おめでとーございまーす、おねーさまー」「よかったですねー、おじょうさまー」
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