表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/303

第199話「自分との戦いとか言われても困るんだが……」「一度酷い目に遭ったらどうです」


私はリュドヴィック・グランロッシュ、一応王太子なんてものをやっている。正直言うと肩書なんて要らないのだが……。

それでなくても血縁だけで色々面倒くさいのに、その上に肩書をぶら下げたがる者の気がしれない。

そんな事を公言すると「恵まれた者の傲慢」と言われかねないから、口に出さないくらいの処世術は身につけているが。

何故こんな事をつらつらと語っているかというと、現実逃避でもしないと現在の奇妙な状況で正気を保てそうに無いからだ。


今、眼の前にもう一人の”私”がいるのだから。


二重存在(ドッペルゲンガー)という怪現象があるな。いわく、もう一人の自分と出会うと死ぬ、または災厄の前触れとなる。というあれだ。

実際に出会ってみると、物凄く生理的に受け付けないものなのだな……。なにか良くない事が起こると思いたくなる気持ちがわかる。

婚約者ロザリアへの贈り物として魔法石というものを教えられ、製作してもらおうとツテを辿っていくうちに、

どういうわけか精霊郷の水の神王獣の所にまで来るはめになってしまった。

むろん何の代価も無く手に入るとは思っていなかったが、いきなり『もう一人の自分に勝ってみせろ』と言われたのだ。

地面から湧き出した水が私の分身を作り出したように見えるが、もうどう見ても水の塊には見えない。

姿格好はまるっきり私の服装と同じ、腰にぶら下げている剣もだ。嫌だなぁ、正直争うのは面倒くさい。

あまりにも水の神王獣に本音を正直に言い過ぎたか?今からでも何とかならないかな。


「いや、突然言われても困るのだが。もう少し他の手段は無いかな?」

「安心しろ、相手は斬られても水に戻るだけだし、お前を切った瞬間にも水に戻るだけだ。だが、機会は一度しか与えん」

にべもなくアルデフラクタスに断られてしまった。戦う前からやる気を見せなさ過ぎたか。いや実際決闘なんてやる気は無いんだが。しかも相手は自分。


何故こんなにも面倒くさがるというと、私は私自身が物凄く面倒くさい奴、というのを誰よりも自覚しているからだ。

特に話し合いなんて絶対に、などと思っていると偽物の私が牽制するかのように水の矢を放ってきた!

初級魔法のはずのそれは物凄い勢いで飛来してくる。考える間も与えずいきなりか、私に対して話し合いが通じないと見切ったな。だろうな、私でもそうする。

私は常日頃護身用の魔石具を身に着けているから、この程度は自動で防御されるからこれは牽制狙いだな。

もしくは『お前の言う事なんて聞かないからな!』という意思表示か。

しかしこの魔石具が発動するという事は大丈夫かこれ。さすがに当たり所が悪かったら死ぬぞさっきのは。


「おい! アルデフラクタス殿!本当に大丈夫なんだろうな!?」

「さぁ? 確認してみたかったら一度受けてみればどうだ。安心しろ、即死しない限りは私が治療してやる」

物凄く楽しそうなのが腹立つな。しかも『即死しない限りは』というのはどういう意味なんだ。即死したら死ぬのか。なんかこの文章は。やはり私はかなり混乱しているようだ。

あ、相手も私の心情を読み取ったのか何発も水の矢を放ってきた。氷の矢程の威力ではないが連発して私の精神力を削りに来たな。

私も消耗したくないので水の盾を生成して防ぐが相殺させるのがやっとだ。いくつもの盾が生成しては消えてを繰り返す。

このままではきりが無いな、とこちらも水の矢を放つが同様に防がれる。どうやら実力はほぼ同等らしい。


「なら剣術はどうだ!」

私は魔杖剣で斬りかかってみるが相手も同様の杖で受ける、その太刀筋は全く自分と同じだった。続けさまになんども斬りかかってみるが全て受け止められる。まずいな、このままでは勝負がつかない。

まさに鏡写しだ、鏡に向かって稽古をしているような気分になる。自分が同じ動作を繰り返せば繰り返すほど、相手も同じ行動を取ってくる。

ならば、と私は相手の足元に小さな水の渦を発生させ足を取らせようとする。しかしこれも同じように避けられた。というか私の足元にも同じものがあるな、避けなくては。


「おい水竜よ、あれでは互いに疲れて終わりではないのか?」

「自分を乗り越えるというのはそういう事だ、あるのか無いのかわからない壁を、今の自分の力だけで乗り越えないといけないのだからな」

外野は気楽なものだ、オラジュフィーユとアルデフラクタスは私達の戦いを眺めながらそんな感想を述べている。

気楽に言ってくれるなぁ、確かに越えられない壁というものは越える為にあるとは思うが、私は回り込んででも壁を避けたい人間なんだぞ。

その後も何度も牽制し合うが、相手も私も面倒臭かりなのか慎重なのか大技を繰り出すでもなく膠着状態は続いた。


しかしこうやって向かい合っていると、私の顔はえらく冷たい印象を受けるのだな。

いやまぁ余計な人間関係をこれ以上増やしたくなかったから、寄るな触るな近づくなという雰囲気をいつも出してはいるのだが、自分で見てもちょっとこれは無い。

今後はちょっと考えようかな、いや、私は何としても廃太子してもらってだ、それこそフェリクスのように悠々自適で暮らしたいんだ。ちょっとうらやましいぞあいつの今の状況。


しかし、時間が経つごとに状況はほんの少し変化を見せてきた。相手が私の動きと微妙に変わってきたのだ。私の予想からもほんの少し外れた行動を取ってくる。

相手は私と同じ考えをするとはいえ、全く同じ動きをするわけではないという事は、同じ人間であっても行動は変わっていく。という事か、興味深いな。

それもそうか、今この瞬間にも経験した事は私と偽物では異なる、もうあいつは私と同一人物ではないのだな。

今どのような行動を取るか、少し深めに切りかかってみるか?いや、相手もそれを考えたようだが思いとどまったようだ。

下手に斬りかかってもどうせ受けられるから無駄な事は止めておこう、というのは私と同じ考えだな、判りやすい。


いっそ「こんな事は無駄だし、お前は偽物なんだから負けて終わりにしないか?それが一番合理的だろう」とでも言ってみるか?

いや、そんな事を言ったら絶対にムキになって私に勝とうとするだろうなぁ、私は負けず嫌いだし。

あ、向こうも同じ事を考えたな……、「自分が偽物だろうが私は私だ、負けるなんて嫌だ」とでも考えたんだろうな。面倒臭い男だな私は! 私でも同じ事を考えるけれども!

だがまぁ、ロゼの為だ、これくらいの壁は越えても良いだろう、そういえば、ロゼならどうするかな……、!

よし、閃いた。というよりこれ以外に勝つ方法が思いつかない。私とあいつが同一人物であっても、そもそもこの勝負に対する動機が異なる。やってみる価値はあるはずだ。



私は氷の槍を何本も、いや何十本も空中に生成した。それこそ自分の魔力の限界に挑戦する勢いで。

それを全て叩き込む!

思った通り、偽物は同様に魔力を込めた盾を作り出して受け止めたな、私は構わず次の矢を放つ! 私は次々と魔法を放っていった。

防御する相手も同様に消耗する。私の方はおそらく次が限界を迎える。この一撃が効果無ければ私はもう打つ手が無くなる。

相手はというと、思った通り同様に魔力を込めた盾を作り出して受け止めようとしている。だが、やはり元々の慎重さが災いしてほんの少し余力を残している。

そこがお前と私の差だ。私はロザリアの為に何としても魔晶石を持ち帰りたいが、お前は我が身と、その下らない自尊心を守りたいだけなのだからな。

私は遠慮なく最後の一発を相手に放ち、それは相手に防がれた。私はほぼ魔力を使い果たしてもはや武器は杖しか無い。

当然、相手は残った魔力で氷の槍を生成して私に止めを刺そうとしてきた。


この一瞬が勝負だ。私は杖を握りしめ、相手が己の中の魔力を励起させようとする兆候を捉え、己の魔力と同調させた。

そして、いつだったかロゼが神王の森のレイハ殿に仕掛けたように、相手の魔力を引き剥がし、自分の方へと引きずり込んだ。

魔力は高いほうから低い方へと流れ込む、この差を分けたのは、私のロザリア・ローゼンフェルド侯爵令嬢への想いと、己の下らない自尊心を守ろうとする性根の違いだ。

私は私の愛する人への為なら、自分などさっさと捨てて見せる。私のロゼへの執着の深さを甘く見ないで欲しい。

私は引き剥がした魔力を己のものとしたが、私自身のものだけあって実に馴染むな。

勝負はあっけなく付いた。私の氷の槍が偽物の胸を貫くと、相手は水の塊となって崩れ落ち、地面の水たまりとなった。


パチパチと拍手する音が聞こえたので視線を向けるとアルデフラクタスだった。

面白い見世物でも見たような表情だが、私は面白くはないぞ。無傷だが魔力はほぼ空だからな。

「なかなかやるではないか、普通は慌てふためいて自分を追い詰めてしまうものだが、あえて全力を出してそこに活を見出すとは」

「そんな事はどうでも良い、魔晶石を作ってもらえるんだろうな?また試練の追加とか言われても私はこの通りだが」

「もう作ってあるよ、そこだ」

見ると、先程の水たまりの中央に青白い石が転がっていた。かなり大きいな。子供の頭くらいはある。

「隨分大きいが良いのか?」

「構わんぞ、小さなものではとても足りるまい?お前の執着はかなりのものだろうからな」


次回、第200話「氷の魔宝石」「はい帰りましょうねリュドヴィック様、リュドヴィック様?リュドヴィック様ー!?」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

いいね・感想や、ブクマ・評価などの

リアクションを取っていただけますと励みになります。

作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ