第18話「王立魔法学園への入学、そして、乙女ゲーム……スタート!」【挿絵】
王立魔法学園の城門程もある巨大な校門から、古めかしい石造りの校舎に続く石畳の歩道に桜の花びらが舞う、が、ロザリアはその道を歩きながら、その光景に今更ながら違和感を覚えた。
『……ここって、一応ヨーロッパ風の世界、よね? 桜の木があるのはともかく、よく考えたら4月に入学式って、たしか欧米は8月とか9月からのような……?』
どう見ても日本式の光景であるが、深く考えてはいけない、元々のゲームでもそういう事になっており、日本人が考えた日本らしい入学式の光景となると、結局こうなるのである。
『あーね、魔法もあるような世界でさー、今更さー、実際の欧米との違いをどうこう言っても仕方ないんだけどさー、なんかさー』
前世の『のばら』としての記憶から来る納得のいかなさを覚えながら、ロザリアはそれを気にしないことした。
「お嬢様、いよいよご入学ですね、おめでとうございます」
「ありがとうアデル、まぁここへの入学は魔力持ちにとっては、ほぼ義務なんだけれどね。アデルだって魔力があったら、ここに通う義務があるのよ?」
「私は……魔力は、ありません、から、無理ですね」
「まぁ魔力持ちは国民の2割くらいしかいないらしいから、別に無くても不思議ではないのだけどね?」
アデルはロザリアの学園での侍女として来ている。学園は王都にあるので通う事に問題は無いのだが、全生徒を平等に扱うという事で生徒は全員寮に入れられるので、身の回りの事をできない貴族子女のために1人だけ付ける事を認められているのだ。
制服もどちらかといえば平民に合わせて一人で脱ぎ着できる作りで、装飾やワッペンも華やかな紺色の上着に白いブラウス、色で学年を見分ける幅広のネクタイ、ふくらはぎまであるロングスカートは前をヒモで締めるコルセットスカートになっていた。
ロザリアは門を通り過ぎてしばらくすると、脇の方で待つ事にした。まだ早めの時間という事でこちらにくる生徒はまばらだ。
「それで、お嬢様はここで、どなたを待っていらっしゃるのですか?」
「ちょっとね、会っておきたい人がいるのよ」
そう、ロザリアはこの先、自分の運命に大きく関わるであろう、このゲームのヒロインを待っていた。ゲームのパッケージでおぼろげながら顔は知っていた。
『とりあえず、仲良くなっておかないとねー、ゲームの事は良く知らないけど、悪役令嬢の役割はとにかくその子を邪魔するか、嫌がらせするってものらしいし。そうならない為にもきちんと顔を合わせて、せめて悪い事はしないよと理解してもらわないと』
場合によっては自分の婚約者を攻略されてしまい、婚約破棄からの破滅エンドもある、という事から、ロザリアはとにかくそのヒロインと敵対しないようにしよう、と心に決めていた。
「うわぁ……古そうな建物……」
しばらくすると、一人の少女が校門の前に現れた。やや低めの身長に肩にかかるピンクブロンドの髪、紫の目、という華奢で現実離れした色合いの美少女であった。
その少女は、歴史と伝統を感じさせる重厚な校舎や学園の雰囲気に、正直飲まれそうになっていた。が、自分を送り出してくれた故郷を思い、己を奮い立たせた……が、やはりちょっと肩身が狭かった。
なのでちょっと身をすくめるように門をくぐったのだが、それを見とがめた者たちがいた。たまたま近くにいた貴族令嬢らしき3人組だ。
「ちょっとあなた、勝手に入ってきては困りますわ! それにその立ち振る舞い、もしかして平民なの?」
「貴族でもない平民がここに来られると思ってますの? 伝統あるこの学園にふさわしくありませんわ!」
「人を呼ばれる前にその門から出ていくことね!」
「わ……私はきちんと入学許可をもらいました! 本当です! え? あれ? 3人だけ? どうして?」
「何をわけのわからない事を、人数が何ですの? 許可だかなんだか知りませんけれど、さっさと出て行って下さらない? 人を呼びますわよ!」
「お待ちなさい!」
一同が驚いて振り返ると、そこにはロザリアが立っていた、
つかつかとアデルを従え歩いてくるその姿の、高位貴族の令嬢らしい気品と有無を言わせない凛とした雰囲気に飲まれ、その場の誰もが何も言えなくなっていた。
「その人は間違いなく、この学園に入学できる資格がありますわ、ご存じ無かったの? 前もって固有魔力の登録が無い者がその校門を通ると、脇の詰め所に警告が行くのよ? 衛士の方々がきちんと確認しておりますわ」
ロザリアの言葉は本当だった、自分の時もアデルがそれに検知され、衛士に身分を明かすために、父である侯爵の書状と、衛士詰め所に保管されている名簿との照合が必要だったからだ。
また、校門の所に控えていた衛士も、わざわざ詰め所から出てきて、こちらに手を上げて問題無いと合図していた。どうやらよくあるトラブルのようで、慣れっこのようだった。
『こーゆー身分とか、せっかくの権力を弱い者いじめに使うようなのは、マジで許せないんですけどー!』
ロザリアは前世で子供たちとよく見ていたニチアサ番組の影響で、弱い者いじめが大嫌いだった。ので、徹底的に子女達を追い込んでいく。
「貴女方こそ、この学園に本当にふさわしいのかしら? 入学前の説明を受けていないの? この学園で学ぶべき事は、魔力でこの国に奉仕する心だと、それに性別はおろか身分の上下は一切関係なく、その理念に反するものは、国家に背くのと同じだとご存知ないのかしら?」
ロザリアは暴力に訴える気は無かったので、できるだけ優雅に諭すようにふるまったつもりが、若干悪ノリが入ってしまい、どう見ても遥か高みから下々を見下すかのような感じになってしまい、
特に最後の国家に対する反逆に該当する、の部分は、優雅に微笑みを浮かべたつもりだったが、「お前ら破滅させるぞ」とばかりの物凄く悪い笑顔だったので、貴族令嬢達は震え上がった。
ロザリアに圧倒されて何も言えなくなった貴族令嬢達は、ロザリアに頭を下げて謝罪するのもそこそこに、捨て台詞すらなく慌てて校舎の方に去って行く。
『よし!今のは正義の味方っぽかった!ウチ格好いいぞ!』いや、どう見ても悪役そのものだったと思う。
「さて、ちょっと怖い目に遭ってしまったわね、でももう大丈夫よ。ようこそ王立魔法学園へ、とは言っても、私も今日からここの生徒なのですけれどね」
「ロザ……リア・ローゼンフェルド……? 私を、助けてくれた? え? え? どうして!?」
「あら? 私の名前をご存じだったの? どうして?」
「僭越ですが、いくらこの学園内では平等のお立場とはいえ、お嬢様の名前を敬称も無く呼び捨てるのはいかがかと思います」
いつの間にか、ロザリアの後ろに控えていたはずのアデルが、少女の背後に立っていた。ロザリアすら気づかない一瞬の間に。珍しく怒っている様子である。
「ひいっ! アデル!? ご! ごめんなさいいいいぃぃぃぃ」
「!? 私の名前まで!? あ! ちょっと!」
自分の名前を呼ばれた事で驚いてしまい、対応が遅れたのか、アデルは少女の手を掴もうとして空振りになり、少女は校舎に走り去っていった。
「お嬢様、あの方、ですか? お会いしたかったのは、一体、何者……」
状況を掴み切れず、アデルは毒気を抜かれた様子で、ロザリアに質問する。
「ええ、そうなんだけど、思っていた状況と全然違うのよね」
「はぁ……」
「いやいや素晴らしいね、私の婚約者殿は、見事なものだったよ。人の上に立つものの見本のようだったよ、ロゼ」
声と拍手がした方を見てみると、制服姿のリュドヴィックが校門をくぐってこちらに来る所だった。後ろには当然のように側仕えのクリストフもいたが、彼の方は騎士風の服を着ていた。
あの状況を見てこの感想、リュドヴィックもかなり婚約者バカが入っているようである。
「ごきげんよう、リュドヴィック様、べ、別にそういうわけでは、当然の心構えを説いただけですわ」
「おや? 他人行儀でちょっと寂しいな、クリストフから私の登校時間をわざわざ聞いてきたと言われたから、私を待ってくれていたのかと思ったのに」
「あ! いえ! それは待ってたというか、いえ、リュドヴィック様より後に来ると、新入生として示しがつかないと申しますか」
「ははは冗談だよ、とりあえず今日はここで顔を合わせられた幸運に感謝するとしよう、さて行こうか、ロザリア嬢」
リュドヴィックはす、とダンスのお相手を乞うように手を差し伸べてきたので、思わずロザリアは手を重ねてしまう。リュドヴィックはにこりと笑って、その手を自分の腕に組ませ、歩いていくのだった。
リュドヴィックの方は上機嫌で歩いていくが、隣のロザリアはそうはいかなかった。
「あ、あの、これではまるで夜会でのエスコートのようなのですが」
「たいした違いはないだろう? 気にしない気にしない」
「私は気にします!」
「あまりからかうのもかわいそうだね、ほら、これで良いだろう?」
腕を組むのはやめてもらえたが、手は離してくれず、いわゆる恋人つなぎというやつで、引っ張られ気味に校舎までの割と長い道を歩いていく羽目になった。
『あ~制服のリュドヴィック様ヤバ! 普段の服よりちょっと幼く見えて、年齢近いのを意識してしまう! 手も、大きい!はぁ~~~、やっぱ、しゅきぃ……』
これはこれで気恥ずかしいにも程があり、真っ赤な顔でもじもじと歩くロザリアは年齢相応に初々しく、先程の悪役令嬢然とした姿とはまるで別人のようであった。
尚、本来の乙女ゲームではここがオープニングとなる。
≪救世の乙女と聖なるパートナー ~愛の力で魔王女退治!~≫
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OPTION
乙女ゲームの、開幕である。
次回 第19話「入学式って、結局さー、校長先生のお話しの内容を何も覚えてないよねー?」