第193話「止まった時間の中で」
一同はアグニラディウスに”敵の目的”を告げられても困惑するしかなかった、何しろ相手は1000年前の存在で、伝説の中の登場人物と変わらなかったからだ。
聞いておいて改めて問い返すリュドヴィックの声も自身が無さげだ。
「魔王女、ですか。今も生きていると? 1000年も前の人ですよ?」
「”あれ”は御柱で押しつぶすように封印されたからな、御柱はこの世に打ち込まれたクサビであり支える柱だ。
クサビが刺さる境界は世界の狭間でね、あちらの世界でもこちらの世界でもない。時間も空間も切り離されて止まっているのだよ」
生きて、いる。1000年前の災厄の張本人が。それが復活するという事はこの世の終末と言っても差し障りが無い。リュドヴィックは言葉を失ってしまった。それは他の者達も同じだ。
いくら大元の原因がこちら側であったとしても今更1000年前の王国を糾弾するわけにもいかず、差し迫った脅威としての魔王女に危機感を覚えてしまうのは仕方がないだろう。
4柱の神王獣を除く全員がこの世を取り巻く状況を理解した所で、改めてアグニラディウスが口を開く。とはいえその口調は元ののんびりしたものに戻っている。
「状況の説明はこんな所でいいかな?それではこれからの事を話し合うとしよう。われらとて座して見ていただけではないのだ、精霊神様含め様々な手を打ってはいたんだけれどね。例えばそこのロザリア、キミだ」
「え」
「まぁ突然言われても戸惑うだろうね。彼女の魂はこの世界の輪廻の中のものではない、とある世界より目的を持ってわれが召喚したものだ」
続く言葉にロザリアは心当たりがあった。どう考えても自分の前世の事だ。
「あまり詳しくは話せんのだが、この世界を変えて行く事を期待しての事だったのだ。実際、期待以上だった。」
「ロゼ、君はいったい」
「あ、あの……」
「そこまでだ王太子の坊っちゃん。本人が話したくなったら聞くが良い。誰にでも話したくない事の1つや2つあるだろう」
オラジュフィーユがそう言葉を発した瞬間、世界が色を失い、白黒映像のようになってしまった。
「え!? あれ!? みんな止まってる!?」
「あ! お姉さまは動けるんスね?」
動いて言葉を発しているのはロザリアとクレアだけだった。
「事情が事情なだけに、われらだけ異なる時間の流れに移動した。内緒話はここでするとしよう」
声がした方向を見ると、アグニラディウスがひらひらと手を降っている。その横ではアルデフラクタスがダブルピースをしているが、反応に困るのでロザリアは見なかった事にした。どうも神王獣達4柱とロザリア・クレアだけが別の時間に居るらしい。
いきなり前世の話らしき事を振られたのでどうしていいかわからなかったロザリアにとっては有り難かった。ロザリアはアグニラディウスに礼を述べつつ頭を下げる。
「あ、あのー、さっきの話って、私の前世の事、ですよね? どうしてまたそんな事を?」
「おいおい、そんな不審に思わなくても良いだろう。この世界の常識の枠を飛び越えた発想をする人材が欲しかっただけだ。その為にわれの加護も与えたしな」
「え、加護、ですか?」
「うむ、火の魔力を特に強く宿しておるだろう?あと何にしても資金力が要るだろうからな。侯爵家の令嬢に転生する魂に選んだのもそうだ」
『マ!?みんなこの女神様系な人が仕組んだ事だったわけ!?』
「あ、あのー、とんでもない事が次から次へと語られているんですが、それ、本当に私達が聞いてしまって大丈夫なのですか?」
「この世界の運命がかかっておるのだ、さっさと現状を認識してもらいたいからな。そしてクレアもだ。キミもまたこの世界の改変を願って呼び寄せたのだが、どうも予定と違ってなー」
アグニラディウスの言葉に今度はクレアが反応する。こちらも心当たりしか無かった。
「もうわかってると思うけどね、力が強すぎるのだよ。世界を変えるどころか下手をすると世界そのものを滅ぼしかねない」
「あのー! それでちょっと思うんスけど! この力本当に強すぎるので何とかなりませんか!? いや本当に!」
「われらもつくづくそう思っているのだがな。外的要因で叶わぬのだよ。”外なる神々”のな」
「何ですか、その”外なる神々”っていうのは」
「要は”異世界”の神々だ。この世界に別世界の神を召喚して救いを求めようとした者たちがいる。そしてそれは一部で成功したようだ」
彼女の視線の先にはリュドヴィックがいるが、彼に聞いた所で今は何も答えられないだろう
『え、リュドヴィック様も何か関係してるワケ?』
ロザリアはそれについて今一度質問しようとしたが、クレアの声に阻まれた。
「あの! 何度も質問してすいませんけど、その外なる神っていうのがどうして私に関係するんですか?」
「だから、光の魔力だよ。あれは周期的にこの世界に現れる聖女という存在に与えられる力なのだがな。それに外なる神が関わっておる」
「その外なる神っていう神様と神王獣様達で話し合ったりできないんですか? せめて力を弱めて欲しいって」
クレアは余程自分の強すぎる力が嫌なようだ。学園を吹き飛ばしかけた事があるので仕方無い事なのだが。
「難しいな、我らの創造主たる精霊神よりも神格が上なのだよ。なので何を思し召しかも推し量れん。
何をお考えになってその強大な力を与えたかはわからんのだ、闇の魔力に対する特効力として産み出されたんだとは思うんだが」
「なんて迷惑な……」
「だがまぁ好都合なのではないか?その力が無ければ窮地に陥っていたのも1度ではあるまい」
「まぁそうなんですけどー。何か一言あっても良いんじゃないですか?もしくは私が文句の一つも言いたいんですけど」
「まぁまぁ。何かあれば向こうの方からお言葉がかかるだろうさ」
「さて、内緒話はこれくらいにするか、そろそろ通常の時間に戻るぞ。何か他に聞きたい事はあるか?」
「あ!あのー、この世界って私の前世のゲームの世界にそっくりなんですけど、何か関係あるんですか?」
「そっくりも何も、そのものの世界だ。それもあってキミ達の魂をこの世界へと呼び寄せた」
「え」
クレアは自分で聞いておきながら、予想外の答えで一瞬固まってしまった。
「世界というものは無限に存在し、どこにでも存在する。それは大きさの問題でも場所の問題でもない。すぐ目の前の空間に、別の世界が極小の大きさで存在している事もある。
ゆえにキミ達が遊戯していたモニターというものの中に世界があっても別におかしくはない。そのゲームの中で人は生き、笑い、泣い、誰かを愛して結ばれ死んでいく。
そしてその中の世界は少しずつ改変され、形を変えていく。そこには現実と何の違いもあるまい?」
一見もっともらしい事を言われたように聞こえるが、クレアにしてみれば納得できるものではなかった。自分がゲームの中の存在と言われたようなものなので。
「えー、でもそうすると、私達ゲームの中の人物に転生しちゃったって事になりませんか?」
「まだ少々わかっておらぬようだな。”ゲーム”の世界を低く見ておるようだが、世界に優劣など存在しないのだよ。どの世界も同じように人が生きている。そこには上下も何もない。
「でも、そのゲームってちょっとした会話とかを選んで戦うだけのものですよ?
実在している世界とは全然規模が違うんですけど」
「それは世界の表面か部分しか見えていないからだよ。そこに『ある』と思えば世界は存在するのだ、認識できていないだけで、そこには人が生きて暮らしている。
その”ゲーム”は大勢の者達が想いを込めて制作にたずさわり、大勢の者達が遊戯の中で異なる人生を生きるのだろう?
神々が『かくあれかし』と世界を生み出し、人々がそこで生きて神々を崇める。それと何の違いも無いのだよ」
アグニラディウスの言葉はクレアにとって衝撃的だった。今までそんな事を考えた事も無かったからだ。しかし自分たちが現に今ここで生きている以上、信じ難くてもそれを否定する事ができない。
「とはいえ、キミ達の影響が大きすぎて、この世界はかなり元の”ゲームの世界”と違ったものにはなってしまったがな」
「あの、それって良い事なんですよね?」
「かなりな。元のゲームの通りお前たちと同じ存在がのほほんと恋愛事だけにうつつを抜かしていたら、ある日突然この世界は滅びていた」
「ええー、でも元のゲーム世界ではそんな事何も言ってませんでしたよ?」
「認識できていなかっただけで、そのゲームの中でも我ら神王獣は存在しておったし、御柱機構も存在しておった」
「なんだか目の前の世界が信じられなくなってきた……」
「まぁそう難しく考えずともよい。『そんな事もあるのだな』くらいに留めておけ。
しょせん人の身では認識もできぬし、干渉もできぬのだ、ではもう良いな?通常の時間に戻すぞ」
次回、第14章最終話
第194話「うーん、色々な事が出すぎてよくわかんないんですけどー」
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