第191話「神王の円卓」
「え? 私も? どして?」
「あとで説明するが君はもろに当事者なんだ、出る義務があると言っていい。クレアもだ。さて今から向かうか”神王の円卓”に」
「ええ!? 今からですか?何の準備も無く!?」
「心配しなくていい、こことは時間も空間も違う所だからこちらからは一瞬で到着するし、こちらの時間では一瞬で終わる」
そう言うと地の神王獣オラジュフィーユは壁の方に歩いていく、誰もがペースに飲まれて無言の中リュドヴィックが声を上げた。
「ちょっと待て! どこだか何だかわからない所にロゼを連れて行かないでもらえるか!」
「リュドヴィック様……」
その言葉にロザリアは思わず嬉しさを表情に滲ませてしまうが、 オラジュフィーユはそれに構わずに言葉を返す。
「だからお前も来い、言ったろ? 我の主の代理も出席しないといけないと、主の兄なら丁度良い」
「え?あー」
「我をここまで出張らせてきたそのお返しと思ってくれ、何すぐ終わる。ほら行くぞ地竜」
「えー、僕ちっちゃいから抱っこしてよー」
「横着するな、人間態になれば良いだけだろうが」
「えー、面倒くさいなぁ」
地の神王獣がくるりと丸まると、一瞬光った後にそこに立っていたのは少年だった。5才くらいだろうか?栗色の髪に整った顔立ちではあるが眠そうな目、
衣服は鱗上に布を縫い合わせた貫頭衣のようなものを着ている。
「はーい、というわけでボクが地の神王獣、アナンダルガラージャのステラフィスだよ、よろしくー」
「おおー可愛いー!」「マジ可愛いー!」
ロザリアとクレアがステラフィスを見て大盛りあがりになり、何故か当のステラフィスもそれに乗りハイタッチをしていた。こういうノリは伝染するようだ。その光景を見ていたドワーフ王があっけにとられながら話しかける。
「……これが地の神王獣? 様? ですか? これだと見た感じただの子供にしか見えませんが」
「えー、それは風竜ちゃんも似たようなものでしょ?」
「我もだが代替わりしてからの年齢が一応出るからな、あ、ドワーフ王はちょっと待っていてくれ。すぐ終わる」
「さて、そろそろ行くぞ、門を開く」
「え、他の神王獣様は?」
「既に招集済みだ、向こうで待ってるから行くぞ」
オラジュフィーユが改めて壁に向かったところで、いきなり行って大丈夫なのかとロザリアが尋ねたが事も無げに返された。
壁の方に手を出すとその先の壁近くに巨大な扉が出現した。扉の表面は文様がいくつも浮き彫りになっており、重厚な印象を受ける。
扉が重々しい音を立てて開き、向こうの壁が見えるはずがその中は真っ暗だ。
その中を向こうから歩いてくる者がいた。背が高く白銀の鎧をまとった端正な顔立ちの青年だ。背中には大きな白い羽根が4枚生えていた。
長い金髪をなびかせながら歩く姿は天使のようで、現実離れした雰囲気さえ感じられる。一同が緊張して見守る中ステラフィスを見ると納得したようにうなずく。
「復活したようだな地竜、ついて来るがいい、他の者もだ、お前達の創造主や皆が待っている。」
「はーい」
ステラフィスは手を挙げて答えるとさっさと門の中に入っていった。羽根の生えた青年は既にどんどん戻っていくので皆は慌てて追いかけた。
門の中は暗い空間で通り道の床だけがうっすら光っている。歩きながらロザリアが気になった事をオラジュフィーユに気になる事を尋ねた。
「あ、あのー、オラジュフィーユ様、神王獣様達の創造主っていったい? 主とは違うんですよね?」
「決まっているだろう、精霊神だ。我らは世界の精霊力を監視・管理する為に使わされた存在だからな」
「え?あー、クレアさん?ゲームにこういう場面は……」
「あるわけないっスよ……」
「ですよねー」
クレアの答えにロザリアは肩を落とす。いくらなんでも色々と展開が急すぎる。
「あ、あの、もう一つ教えて欲しいんですけど、あの羽根が生えた人って何者なんスか?」
「人間界の常識で言うならいわゆる天使という奴だ。精霊神の更に上の存在にお使えしておられる」
「はぁ、上には上がいるって事っスね……?」
クレアはこの世界の事なら何でも知っていたつもりが、世界の構造だの精霊神だのと知らない情報だらけで混乱していた。
それは後ろを歩くリュドヴィックやクリストフも同様だった。ちなみにクリストフもアデルも『来るな』とは言われていないので自主的について来ていた。
「リュドヴィック様、私の想像が正しければ、あのお方は教会のシンボルにもなっておられる至高神の使いの天使様では……?」
クリストフがぼそっとリュドヴィックに耳打ちをする。リュドヴィックも同じ事を考えていたのか無言でうなずく。
『マ!? ウチらって今、前世で言うと教会の十字架にくっついてるあの人系な存在に会っちゃったりしてるワケ? 状況がイカツいにも程が無い!? 誰か助けて欲しいんですけどー!! 神様ー!』
だから今その神様的な存在に会いに行こうとしているのだ。
「この先は必要に応じて使われる空間だ。まぁ神王界とでも呼ばれているな。ほれ、着いたぞ」
オラジュフィーユが言うように道を抜けた先は円形の大きな会議室のようになっていた。四方八方に扉があり、ロザリア達はその1つから入室したようだ。
円形の会議部屋の中央には巨大な円形のテーブルが鎮座しており、椅子がいくつも等間隔に並べられている。
そして、ロザリア達がやってきた扉の真向かいに、真っ赤な髪の女性が座っていた。
「ほほう、ようやく来たか、われら全員が集まるのは2000周期ぶりくらいだのう」
その女性は赤い髪と瞳で肌の色は褐色だ。年齢は20代半ばと言ったところだろうか? しかし、その見た目とは裏腹に言葉遣いが古臭い。
服装は金色の豪華な刺繍も眩しい真っ赤なワンピースで、胸元がこれでもかと大きく開いている。
「おやおや、ずいぶん可愛らしくなってしまったな。地竜君」
そう声をかけるのは水色の髪をした男性だった。整った顔立ちだが、その表情はどこか冷徹さを秘めていながらも微笑んでいるように見える。
また、ステラフィスのような鱗状の衣服ではなく、まるで古代ギリシャ人が来ていたような布製のゆったりとした衣服を身に着けている。
部屋に入るとオラジュフィーユやステラフィスは席が決まっていたのかさっさと椅子に座るが、他の者達はどうしたら良いのか分からない様子で困っていた。すると正面に座っている赤い服の女性が声をかけてくる。
「くく、そう緊張するな、別に取って食ったりせんし、むしろわれらを助けて欲しいと思っておるのだぞ?」
「そうそう、私達の存在が威圧的かも知れないけれど、そこにいるオラジュフィーユやステラフィスと似た存在だからね?」
「無駄に威圧感を出すからだ。もう少し存在を抑えられんのか」
いかにも楽しそうに笑う赤い服の女性や、水色の服を着た男性がそう話すのにオラジュフィーユが苦言を呈している。
「われらは数十万周期を生きておるからな、少々加減がわからんのは大目に見てくれ、まぁ座るがいい。
さて、呼んでおいて自己紹介も無いのは失礼という奴だな、われは火の神王獣、アルケオザラマンデルのアグニラディウスだ。
ラニたんと呼んでくれてかまわぬぞ」
「そして、私は水の神王獣、クリュスレヴィアタンのアルデフラクタスだ。
アルきゅんとでも呼んで欲しい」
威厳のある様子からあまりにも気安い呼び名の提案をされても困る、この世界は歳を経るとそういう傾向にあるのかもしれない」
『呼べるか! 迷惑すぎるわそんな傾向!』
「はぁ、えーっと」
「まぁ突然呼ばれて混乱するのも無理は無いなロザリア嬢、まずわれらが何者かを話しておこうか。
われらは主たる精霊神に使える神獣だ。地上に遣わされてそれぞれの担当する精霊力の監視・管理をしている」
「はぁ、いつもお勤めご苦労さまです。神そのものではないという事ですか?」
「ありがとう、と言っておくよ。そういう事だ、力の代行者だね。あの方々の力は強すぎるから管理しやすいように分かたれた力の断片が我々だよ。
さて、今回集まってもらったのは他でもない、この世界の崩壊と消滅についてだ。まぁ座ってくれよ」
「え”」
次回、第192話「あのー、ウチただの元ギャルなんですけどー……、話のスケール、大きすぎない?」
読んでいただいてありがとうございました。
GWは更新時の瞬間的なアクセス数がエグくて身が引き締まる思いです。
基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。
いいね・感想や、ブクマ・評価などの
リアクションを取っていただけますと励みになります。
作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。