第190話「異世界はともかく因果律? 世界の衝突? あかん……、ウチの脳が悲鳴上げてるんですけど……」
「我々は、この『船』に乗ってこの世界に渡ってきた、という事なのか……?」
ドワーフ王のみならず、さすがに話のスケールが大きすぎるのか皆呆気に取られている。
「まぁそういう感じかなぁ、でも今は眠いから話は後にして。後でいっぱい遊んであげるからもう少し寝させて……」
「おいこら起きろ、誰もお前に遊んで欲しいとは言っとらん」
オラジュフィーユがまたもや強引に地の神王獣の口をこじ開けようとするので、さすがに2度目は嫌なのか神王獣は抵抗する。
「ちょ、ちょっと待って! わかった起きるから!」
「最初からそうしろ」
「ま、まぁ風の方の神王獣様、寝起きなのですからそのへんで。
その我々がどこから来たのか、という所をもう少し詳しくお聞かせくださいませんか?そんな事が実際可能なのですかな?」
「私からも質問です。おかしくないですか? 地の神王獣様はドワーフ様達の守護聖獣なのですよね?
ですがその地の神王獣様は1000年以上前に既に地下の実験施設で魔晶石になっていた、と。
片やそのドワーフ様達はそれより後にこちらの世界にやってきたというのでは時期が合わないと思うのですが」
ドワーフ王どころかアデルまで質問していたが考えてみればそれは気になる所だ、そもそも誰がこちらの世界の神王獣に頼んだのかという事になる。
「あー、それね、ドワーフちゃん達が住んでた世界とこの世界って凄く”近い”んだよ。大昔から何人も来てたよ?」
「はぁ……、ちゃん。世界に近いも遠いもあるのですかな?」
さすがのドワーフ王も突然別の世界と言われても理解の範疇を越えてきたようで、聞き返すのが精一杯だった。神王獣は目を擦りながら欠伸をして、頭を爪でポリポリ掻きつつ説明を始める。
「ん~? あるよ? ほんのすこしのズレで世界って分岐しちゃうから、例えばこの場にいる1人だけがいない世界だってあるよ」
「なんだか物凄く壮大な話になってきましたが、今もその我々が来たという”近い”世界というのはあるわけなのですか?」
「いやぁ? 多分消えちゃったんじゃないかな? 因果律の衝突が起こるとかなんとか言ってたから」
ドワーフ王はなんとか話についていこうとしているが、元々技術畑ゆえにどんどん増える情報量の多さにそれも限界だった。それは周囲の面々も同じだ。
「次から次と単語が増えるので申し訳ないのですが、その因果律とは? その衝突という意味も我々はわからないのですが」
「普通はそんな頻繁に起こる事じゃないんだけどね? いわゆる”この世界の運命”って奴だよ。1つの世界が変わると”近い”世界にも影響与えちゃうからね。
その”近い”世界がたまたま相反する因果律を持ってると、力の弱い方の世界が消えちゃうの」
「消えるって、そんな魔石灯を点けたり消したりじゃあるまいし、世界が消えてしまうなんて事が起こりうるのですか?」
「正確には消えるというより飲み込まれちゃうんだよね。片方の世界の事象が少しずつ変わっていって、ある日片方の世界に変わってしまうみたいな」
「えーっと、すいません、それ当人達って気づくんでしょうか? その、世界が変わったって事に」
さすがに言葉を失ったドワーフ王に変わりクレアが質問した。
前世の創作物でパラレルワールド等の概念は知ってはいたけれども、それとも違った感じだと思ったからだ。
「だーかーらー、気づくも何も、片方の世界に飲み込まれちゃうんだよ。存在そのものが消えるか変わっちゃうの」
「……寒気がしますな、世界ごと滅ぶのと変わりが無い」
「普通はまず起こるような事じゃないんだけどな。そのドワーフ達がいた世界は余程運が悪かったようだ」
ドワーフ王が身震いするとオラジュフィーユが説明を補足するように話す、彼女もまた神王獣だけにそういう知識はあったようだ。
クレアが何故今まで話してくれなかったのかと聞くと、
「我は大襲来以降の生まれだからな、知識としては頭の中にはあっても体験を伴っていないから、誰かに教えてもらうか聞かれないとその記憶が出てこないんだ」
との事だった。
「なるほど、だからこそ我々は逃げる為に種族ごと世界を渡ってきた、という事か」
「そういう事だねー、ドワーフちゃん達がやって来たらこの世界も大きく変わって弾き飛ばされて、事象空間での位置も大きく変わって安全になったと思うんだけど」
「……その事象空間というのは?」
気を取り直して誰に言うともなく呟いていたドワーフ王だったが、地の神王獣の口からまたもや謎な言葉が出てきてしまった。
「うーん、あくまで概念なんだけど、世界そのものが球状になってるとして、それが無数にふわふわ浮いてる空間を想像してよ。
で、世界の中で何が起こったかによってその空間上での世界の立ち位置が変わるの。
種族1つが異世界転移してきたなんて大事件が起こったら、当然大きく因果の慣性力で位置が移動するんだよ。だから全く違う世界の近くに移動して安全になったと思うんだけど」
「おそらく数百年は安全だったようだがな、1000年前に普通は起こらない事が起こってしまった」
地の神王獣の説明に何か思い至ったのか、オラジュフィーユが溜め息混じりに言い、
その言葉に今までのんびりした雰囲気だった地の神王獣が慌てる。
「え?どういう事?」
「弾き飛ばされた世界の先に、たまたまこの世界と相性の悪い世界があったんだろうな、そこから1人の人間がこの世界にやってきて大騒ぎになった」
「あ! 大襲来ってそれが原因だったんですか」
オラジュフィーユの言葉にクレアが小声で反応する。言うまでもなくその相性の悪い世界とは『魔界』なのだろう。
「えー! ちょっと風竜ちゃん! 僕まずい事しちゃった!?」
「地竜だけの責任じゃない、我も今記憶が出てきたがあれは当時の神王獣全員の決定によるものだからな、我の先代も合意しての事だったんだ」
「ちょっと待って、今この世界ってどうなってるの?まずくない?」
「ようやく状況がわかったか? 寝てる場合じゃないぞ。それを話し合う為の”神王の円卓”だ、出ろ」
「えー、またやるの?面倒くさい」
「あの、風の方の神王獣様、何ですかな?その”神王の円卓”というのは」
「おいドワーフ王いい加減その呼び方なんとかならんか? 我の名はオラジュフィーユだ。
なに、単に話し合うだけだ。というのはこの世界には妙な事が起こりつつあるからな、我らとしても静観はしていられなかった、そこへ彼の復活だ。全員そろったなら集まって話し合おうという事になっていたんだよ」
神王獣はその名の通り、神代の時代から精霊力の理を管理・守護する為の存在で、神の代行者だった。
自然四大属性と同じく、地水火風の4柱がいるのだという。
「我は大襲来以降に代変わりして間がない若輩者だし、そこの地竜に至ってはつい先程再生したばかりではあるのだがな。
それぞれが受け継いだ記憶を基に話し合おうという事になっていてね。前回は地竜が欠席のまま開催された1000年前のものだ」
「それとだ、それに出席してもらわないといけない人物が何人もいる。まずはロザリアとクレアだ。あと我の主なんだが、まぁこれは代理人でもいい」
『マ!?ウチも!?』
ロザリアは突然指名されて驚くしかなかった。
次回、第191話「神王の円卓」
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