第189話「地の神王獣の目覚め」
「えっと、この子、が、神王獣?」
「……そのはずだ」
そこにいたのは全長30cm程の大きさで、亀の甲羅のような丸っこく鱗のある身体、ワニガメのような厳つい顔立ちに、眠そうな目の亀にしか見えない何かだった、というか寝ている。
ロザリアは目の前の存在をどうも信じられず、ドワーフ王も自分で目覚めさせておきながらあまりにも威厳の無い姿に自信が無いようだ。
リュドヴィック達も見た目のイメージが違いすぎて言葉を失っていた。
「ちょっと、可愛いっスよ、ね?」
「うーん、ギリ有りよりの可愛い?系?」
「クレア様、口調。お嬢様もです。ですがこれはその……何というか」
「お前ら神王獣に対して敬意のかけらも無いな。一応最強の地帝竜の幼生体だぞ」
オラジュフィーユが好き放題言うロザリア達に呆れていた。一応ドワーフ達の守護神獣なので。
だがその守護神獣はひたすら惰眠をむさぼっていた。が、耳元でロザリア達が騒ぐのがうるさいのか、まぶたがピクピク動き出した。
「あ、お姉さま、目を覚ましたようですよ」
「ふああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
その神王獣(?)は盛大に大きな欠伸をしたあと、
「……ぐー。」
二度寝した。
「……寝よったぞ」
「あの、どうするんですか、これ」
「怒りを買うとかいう話はどうなったんだ……」
予想外の状態にドワーフ王が眉間にシワを寄せ、ロザリアもどうすればいいのかわからない。
リュドヴィック達は呆気に取られていて、クレアに至ってはツボに入ったのか笑い転げている。
アデルはそんなクレアの頭をぺしっと叩いていた、そんな彼女も肩が震えている。
「あの、神王獣? 様? 起きていただけないでしょうか」
先程の緊張感はどこへやら、緩みきった雰囲気にドワーフ王がさすがに格好がつかないとぺちぺち背中の甲羅を叩いて起こそうとするが全く起きる気配はない。
「あのー! 起きていただけませんかねぇ!?」
ドワーフ王はついに神王獣(?)を持ち上げ、ゆっさゆっさとゆすり始める。だがそれでも全く反応が無いので困惑するしかない。さすがにあんまりなのでオラジュフィーユが割って入って助言してきた。
「おいドワーフの、さっきのもう一回やれ。もう一度ぶっ叩け」
「は?……よろしいので?」
「お前、魔晶石の時はあれだけガンガンぶっ叩いておいて今更それ言うか?いいからやれ、こいつはそれくらいでは何ともない」
「いや、はぁ……」
さすがのドワーフ王も見た目が生き物になった状態ではやりにくいらしく、最初は両手で広く持って水平に構えたままコン、とハンマーを当てた、その手が止まる。
「何だ!? この感触は……。叩き壊せる気がしないぞ」
ドワーフ王が手に伝わった感触から相手がとんでもない硬度だというのを理解し、今度はかなり強めにハンマーを振り下ろした。
どう見ても小さな動物を叩き殺そうとしているようにしか見えないのでロザリアやクレアはちょっと目を背け気味だったが、ガツンッ!!と、先程の一撃よりも大きな音が響き渡る。
が、当の神王獣(?)の背中の部分は傷一つ付いておらず全くダメージを受けていない様子だった。むしろハンマーの表面が凹んでいた。
「あのー、風の方の神王獣様、さっきの魔晶石の時以上に硬くなってますぞこれ。もはやこの世でこれを破壊できるものは無いんじゃないか?」
「これではいつ目覚めるかわからんな、おい地竜の。」
オラジュフィーユがぺちぺちと神王獣(?)の頭を叩くが、反応は無い。
「起きんかこのねぼすけ!」
さすがにイラッとしたオラジュフィーユがかなり強めに魔力を込めた状態で頭をぶん殴るが、どうも神王獣(?)の反応は薄い。
「ん~~~? な~~~に~~~?」
「起ーきーろー! と言っておるのだ! まったく千年以上も眠ったままのやつがあるか!」
「えー? あー、なんだ風竜ちゃんか、おやすみ」
「だから起きろ! また1000年眠る気か!」
「んー、まだ眠い。あと50000年だけ寝かせて……」
「こ、こやつは…」
あと5分みたいなノリでとんでもない年月が出てきた。イライラを通り越して軽く切れたオラジュフィーユは力ずくで起こす事にした。
手に魔力を込めて魔力の塊をつくると神王獣(?)の頭を掴み、口をこじ開けてぽいっとその中に放り込む。魔力はその口内で爆散して爆風が身体の中を駆け巡り、ばふおっと口や鼻、耳から煙が吹き出て、神王獣(?)は身体を痙攣させている。
さすがにあんまりじゃなかろうか、とロザリア達もドン引きしていた。神王獣(?)は身体をピクピクさせながらもようやく顔を上げる。
「あー、もう、何? 気分良く寝てたのに」
「お、お初にお目にかかります地の神王獣様、私はドワーフ王国の国王を務めさせていただいております、」
「んー? あー、ドワーフちゃん達? なんか覚えてる。実験上手く行った?」
「は? 実験、ですか?」
地の神王獣は寝ぼけた様子でドワーフ王に答えるがドワーフ王は何の事かわからない。
「そー、覚えてないの? 先代の僕にわざわざお願いしに来たのに」
「そ! そのお願いを教えて頂きたいのです。なにせあれから1000年以上も経っておりますゆえ、何も伝わっていないのですよ」
「えー? 僕も寝てる時にお願いされたから詳しく覚えてないなぁ、世界を越えるとか何とか」
「世界を、越える?」
「そー、世界を越える動力源が欲しいからって、一度魔晶石の状態になって欲しい、って言ってたでしょ? もうそれ以上は覚えてないけど」
「その、世界を越える、という意味がよくわからないのですが?」
「言葉どおりだよ、世界が滅びそうだから一族をこちらに呼び寄せたい、って言ってたよ?」
「世界が、滅ぶ……? 別の世界?」
「なんだか凄そうな言葉が出てきましたけど、ドワーフさん達って別の世界からやってきたって事っスか?」
「ここは、我々を運んできた『船』という事になるのか……?」
ドワーフ王は茫然と施設を見回している。
『種族ごと異世界転移してきた、って事?ドワーフさん達の昔の科学力ってイカツ過ぎない!?』
次回、第190話「異世界はともかく因果律?世界の衝突?あかん……ウチの脳が悲鳴上げてるんですけど……」
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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、
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