第188話「あ、死んだなこれ」
「思っていたより小さいな?」
リュドヴィックの言う通り、台座のようなものに載せられていた魔晶石は一般的に見る魔石の類からすれば規格外に大きいが、例えばドラゴン形態のオラジュフィーユの胸の中にあったものと比べるとあまりにも小さい。
地の神王獣のものだというそれは直径1m程で質感は琥珀のような石に見え、形状はほぼ球体で表面はリクガメの甲羅のようにごつごつしたウロコ状になっている。
「いや取り出した時は物凄く大きかったぞ? ちと扱いにくかったので運び出す前に圧縮させたんだ」
「圧縮、って……」
「元は魔力が結晶化したものだぞ? 適切に処理すれば小さくもできる。まぁ要は押し固めただけだ」
ドワーフ王は簡単に言うが、リュドヴィックが困惑するように、ロザリア達にはその技術力の高さが想像を超えていてどの程度凄いのかもよくわからなかった。
『そういえばギムオルさんだってクレアさんの魔法を再現する装置を造ってくれたし、ウチやクレアさんの使っている鎧や杖を造ってくれたギムルガさんだって凄い技術力みたいだしなぁ』
「これはいわば卵でな、最外殻は冬眠するかのように活動を止めてしまっておるんだ。おい、そろそろ始めるぞ」
「え? いきなり? どこかに避難とかしなくて良いんですか?」
唐突に儀式を始めようとするドワーフ王にロザリアが慌てるが、当の本人は気にせずギムオルやギムルガに指示をしていた。
「まぁ避難しようが同じだ。この魔晶石自体の魔力が全て開放されたらこの山くらい消し飛ぶぞ? それどころかこのドワーフ王国ごと大陸が消滅する」
「……それ、もう大丈夫じゃないですよね?」
ロザリアが心配を通り越して不安しか無くなっていた。ドワーフ王国はグランロッシュ王国のある大陸から大山脈を隔てて南方の大陸にあるが、
その大きさは地図で知っているだけに余計に彼女の焦りを大きくした。
「やる事自体は何の問題もない。復活した神王獣の反応だけが予測不可能なだけでな、だからこそお前さんに来てもらったんだ」
『そういえばクレアさんも魔力暴走した時は魔法学園全体が吹っ飛ぶとか言ってたっけ、神王獣ともなったら国クラスがふっとぶ、と……。あかんウチの想像を超える』
「ドワーフ族との盟約もあるゆえ今更帰るとは言わんが、くれぐれも慎重に頼む」
「うむ。ドワーフの鉄槌にかけて約束しよう」
リュドヴィックが念の為に釘を刺し、ドワーフ王の方もドワーフ式に誓いを立てていた。
ギムオルやギムルガは何かの操作盤を操作しており、あちこちに光が灯って重々しい脈動音のようなものが聞こえ始めていた。
その音は徐々に早くなり、やがてその音は重低音となって球体空間全体に響き渡る。この”場所”が起動したらしい。
「地属性の魔力が高まっておるな……」
オラジュフィーユが誰に言うもなくつぶやくと、その言葉に呼応するかのように床一面に魔法陣のようなものが浮かび上がった。
「うむ、では始めるか」
儀式が始まると言うので、ロザリアはてっきり前世のアニメ・マンガで見るような透明のカプセルを被せて電気を流すようなものを想像していたが全く違った。
「ドワーフ王、これを」「うむ」
ドワーフ王の手に巨大な鉄槌が渡された。ただの鉄槌ではなく魔石具のようで表面にいくつもの魔石が埋め込まれている。
重さにして数百キロはありそうなそれをドワーフ王は軽々と持ち上げた。
『お父様の杖に似てるし、魔術でも使うのかしら?』とロザリアが呑気に思っていると、
ドワーフ王はそれをなんの溜めもためらいも無く魔晶石に思い切り振り下ろした。
「起きろー!!」
半球状の空間に響き渡る大声と共に振り下ろされた鉄槌は、この場に充満している魔力を伴っているのか魔晶石に当たった瞬間にバリバリと電気のような火花を飛ばす。
「ええええええええええ!?」
「うわああああああああ!?」
「あ、我々死んだな」
三者三様の反応を示す中、なおもドワーフ王は何度も何度も鉄槌を魔晶石に振り下ろしていた。
「ぬぉー!ぬわー!ふんぬー!」
「いやいやいやいやいや! 爆発するんじゃないっスか!? ちょ! マジやめて!」
「ドワーフ王さーん! マジやめて欲しいんですけどー!? ウチまだこの年でまた死にたくないよ!?」
「落ち着けい、あの程度では大した事にはならんわ。中で眠っておるあやつを叩き起こしてるだけだ」
慌てふためくクレアや思わずギャル語が出てしまうロザリアとは対照的に、オラジュフィーユは冷静だった。
「いや叩き起こすって、あんなもので物理的に叩くのおかしくないっスか!?」
「あいつはねぼすけだからなぁ」
「そういう問題……?」
ロザリアのツッコミも虚しく、ドワーフ王はその後も何度も何度も鉄槌を振り下ろし続ける。
「起きろー!」「朝メシだぞー!」「学校に遅刻するぞー!」と、
声を上げながらドワーフ王は疲れた様子も無く何度も何度もぶっ叩いていた。
そのうちに、ただの石にしか見えなかった魔晶石の中心に琥珀色の光が灯り始めた。光は徐々に徐々に強くなり、やがて魔晶石自体が発光し始める。
「大丈夫なんスかあれ!?爆発する前兆じゃないっスよね!?」
「いや、目を覚まし始めた、そろそろ産まれるぞ」
オラジュフィーユが言うように石の表面のこびりついている土のようなものが剥がれ落ち、岩のように見えていたのが宝石のような綺麗な結晶へと変わり始めた。
球体状だったのがアルマジロかダンゴムシのように広がって伏せた亀の甲羅のようになる。光は更に強さを増し、球体の空間全てを満たす程に強くなった。
光が収まると、そこには小さな……なんというか亀のような何かがいた。
「え?これが地の神王獣?」
次回、第189話「地の神王獣の目覚め」
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