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第187話「ドワーフ達のはじまりの地」


しばらく通路の中を動く歩道は進むがドワーフ王以外の全員が見慣れない道に戸惑っていた。

明らかに”何か”の中に入ったらしく、洞窟だった景色が一変していた。

壁面は石とも金属ともつかないパネル状になり、照明も見慣れない光になっている。

オラジュフィーユですら初めてのようで、その表情からは困惑の色が見て取れた。

『ウチこれ……、魔法学園の地下で見た事ある。地下へ行けば行くほど見た目が新しくなる変なトコと同じだ……』


「ドワーフ王、ここはもしかしてかなり古い遺跡のような所なのか?」

「おおよく判りましたな。実を言うと我々がここに住み着く以前からあった。正確には我らはここから世界に広まったと言われておるのだ」

「ここから広まった……?」

リュドヴィックはドワーフ王の言った事が理解できなかったようだ。自分たちの隣人が実は同じ歴史を辿っていなかったと言い出すのだから。


「王太子殿、あなたは当然人間族だろうが不思議に思った事はありませんかな?なぜ我々のような亜人が存在しているのだと」

「いや、考えた事も無かったな。それはそういうものだと思うしかないのではないか?」

「たしかに亜人と人はとてもよく似ている。が、明らかに別の種族だ。だがその間には子供だって生まれる。

おかしいと思わんか?人と森の中の猿魔獣との間では子供は造れんはずだ」

「後半のは悪趣味な想像だが、それは我々と亜人がそれぞれ交わり合って生きてきたからだというだけではないのか?」

「その生きてきた時間というのが問題なのだよ。我々ドワーフの歴史にしろ人間のにしろ、我々がこの世界の歴史に登場したのはせいぜい2000年近く前と言われている」

「別にそれ以前は古すぎて文字も無いから記録が残っていないだけでは?」

「まぁ何万年も前の原始的な生活ならそうなんだろうが、1000年前と言ったら大襲来だぞ?その倍程度で我々の存在が残らず歴史から存在しなくなると思うか?」

リュドヴィックの質問にドワーフ王は諭すように答える。言われてみれば疑問に思うべきではある。

大襲来は世界史の大転換期であったが、それでも断片的にはそれ以前の歴史の記録はあった。

「どういう事だ、ある日を境に突然亜人が出現したとでもいうのか?」

「そうでも無いと説明がつかん、というだけだよ。現状に不満が無いなら気にする程の事でもない」

『うん、ウチ全く理解できなかったから気にしない事にする』



「伝え聞く所によると、大襲来以前は今のような魔獣も存在していなかったと言いますからな。

 今現在の魔獣は魔界の真魔獣が劣化していったものだと言われておりますし」

リュドヴィックの困惑をフォローするかのようにクリストフが補足する。

魔獣がいなかったのなら亜人が存在していなくても不思議は無いかもしれなかったが、リュドヴィックはまだ納得していない。

「2000年は十分永い時間だと思うのだが……?」

「山が地面の下から盛り上がったり、風や水に削られて平地になる時間を思えば2000年なんて一瞬のようなものだよ。

 ある日か、ある時期かはわからんが、ある日突然世界は今のようになったと考えないと理屈に合わんのだ」

「気の遠くなるような話だな。しかしドワーフはそんなに好奇心が旺盛なのか?」

「おおよ、我らは世界の全てを知りたいと日夜手を動かしている。この鉄はどこまで硬くできるのか、とかな」

ドワーフの興味は職人的な事に向いていたが、もしも歴史や科学の方に向いていたらと考えるとどうなったか。あらゆる面で最先端の文明を築いていたかもしれない。


「では、あの鉱山の下の遺跡は、そんな好奇心から造られたという事なのか?」

「いやいや、あれは確実に何かの目的で作られている。だからこそ我々は原因を知りたいんだよ。

 我らの先祖が一体何を考えてあれを建造したのか、そしてその時の先祖達はどこへ行ったのか」

リュドヴィックとドワーフ王の雑談は続くが、肝心の地の神王獣の事が放ったらかしになっているので、さすがにオラジュフィーユが口を挟んだ。

「お主らな……、地の神王獣の事も少しは思ってやれよ」

「まぁそこはそんな気にしておられないでしょう? ちょっと居眠りしてたくらいの事を言われるだけのはずでしょう。さて、そろそろ山の中枢だな、着くぞ」

ドワーフ王が言うように動く通路の終点が見え始め、それは1つの扉の前で終わっている。その扉の形状もまたリュドヴィックには見覚えのあるものだった。


「あの扉は……? クリストフ、あの扉の様式は見た事があるな?」

御柱(みはしら)の底にあるのと似ていますね」

「やはりこういった物をご存知でしたか。こういった妙に高度な技術が使われたものは世界のあちこちにある。なぜかそれらの技術は全て失伝していて技術の断絶が起こってるんだがな」

「大襲来で失われた過去の遺産という事か……」

「少し違いますな。先程の話と似ておるが、いくらあの大襲来が凄まじいものだとしても、残らず全ての技術を失うと思いますかな?」

「……なんだかよくわからんな」

「そうですな、そんな事は考えても仕方がない。そういう時は鉄を相手にハンマーでも振っていた方が良い」

そう言うとドワーフ王は一同に通路から降りるように促し、先頭に立って歩き始めた。

進んだ先にある巨大な扉は単に仕切る扉とかそういうものではなく、完全に密閉する構造のものだが、この場にいる者達では理解が及ばないだろう。

『密閉って……、SFの宇宙船系?みたいな?』


ドワーフ王が扉の側で何かを操作すると、その扉は内部で何かが動作する音がすると重々しい音を立てて左右に開く。同時に扉の向こうに明かりが灯る。見慣れた魔石灯のものとは違ってどこか無機質な光だった。

「変わった光だな、魔石灯のとも違う」

リュドヴィックの感想にロザリアも似たような事を思った。

『なんだろう、妙に懐かしい感じの光……』


扉の奥の通路を進んだ先はかなり広く、巨大な半球状の空間になっていた。

壁は継ぎ目の少ない鉄とも石ともつかない素材でできており、床は一部を除いて透明になっている。

そこから見えるものに一同は言葉を失う。

『マ!?何……、これ』


その床から透けて見える球体空間の下半分にはずらりと円筒状の金属製カプセルが一面に何層にも並べられていた。どれも上半分は透明のカバーのようになっており、その中は空だ。

「我らはここから世界に広まった、そう言っただろう?あの中には我々の先祖が入っていたらしい」

「らしい、ってそれが2000年前突然ドワーフが歴史に現れたとかいう理由なのか?」

ドワーフ王の言葉にリュドヴィックが聞き返す。彼にしてみれば自分達が知らない過去が突然証拠と共に現れたようなものだ。

「らしい、としか応えられんな、何しろ我々もここを”再発見”したのはせいぜい数百年前なんだ」

ドワーフ王は球体の中心部分に向けて歩いて行くと、その足元の透明だった床が透明でなくなって壁と同じような鉄とも石ともつかない素材に見えるようになる。


「我々ドワーフはこの壁や床の素材一つまともに再現できないんだ。我々がここからこの世界へと広がっていったという記録は残っているんだがな……」

「だが、さっきの扉を開けたように、使う事はできるようだが」

「あれも実は良くわからんのだがな。一定の条件を満たしたらしい者はあの扉を開ける事ができるんだ。

まぁ今ではそれが王としての資格を選ぶ手段になっているが。さて、そろそろ地の神王獣復活の儀を執り行おうか」


ドワーフ王の指し示す先には既に用意がされていたのか、地の神王獣のものらしき魔晶石が台座の上に置かれていた。


次回、第188話「あ、死んだなこれ」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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