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第185話「ドワーフ王国の地底工城」


「見た目通り、街全体が工房なんですねー」

クレアが感心するように大通りに面した両脇の建物はほとんどが工房で、中からはトンカンと金属を叩く音やら、何かを切っているような音が響いてくる。

大通りの中央部分はなんと動く歩道になっていて歩かなくてもいいようになっており、ドワーフ王国がかなりの技術水準だとわかる。


動く歩道は左側通行で2列ずつ向かい合うように4列のレーンに分かれており、外側はかなり幅広の代わりに遅く、内側は幅が狭く早かった。おかげで人通りが多い割には混雑しておらず、馬車の姿はどこにも無い。

ロザリア達はそれに乗って地底工城へ向かっているところだ。

『い、異世界感が薄まるとゆーか、もはや何なのこの光景……』


「凄い設備ね……、こんなの王都でも見たことが無いわ」

「ドワーフはいちいち馬車に乗るよりは道の方を動かしてしまえ、となるからの。とはいってもこれがあるのは広めの通りくらいだが。4列あるのなんて大通りくらいだぞ」

「いやそれでも凄いですよ……。んん!? 何あれ!?」


ロザリアに説明するギムオルへの言葉の途中でクレアが驚きの声を上げる。

クレアが驚いたのは、向かい側の動く歩道上の屋台がこちらに向かってくる姿だった。普通は道端に止まっている屋台が、動く歩道上にいくつも等間隔に止まっていたのだ。

動く歩道には線が引かれており、屋台はその一番外側に置かれていた、止まっている方の歩道から客と思われる人が動く歩道に上がってきて屋台で買い物をしている。ギムオル達ドワーフ達はそんな光景に驚く様子も無く、リュドヴィックも元々この事を知っていたのか普通にしている。


「ああ、あれは見ての通りの屋台だ、ドワーフってのは仕事に熱中すると工房にこもりっきりになるからな。

 なので近くの店に食いに行くというのを面倒くさがるんだ、場合によっては熱中し過ぎて餓死したりする。そしたらそのうち屋台の方が動く歩道上に開店するようになってな、

 腹が減ったら通りがかった屋台で買って帰るのが普通だ。だからこの街には店を構えている飲食店というのが極端に少ない」

屋台の種類は食事のものだけではなくドワーフの道具店やら武器店まである。こうなると道端に立っているだけで様々な店を見る事ができる。

とはいえ、大通りには動く歩道上以外にも普通に動かない店もあるにはあるので、2種類の店が入り乱れる不思議な光景だった。

「よく見たら、私達が乗ってる歩道も、向こうの方に屋台があるわね……」

「はぁ、ドワーフさん達って、物凄く合理的な考え方をするんっスねぇ」

「ワシらは鉱山に長く住んでおるし今も多くが住んでおるからな。

 鉱山では決まりごとを守らない奴や適当に考える奴から死んでいく、自然とそうなるんだ」

『ここまで来ると合理的とものぐさって紙一重な気もするんだけどー……ですけどー』


ロザリア達は動く歩道に立っているだけではあるが、徐々に地底工城が近づいてきた。その威容は遠くから見た以上だ。

まず山肌を削って建物の形に成形したと思われる所と、石を積んで建物としている所が混在していた。山肌に窓が開いているかと思えばその隣には石造りの建物が並んでいたりする。そういった建物が山肌に沿って山頂に向けて立ち並んでいる為に山全体が城のように見えていた。

山肌には建物だけではなく極太のパイプが何本も這い回っており、あちこちで蒸気や煙が上がっているのが見える。山の中にも工房があるようで、山自体が巨大な工房となっているようだ。


大通りの動く歩道は、外側の幅の広い方が山の手前の大きな円形広場をぐるりと周回して向きを変えてまた戻ってゆき、内側の幅が狭く速度が速い方は広場の中央で地下に潜り、その先の山ではなんと巨大なエスカレーターに連結されていた、それを見たロザリアは思わず感嘆の声を上げる。


「エスカ……えーと、動く階段?あれも凄い設備ね」

「ああ、山の上に向けてどんどん建物が増えていったからな。登り下りも大変だろうから自然とああいうものが造られたんだ」

「自然と、って王様か誰かが命じて作らせたたわけではないの?」

「国王はあくまでドワーフ族の代表だからな、何かを命令するような役職じゃないんだよ。皆それぞれ自然にああいうものを造ってしまう」

「えー? でもそれって、様々なものが勝手にできて困らないっスか?」

クレアが疑問を口にするがギムオルは逆に意味がわからない、といった表情をする。

「何故だ? 勝手に造って困るものを最初から造るわけがないだろう。あるべきものをあるべき所に造れば良いだけだ」

「え、えーと?」

「ワシらは何かを造るにしても、なんとなくそこにあれば良い、というのがわかるからな。それは種族全体で意識を共有するようなものなので、滅多にそれがぶつかり合う事はない」

とはいえロザリアもクレアも、説明された所でその感覚はよくわからなかった。

『うーん、職人どうし、何も言わなくても話し合わなくてもココロが通じ合う、ってやつ?』


そうしているうちに動く歩道は山のふもとの円形広場にたどり着き、その外周をぐるりと回り始めたので、いわばここが終点のようだ、ロザリア達はギムオルに促されて歩道を降りた。

円形広場の中央にはお約束の大きな噴水があり、その下に速い速度の方の動く歩道が潜り込んでいっている。

「よし着いたぞ、あの山の1階層部分がドワーフ王の工房になっておる。すぐそこだ」

ギムオルが指し示す先はどうみても横に長い工房があるだけで、王宮とかそういうイメージの姿はかけらも無い。

「え?あの山の上とかじゃないんですか?山頂にでも城があると思ってたんスけど」

「何を言っとる、一番便利なのは鉱山と地面に一番近い1階部分に決まっておるだろう。あれは金の無い連中がどんどんと山の上に建物を作っておるだけだ」

「さよう、まったく、あんな山の上に住んでおったら移動だけで時間を無駄にするぞ」

「「ええー」」


ギムオルとギムルガが口々に言うように、「高いところ=良い」という認識はドワーフとは無縁らしい。ドワーフ達はその合理的な考え方ゆえに虚飾で高い所に住むのを好まないようだった。

それゆえに、一番便利な所が一番贅沢な場所という事になるのだろう。


実際に家を建てるのでも2階建てを作るのは土地が足りないからで、土地が十分にあればわざわざ2階を造る必要はない。だが平屋の方が広い屋根を支える為に頑丈な構造にせねばならず、基礎や屋根を作る面積も増大してコストがかかって贅沢なのと似ていると言える。


「いろんな考え方があるものねぇ。っていう事は、ドワーフ王様ってこの工房の奥にいるの?」

「いや?一番手前に決まっているだろう。その扉の向こうだぞ? おーい国王!来たぞ!」「おお来たか!」

「「ええー」」

『国王が通りから扉一枚の所にいるって……』


次回、第186話「なんだろう、国王に会いに来たという気が全然しないんですけどー……」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークしてくださりありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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