第184話「ドワーフ王国に行ってみよう!」
「というわけでだ、ドワーフ王国に来て欲しい」
「いえ突然言われても困るんですけど……。何が『というわけ』なのですか?」
とある休日、ロザリアはドワーフのギムオルの訪問を受けていた、わざわざ学園に来て生徒会長であるリュドヴィックを通した正式なものだった。生徒会執行部の応接用スペースを借りてのものだったので、リュドヴィックも立ち会っている。
「ロゼ、それについては私の方から説明しよう。魔学祭の時にドワーフの遺跡から魔晶石を発掘したよね?神王獣のものではないか、というあの巨大な」
「ああ、そういう事もありましたね。でもあれ、ギムオルさん達が持って行ったのでは?」
「結局あれはドワーフ族が崇める『地の神王獣』のものだ、と魔法研究所のマクシミリアン所長が鑑定してね。所有権はドワーフ族にあると認定されたんだ。
で、彼らはそれをドワーフ王に献上し、しかるべき処置を施してもらう事になっていたんだ」
「何ですか?そのしかるべき処置、って」
「地の神王獣の復活だよ。あの魔晶石を儀式によって開放すれば1000年以上も行方がわからなくなっていた我らの守護聖獣が蘇るはずなんだ」
リュドヴィックの説明をギムオルが続ける。
ロザリアが知っている神王獣は風を司るオラジュフィーユだった。彼女はエルフ達の守護聖獣だそうで、同様にドワーフ達にも守護聖獣としての神王獣がいるとの事だ。
「それは、すごいですね。でもそれと私に何の関係が?」
「あの魔晶石を発見した状況がどうも不穏なのだよ。まるで道具か部品のように扱い、1000年以上も実験施設らしき地の底に封印同然だった。そんな状態で神王獣を復活させると怒りをかうのではないか、とな」
確かに、あんな厳重に保管されていたような代物なのだから何かしらの実験に使われていたのかもしれない。しかもそれが世界に4体しかいない神王獣のものとなると過去に何があったのか想像するのも恐ろしい。
「復活した際にその怒りを鎮める為にも神王獣に選ばれた者が立ち会った方が良いのではないか。という事になったそうなんだけどね、よりによってその相手は私の妹なんだ」
「あー、そういえばそうでしたね」
リュドヴィックを通したり、わざわざ立ち合わせる理由がわかった。風の神王獣は彼の妹のマリエッタを主と認めてしまっていたのだ。
「さすがにいくら何でも王女は同席させらんだろうとはなったがな。せめて復活して反応を見てからでは、いやそれでは遅い、と話が進まんのだ」
「で、それ以前にロゼが神王獣に認められていた、というのが話題になってね……、
ならロゼと風の神王獣に立ち会ってもらったらどうかという話に」
「わかったわ、やる」
即答だった。
「私としては王女だろうと侯爵令嬢だろうと同じ事だと、断ってもら……何だって?」
「え?だから立ち会うわよ?ドワーフさん達困ってるんでしょ?私もドワーフさん達にはお世話になってるもの。困った時はお互い様よ」
「いやロゼ!?私としては断って欲しいんだよ?」
あっさりと承諾したロザリアにリュドヴィックが慌てて言い募る。
だがロザリアはキラキラした瞳でやる気満々の顔だ。
「えー、でもドワーフさんの国ってちょっと興味あるし」
「本音はそっちか……。どうする?ギムオル殿」
「話持ってきておいて何だがワシも反対だぞ。一応我らの王の要請なので来るには来てみたが、危険かもしれんからの」
「立ち会わせるにしてもだ、もしもの時に備えて近くに控えてもらうという事にでもするか?」
「えー。儀式ってなんだか凄そうだし、物凄く見たいんだけど。できるだけ近くで」
「だからロゼ、危険かもしれない、と言ってるんだよ?」
リュドヴィックが難色を示すがロザリアがそれで止まるはずもない。
結局、押し切られる形で儀式の立ち会いが決まってしまった。
『最近は学園とかお城とかばっかりだったもんねー! 遠出できる上に面白そうなのに立ち会えそうだし、超楽しみなんですけどー!』
「おおぅ、ここがドワーフの国なの?凄い規模ねー、まるで街そのものが工場みたい」
「すっげー!スチームパンクの世界ですねー、お姉さま」
「お嬢様もクレア様も、国の特使として来られているのですから品格を保って下さい」
「だからロゼ……、危険だと言ってるのに」
「お主も苦労が絶えんの、婚約者があれでは」
ロザリア達はさっそくドワーフ王国を訪れていた。
せっかくなのでドワーフ王国の首都全体を見たい、と街から少々離れた所の転移門を抜けて来たのだが、眼下に見える街の規模は巨大なものだった。
巨大な山を囲むように工房都市が形成されており、その工房街も1つ1つがかなり大きな建物で構成されている。建物は石造りやコンクリート作り、金属作りが混在していて、あちこちの煙突のようなものから煙や蒸気が上がっていた。
人もまた多く、工房を訪れる商人なのか顧客なのか、ドワーフ以外の種族も数多くが通りを歩いていた。
「街も凄いけど、それに輪をかけて凄いのがあの山の城ね~」
「なんかもう山自体が城みたいっスね」
「クレア様、口調。あそこがドワーフ王国の王城『地底工城』だそうです」
「地底、って事はあそこの地下にドワーフの王様のお城があるの?」
「元々は鉱山で鉱石が採れなくなった部分に家や工房を作って住んでたんだがな、徐々に地下や山頂に向けて規模が大きくなってしまってそのうち城になってしまったんだ。
ドワーフ王は王とは呼ばれとるが、要は一番偉い親方だからのぅ、別にその一族が王族を名乗っとるわけでもないし」
ロザリアの発した疑問にギムオルが答えてくれたが、少々意外なものだった。
「え?親方?」
「おう、今も工房で槌を振るっておるぞ、だからあそこは城というよリ巨大な工房なんだ」
「ああ、それで工城と呼ばれてるわけっスか」
「まったく、なぜ我がこんな地の魔力が強い所に来なければならんのだ、しかも地べたを歩いて」
今回ほぼ無理やり連れてこられた人間態の風の神王獣オラジュフィーユは若干機嫌が悪かった。
もっとも彼女の場合は、風の魔力をこの世で最も強く持つ『風の神王獣』であるが為に、属性の異なる地の魔力が強いこの場にいるという事の方が気に入らないだけのようだ。
「申し訳ありませんオラジュフィーユ様、わざわざご足労いただきまして」
彼女に頭を下げているのはギムルガだった、彼はギムルガと共に王国でも高名な職人なだけに、「お前も来い」と呼ばれたのだった。
「別にかまわんしお主らの責任ではない、一応我らの同胞の問題だしな。
けど放って置いても大丈夫だと思うんだけどなー」
「地の神王獣については何もご存知では無いとの事でしたが?」
「我は大襲来以降の産まれだからな、そもそも面識が無い。だが本来地属性の者は気が長くおおらかだ。1000年程魔晶石だったごときでどうとも思わんはずだぞ?
まぁあいつらは怒らせたら凄まじく怖いが」
「だから我々はそこの所を問題にしてるんですよ……」
オラジュフィーユによると、地属性の者は地質学的なスパンで物事を考えるので1000年はちょっと居眠りしたくらいの感覚なのだそうだ。だが同時に火山のような荒々しさも持ち合わせているという事なので、ドワーフ達はその辺の不安要素を無視できないのだろう。
次回、第185話「ドワーフ王国の地底工城」
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