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第180話「まずい!逃げ……るわけにはいかないっス!」


ドローレムは背中からコウモリのような黒い翼を広げ、

見上げる程高い所にある窓からふわりと祭壇に降りてきた。

その姿はいつものように黒光りする外骨格のような硬質の被膜でできたノースリーブドレスに、

あどけない少女のような顔だが銀髪と白目黒目が反転した姿は、

教会で見ると悪魔にしか見えない。

おまけに背後には邪神にしか見えない異形の天使像、

まるで絵の中から飛び出して来たような、この世のものとは思えない光景だ。

ドローレムはクレアの姿を見ると、

身体から何本もの触手を生やして戦闘態勢に入った。問答無用のようだ。


だが、普通なら恐れをなすはずが、この場に集っていた者たちは違う反応を見せた。

「おおー! 外なる神々の天使さま!」

「我々の呼びかけに応えて下さったのだ!」

「おおー、神よ……」

「素晴らしい! 聖女様はやはり真の聖女であった!」

「聖女万歳! 天使万歳! 聖女を讃えよ!」

人々は突然現れた謎の存在に狂喜乱舞し、 口々に聖女を称え、賛美し、祈りを捧げていた。

中にはドローレムに近寄って平伏する者までいる始末。クレアにとっては不気味極まりない状況だ。

「いやあんたら、見た目不気味で羽と触手生えてたら何でも良いんかい」

思わずツッコミも入ってしまう


「なんだかわかりませんが儀式は成功したようですね。

 それでは早速ですが天使様、どうか我らに何かお言葉を!」

クレアに近づこうとしていたドローレムに司教のゲアハルトが割って入ってきた。

その表情は歓喜に満ちたもので、まさに天使でも見るかのような目つきでドローレムを見つめている。

しかし、当のドローレムはというとゆっくりと手を振り上げ、

「邪魔」

と手の動きと共に触手が振るわれ、あっさりとその頭を斬り飛ばした。

壁に頭が当たり、地面に転がる音が聖堂内に響き渡る。

「……え?」

「私の邪魔をするな」

首を斬られた体はただの物体として床に音を立てて崩れ落ちた。

体から出た血で辺り一面が真っ赤に染まっていく。

聖堂内は静寂に包まれ、誰もが動けずにいた。


一人の男が悲鳴を上げて席を立ち、悲鳴を上げて入り口に走っていった。

「うるさい」

その男に向けてドローレムは棘のように尖らせた触手を繰り出した、男は胸を貫かれて絶命する。

今度は別の者が悲鳴を上げて逃げ出し、他の者も我先にと出口に向かって走り出す。

聖堂はあっと言う間にパニックになって入り口は人の波で開かず、

出る事すらままならない状態になった。

ドローレムはその者たちにも無表情に触手を繰り出そうとした時、

クレアの放ったヒール弾が触手に命中する。


「ちょっと! 何してるのよ! 殺す事はないでしょう!」

「どうして駄目なの? お前も私を殺そうとした」

「え?」

言われてみれば自分もドローレムに対して問答無用で障壁に封印した後、

かなりえげつない事をやらかしていた。

だがあの時はドローレムの側が明らかにこちらに対して侵略行為をしようとしていたからだ。

それとこの教会内の人を無差別に殺すのは全く違うはずだ。

「どうして?」

だがドローレムは何故止められるのかわからないと、純粋そのものの目でクレアを見ている。

クレアとてこの世界で生きている以上、

自分の命を守る為にはためらわない程度に相手を傷つける事に忌避感が無い。

しかしドローレムの行為は明らかに異質だ。


純粋さゆえに倫理観そのものがずれているのか、そもそも魔界とかいう所の倫理観がそうなのか、

とにかくクレアはまともに相手するのはまずいと、その場から逃げる事にした。

ドローレムの前に反射障壁を展開すると、祭壇を蹴って一気に入り口の扉の前にまで跳躍する。

扉の前には何十人もの人が折り重なるように倒れており、

怪我をしていたり、中には骨折している者までいる。

クレアは倒れる人たちの間に降り立つと範囲回復魔法を使用し、

一気にその場の人たちの傷を癒やした。

「おお……聖女様」

「それはいいから!逃げて!」

祭壇の所では、ドローレムが強引に障壁を突破しようとしていた。

触手を棘のように変え、何度も何度も突き刺して破壊しようとしている。

単にそれだけならばしばらくは防げるだろうが、

棘からは闇の魔力の汚染が進むらしく、障壁の一部は術式が乱されて綻びが見え始めた。


クレアは跳躍すると扉の上の壁に地属性魔法を使って壁に垂直に立ち、

地面を蹴るようにして扉を強引に蹴り開けた。

扉は外に向けて吹っ飛び、扉に押し付けられるように折り重なっていた人々の何人かが外に放り出された。

クレアは扉の枠を掴み、体操選手のように身体を回転させながら教会の外に出る。

地面に降りるとまだ倒れている人手を貸し起こしながら避難誘導を始めた。

「早く! 早く教会の外に出て! 起きて! 走って! 長くは保たない!」

祭壇の所ではドローレムが障壁を破ろうと触手で攻撃を続けている。

クレアの助けもあって人々は続々と脱出して行っている。

だがクレアの方は逃げるわけにはいかなかった、

ここにフェリクスが囚われているままかもしれないのだから。

見覚えある聖職者が逃げようとしているのを腕を掴み、呼び止めた。

「おいこらお前は逃げんな、私といっしょにさらってきた人がいたでしょ! 今どこにいるの?」

掴まれた方は人を癒したり脅したり忙しい聖女だなと思ったが、目の前のクレアにはさすがにそれは言えない。


「あの人は司教様が王家に連なる人だというので、うかつに殺すわけにもいかなかったんです。

 儀式が終わるまではと今もこの地下に」

「それがわかるならこんな事引き起こすんじゃないわよ! さっさとその人の所に案内しなさい!」

クレアは人をかき分けながら教会内部に戻ると、

尚も障壁を破ろうとしているドローレムに追加で板状の障壁をぶち当てて吹っ飛ばすと、

その男性の胸ぐらを掴んで地下の階段へと走った。

「あの! 場所は教えますので! 私も行かないと駄目ですか!?」

「あ”?」

「何でもありません」



教会の地下は牢獄というより倉庫だった。

それもそうだ、普通の教会は地下に牢獄など無い。

石造りの部屋がいくつか並んでおり扉が並んでいるだけだ。

明かりも無いのでクレアは壁の魔石灯を起動させて周りを照らす。

「先生! フェリクス先生!」

狭い通路なだけにクレアの声はよく響いた。

足りぬとばかりに手近な扉を叩き、何度も呼びかけていった。

「先生! どこですか!」


「あのー、こちらです」

クレアに引っ張られて来ていた聖職者が恐る恐るという感じでクレアに声をかけた。

言われて来てみると、たしかにフェリクスの声がする。

「クレアさん!? ここだ! こっち!」

「フェリクス先生! ねぇ、この扉を開けなさい!早く!」

「いえ……鍵が無くて」

「あーもう! フェリクス先生! 扉の前から離れて下さい!」

クレアは時間も惜しいと、筋力強化で思い切り扉を蹴飛ばした。

足が痛くなりそうなので衝撃波も纏わせて。

扉は蹴破られるどころか円状に大きく穴が開き、

それを見た聖職者はとんでもない人を拘束していたと震え上がる。

「先生! ご無事ですか?」

「お腹は減ってるけどね。クレアさんは?」

「私も大丈夫です! 早くここから逃げましょう!」


「そうはさせない」

声がすると同時に、少々離れた所の地下室の天井が崩壊し、日の光が差し込んできた。

ドローレムは障壁を破るより地下室の天井をふっとばしたほうが早いと考えたようだ。

「あーもう! 杖無いから戦いにくいってのに!」

元々クレアの魔法力は制御に困る程であり、現状は細かい制御を要する魔法や大技を使えない状態だった。逃げるしかない。

慌てて障壁を展開しようと思ったが、狭い空間では干渉物が多すぎて今は無理だった。

「フェリクス先生は階段へ! 早く! 私がここで食い止めます!」

ドローレムが触手を繰り出してくるのをクレアは突き出した手からヒール弾を乱射して防ごうとした。

ヒール弾が当たった触手はひるんだような動きを見せる。

クレアの狙いが不正確なだけにどこに飛ぶかわからず、

ドローレムも自分に当たりそうなヒール弾を触手を引き戻して防いでいた。


その隙にとフェリクスは階段を上がっていくが、

体力の無い聖職者も同行しているのでどうも遅い。

「遅い!」

とクレアはフェリクスと聖職者を両肩に担ぎ上げ、物凄いスピードで階段を上がっていた。

「いやぁ、クレアさんはこういう時頼りになるねぇ」

「しゃべらないで下さい!舌噛みますよ!」


聖堂に戻った時、信者や聖職者達はもう残っていなかった。

祭壇にはまだ障壁が残っているが、床に穴が開いている。ここから地下に入ったらしい。

だがまた上がってくるのは時間の問題だ。

「先生!教会の外へ!早く!」


次回、第181話「逃げてばかりじゃ駄目」「それはこっちのセリフっす!」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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