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第17話「侯爵令嬢ロザリアの毎日」②

「それはさておき王太子様、まずはお茶をどうぞ、お茶菓子はすぐお持ちします、本日は甘いものになりますがよろしいですか?」

「うーん、今日はサンドイッチ的なものを軽く食べたいけど、贅沢(ぜいたく)は言わないよ、この家の料理はどれも上品な味で不満は無いから」

「かしこまりました、できるだけ希望に沿えるようなものをお持ちしますね、それでは失礼いたします」


「アデルも即この状況に馴染(なじ)まないでよ! それと、この状況で私を放置して行かないで!?」


気を取り直し、リュドヴィックの給仕を終えてさっさと立ち去ろうとするアデルの立ち直りの早さに、ロザリアが突っ込みを入れる。


「いえ王太子様とお嬢様との触れ合いは、今までを取り戻すためにも、多少過剰なくらいの方がよろしいかと思われますので、王太子様、どうぞお好きになさって下さいませ」

「いやぁ君は本当に出来た侍女だね」

「恐れ入ります、それではあらためて、失礼させていただきます」

何故か以心伝心で話が通り、去り行くアデルを、ロザリアが呆然と見送った。



さて、東屋(ガゼボ)にはロザリアとリュドヴィックとジュエだけになったわけなのだが、

リュドヴィックの前でも一切変わらず『かまえ、()でろ』とばかりに仰向けでゴロゴロする猫のジュエ、そして『触るな、近づくな』とばかりに、ふしゃー、とリュドヴィックを威嚇(いかく)するロザリア、

ペットと飼い主というのは、形は違えど似るものだな……、と何故かほのぼのとした気分になるリュドヴィックだった。


ロザリアをからかうのもちょっと面白そうだけれど、本当に怒らせてしまいそうだな、と、リュドヴィックは目の前で完全に警戒を解いている猫のジュエの相手をする事にした。

そして、そのジュエは即ロザリアを裏切って、ごろごろとリュドヴィックに甘えている、そういえばこの子は女の子だった、とロザリアはがっくりと肩を落とす。


そもそもこの東屋(ガゼボ)に素通りさせたのは自分の所の使用人であって、リュドヴィックは忙しいであろう公務の間を()って自分に会いに来てくれたわけで、いつまでも警戒するのもね、とロザリアは気を取り直す事にした。


「リュドヴィック様はお仕事とかどうなっていますの? 王宮の事はともかく、学校の方も色々とあるでしょうに、次期生徒会長に任命されたとうかがいましたよ?」

「今は春休みだからね、季節の行事は一段落して、生徒会執行部の仕事もとりあえずは無いんだ。4月になれば君も王立魔法学園に通うのだろう?」

「ええ、今から色々と準備していますわ。」

「私は今度3年になるから、卒業まで君といられるのは1年だけだね」

「ええ、そう、です、ねぇ……」


『え? これって要は、高1の女子高生が、入学して即、美形の生徒会長の彼ピ出来た状態からのスタートなわけ!? いやちょっとそれ、もの凄く嬉しいんですけど! 前世でもできなかった事なんですけどー!』


リュドヴィックはわりと真面目に残念がっていたのだが、ロザリアはそれを知る(よし)もなく、思わず妄想たくましく、脳内はわりと残念な事になっていた。


「学園で教わる事は、魔法に関する事が多いからね、ロゼも家庭教師で基礎くらいは教えてもらっているんだろう?」

「ええ、でも今は魔法を封じられている状態なので、魔力の制御だけですよ?もの凄く弱いので、感触をつかむのが最初は大変で……」

「せっかく魔力があるのに使えないのは残念だろうけど、安全の為だからね、分別も無い人達に魔法をあちこちで使われても困るし」


グランロッシュ王国では、出生時に教会又は医師・産婆から魔力があるものと認められた時、その魔力を安全の為に一旦封印される事を義務付けられる。

幼少時は魔力をうまく制御できないので、魔力が暴走すると魔力爆発が発生する等の事故が起こって危険なのと、無知からくる差別が起こらないように、との配慮からだ。


生まれもった力を使えない事に関しては、魔法学園は義務教育扱いなので授業料の免除、卒業後の職業にも恵まれる、入学までは税が安くなる、等多数の恩恵があるので、あまり不満の声は上がらなかった。

あえて魔法学園に入学しないという選択肢も選べるが、その場合は15才になれば全ての恩恵が消滅する。もちろん、魔力が無いのに虚偽の申告で恩恵を受けた場合は、厳しい罰が下される。


「魔力を持った人々を生まれた時から囲い込んで管理し、同じ環境下で能力を開花させて、有意義な能力となるよう教育・開発するというのがこの国の方針なわけだから、仕方ないんだけどね」


王族ゆえに自国の制度を悪くも言えないリュドヴィックは、ちょっと自重気味に肩をすくめる。


「私は、自分がどのような属性で、どれほどの能力があるかが楽しみですわ。もっとも、家系から行くと大きな魔力を持つ事は期待されてしまっていますけど」

すっかり機嫌を直したロザリアと、婚約者の時間は過ぎていく。



それ以降も三日にあげず贈り物と共に何度もやってくるリュドヴィック、これまでは顔を合わせる事すら短くとも数年に1度くらいだったので、変わりように両親も使用人達も大喜びだった。


アデル以外の使用人達もどんどん気安くなっており、ついには侍女やメイド達まで来訪したリュドヴィックの顔を見ても「なんだ王太子様か」と、ロザリアと二人きりにするとさっさと自分の仕事に戻るようになってしまっていた、

それでいいのか侯爵家。



「いやあ、この家は実に落ち着くねぇ」

「わ、私は落ち着きません!」

「私は婚約者と親交を深めようとしてるだけだよ?」


ティーカップを片手に上機嫌のリュドヴィックだったが、ロザリアの方はそうはいかなかった。何故ならば、リュドヴィックの(ひざ)の上だからだ。

前世の記憶を取り戻す以前のロザリアなら、絶対に許していない状態なのだが、今のロザリアはリュドヴィックの行為に対してかなり(チョロ)くなっており、気づいたらこの状態になっていた。


不安定な状態なので姿勢を保とうと、リュドヴィックの首や肩に手を回してしがみつくようになるわけだが、当然ロザリアの身体をリュドヴィックに押し付けるようになるわけで、それで更にリュドヴィックの機嫌は良くなる。


「し、親交を深めるにも、程度というものがあると思うのですよ?」

耳元で聞こえるリュドヴィックのイケボにも大分慣れはしたが、リュドヴィックの逞しい身体の感触にはまだまだ慣れてはいなかった。


「いいですかリュドヴィック様、私が知っている東方の小国の言葉の中にはですね、『親しき仲にも礼儀あり』という言葉とかですね、『男女七歳にして席を同じゅうせず』という、男女のわきまえを(うなが)す言葉がですね」


「つれない事を言わないで欲しいな、いいじゃないか、私達は結婚するんだよ?」

「親しげを通り越して! 女性を(だま)すダメ男みたいになってますわよ!?」


ロザリアも最近ではいいかげんリュドヴィックの美形っぷりに免疫ができてきたようで、そんな気安い会話もするようになっているという、

魔法学園の入学まであとほんの少しの、春の日の一幕であった。


次回、新章突入 第2章「悪役令嬢と”ヒロイン”の出会い」

第18話「王立魔法学園への入学、そして、乙女ゲーム……スタート!」

読んでいただいてありがとうございました。

基本的に2日に1度、夜の5時~6時頃で更新いたします。


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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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