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第174話「大公爵と廃王子」


「くく、そう怖がられても困るな、別に取って食ったりはしない。

 こんな所で会うとは思わなかったぞフェリクス、

 留学から帰っていたというのに挨拶にも来ないとは冷たいじゃないか」

クレアは突然現れた相手に戸惑うばかりだったが、

フェリクスの方はかなり険悪な雰囲気を醸し出しており、視線も鋭くなっていた。

眼の前の男は以前フルーヴブランシェ侯爵家で出会った高位貴族らしいのは覚えている。

あの時と変わらず黒を基調とした服に長い黒髪だった。

言葉とは裏腹に全く困っている様子の無い男は馬車からこちらに歩いてきた。

以前出会った時には座っていたので気づかなかったがものすごく背が高い。

フェリクスよりも頭1つくらいは背が高いんじゃなかろうか、

と思わせるのはその身から発せられる異様な威厳からか。


「僕はお前なんかに会いたくは無かったよ。できれば一生」

「おいおい、私は悲しいぞ、実の息子からそのような事を言われるとは」

「黙れ、お前が父親を名乗んな。今まで一度でも父親らしい事をしたってのか?」

「なっ……、あっ……、えっ!?」

クレアは眼の前の男性がフェリクスの父親だという事に衝撃を受け、

フェリクスの口調が今までからは考えられないくらい粗雑になってるのに気づいていなかった。

しばらく睨み合う父子だったが、

男性は興味を失ったようにフェリクスから視線を外して今度はクレアに目を向けた。

「ふむ、お前が噂の”制服の聖女”か、普段からその格好なのか?」

「彼女に関わるな!」


フェリクスはクレアを自分の背中に隠すようにして男性の前に立ち塞がり、

そしてそのまま殺さんばかりの勢いで目の前の男を睨みつけている。

しかし彼はそれを意に介さず、逆に面白そうな表情でクレアを見つめた。

それは獲物を見るような、観察するような眼だった。

クレアは相手のあまりの存在感に怯え、フェリクスの服を掴んで震えていた。

正直魔獣の類よりもたちの悪い恐怖だった。


「おいおい、別に私は何もしていないぞ、そう警戒されても困る」

「”まだ”何もしていない、か、自分では手を下していないだけだろう?

 僕はお前が今までの騒動の裏で手を回していたとしても驚かない」

「え? え? え?」

「ふん……まぁ良い、今日は別に会いたくて会ったわけではないからな。

 そのうちまた会おう、私の都合の良い時にな」

傲慢と言って良いほどの言葉を残し、男性は去って行った。

フェリクスはそれを黙って見送るしかなかった。

クレアは緊張から開放されたのか、どっと汗がふきだし、

脱力してその場にへたり込みそうになる。

「大丈夫クレアさん!?」

「あ、いえ、ちょっと緊張してただけで、大丈夫だと思います」

あわててフェリクスはクレアを支えて回復魔法をかけるが、

精神の疲労までは治療できるわけではないのでクレアの顔色は優れない。


「クレアさん、ともかくどこかでちょっと休もう」

フェリクスはクレアを休ませるべく、

食事時だったのもあっていかにも高級そうなレストランにクレアを連れ込んだ。

「(ま、また高そうなお店……。やだなー、私テーブルマナーとか苦手なんだけど)」

「予約していなくて済まないが個室を、2人で邪魔されずに話をしたい」

「かしこまりました。それではこちらへどうぞ」

通されたのは最初に入ったカフェと似たような作りの部屋だった。

恐らくここも魔石妨害具が設置されているのだろう。

フェリクスはコップに水を注ぐとクレアに差し出した。

クレアはそれを一気に飲み干し、それでようやく落ち着く。


「ここはさっきと同じく貴族とかが内密な話をする所だろうからね、

 ここなら誰も邪魔が入らないから心配しなくていいよ」

突然連れ込まれた上に、そんな事を言われると普通は身の危険を感じる所ではあるが、

フェリクスの真剣な表情でとりあえずは落ち着くクレアだった。

「また急かされても何だから先に注文してしまおう、クレアさんは何がいい?」

と聞かれても、先程の衝撃から立ち直っていないクレアは空腹どころではなく、

メニューを見てもよくわからないので結局お任せしてしまった。


「突然ごめんね。僕もまさかあそこであいつに会うなんて思わなかったんだよ」

「でも、あいつ、って、その、お父様ですよね?フェリクス先生の」

「そう、だね、腹の立つことにそれは事実なんだ。そして、あいつは大公爵なんだよ」

「だい、こうしゃく……?」

その名前には聞き覚えがあった。王妃クラウディアとのお茶会の時、

あの豪快な女性をして『できるだけ関わるな』と釘を刺されていた人物だ。

それがフェリクスの父親というのだから世の中は狭い。

「いいかげんクレアさんには話しておいた方が良いかもしれないね―――」

フェリクスは普段とは違い思い詰めたような表情で語り始めた。


「僕は、”廃王子”なんだよ」

クレアは普段貴族と接しているとはいっても、その相手はほぼロザリアだけに限られており、

以前クラウディアに教えてもらった貴族階級の事もあまり覚えていない。

その上大公爵だの廃王子だのと言われても混乱するばかりだった。

「廃王子って、その、何ですか?」

「うん、簡潔に言うと僕は王位継承権を失った元王族なんだよ」

「公爵家というのはこの国では王族でしかなれないんだけど、

 あいつはその筆頭の大公爵でね、僕はあいつの、大公爵の息子なんだ」

フェリクスはそう言って言葉を切った。気分を落ち着けたいのかフェリクスも水を入れて飲んだ。


「一般にはほとんど知られていないだろうけど、

 10数年に前王家を真っ二つに割る内紛が起こりかけた事があってね、あいつはその首謀者だった。

 当時はあいつにも王位継承権があって、それも王太子だったんだ。

 つまりは次期国王って事だね。

 あいつの弟君の現国王陛下はその人柄から自分でも王には向かないと公言していたし、

 周囲もそのつもりだった。

 ところが色々あって前国王陛下はあいつから廃太子の上で突如王位継承権を剥奪し、

 大公爵の地位に押し込めてしまった。

 当時どのような話し合いや政争があったかまではわからないけど、

 ともかくあいつは負けたんだろうね。

 大公爵なんて呼ばれてるけど、権限も無くてお飾りみたいな地位だから。

 で、僕も王子としての資格を喪失し、廃王子となったんだよ」


フェリクスはそこまで一気に話すと椅子に深く座った。

いつもの人当たりのよい笑顔からは想像できないくらい疲れた表情をしていた。

クレアはかける言葉が見つからず、黙ったまま俯いた。

それでも、先程話してくれた内容からはわからない事が残っていた。


「あのフェリクス先生、でもそれだと、

 そのお父様を憎んでそうな理由がよくわからないんですけど、聞いても、いいですか?」

「……あいつにとって僕は自分が王になる為の道具だったんだよ。

 王への道が閉ざされたあいつは、同時に王位継承権を失った僕への興味も失った。

 その結果、僕は邸内で棄てられたんだ」

「棄てられ……た?」


次回、第175話「廃王子フェリクスの過去」

読んでいただいてありがとうございました。

また、多数のブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

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