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第168話「男子達のわるだくみ」

第168話「男子達のわるだくみ」


さて、魔学祭(マギカ・スクフェス)の後片づけにいそしむ生徒たちを横目に、生徒会執行部で少々動きがあった。

リュドヴィックはフェリクスを執行部室に呼び出していた。

「フェリクス、お前、クレア嬢の事をどう思っている?」

「また唐突だね、どうしたの突然」

入室して早々リュドヴィックに問われ、フェリクスは苦笑しながら席に着いた。

向かいに座ったリュドヴィックの顔は真剣そのものだったので、とりあえず真面目に答えようと思考を切り換える。

しかし今のフェリクスにとってクレアは妹のような存在で、どう思われてるかと問われてもピンとこなかった。


「いや、獄炎病に関する彼女の功績が多大過ぎるので国から勲章を与えようという事になっんだ。

 だが勲章は基本的に貴族やそれに準ずる爵位を所持しているか、教会や騎士団・魔術士師団に属していないと授与できないのでな。

 ならば先立ってその爵位を与えようかという事になった」


「それは凄い、とはいえ彼女はどう思うかなぁ。固辞するかも知れないよ?」

「まぁそうだが、彼女には私が家名を与えてしまったからな、それに対する意味づけもあるんだ。

 これなら貴族との養子になるのと違って彼女に家族を捨てさせるような事にもならない、

 それにだ、叙勲の為に一時的に騎士団や魔術士師団に仮に所属させるとなると、

 後々厄介な上に”教会”にはもっと関わらせたくない」

リュドヴィックとしては国内外に様々な問題が発生している今、政治的な問題まで抱え込みたくはなかった。

何しろ今のクレアの周囲は様々な思惑が渦巻き過ぎている。

光の魔力属性持ちというのももはや公然の秘密で、少しでも取り扱いを誤ると国の政治・軍事・宗教の勢力バランスを崩しかねなかったのだ。


「君の至らなかった部分を後付けでごまかしてる気がするんだけど……。

 勲章より、報奨金か何かを直接渡した方が早くない?」

「それこそ金を受け取るような性格だと思うか?

 金額に換算するとそれなりの生活で一生遊んで暮らせる程になるが」

「そっちはもっと要らないって言いそうだね。

 まぁ爵位ならこれからも王都で生きていくなら邪魔にはならないかもね」

「一代限りの爵位だが、彼女の結婚相手選びも幅が広がるだろう」

「結婚……?」

その単語は、フェリクスにとって予想外だった。クレアが、結婚する……?

今までそういう事は考えた事も無かった。

彼女は自分が救護院で仕事をしていると、ふらっとやって来ては患者を癒やして周り、

鉱山では男でも眼をそむけたくなるような大怪我をためらいもなく患部に触れて治癒させ、

荒くれ者と言っていい鉱山の男達に混ざって朗らかに笑っていた。


「そうだ、フェリクス、もう一度聞く。お前、彼女の事、どう思っている?」

「いや、どう、思っていると言われても、正直返答に困るな」

「困るなとか言っている場合じゃないぞ。

 叙勲式には国内外の貴族も多数出席するからな、確実に彼女に求婚する貴族が出てくる」

「あの子が、結婚……」

あの子が結婚する、自分の知らない男と。その男と幸せに暮らすんだろうか、

あの笑顔はもう、その男にしか向けられなくなるんだろうか。

そこにはもう、自分はいない。

フェリクスはそんな事を考えると眼の前が一瞬暗くなるような感覚に襲われた。


「最終的には彼女がどう受け入れるか、だがな。

彼女は今や『制服の聖女』として国内外でも有名だ、俺が家名を与えたという事で王家ともつながりがある。

 どう考えても求婚が殺到するぞ」

「……それは、ちょっと面白く無いなぁ」

「面白く無いなら、少なくともそういった貴族達を牽制できる手段があるんだが?」

リュドヴィックは人の悪い笑顔を浮かべると、フェリクスを悪巧みに誘うような口調になった。

最初からこれを狙っていたな、とフェリクスは内心苦笑しながらも乗る事にした。


「なんだか、君の手の平で転がされてる感じだけれど。

 良いよ、それ乗った。けど僕を利用するなんて君も良い性格してるね」

「これでも思いつく中では最も円満に事が運ぶものなんだぞ?」

「僕と彼女をくっつけて厄介ごとから遠ざけようとしているんだろうけど、そんなに周囲が騒がしくなってるの?」

「大いにな、教会は彼女を聖女として正式に取り込もうとしているし、大公爵までもが妙な動きを見せて来た」

大公爵、その名前を聞いた瞬間フェリクスの表情が変わった。

普段の穏やかな笑みは消え去り、目つきも鋭くリュドヴィックを睨む。

それを受けてもリュドヴィックは涼しい顔で淡々と続ける。こうなる事がわかっていたように。


「教会はともかく大公爵……。あいつがか」

「俺も大概だとは思うが、お前も屈折してるよなぁ。まぁだからこそ気が合うと思っているんだが」

「お互い、苦労したしねぇ」

「あまり思い出したくは無いがな……、今後お互いに表に出る事も増えるだろう。

 その時にあの大公爵に変なちょっかいをかけられたくは無いだろう?」

「あいつは、自分の退屈をまぎらわせる為には何でもするよ。

 それこそ、結婚だ何だというのなら引っ掻き回すに決まっている」

「タチの悪い事に、そういう騒動の種になりそうな事を嗅ぎつけるのには物凄く長けているからな。

 獄炎病やら例の化粧品の時に関わっていなかったのが不思議なくらいだ」

「いやぁ、関わっていたと思うよ?僕は男爵の裏にあいつがいたとしても驚かない」


さらっとフェリクスは言うが、それはリュドヴィックに取って聞き捨てならなかった。

大公爵とは現国王の兄であり、その存在は無視するにはあまりに大きなものだからだ。

「おい、そんな事になったら国が2つに割れかねないぞ!?」

「僕もそうでない事を祈っているよ」

そうは言ったものの、フェリクスは大公爵が何かしら行動を起こす可能性は高いと思っていた。

彼はただ、この国を己が楽しむ為の舞台装置程度にしか見ていない、下手をするとこの世界ですらも。



「陛下、クレア嬢の叙勲の件ですが、法律の改正案をまとめ、あとは議会にて承認を得るのみです。

 臨時国会を召集する事も考えましたが、今回は議決権を持つ貴族に対して略式の議決を取る事で速やかに進めたく思います」

「うむ、クレア嬢に対しては各領地でも恩義に感じている者が多いだろう。

 それを上手く使って出し抜いて取り込もうとする動きを抑え込め」

執務室でもまた、ロザリアの父である宰相と国王が話を進めていた。

クレア自身の同意はまだ得ていないとはいえ、

後々の事も考えての事なのでいかにスムーズに話を進めるかが問題だった。


「しかし”女爵(バロネス)”ですか、爵位の創設なぞ200年ぶりですな」

「まぁ女性の爵位の必要性は前々から言われていた。

 発言権の強い女性貴族が出てくるのも時間の問題ではあるし、今のうちに決めておいても良いだろう

 暫定で”女男爵”とかいう名前の案も出たが、何がしたいのかよくわからんからな。

 この際決めてしまった方が後々の為になる」

「クレア嬢の働きが無ければ国が傾いていた所ですからな……。この大陸自体もどうなっていたか」


まだ予断を許さない状況であるとはいえ、獄炎病は収束に向かいつつあった。

少なからず死者こそ出るものの、治療方法すら不明だった頃とは比べるまでも無い。

「治療薬の国外への輸出はどうなっている?」

「そちらは順調です。同時に獄炎病が発生しやすい状況を回避する手段も伝えておりますので、大陸全土で収束するのも時間の問題かと」

「流行り病が弱まるのも良かれ悪しかれだがな。世の中の状況が落ち着くと戦争の懸念が出てくる」

「今度は『帝国』へも気を配らないといけませんな。ある日突然攻めてくるという事にもなりかねない」

「その辺はうちの国も昔からやっている事だからな、お互い様だよ」

王国と帝国の国境付近は最近は落ち着いてはいるものの緊張状態にある。

だがそれは戦争が起こる程ではなく、あくまで隣国として牽制し合っている程度だ。

どちらかが隙を見せれば一気に均衡が崩れてしまうような危うさも孕んでおり、この大陸は平穏とは言えないのが現実だった。



「……ほう?”女爵(バロネス)”と? この国に200年ぶりの新しい爵位か」

「ははっ、叙爵されるのは”制服の聖女”と名高いクレア・スプリングウインドという15才の少女です」

「その者なら会ったことがあるな」

「何と!? どこででありますか?」

「フルーヴブランシェ侯爵邸だ、お前の作っていた化粧品を色々と嗅ぎ回っていた」

「そういえば、私の別邸が崩壊した時にも、何故かそこに居合わせておりましたな。

 あの時はアデライド様の忘れ形見に出会えた事で気を取られておりましたが」

「暇つぶしに作らせていたものを潰したあの化粧品、あの出処がローゼンフェルドなのだが、そこの令嬢のロザリアの学友らしい」

「偶然にしては出来すぎておりますな……。

 まさか、我々を追い落とす為のローゼンフェルド家の策謀か何かでしょうか?」

「そうは思えんがな……。どちらにしても、面白くなりそうだ」

「面白イデ済マサレテハ敵ワンナ」


様々な思惑が交差するが、その渦中に居る者達はそれを知る由も無かった。


次回、第169話「えー、貴族なんて面倒くさいから嫌っス」

読んでいただいてありがとうございました。

また、ブックマークをありがとうございます。


基本的に月水金、夜の5時~6時頃で更新いたします。

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作中のギャル語・若者語は2015~2018年頃を想定しておりますが、

違和感などありましたらご指摘をどうぞお願いいたします。

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