第166話「学祭デートは良いとして,どっちも男装なんですけどー!?」
教室から連れ出され、校舎から出てもリュドヴィックのお姫様抱っこは続いている。
周囲の見物人の何人かは教室からぞろぞろとついてきており、
そろそろロザリアは皆の好奇の目線にも耐えられなくなってきていた。
何しろ今の自分は魔法学園の制服ではなく執事風の服を身に着けているので、
傍から見れば男子が男子に抱きかかえられているようにしか見えないだろう。
自分の男装の為に婚約者が同性愛者だと思われるのは、
それはそれで女子としてどうなんだという話である。
「おいリュドヴィック君、そろそろ降ろしてくれないかなぁ!?」
「おや、君はこういうのはお嫌いかな?」
「う……」
ロザリアは抗議するものの至近距離でリュドヴィックの美形を直視せざるを得ず、
おまけに意外に胸板が厚いだの腕がたくましいだのと意識してしまい、
男慣れしていない上に惚れている弱みもあって言葉が出なくなる。
が、いつまでもこの体勢でいるわけにはいかない。
「状況を考えろと言ってるんだ! 僕のこの格好を見ろ!」
「君もいい加減制服に着替えれば良いだろうに。
というかせめて声色とか口調くらいは戻したらどうだ?」
「まだ店は営業中なんだからそうもいかないだろう。
それに一旦この格好になったからには徹底的になり切らないと見る人にも失礼だ。
少なくとも魔学祭の間はこの服を脱ぐつもりは無いからな!
というかそろそろ降ろしてくれ!周囲の目が痛い!」
ロザリアの気合の入った男装コスプレイヤーのような言動に、
周囲の女生徒達は心の中で喝采の拍手を送る。
そう、これは萌えなのだ。萌えとは外見だけではない。
内面からも滲み出る覚悟こそが重要なのだと。
ロザリアの謎の気迫と、面と向かってはっきりと言われては潮時かと、
リュドヴィックは名残惜しそうにロザリアを降ろして立たせる。
とは言っても隅の方とかではなく、思い切り人通りの多い通りの真ん中なのだが。
「まったく……、もうすこし場所というものを……」
と、ぶつぶつ良いながら身だしなみを直しているロザリアにリュドヴィックはそっと手を差し出した。
「では、あらためて学祭を回ろうか」
差し出された手を取ったものかどうか、わざわざ手をつながなくても良いんじゃないか?
とロザリアがとまどうのを、周囲もじっと見守る。
おずおずとロザリアがその手を取ると何故か周囲から拍手が起こった。なんだこの状況。
そのままリュドヴィックはロザリアの手を引いて歩き出すが、
「やっぱり離して欲しいんだけど」「ん?では腕を組んでくれるのかな?」
とじゃれ合った末に、いわゆる恋人つなぎで歩き出すのを、
周囲は生暖かい目で見守り涙を流す者、「ありがたやありがたや」と神に祈りを捧げる者、
「ぶ、部長ぉー!」とその場から駆けだす者と周囲はそれぞれの反応で2人を見送った。
尚、魔法学園でも『魔法学園もの』と呼ばれるジャンルの小説は大人気で、
大体の生徒は貴族故に婚約者がいるので、
思ったよりもそういうイベント起こらないなぁと感じており、こういうのは大歓迎なのだった。
同じ貴族であっても王太子と侯爵令嬢のカップルともなれば雲の上の存在に近く、
その恋愛模様を間近で見るというのは最高のエンターテイメントと言える。
『ううー、学園祭デートは憧れてたけどー、
正直こういう形のは求めてなかったんですけどー!?むっちゃ恥ずいんだけどー!?』
再開した魔学祭は騒動以前の賑わいを取り戻しており、
さまざまな催し物で生徒が呼び込みをしている。
ロザリアも気持ちを切り替えて雰囲気を楽しむ事にした。
「でも、よく魔学祭の続行を許可出したよね?」
「魔技祭の方が中止になってしまったからね。
2度も続けてとなると生徒の方にも不満が出る、
国の方には撃退したんだからこれくらい認めろと言っておくよ」
「ほほう、やるね」
「品行方正な王太子ばかりやってられないよ、たまには国に言いたいことも言ってやるさ」
リュドヴィックの発言はロザリアにとっては少々意外だった。
いつもは王宮とは一歩身を引いたようなスタンスだったからだ。
それは一歩間違うとやる気が無いと捉えられかねないが、
少なくとも積極的に関わろうとしているようには見えなかった。
「リュドヴィック、君……何か、変わった?」
「いや、君と2人で魔学祭を楽しむなんてこれが最後だからね。
誰にも邪魔なんてされたくないだけだよ」
「え?あー、そっか。来年は、卒業なんだね」
ロザリアもまたリュドヴィックと似たような感想だった。
思えば入学からあっという間だった。それでなくても色々あり過ぎたなぁ、と。
そうなると、今この場でちゃんとした格好で学園祭めぐりができないのは少々残念だ。
「あー、えっとー、ごめんね?こんな格好で」
「いいさ、明晩は後夜祭だってある。さすがにその時は普段の格好に戻ってくれるんだろう?」
もちろん、とロザリアは答える。何ならドレスでも着ようかと思っていた。
甲冑を持っていかれてしまったマルセルのクラスはというと、
様々な怪しげな魔石具の数々の展示に切り替えていた。
騒動の顛末が気になるのか訪れる生徒が多く、わりと賑わっている。
「これ……、何に使うの?」「いやー、作ってみたくなっただけでどう使うかまでは」
「ああー!ちょっとそれ!危険なので展示を中止して下さい!」
「ええー?また?これで3つ目だよ!」
「そんなの使って生徒が吹っ飛んだらどうするんですか!」
中には生徒会の腕章を付けた生徒も混ざっており、展示品をチェックしてはダメ出しをしていた。
「あれ? 鎧を持っていかれたのに別の物を展示してるんだ」
「『展示するものがこれしかない!明日もあるのに!』と言われてしまってね、
仕方ないから許可したんだが凄い数だな。
チェックは展示させながらと思ったら案の定危険そうなものも多い」
「なんというか、たくましいなぁ」
ロザリアとリュドヴィックが苦笑しながら眺めていると一人の女生徒が駆け寄ってきた。
「あ! 生徒会長! 何とか言ってあげてくださいよ!
普通なら展示認められませんよこれ!」
「あ、ああ、まぁ、例の一件もあるし仕方ないだろう。
基準は多少ゆるめでいいから、順次使用中止くらいで許してやってくれ」
「ええー、他にも仕事があるんですよ?」
「そっちはそっちで人を回すから、君はこれに専念してほしいな」
「生徒会長!こちらのクラスでも問題が!」
「ああ今から私が行くよ。君はこっちの展示品の整理を頼む」
リュドヴィックが眼の前でてきぱきとトラブルを処理していくのを見て、
ロザリアは伊達に生徒会長に選ばれてないなぁと感心するのだった。
次回、12章最終話、第167話「後夜祭」
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