第164話「くらうっス!全てを貫く一撃!」
医療教官のエレナによる魔力強化が終わった生徒達は、
リュドヴィックの指示で一斉に広場の中央にいるイーラを取り囲んだ。
「総員! 無理をせず相手の攻撃を受ける事に集中しろ!
サクヤ嬢! ロゼ! 後方に待機しつつ攻撃準備!
クレア嬢は止めを刺す攻撃魔法の準備!」
「りょっス! こんな時の為に開発した強力なやつをぶちかましてやります!」
リュドヴィックは打てば響くように答えるクレアに、
『どんな時を想定していたんだ……?』と一瞬疑問を思い浮かべるが、
攻撃手段があるのはいい事だと気にしない事にした。
「それではわたくしも、能力開放=人鬼転身!」
サクヤが久しぶりに鬼族の血を引く本性をむき出しにした。
魔杖扇を畳んだまま2本構え、極太の刀身を出現させる。
ロザリアもまたサクヤの隣で魔杖刀を構え、サクヤと同じく鉈のような刀身を生成する。
2人共先程の戦闘から生半可な魔力量では弾かれると、
その場で更に魔力を圧縮し、研ぎ澄まし始めた。
「できる限り相手の攻撃を誘え! 1本でも多く触手をひきつけろ!」
「おおりゃぁ!」
リュドヴィックが言う側からカイルが跳躍で踏み込み拳で殴りつける。
イーラ側もカイルの脅威は意識しているのか、両手を構えてカイルの拳を受けた。
そのまま乱戦に持ち込まれると他が攻撃しにくい、と周囲が思っていると、
カイルはイーラのガードを拳で弾いた後、胴体に一発入れるとバックステップで下がった。
つられてイーラが腕を伸ばして極太の触手でカイルを追撃するが、
カイルはそれを読んでいたとばかりにその触手を掴み、逆に引き寄せる。
そして立ち止まるとその場で2本の触手と拳で打ち合いを始めた。
しかもじりじりと後ろに下がり、イーラがさらに触手を伸ばすのを誘う、
ある程度下がるとイーラも触手を制御する限界が出てくるのかそれ以上は伸ばさなくなった。
「よし!この距離感だ!皆かかれ!」
「やるねぇ、熱血キャラかと思ったら技巧的だね」
シルフィーリエルもそう言いながら、何本もの触手をひょいひょい風を起こして反らせながらイーラに近づいていっている。
真似てイーラに斬りかかる生徒もいたが、
中には相手にもされずに武器が当たるにまかせるような対応をされるのが大半だった。
当然その生徒の攻撃はイーラに傷一つ付けられない。
「無視された生徒は下がれ!いても巻き込まれるだけだ!」
リュドヴィックはこの巨人相手では中途半端な戦力は邪魔にしかならないと判断し、
戦力にならない生徒はどんどんと後ろに下がらせた。
教師勢も奮闘してはいたが、元々高ランクの者がいない為に決め手に欠けていた。
高ランクの者は魔法学園卒業後に騎士団・魔法士団等に入る事が多く、
教師になるのはランクが低めでも教えるのが上手かったり、
年齢や体力的な問題で一線を退いてこの仕事に就いた者が多い。
経験不足でもランク上位の生徒達の方が戦闘力がある状態なのだ。
となると戦力はどうしても限られてしまい、
ロザリア達や生徒会の面々を除いては数名になってしまっていた。
「ああー!また鞭切られたー!買ったばかりなのにー!」
「だからお前はなんでそんな脆い武器を使うんだよ!下がれ!」
レベッカが魔杖鞭を切られて涙目になっていると、それを庇うようにカイルが前に出た。
そこへレベッカを追って突っ込んできたイーラの触手を弾き飛ばし、逆に本体にダメージを与えていく。
触手もただ打たれているだけではなく、カイルに巻き付こうとしたり、
複数本を束ねて極太の打撃を加える等の反撃を試みるのだが、
それら全てを捌きつつ、少しずつだが確実にイーラを追い詰めていった。
「あーっはっはっはっは!これなら動けないよなぁ!」
アネットが高笑いしながら何体ものゴーレムでイーラの胴体を掴んでその場に固定し持ち上げている。
その側で「怖っ」とレベッカが呟いていたが、空気の読める周囲の者は気づかないふりをするのだった。
リュドヴィック・カイルがそれぞれ別方向から攻撃する事でイーラの注意を引き付け、
鎧を纏ったアデルが「どうして毎回このような事になるのですか、どうして……」と、
目だけが死んだ状態でイーラを至近距離から無数の鉄拳を浴びせていた。
しだいにイーラの身体から伸びている触手が伸び切って身体を覆っていた黒い鎧が剥がされ、ついにドワーフ鉄の骨格が露わになる。
内部骨格は以前ロザリアが見たものとはまるで違っていた。
ほぼ銀色に光る人間の骸骨状で、胸部を肋骨のようになった骨が銀色の球体を保護しており、
その横に魔核石があった。
「よし見えた!ロゼ!サクヤ嬢!」
「はぁああああ!」「承知ですわよ!」
リュドヴィックの号令でロザリアとサクヤは斬撃で魔法刀や魔式刀を飛ばすのではなく、
武器を腰だめに構えて刺突でイーラに突っ込んでいった。
それぞれ魔力で筋力増加した脚力でどんどん加速していく。衝撃音と共に2人の魔力刃が砕け散り、
イーラの肋骨状のフレームが破壊されて奥の魔核石も外殻を一部が破壊されていた。
「今ですわよクレアさん!……ってまたこの人は何をやらかそうとしてるんですの」
「うわー、さすがにこれは引くなー」
「クレア様は一度、辞書でヒールという言葉の意味を調べるべきではないかと……」
サクヤ、ロザリア、アデルが三者三様の感想を漏らす中、
クレアは皆の後方で右手に持つ杖を突き出すように構え、左手で弓を引き絞るように構えていた。
その上空には巨大な光る円柱がこちらに向けて横倒しに浮かんでいる。
大木程もあるそれは、ゆらゆらとブレながら回転していた。
ロザリアやサクヤが多用する魔力刃のようにクレアが光の魔力を結晶化させて物質化したものだ。
「目標を視認しました! 照準合わせ! 弾体回転開始! 射線上のみなさんは退避してください!」
クレアがそう叫ぶと杖の先から伸びた赤いレーザーのような細い光がイーラの魔核石に当たった、
同時に、空中に浮かんでいた光の柱が回転速度を上げ始め、
速度を上げるごとに徐々に細くなっていく。
高速回転したそれは細くなると共に先端が尖り始め、
巨大な杭のように形状を変えた。
細くなったといっても電柱くらいの太さがある。
「一撃必生! ヒーリング・パイルバンカー!」
光の魔力を結晶化させた杭が、クレアが左手を突き出すのと同時に、
杭を打ち込むようにイーラの胸へと叩き込まれた。
超高速で対象に突進するそれは圧倒的な質量の暴力で強引に浄化させる事を狙ったもので、
名前にヒーリングや生と付いていながら、もはや治癒魔法では無くなっており、
人間がまともに受けると治癒どうの以前に消し飛んでしまう程の威力であった。
が、杭が魔核石に到達する瞬間までに、金属球はその古代ドワーフ文明製の演算能力の限りを尽くして回避行動を取っていた。
まず身体から伸びる黒い触手を限界まで伸ばし、逆にドワーフ鉄製の身体を完全に露出させる。
次に身体の各所の関節を外して拘束から逃れる余裕を作って身体を思い切りねじった。
その動きは自らの身体すら破壊しながらの動きではあったが、
そのかいあって魔核石が反動により大きく外側に移動した。
まだ足りぬとばかりに右腕を魔核石と金属球の間に差し込み、骨格ごと引き剥がそうとしている。
その行動は杭の到達まで間に合わなかったが、直撃は免れた。
一瞬の閃光の後、一同が見たのは上半身のフレームが大きく引きちぎられ、
肩から胸にかけて巨大な穴が空いた金属製の骸骨のようになったイーラだった。
身体から伸びていた黒い触手は光の杭によって浄化されたのか半分程が消失し、身体から引きちぎられて地面に落ちている。
光の杭はドワーフ鉄の部分にはさほどダメージを与えなかったようだ。
が、動きを止めていたのは一瞬だけだった。
当たる直前の悪あがきが功を奏したのか魔核石は完全には浄化・消滅しておらず、
すぐに周囲にちらばった黒い触手がイーラの身体に戻って身体を元通り包み込み、
強引に骨格の歪みを修正していった。それでも完全には戻らず、明らかに機能不全を起こしていたが、
手足の魔石が輝くと地面に黒い魔法陣が浮かび、イーラの身体はその中に溶け込むように消えていった。
「しまった!転移魔法か!」
「追跡できるか?」
「できる限りやってみます!」
カイルが舌打ちをしながら叫び、レオナールが冷静に指示を出す。
危機は去ったが、いざ逃げられると悔しくなるのが人間というものだ。
リュドヴィックは皆が深追いし過ぎないようにしないとなぁと、
とりあえず危機を乗り切った事への安堵の息を吐いた。
次回、第165話「祭りは終わらない」
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